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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
844:北畠蒼陽 2006/01/09(月) 11:00 [nworo@hotmail.com] 『冬の体があったまる飲み物ってな〜んだ?』と聞かれて『しょうゆ』と即答できる北畠蒼陽です。あったまるけど健康にはむやみに悪いですね。 異色な2人を書いてみました。ありかなしかの2択でいったら……あり? ぎりぎりあり? ま、董君雅が涼州出身でありながらまったく違う場所に派遣された、とか、嫌いではないエピソードなのですよ。年下の上司にいびられたんだろうなぁ、とか。 この2人のことは気が向いたらまた書くかぁも? あ、ちなみに今はリハビリ代わりに連投してみただけなんでペースは続きませんよ? あ、あとは任せた(ガクリ
845:海月 亮 2006/01/09(月) 17:31 何時かはこんなときがくる…なんとなくではあったが、彼女にもそんな"確信"があった。 だがむしろ彼女は、周瑜、魯粛という余りにも偉大な先達の後釜に据えられたそのときから、「自分こそがそれを成し遂げなければならない」という、そんなプレッシャーとともに毎日を過ごしていた。 普段は億尾にも出さないが、彼女を襲う頭痛は日に日に強さを増していた。 「…間に合うのかな…?」 自分がこの頭痛で参ってしまうのが先か、それとも…。 その呟きを聞く者は、その場には自分だけだった。 -武神に挑む者- 呂蒙が長湖部の実働部隊を総括するようになってから、既に半年が経とうとしていた。 学問を修め、驚異的な成績アップを果たして注目を集めるようになった彼女は、好んで兵学書を読むようにもなり、一読すればまるで乾いた真綿が水を吸い込んでいくかのように、その内容を覚えていった。 そしてその知識は、合肥・濡須棟攻防戦において見事昇華し、その戦いの決着がつく頃には「長湖に呂子明あり」というほどの名将にまで成長していた。 それまではただの「十把一絡げの悪たれのひとり」でしかなかった少女は、その一挙一動を注目される存在にまでなってしまったのである。 しかし。 彼女がその名を不動にする頃には、長湖部は実に多くの名将を失っていた。 南郡棟攻略時の事故で周瑜を欠き、合肥・濡須攻防戦以降は甘寧も動ける状態になく、時を同じくして魯粛も留学のため学園を去った。 公式には甘寧は未だ課外活動に在籍している。しかし、戦場に突出した凌統を庇いながらの、張遼との戦いで受けた怪我のダメージは大きく、何時ドクターストップがかかるか解らない状態だ。 魯粛も年度末には学園に戻るとはいえ、学園から籍をはずす以上は活動からも引退を余儀なくされる。復学したとしても、課外活動への再参加は認められていない。 在籍する中では、初代部長孫堅以来からの古参組である韓当や宋謙、孫策時代からの猛将として知られる蒋欽、周泰、潘璋、凌統、徐盛といった輩も居る。 しかし、そう言った荒くれ連中をまとめ、大々的に戦略構築が出来る人間は、知られる限りでは呂蒙ただひとりだった。 「…やっぱり厳しいなぁ…」 長湖部員で主将・副将クラスに属する少女の名が記された名簿を睨みながら、そのサイドポニーの少女…呂蒙は、そう呟いた。既に時計は深夜0時を回り、締め切った部屋の明かりは手元のスタンドだけ。 名簿には、色とりどりのマーカーや蛍光ペンで、その少女に対する短評がつけられている。それも総て、呂蒙が実際のその少女と会い、あるいは噂話や実際の仕事振りから気がついた点を書き出したものだ。 このマメさこそ、今の彼女がある…そういっても、過言ではない。 「何処かにもうひとり、興覇クラスの"仕事人"が居てくれりゃあなぁ」 「やっぱ厳しいん?」 「うわ!」 不意に後ろからひとりの少女が、肩口から顔を突っ込んできたのに驚いてのけぞる呂蒙。 見れば、それは同い年くらいの人懐っこそうな風体の少女だ。栗色のロングヘアに、学校指定ではない臙脂色ジャージの上下を着ている。呂蒙はシンプルな水色のパジャマを着ているところから考えれば、彼女はそのルームメイトであり、かつその格好が彼女のラフな格好なのだろう。 「驚かすなよ叔朗…寿命が12年は縮まったぞ」 「心配あらへん。モーちゃんならきっとまだ五百年生きるやろから十二年くらいどってことないで」 「…あたしは何処の世界の妖怪だ。つか、何処にそんな根拠がある?」 「なんとなく〜」 その、どこか"ほわわん"としたその少女の受け答えに、思わず頭を抱える呂蒙。 しかしその少女…孫皎、字を叔朗という彼女は、現長湖部長孫権の従姉妹に当たり、この天然なピンクのオーラで甘寧とひと悶着起こしたほどの猛者である。幼い頃は関西にいたらしく、その京訛が特徴的だ。 「せやけどモーちゃん、あんまり気ぃばっか張っとったら身体に毒やで。うちなんかと違(ちご)おて、モーちゃんにもしもの事遭ったら、皆きっと悲しむで?」 孫皎が心配そうな面持ちでその顔を覗き込んできた。 「うちにはモーちゃんの代わりになれるような能力(ちから)もないし、友達とかもようおれへん。せやから」 「んなこたねぇだろ、あんたがあたしのサポートをしてくれるおかげで色々巧くいってんだ。それに、あんたのとこにはいつも人が集る」 呂蒙の言葉を否定するように、孫皎は寂しそうな顔で頭を振る。 「ちゃうよ。あの子達はみんな、うちが仲謀ちゃんのイトコやから、ちやほやしてくれるだけ…うちには、ほんまに仲良いなんて、おらへんのや」 「ばか、それじゃああたしはあんたの何だってんだ。あたしが一方的に"友達"だと思ってただけか?」 「え…?」 呂蒙はそう言って孫皎の額を小突く。 「あまり自分のことを悪く言うな。興覇だってあんたのこと、胆の据わった大したヤツだって褒めてたよ。それに今度の戦いはあんたの頑張りを全部引き出してくれないことにゃ始まらないんだからな」 「うん…頑張ってみる。おおきにな」 「礼言うトコでもないよ、もう」 自分のベッドにもぐりこんだ孫皎が自分に微笑みかけてくるのを見て、呂蒙も苦笑を隠せない。 人選の刻限は徐々に近づきつつあったが、彼女は"友達"に倣ってとりあえず切り上げ、寝ることにした。
846:海月 亮 2006/01/09(月) 17:31 翌日の昼休み。 混雑しているだろう学食を避け、予め出掛けに買い込んでいた菓子パンを頬張りながら、再度名簿と睨みあってる呂蒙。 「なぁモーちゃん、文珪ちゃんとこのこの娘とか、どない思う?」 「ん?」 隣りでサンドイッチを食べながら、孫皎が指差したのはひとりの少女だった。 「あぁ、承淵か…確かにいい素質は持ってんだけどなぁ」 「あかんかなぁ…確かにまだ中学生やけど、こないだの無双でもいろいろ活躍しとったし」 「主将クラスは足りてんのさ。あたしが欲しいのは、スタンドアローンで動ける軍才を持った、それなりに無名の人間だ。関羽が油断して、江陵周辺をがら空きにしてくれるくらいで、その留守の短い間にその辺平定しちまうくらいの」 「うーん」 サンドイッチを口にくわえたまま、腕組みして考え込んでしまう孫皎。 実際に難しい人選である。というか、ほとんど無茶に近いといってもいい。要するに呂蒙が欲しい人材というのは、呂蒙と同等かそれ以上の能力を持ち、かつまったく名前の知られていないということ…。 「でもそれやと、興覇さんがおったとしてもあかんのやないの?」 「んや。その場合は誰か適当なヤツをあてがって、その隙にあたしと興覇が別々に動くことができる。興覇が入院中の今となっちゃ、それが厳しい状態だ。その代わりにあんたを使うことを考えても見たんだが…」 「うちを? でも…」 「実力的には申し分ない。けど、今あたしの軍団からあんたを欠くのはマジで痛いからな。編成している中では潘璋分隊の義封、蒋欽分隊の孔休を外すと途端に機能不全だ。同じことがあんたにもいえるからな」 自信なさ気な孫皎を気にかけるもなく、パンを飲み込みながら難しい顔の呂蒙。 「マネージャーとはどうなんかな?」 「マネージャー?」 「うん。マネージャーで、なんかすごそうな人。例えば、こないだの濡須とき、援軍を指揮してた緑髪の娘とか。あの娘確か公苗さんとこのマネージャーって」 「陸伯言か。そう言えばこないだ興覇とふたりで承淵をからかった時、話題は伯言の話だったな…」 数日前、呂蒙は甘寧の妹分であった丁奉を伴い、入院中の甘寧の見舞いに行った。 そのとき、去年の赤壁決戦前の夏合宿で調理実習をやったとき、同じ班に居た陸遜の話で話題が盛り上がったときのことを、呂蒙は思い出していた。 「はぁ? 伯言が公瑾のお墨付きだぁ?」 「あ…えっと、それは」 狐色の髪が特徴的なその少女は、ベッドから上体を起こした状態で呆気にとられた甘寧と、その傍らでぽかんとした呂蒙の視線を浴びて、明らかに動揺していた。 明らかに、いわでもなことを言ってしまった…そんな感じだ。 昨年の合宿では自分たちの悪戯のせいで周瑜に完全に目の仇にされ、ただおろおろしているだけの気の弱そうなヤツ…ふたりにとって陸伯言という少女はその程度の存在でしかない。朝錬の際甘寧と凌統が喧嘩したのに巻き込まれたときも、周瑜に命ぜられるまま律儀にふたりに付き合って罰ゲームを受けたり、失敗した料理の処理をまかされて保健室へ直行したり…まぁ流石のふたりも「悪いことしたなぁ」くらいは思っていたが。 「ということはなぁ…承淵の言葉が正しければあのあと、あいつらが仲直りしていたってことになるが」 「となると休み明けに伯言がやつれてたのそのせいか。あの赤壁キャンプを乗り越えたとなれば相当なもんだな、伯言のヤツ」 「あ、だからその、それはちょっとした…」 ひたすらおろおろと取り繕おうとする狐色髪の少女…丁奉の慌てる様子から、呂蒙と甘寧もその言葉の真なるところを覚った様子だ。中学生ながら、荒くれ悪たれ揃いの長湖部の中で一目置かれるこの少女だが、それだけにその少女の性格はよく知られていた。 すなわち、絶望的にウソをつくのがヘタな、素直で真面目な性格の持ち主であるということだ。 そして自分の尊敬する者に対して強く敬意を払う。彼女の普段の甘寧への接し方を見ていればよく解る。それが彼女らにとって取るに足りない存在だった陸遜に対して「周瑜が認めた天才」と言うのであれば…。 「まぁ能ある鷹はなんとやら、とも言うしな。長湖実働総括も伯言に任せりゃちったあ楽できるかね、あたしも?」 「だ、だめです! そんなことしたら公瑾先輩が…」 「なんで? いいじゃねぇか、公瑾が出し惜しむならあたしが伯言を活かしてやるまでさ」 「きっとその方があいつだって喜ぶだろうしなぁ」 「だからそうじゃないんです!」 必死にその言葉を取り消させようとする少女の姿が面白くて、呂蒙も甘寧も完全に悪乗り状態だ。陸遜に実力があるかどうかは別として、今はそのほうがふたりには面白かった。 「…解りました…でも、なるべくなら他の人には黙っててください…こんなことが知れたら、あたし長湖部に居れなくなってしまいますから…」 そうして、半泣きになった彼女は、ことの詳細をふたりに語って聞かせた。 その話を聞いてもなお、呂蒙は半信半疑だった。 丁奉は話し終えると、何度も何度も念を押す様に「このことは絶対に内緒にしてください」と取りすがるようにして懇願してきた。恐らくは相当の事情があるのだろうことは呂蒙にも理解できた。だから、以降はその話題に触れまいと思っていたのだが…。 「ここはひとつ、承淵の顔でも立ててみるかねぇ?」 遊び半分ではない。 彼女はそれがまだ見ぬダイアの原石であることを信じ、陸遜の元へと出向くことにした。
847:海月 亮 2006/01/09(月) 17:41 とりあえず先の展開が思い浮かばないSSのキリのいいところまでをうぷってみた。反省はしていない。 はい、実はこのSSを書いたのも何気に二月ほど前です^^A 夷陵回廊戦SSも時折手を加えたりもしておりますが、そろそろその前に起きた事件…呂蒙の荊州取りの話を書こうと思ったまではいいのですが。 構想は出来上がっているのに、同時に長湖の卒業話だとか、孫皓排斥計画だとかの長編を同時進行で書いてるうちに存在そのものを忘れかけていたという…。 >董卓の姉貴… 思わず正史董卓伝を見返しちまいましたよ。 つかうちのソースは三国志だけですから実はよう知らんのでして…。 でも異色だからこそ許される組み合わせだってあるでしょう。 このあとの董卓の専横やら、それに逆らって投獄された荀攸とかの件で思い悩む荀令君を想像して(;´Д`)ハァハァするのも一興…(<何処のアブないひとだ そしてこの勢いで旭日祭とかいったりするのかな?かな?(;´Д`)
848:北畠蒼陽 2006/01/09(月) 20:05 [nworo@hotmail.com] >海月 亮様 あれ? これは続きを書かなきゃいけないんじゃないかな? かな? ガンバッテクダサイ。 >董君雅 もうちょっとこの2人のコンビは掘り下げて書いてみたいと思ってます。いつくらいになるかわかりませんが〜。
849:海月 亮 2006/01/11(水) 00:47 [sage] >続き 誰か考えてくださいとか言っちゃダメですか?ダメですよねそうですね_| ̄|○ いや、流石にそれは冗談ですが^^A 一応持ち込みきれずに仕舞い込んでみた卒業話も完結したので、旭日祭明けくらいにとりかかる……かも。 多分最後のほうはドリームです。それも、冗談抜きで非難浴びるくらいの…。
850:海月 亮 2006/01/28(土) 23:27 ついでなのでこちらもそろそろ再浮上させますかねぇ(゚∀゚) というわけで予告。 そろそろ荊州奪取の続き書きます。何気にネタ固まってきたので。 うちのサイトでリク貰った甘寧の話とかも書かなきゃらならんとは思うんだけど…ネタが…_| ̄|○
851:弐師 2006/02/05(日) 18:13 易京棟、 それは、彼女、公孫伯珪の心の如く、高く堅く、そびえ立っていた―――――――― 「えっと、伯珪さま・・・書類を持ってきました。」 「ああ、ありがとう士起、其処に置いていてくれ。」 生徒会長室を出て、あたしはため息をつく。 最近は、伯珪さまはあたし以外を部屋に入れようとしない、従妹の範さま、中等部の妹、続さまですら、だ。 憂鬱な気持ちのまま廊下をしばらく歩いていると、前から範さまが歩いてきた。 「あら、士起ちゃん、どうしたの?そんな顔しちゃって。」 「え・・・」 あたしの悪い癖、気持ちがそのまま顔に出るのだ、ただでさえ範さまは鋭い、すぐにあたしの気持ちなんか看破してしまう。 「いえ、その・・・最近の伯珪さまの様子を見ていると・・・」 「そうね・・・最近の伯珪姉は、以前に増して引きこもり気味よね〜。」 あたしを励ましてくれようとしているのだろう、明るく話しかけてくれる。 なんていい人なのだろう、あたしと同い年とは思えない、そう思うと、逆に、もっと落ち込んでくる。 「まあ、流石の伯珪姉でもさ、敵さんが来れば立ち直るでしょ、そう落ち込みなさんなって。」 「ありがとうございます」 それで話は終わり、寮の自分の部屋に戻る。 いつか来るべき袁紹との戦いを考えると、その夜は、なかなか寝付けなかった それは、予想外に早く訪れた。 袁紹の攻撃、そして 伯珪さまとの、別れ―――――――― 3月、桜の季節。 花びら舞い散る中、彼女、袁紹は攻めてきた。 桜吹雪の中布陣する彼女の姿は、名家の風格を感じさせた。 だけど、伯珪さまはきっと負けない。 あの方は、決して、負けない。 あたしは、そう信じている。 「ふん・・・」 屋上から布陣を見下ろす、 たかが棟一つにご大層なことだ、だが・・・面白い。 久しぶりに、血が騒ぐ。 しかし、だ、白馬義従だけでは、勝ち目はないだろう。 棟の中に戻り、続を探す。 「続、いるかい?」 「なあに、お姉ちゃん」 「悪いけど、BMFのところに使いしてくれないか。」 「張燕先輩のとこだよね、わかった!」 そう言って、すぐに駆けだしていく、よっぽど嬉しかったのだろう、まったく、変わった娘だ、そんなに「お使い」は楽しいのか? まあ良い、袁紹、首を洗って待っていろ。 やった!お姉ちゃんから久しぶりにお使い言いつけられちゃった! あいつ、関靖先輩がきてから、お姉ちゃんは、私に冷たくなった、範お姉ちゃんも何も言わないからって関靖先輩ってば、調子に乗っちゃってべたべたして・・・ と、噂をすれば、あの人だ。 「ああ、続さま。」 笑いながら会釈してくる、なによ、いちいち、頭に来る人。 なんなのよ、私に何の用?いいかげんにしてほしいわ。 「あなたに、さま付けされる覚えはありません!」 そう言い放って、あの人を残してガレージまで一気に走る。 いらいらした気分のまま、私は愛車にまたがった。 「・・・と、言うことなんです。」 「ふーむ、士起ちゃんも大変ね。」 廊下を歩いていた士起ちゃんを「範先生の、お悩み相談室〜!」と称し、私の部屋に連れ込んだ。 理由は単純で、私が見ていられなかったからというだけ。 彼女が「範さまってこんなひとだったっけ?」みたいな顔しているのはまあ、放っておいて、大事なのは彼女から聞いた話だ。 まったく、続ちゃんも困ったものだ、なにも、其処まで言わなくてもいいのに。 だが、だいぶ周りに馴染んでいるといっても、まだ伯珪姉の元に来て日の浅い士起ちゃんが、一部の人から少なからず疎まれているのは事実だ。 そう言う私だって、嫉妬が全くないと言えば嘘になるだろう。 本人は至ってよい娘なのだが・・・「新参者」の悲しさか。 「まあ、あの娘が帰ってきたら、私からも言っておくから、元気出して、ね?」 「はい・・・ありがとうございました」 一応、彼女を部屋まで送ってあげることにした、伯珪姉は、戦いの準備で忙しそうで、彼女にかまってばかりもいられないだろう、士起ちゃんは、今、とても寂しいのだと思う。 だから、私だけでも、この娘を大切にしてあげなければ。 わかっている、だけど、どうしても ――――――――胸の奥の嫉妬は消せなかった。
852:弐師 2006/02/05(日) 18:14 その次の日、私と士起ちゃん、単経ちゃん、田揩ちゃんの四人が、生徒会長室に呼び出された。 士起ちゃん以外の娘―もちろん私も含めてだが―は生徒会長室に入るのは久しぶりだ。 私はわくわくしていた、自分でもすこし恥ずかしいほど、だ。 「ああ、よく来てくれた、早速だが、本題に入らせてもらう。」 話というのはこうだ、伯珪姉が白馬義従を率いて突撃、袁紹軍の背後を遮断、そして私たちが棟から打って出て、挟撃する。ということらしい。 確かに、白馬義従と伯珪姉ならば不可能ではないかもしれない。 だが・・・ 「そんな!危険です!それに伯珪さまが今この棟を出たら、みんなの心はばらばらになってしまいます。」 最初に口を開いたのは、士起ちゃんだった。 そう、私が危惧しているのも其処なのだ、今、人心は離れてきている、それでもこの篭城戦が破綻しないのは、伯珪姉がこの棟内にいるからだ。 もし、突破に成功し、袁紹軍の背後を突けても、上手く呼応できないかもしれない。 リスクが、大きすぎる。 「そうですよ!もし、失敗したら貴女の身まで危険に・・・」 田揩ちゃんが続く。いつもはおどおどしている彼女が、これほど大きな声を出すのは珍しい。 「だが、田揩、今の状況を打開するには、これしかないんじゃないか?もし、などとばかり言っていては、何もできないぞ?」 今まで口を閉ざしていた単経ちゃんが口を開く。 「だけど・・・!」 「まあ、そう熱くなるな、二人とも。範、貴女はどう思う?」 「そうですね、確かに、この作戦はリスクが大きすぎます、張燕さまの援護を得た上で実行するのがよろしいかと。」 「ふむ、なるほど・・・皆、それで良いか。」 誰からも異議は出なかったので、これで会議はお開きになった。 とりあえず、張燕殿が到着するまでは、特に仕事はないだろうと思ったのだが、何故か皆解散した後、私と士起ちゃんだけ、また呼び出された。 「ふむ、来てくれたか。」 「どうなさったのですか、伯珪さま?」 「先ほどの話に関わる話なのだが、範、おまえは士起を連れ文安棟に移ってくれないか。」 「え・・・」 文安棟は此処より五キロ程西にある棟で、今はそれほど重要な拠点でもない。 其処に移るということは、今回の決戦には参加できないということ、そして、何より・・・ 「何故!?何故なんですか!?そんなにあたしは足手まといですか!?」 悲痛な叫びだった。士起ちゃんの気持ちはよくわかる、彼女は運動こそ苦手なものの、事務的な仕事はよくやってくれていた、決して足手まといなどではない。 伯珪姉も唇をかみ、俯いていた。 私が士起ちゃんを宥めようとした時、伯珪姉が口を開いた。 「すまない、私だって貴女と離れたくない、だが、此処は危険なのだ。わかってくれ。」 伯珪姉が士起ちゃんに話しかける、私ではなく、彼女にだけ。 不意に、嫉妬がこみ上げる。 伯珪姉が、離れがたいのは、彼女だけ。 私 じ ゃ な い 。 そ う 彼 女 だ け。 結局、その言葉に士起ちゃんも折れた。 と、いうわけで、早速私たちは出発することになった。 いまさらながら、あんな風な感情を抱いてしまった自分が嫌になってくる、それなのに、士起ちゃんは、私のことをいつものように見つめてくれる。 やめて。 私は、そんな目で見てもらえるほど、綺麗な人間じゃないの。 もちろん、そんなこと口には出せない。 そんな私の心を知ってか知らずか、士起ちゃんが「いきましょうか?」と声をかけてくる これ以上考えたら、本当におかしくなりそう。 すべての感情を振り切って、私はバイクのエンジンをかけた。
853:弐師 2006/02/05(日) 18:16 遂に来た。 続からの連絡、「あと二十キロほどの地点に到着、合図は狼煙によって行う。」 ついに、越の敵をとれるのだ。 白馬義従に出撃の準備をさせる、あと少し、あと少しだ。 じりじりするような焦燥、そして興奮が私を支配する。 それからしばらくして、黒山の方に狼煙が上がった。 「よし!我が精鋭達よ、出陣だ!」 あたしは、範さまと一緒に、空を見ていた。 文安棟から見る空は、易京の空と変わらないはずなのに、どこか寂しく映る、それは、範さまも同じだと思う。 あれ? 「範さま、あれって。」 「狼煙ね、張燕さんはいつもああやって連絡を取るの。」 「へえ・・・」 「でも、少し妙ね。」 「と、いうと?」 「いえ、ちょっとね、なんかいつもより上げかたが下手な気がするの。」 「そうなんですか、あたしにはぜんぜんわからないです」 「うん・・・私の気のせいかもね。」 「そんな・・・」 違う、あの狼煙は違う。 お姉さま・・・そんな 「ちっ・・・袁紹め」 張燕さまも口惜しそうに俯く。 どうする、どうするのよ・・・ 考えるのよ、公孫続! そうだ・・・ 「張燕さま、バイク部隊を、私に貸していただけないでしょうか。」 私には、それしか考えつかなかった。全力で行っても、間に合わないかもしれない。 しかし、何もしないのは最悪だ。 「続、落ち着け、あんたが行ったところで、伯珪さんは救えない、それより、あんたが飛ばされずにいる方が大事じゃないか?」 「でも、でも・・」 そんなこと、私にはできない。 お姉ちゃんを、見捨てるなんて、できない。 「・・・本気だな?」 何も言わず、頷く。 「ふぅ、わかった、其処まで言うならこの黒山の飛燕、断るわけにはいかないな。」 「本当ですか!ありがとうございます!」 そう言って、私は、バイクに乗った。 エンジンの震えが伝わってくる、深呼吸して、みんなに呼びかける。 「皆さん、行きますよっ!」 風を切っていく。 袁紹軍の先頭とぶつかり、押し込み始める。 私が突破したところを、田揩と単経が左右から挟撃する。 先頭が崩れ、退いていく。 だが、何か妙だ、退くのが早すぎる。 嫌な予感がする、全軍一旦退け。そう言おうとしたところで、敵の伏兵が現れた。 あの狼煙は偽報ということか。 「退け、退け!易京棟まで退くのだ!」 今度はこちらが挟撃される。 私の周りにいる娘達も少なくなっていく。 どうやら囲まれてしまったようだ、全軍で、ではなくまだ一部の連中なだけましか。 だが、どうしたものか、そう思っていると、いきなり一隊が囲みを突き破ってきた。 「単経!それに・・・続!?」 「お助けに参りました、伯珪さま。」 「同じくだよ、お姉ちゃん!」 相変わらず無表情な単経と、疲れ切った様子だが、笑顔を作る続。 多勢に無勢には変わりない、が、今の私にはとても心強かった。 文安棟に届いた使い、それがもたらした報せは、衝撃的なものだった。 「なんですって!」 伯珪さまが・・・危ない。 さっきの範さまの言ったとおりだったのか。 どうしたらいい? 周りを見ても、みんな驚き、考えが回らないようだ。 こんな時、範さまが居れば・・・ 彼女は、用事があるからといって、どこかに行ってしまった。 此処にいる娘達は、いわゆる「文官」というやつで、戦うのは得意でない。 むろんあたしも含めて、だ。 だけど、此処でじっとして居ちゃだめだ、それじゃ、あのとき、伯珪さまと初めてあったときと変わらないじゃない! 今度は、あたしが助けるんだ! 「ちょっと、どこに行くのよ。関靖ちゃん。」 「伯珪さまを、助ける。」 「助けるって言っても、無茶よ!」 「それでも、行かなくちゃいけないのっ!一人でも、あたし行くよ。」 それに、あたしがあのとき止めなかったら、単経さんの言うとおりにしていれば・・・ そう思えば、なおさらだ。 「そうだ、無茶だね。」 この声は、範さま!? いつの間にか帰ってきていた範さまが後ろにいた。 「あなたまで、そんな・・・」 「第一、 あなた免許持ってないでしょ、そんなんでどうするつもりだったの?」 「でもぉっ!」 「わかってるわ、行くな、って言ってるんじゃないの、私の後ろに乗っかっていく気はない?って言ってるの。」 「えっ・・・」 「ほら、どうするの?」 「い、行きます、お願いします!」 ガレージに向かう範さまの後についていくとき、後ろから呼び止められた。 「あの・・・関靖ちゃん、頑張ってね。」 其処にいた三人、確か劉緯台ちゃん、李移子ちゃん、楽何ちゃんだったか。 「伯珪さまは、いじめられていた私たちに、まるで兄弟みたいに接してくれた・・・私たちが行っても、足手まといになるだけ、だから・・・」 「うん、わかった!みんなの分まで頑張るよ。」 「ありがとう・・・」 「お別れは終わった?」 「あ、はい!済みませんでした、じゃあ、行って来るね。」 「うん・・・頑張ってね。」 それ以上何も言わず、あたしは笑顔で手を振った。 「ねえ、士起ちゃん。」 そう声をかけたのは、文安棟を出て、暫くしてからだった。 「なんですか?」 「あのね、私今まで貴女に嫉妬してたの。」 ああ、言っちゃった、もう戻れないぞ。 「えっ、あっ、その。」 はは、戸惑っちゃてる、それはそうよね、今まで信じてきた人からこんな風に言われたんだもんね。 「だって、普通そうじゃない?私はさ、董卓と戦ってた頃、いや、もっと前から居たのよ? それがいきなり新しく来た貴女に負けたのよ?」 「えっと、えっと・・・すいません・・・」 本当に、この娘は。なんでこんなこと言ったのにそんな綺麗な瞳で私を見れるの? 「いいの、言ったでしょう?今まで、って。」 「え?」 「さっきもさ、実を言うとね、貴女と居たくなかったから、貴女と居るのが怖かったから、用事って言って逃げたの。でもそれも虚しくなって戻ってきたらさ、伯珪姉がピンチって聞いて、その上貴女が思い詰めた顔でどっか行こうとしていたんだもの、驚いちゃった、でも、その時思ったの、ああ、この娘には勝てないな、ってさ。」 この娘の気持ちは本当、そう痛感したから、私はふっきれた。 「でも・・・範さまの方が綺麗で、優しくて、思いやりがあって・・・」 「そんなの関係ないよ、さっきの貴女を見て、本当にそう思った・・・格好良かったよ、士起ちゃん!自信もって良いよ!」 「は、はい!ありがとうございます!」 そう、その笑顔。 その笑顔に私は負けたの。 ずっと、そのままの笑顔で、ね・・・ 「よし、じゃあ話は終わり!ほら、戦場が見えてきたよ。」 本当だ・・・あ!あれは 「伯珪さまぁ!」 思わず涙がこぼれる、だけどそんなこと気にしている場合じゃない。 「よし、飛ばしていくよ!」 「はい!」 待っててください、伯珪さま。 ある程度は退いてこれたのだが、最早周りには続しかいない。 単経は、私のために殿を努め、 田揩も、乱戦の中で見失った。 「どうしよっか、お姉ちゃん。」 「うむ・・・」 最早、道はないのか、そう思っていると、聞き慣れた声がしてきた。 「伯珪さま!」 「士起!?」 そんな、馬鹿な。 何故士起が此処に? 「関靖先輩!?」 何でこいつが居るのよ、そんな怖がっちゃって。 馬鹿じゃないの? 本当に馬鹿じゃないの? 「あ〜もう!どうでも良いです!とにかく先輩は伯珪お姉ちゃんと退いてください。 ここは私がくい止めます!」 「貴女だけじゃないわよ?私だって居るわ。」 「あ、あたしも・・・」 「先輩は早く行ってください!」 伯珪お姉ちゃんとあいつが遠ざかっていく。 「貴女、士起ちゃんが嫌いなんじゃなかったの?」 範お姉ちゃんが面白そうに聞いてくる。 「あの人は馬鹿です!ついさっきわかりました!でないとろくに戦えないくせに此処まで来ようなんて思いません!でも・・・」 「でも?」 「私は、馬鹿は嫌いじゃないんです。」 「なるほど、良い答えよ。」 そんな話をしていると、袁紹軍が迫ってくる、ざっと五十人ほどだ。 「じゃあ、振られた者同士、いっちょやりますか?続ちゃん?」 「振られた、って言うのがなんか引っかかりますけど・・・まあいいです。」 「よし、行くよ!」 私たちは、敵の群に突っ込んでいった。 関靖先輩、お姉ちゃんを頼みましたよ。 なんとかあたし達は、易京棟まで戻ってきた、ほとんど全員を連れて出陣したらしく、棟内はがらんとしていた。 「ありがとうね、士起。」 「いえ、伯珪さまのためですから。」 「ふっ、そうか・・・なあ士起、私は階級章を返済しようと思う。」 「えっ、そんな・・・」 わかっている、それしかないのだろう、袁紹に奪われるよりはましだ。 でも・・・ 「済まなかったな、今まで本当に苦労をかけた。」 「いえ・・・お世話になったのはこちらです、貴女に会えなかったら、あたしは弱虫のままでした。」 「そうだな、私も貴女に会えなかったら、私は一人ではないことにずっと気がつかなかっただろう。」 越がいた、厳綱がいた、単経がいた、田揩がいた、範がいた、続がいた。廬植先生だって、玄徳だって、子竜だっていた・・・みんな、私の周りにいてくれた。なのに、私は気がつかなかった、ひとりぼっちだと思っていた。 「貴女がそれに気づかせてくれた、そして、こうしてそばにいてくれる。 私は幸せ者だ。」 そうだ、玄徳、貴女は、もう気づいてたんだね、一人じゃ何もできないって。 最早夢の終わりだというのに、不思議と口惜しくはなかった。 楽しい、夢だった。 みんな、ありがとう。
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