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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
879:北畠蒼陽 2006/02/27(月) 05:25 [nworo@hotmail.com] 「……聞いてるの、承淵」 黎斐が声をかけてくる。 うるさい。うるさい。うるさい。 他人の戦場に駆り出されてなにをしろというんだ。 ふざけやがって。どいつもこいつもどうせ私の前から去っていってしまうんだ。 強くならなきゃ…… もっと……強くならなきゃ…… 新陰流の系譜 眼前の戦場の様子に丁奉は鼻で笑い飛ばした。 まるでお遊戯…… 蒼天会はトップクラスのメンバーを総動員してこの戦いに挑んでいる。 こちらはそれに引き換えはるかに小勢。 蜂の一刺しでどの程度のダメージが与えられるものか。 季文もこんなどうでもいい戦いの責任を押し付けられてかわいそうに。 校舎を見る。 あの校舎に立て篭もっているのは今まで敵だった人。 諸葛誕先輩。 蒼天会の中で……蒼天会の今の三年生世代の中でずば抜けて軍事的才能がなく、しかしその圧倒的な政治力を駆使して長く長湖部のマウントを取り続けた女性。 そして毋丘倹の乱で長湖部に身を寄せた文欽先輩もまたあの分厚い包囲網の中にいた。 どうということはない、もともとは蒼天会の内部分裂。 こんなどうでもいい場所でなぜトばされなくてはならないのか。 丁奉はあきれたようにため息をつく。 「季文からの伝令よ、承淵。できるだけ包囲網を崩して欲しい、って」 黎斐が返事もしない丁奉に気分を害したように、それでも事務的な口調で伝えた。 「はぁん? これを抜けろっていうの?」 季文もよほどテンパってるらしい。 まぁ、いい。やれるところまでやるだけ、だ。 そう思い木刀を握った丁奉に1人の人影が飛び込んできた。 それは戦場から離れたところにたった1人でたたずんでいる人だった。 戦場の様子を遠めに見ている一般生徒…… 一見そう見える……だが…… 丁奉の唇が獰猛な笑みを形作る。 「……承淵?」 丁奉の様子を不審に思ったのだろう、黎斐が声をかけてくる。 「あぁ、黎斐。ちょっとだけ出かけてくる……包囲網の切り崩しはそのあとね」 「ちょ……ちょっと!」 黎斐の呼び止める声にもかまわずに丁奉は駆け出していた。
880:北畠蒼陽 2006/02/27(月) 05:26 [nworo@hotmail.com] 彼女はどんな思いでこの戦場を見ているのだろう。 丁奉が彼女のそばに近寄ったとき……彼女は遠めに見たときと同じ佇まいでそこにいた。 彼女の目にはなにが映っているのだろう……? 「なにかしら……? 私はただの一般生徒よ」 すでに丁奉が傍によっていることに気づいていたのだろう、背を向けたまま彼女は丁奉に問いを発する。 「今はただの一般生徒だろうとなんだろうと……あなたの名前には意味があるんですよ」 丁奉の言葉に彼女はゆったりろ振り返る。 その顔は不思議なものでも見るような表情が浮かんでいる。 「私の名前に意味?」 ……蒼天章なんてすでにないのに、わずらわしいことね。 苦笑を浮かべる彼女。 「有名税ってやつですよ、毋丘倹先輩」 丁奉の言葉に彼女……毋丘倹は苦笑を濃くする。 長湖部に身を寄せた文欽先輩はことあるごとに言っていた。 お前の剣は毋丘倹にははるかに及ばない、と。 同じく新陰流を使うものとして毋丘倹という名前は知っていた。 ……私よりも強いのならなぜそうそうにリタイアなどするのか。 私はまだ、ここにいる! 文欽先輩の言葉はただの身内贔屓だろう。 毋丘倹先輩は弱いから、弱いからリタイアすることになったのだ。 弱いから……リタイア…… 私の脳裏に誰よりも強くて、でも病気を押して戦場に立ち……私を生かして自分はリタイアした人の姿が浮かんだ。 爪を噛む。強く。強く。 私はその人よりも強いことを証明しなければならなかった。 「それで私にどうしろっていうのかしら。私もそろそろ帰って受験勉強でもしたいんだけど」 困ったように毋丘倹は首をかしげる。 受験勉強……あまりにも眼前の戦場にそぐわない単語に丁奉はあきれたような顔をする。 「勉強もせずに、こんなところにいていいんですか、先輩」 「そう。そうね……」 丁奉の嫌味に、しかし毋丘倹は再び戦場に目を向ける。 「これが……蒼天会3年生の最後の光だからね。私もあの中にいた人間として看取ってあげなきゃいけない」
881:北畠蒼陽 2006/02/27(月) 05:26 [nworo@hotmail.com] 戦場を眩しそうに見つめる毋丘倹に丁奉は黙り込み……そしてやがて口を開く。 「……るだけですか?」 「ん?」 聞き取れなかった毋丘倹が顔を丁奉に向ける。 「看取るだけですか!? それじゃああんたはただの弱虫だ!」 戦ってる仲間がすぐ傍にいるのに……力があるのに助けようともしない。 ただ見ているだけ! 「私はすでにリタイアした身よ」 苦笑を浮かべる毋丘倹。 「……まぁ、それでもあなたが言うように出ていきたくなるわ。手を差し伸べたい。助けたい」 毋丘倹は言葉を切り……そして再び戦場を眺める。 「でも絶対に助けない。私がいないことを前提で全力で戦ってる親友を侮辱することになる」 「……理解できません」 丁奉の呟きに毋丘倹は肩をすくめる。 「別に理解する必要なんてないわ。考えずに感じろ、なんていうつもりもない。ただそんなもんなんだ、って思っておけばいいわ。さて……」 毋丘倹はゆっくりと丁奉に体を向ける。 「あなたは誰? そして私になんの用かしら?」 なんの用……そんなことなどわかりきっているのだろう。 冬の朝の空のように澄み切った純粋な闘気が風のように丁奉に向かって吹きつける。 これが……これが在校生最強の新陰流の使い手か…… 額を汗がつたうのを感じる。 「長湖部虎威主将、丁奉、です」 「あぁ……あなたが、あの……」 眉をぴくんと上げる毋丘倹。 「蒼天章を返上した人間にもケンカを売られれば買う権利くらいはあるのを知ってるわよね?」 「えぇ、そのために売ってますから」 丁奉の答えに納得した表情の毋丘倹。そして…… 「!?」 毋丘倹がすばやく太刀を振りぬき、丁奉の右手首を打ち抜く。 丁奉は2歩下がり木刀を構え臨戦態勢に…… 毋丘倹先輩は太刀など最初から持っていただろうか? 毋丘倹は最初となにも変わらずポケットに手を入れたまま、そこに立っていた。 「ただのフェイントだから気にしなくていいわよ」 かといってなにも反応されなかったら悲しいものがあるけどね……そういいながら苦笑する毋丘倹。 反応しないでいられるものか。あんなに純粋な殺気をフェイントに使うなんて。 しかし丁奉は顔に笑みを浮かべる。 これだ。 こいつに勝ってこそ私は今よりも強くなれる。 「先輩のエモノがないですね。どうしましょう?」 構えを崩さず、また呼吸を精一杯に落ち着かせながら丁奉は毋丘倹に尋ねる。 「あぁ、いらないわ」 毋丘倹は気軽に答えた。
882:北畠蒼陽 2006/02/27(月) 05:27 [nworo@hotmail.com] 「……無刀取りでも気取るつもりですか」 上泉伊勢から柳生石舟斎に伝えられた新陰流の極意。 「まさか。あんなのが使えるのは歴史に名前を残すようなバケモノだけよ」 にっこりと笑いながら…… 「でも状況を見て利用する、って技術は私程度でもできるわ」 足元の砂を蹴り飛ばす。 こんなものを目くらましにするつもりか。バカにしてッ!? バックステップしてかわそうとする丁奉の正面……砂煙の向こうから斧のようなものが振り下ろされるイメージ。 慌てて目を向ける。 そこには砂煙を抜け……砂を蹴り飛ばすのと同時に全力で前進していたのだろう毋丘倹が拳を握っていた。 間に合わない! 丁奉は迷わず木刀を捨て、正確に心臓を狙って打ち出される正拳をなんとかガードする。 自分からジャンプしてパンチの衝撃を殺してなお、丁奉のガードした腕に鈍痛が走る。 「あぁ、決めたつもりだったんだけどなぁ」 ぼやくように言う毋丘倹。 「まぁ、そっちも木刀を失ったわけだし、よしとしましょ」 足元に転がる木刀に見向きもせず再びポケットに両手を入れる。 小細工と圧倒的な力。 これが蒼天会最強の戦乙女、毋丘倹。 丁奉は深呼吸する。 間合いは槍の間合い。剣には遠く、ましてや無手の間合いではない。 しかしさっきの毋丘倹のダッシュを見る限り、彼女であればこの間合いを一瞬で詰めることが可能だろう。 ……そこまで考えて丁奉は舌を巻いた。 なるほど、さっきのダッシュを見せ付けたのはこの間合いを自分が一瞬で詰められることをアピールし、警戒させるためか。 一挙手一投足に意味がある。ではなぜそれをアピールしなければならないか。 ……恐らくは…… ふっと、丁奉の力が抜ける。 「?」 そして構えを解き、ゆっくりと毋丘倹に向かって歩を進めた。 「なるほど。ばれちゃったか」 毋丘倹が苦笑を浮かべる。 あの距離は本来の毋丘倹の間合いではないのだろう。 ただあの間合いを嫌って不用意に丁奉が近寄ることがあれば自分の間合いに入った瞬間に牙を剥く。 「先輩、お互い忙しい身ですし一撃だけで決めましょう」 「賛成だわ」 丁奉が立ち止まる。 毋丘倹が薄く笑った。 何の前触れもなく…… 2人が交差する。 「こっちの……勝ちです」 丁奉の拳が毋丘倹の心臓を捉え寸止めされていた。 「そうね。あなたの勝ちよ」 毋丘倹は微笑む。 勝者と敗者が決定する。 風が吹いた。 「戦場はまだ止まらないわ。あなたは自分の剣を振るえる場所に行きなさい」 毋丘倹の言葉に丁奉は頷いた。
883:北畠蒼陽 2006/02/27(月) 05:27 [nworo@hotmail.com] 特になんでもないんですがあれですよ。 ねぇ? えっと……ごめんなさいorz
884:海月 亮 2006/03/01(水) 19:04 >北畠御大 ( ̄□ ̄;) や…やられた… おいらが「孫皓排斥計画」のクライマックスに考えてるのってこういう展開ですよまさに。 まぁキャストは違うんですけどね^^A だんだん「排斥計画」の構想が固まってきたので、いずれリンク先だけ持ってきます。 此処に本文うぷしたらものすげぇレス数食いつぶしそうだし…ww
885:冷霊 2006/03/04(土) 20:34 葭萌の夜 〜白水陥落・壱〜 「劉備が帰る?それホントなの?」 高沛がページをめくる手を止める。 「ああ、何でも荊州校区の方でトラブルがあったそうだ」 楊懐が何やら作業をしつつ答える。 「確か蒼天会の侵攻でしたっけ。皆、その話題で持ち切りですよ?」 劉闡が稽古の手を休め、棒を傍らに置く。 「え?あたしは長湖部が荊州返せってもめてるって聞いたけど?」 「あれ?そうなんですか?」 高沛の言葉に首を捻る劉闡。 「うーん、あたしはそう聞いたんだけど……」 高沛も劉闡に続き、首を捻る。 「どちらにせよ、帰ってもらえるのなら幸いだな。戦力の低下は免れんが、皆が落ち着くのは確かだ」 楊懐が静かに呟く。劉備が来て以来、益州校区では全体的に落ち着きが無かった。 葭萌門や白水門だけでは収まらず、成都棟よりはるばる劉備の顔を見に来た生徒もいた。 一方の劉備も益州校区への挨拶回りをきちんとやっており、益州校区の大半の生徒が劉備の顔がわかる程だった。 「じゃあ、帰る前にもう一回くらい挨拶しといた方がいいかもね。世話になったのは事実だしさ」 「そうですね。それなら何か、手土産とか準備した方がいいですか?」 「んー、そうだね。今の季節だと蜜柑とか温泉の素とかでいいかな?」 高沛が蜜柑を手に取る。そのとき、がらりと扉が開けられた。 「楊懐いるー?」 「あ、孟達さん」 入ってきたのは孟達、現在は法正と一緒に葭萌門の劉備の手伝いをしつつ目付役を務めている。 「劉闡も一緒?なら丁度良かったわ」 「ほうひはほ?ははひはひひはひは……」 「高沛、飲み込んでから話せ」 楊懐が冷静に言う。 「えっと、どうなさったんです?」 劉闡が孟達に駆け寄る一方、高沛は口一杯に頬張った蜜柑を何とか飲み込もうとしていた。 「三人に招待状だそうよ、ホラ」 孟達は足を止めると、駆け寄ってきた劉闡に招待状を差し出した。 「劉備が荊州に帰るって話は聞いてるわよね?」 「聞いた聞いた。荊州の方で何やら揉め事だって?」 高沛がごろりと寝転がり、孟達を見上げる。どうやら炬燵から出て来るつもりはないらしい。 「そう。だから、世話になったお礼も兼ねてパーティーを開くそうよ。」 「パーティーですか?そんなこと、わざわざして頂かなくてもいいのに……」 劉闡が招待状を受け取り、申し訳なさそうに小さくなる。 「タマも来るのか?」 楊懐がふと疑問を口にした。 「急な話だったから劉璋さんは来れないみたい、残念だけど」 孟達が小さな溜息をついた。楊懐は耳だけを傾けている。 「その代わりってわけじゃないけど、それも兼ねて劉闡には是非とも来て欲しいって言ってたわよ」 「わ、私もですか?」 自分の名前を呼ばれ、思わず声が裏返る劉闡。 「えっと、私はその……」 劉闡が申し訳なさそうに楊懐達を見やる。 「三人にって言ったでしょう?今夜はもちろん空いてるわよね?」 孟達が高沛を見下ろす。 「うーん……見張りは皆に任せてもいいし、問題無い……かな?」 高沛が首を傾げ、楊懐の方を見やる。 「……ん?ああ、必ず行く」 楊懐が腕組みを解き、孟達に視線を移す。 「わかったわ。それじゃ、今夜六時に葭萌門に来て頂戴ね」 「りょうかーい」 高沛が手をひらひらと振って、孟達の後姿を見送る。 「高沛さんどうしましょう!?お土産の準備とかまだ出来てないですよ!」 劉闡が戸棚や冷蔵庫の中身を慌てて確認する。 「お土産ねぇ……どうしよっか?身嗜みも整えないといけないし……っと、楊懐」 「ん、すまない」 高沛が楊懐に櫛を放り投げる。楊懐は櫛を受け取ると、鏡台に向き直る。 「六時から、か……」 長い髪を梳かしながら、楊懐は再び呟いた。
886:冷霊 2006/03/04(土) 21:18 いよいよ白水門の本編開始してみました。 遅筆ですがのんびりと書き連ねております。 三部構成のつもりですが、勢いとノリによっては増えるかもですw >北畠様 血を血で洗う展開ですかー…… ある意味では緊迫した展開になりそうな気がしております。 血が流れるかどうかは……予定は未定ということで。 それにしても建業棟までわざわざ行くとはw 諸葛誕も諸葛恪も何だか苦労性な印象を受けつつありますw 暑いのは苦手ですが夏はやはり好きですねぇ、イベント事も結構多いですし。 >海月様 バレンタイン、甘いものが苦手な人にはつらい日ですね。 ふと蒼天で最も多くチョコを受け取っているのは誰かと気になってみたりw 孫晧排斥計画ですかー……三国志の終盤のイベントですから気になっております。 >弐師様 単経に田楷とは……やられました。 公孫サン陣営への印象が次々に変わっておりますw 激しくGJですよー。 楊懐の初陣に関しては劉焉周りを暖めてからになるかもですね。 過去ログより劉焉周りをしっかりと調べておかねばですね。
887:海月 亮 2006/03/05(日) 01:34 >冷霊様 お、白水門の攻防ですな。 この展開を見ると、かなり濃いものが期待できますな。 あと、バレンタインの話 >>431もそうですが、過去ログ読むと恐らくは関羽かと。あと張任かな。 そして私・海月は甘いものは好きだけどチョコは苦手というひねくれものです^^A
888:弐師 2006/03/05(日) 11:20 今日もまた、屋上でうたた寝をする。 つまらない授業をほっぽりだして、私はここに来ていた。 授業が解らないのではない、解るから、つまらないのだ。 あんな風に、他の人たちにも解るように、ゆっくり、丁寧に進んでいく授業など、つまらない。 もちろん教師達は正しい、わかりやすいように教えるのは、彼らの仕事であり、それが当然の事なのだ。 それに馴染めない、私が異端なのだ。 まあ、だから、というわけでもないのだけれど、いつしかここで、授業をさぼって一人で寝るのが習慣となっていた。 一人で、 そう、独りで。 「あれ、其処にいる人、どなたですかぁ?此処は立入禁止だよ?」 うとうとしているところに、急に声を掛けられ、そちらへと顔を向ける。 其処にいたのは、栗色の髪の少女。 そうだ、この人は確か・・・ 「棟長さんの妹さんか、こんな場所に何の用?」 そう、彼女は確か公孫越と言って、この北平棟の棟長である公孫サン先輩の妹だった。 「えっとね、「授業をさぼってばっかりだけどテストの点は良い」って言う人類の敵見たいな娘が私の同級生に居るって聞いたからね、探してたんだ。よろしくね 厳 綱 さ ん ?」 にっこりと、挑発するかのように微笑む彼女。 ご丁寧に、私の名前の部分にアクセントをつけてくれた。 なにが「どなたですかぁ?」だ、まったく。 最初から私目当てか。 棟長の妹って言うから、ただの真面目な娘かと思ってたが、なかなか、食えない娘じゃないか。 面白い。 「ふふ、人類の敵とは言ってくれるじゃない。」 「だって、そうでしょう?私みたいなお馬鹿さんには貴女の存在はもはや犯罪だよ?」 また嘘? この娘は、一年生どころか、上級生にも負けないほどの知謀を持っている。 ただ、それを表に出さずにこにこしてるだけ。 ほんとに面白い娘。 「で?結局何の用?人類の敵をやっつけにきたのかしら?」 「まさかぁ、そんなことしないよ。ただね、会いたかったの、厳さん、あなたにね。」 それから毎日、彼女は屋上に来た。 くだらない言葉遊び、だけど、どこか私のことを探っている。 そして、ある日彼女は遂に私に自らの目的を打ち明けた。 「ねえ、私のお姉ちゃん・・・公孫伯珪に仕えない?」 何だ、結局それ? 実を言うと、同じ事を劉虞先輩のところから言われていたのだ。 劉虞先輩は、優しく、慈愛の心にあふれた、女神のような―――――――― ――――――――そんな、とてもつまらない人。 だからといってそんな彼女と真逆な公孫サン先輩に協力する気もない。 正直、興醒めだ。 「興味ないわね、他の、もっと真―――――――― 他の、もっと真面目な人にでも言ってみたら? そう言いかけたところに、彼女の声が割り込んできた。 始めて会った時みたいな、誘うような声で―――――――― 「退屈なんでしょ?」 タ イ ク ツ ナ ン デ シ ョ ? 「別に?何でそう思うのかしら?」 動揺を悟られないように、慎重に声を絞り出す。 とことん、面白い娘だ、的確に心を攻めてくる。 「嘘・・・ふふ、厳さん、嘘は良くないよ?」 「誰が嘘なんてっ・・・!」 思わず声を荒げてしまう 「ほらぁ・・・そんなに怒らないの。可愛い顔が台無しだよ?ふふふ・・・」 ちっ・・・危うくこの娘に乗せられるところだったわ。 「解るよ、だって、私も退屈だったからね・・・ くだらない授業、くだらない友達、くだらない毎日。そうでしょう? 何もかもつまらない、世の中馬鹿ばっかり、何か物足りない・・・ ・・・貴女は飢えている、渇いている。」 自分の満たされない心を見透かされ、思考回路が破裂寸前になる。 「だから、どうだと言うの。」 そう言って私は、彼女から顔を背ける、私にできる抵抗は、最早それだけだった。 しかし、彼女はそんな私の顎をつかみ、自分の方に向け、私にとどめを刺すように、耳元で囁いた。 「私なら、貴女の心を満たしてあげられる・・・」 よく小説などで、悪魔の誘惑と言う物がある、まさしくこんな感じなのだろう。 この錆び付いた心に、熱い血が通っていく。 もう、止められない。 「わかったわ、だけど、貴女のお姉さんの為じゃない。私の渇きを満たすため。 それでいいかしら。」 「ふふ・・・御自由にどうぞ。よろしく、厳さん。」 面白い事になった。 これが、私の望んでいたことなのだろうか? いや、そんなこと、どうでも良い。 今、私は楽しんでいる、こんなにも愉快な思いは初めて。 それだけで十分だろう――――――――
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