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914:北畠蒼陽 2006/04/14(金) 14:01 「ん〜……」 その少女は廊下の窓を大きく開け、まだ残暑の色濃い初秋の風を一身に受けながら心地よさそうに微笑んだ。 普段からあまり見開くことのない糸目もさらに細くなり、季節をその総身で受け止めているかのように見える。 「ここにいたんだ」 「ん?」 少女は自分に投げかけられたのであろう言葉を聞き、目線を向ける。 世界が回る直前の日 「今、いい? 子コウ」 「あ〜、かまわないけど……あんたから声かけてくるって珍しくない? 伯言」 子コウ……全ソウ。山越との抗争や生徒会との数々の戦いに参加し長湖部内でその地位を築き上げた名将。 伯言……陸遜。軍神関羽、英雄劉備を破った長湖部の大軍師。長湖部の実戦総責任者であり誰も取って代わることの出来ない才能を持った少女。 「単刀直入に言うわね。妹さん……全寄さんだっけ? あの子は孫覇さんに接近しすぎてる。そもそも後継者の順序ってのははっきりさせとかなきゃいけないもんだし……あの子の行動は危険すぎる。貴女から言い聞かせてほしい」 「言い聞かせて、っていっても……」 全ソウは困ったように頭を掻く。 「孫覇さんの側の中心人物の一人が全寄さんなの。こんなくだらない後継者争いなんかで長湖部をどうにかしたくない。子コウ、お願い。貴女に現代の金日テイになってほしい」 「伯言の言うことは……」 全ソウは陸遜の言葉に頷こうとして……動きを止めた。 「きん……じつてい?」 金日テイ……かつての蒼天生徒会の名秘書。匈奴高校生と会長を兄に持っていたが霍去病に捕らえられ、そのまま生徒会役員として名前を連ねることになる。 もともとの蒼天学園出身ではないということをよくわきまえ、自ら蒼天学園生徒から一歩離れた位置に身を置いていた。 そう…… ……自分の妹が生徒会長に気に入られたときに妹の蒼天章を剥奪するほどに。 「伯言……」 全ソウの声が震える。あまりの怒りに陸遜は眉をひそめた。 「あんたは……私の妹を自分でトばせ、とそういうんだな」 「あ」 陸遜は失言……いや、自分が言い過ぎたことにようやく気がついた。 全ソウに対してそこまで言うべきではなかったのだ。 「い、いえ、違う……ただそういう覚悟だけは……」 ガシャーン! 陸遜の言葉は破壊音で報われる。 全ソウが拳で窓ガラスを殴りつけた音だった。 「……もういい。妹にはあんたの言葉を伝えるがどうなるかは責任はもてない」 ゆっくりと拳を下ろす全ソウ。ガラスを殴りつけたときに切ったのだろう握り締めた拳から血がふた筋流れ落ちる。 「でも私があんたに感じてたかもしれない友情は今ここで死んだ……もう仕事以外で声をかけてこないでほしい」 「子コウ……!」 ゆっくりと歩き去ろうとする全ソウのその背中に陸遜はなんとかフォローを入れようとする。 誰にトんでほしいわけでもない……さっきの金日テイだってただの例えで……全寄だって未来の長湖部を背負う人間の一人には違いないのだから……! そして全ソウほどの人間の影響力と実力があれば、自分と一緒にこんなくだらない後継者争いなどすぐに終わらせることが出来ると、心の底からそう思うのだから! 陸遜の叫びにも似た声に全ソウが歩みを止める。 「子コウ!」 やっと冷静になってくれた! 陸遜は涙が出そうなほどの喜びと…… 「……私はあんたを殴りたくて仕方ないんだ。とっとと失せてくれ」 汚物でも見るかのような表情と声音。 ……深い絶望を同時に味わった。 そして陸遜にはもう…… 歩き去ろうとする全ソウの背中を見ながらつぶやくことしか出来なかった。 ……コンナハズジャナカッタノニ。
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