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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
932:冷霊2006/07/25(火) 15:20
壱:885
弐:895
参:896
葭萌の夜〜白水陥落・肆〜
夕刻・白水門にて。
「ったくあの馬鹿!大事なときに限っていっつもアイツは……!」
「お、落ち着いて下さい!まだそうと決まったワケじゃ……」
「わかってる!そんなことあってたまるかっ!」
ガンと門柱を殴りつける。
「……っとゴメン。劉闡に当たっても仕方ないか……」
約束の時刻、白水門に楊懐の姿はなかった。
あたりにいた生徒の話だと、楊懐らしき人物が葭萌へと向かったらしい。
一人で行くということが何を意味するかよくわかっているつもりである。
「あたし行ってくる!」
「こ、高沛さん!? 行ってくるって……白水門はどうするんですか!?」
「劉闡!後は任せたっ!」
「はいっ!……ってええっ!!」
驚き顔の劉闡を尻目に、高沛は駆け出していた。
後ろを振り返りもせずに。
「高沛さん……ちょ、わ!私も行きますっ!」
劉闡も慌てて棒を握り締め、高沛の後を追う。
血の滲んだ門柱を夕日が照らしていた。
三年前、益州校区に来たばっかのあの頃、あたし等は南陽から流れてきた連中の面倒を任されていた。
あたしは特別な腕が立つわけでも、優れているわけでもなかった。
けど、君郎さんはそれでもあたし等に益州校区のことを任せてくれた。
君郎さんの考えは今でもわからない。でも、楊懐と決めたんだ。
君郎さん……いや、益州校区の皆を一つにしようって。
皆で楽しめる何かを見つけようって……。
ふっと考えが途切れる。
目の前に見えてきたのは葭萌関、その傍らには幾人かの姿があった。
「劉備……」
足を緩め、ゆっくりと立ち止まる。
「高沛はんに劉闡はん、三分遅刻やでー?」
劉備が妙に明るい声で声をかける。
「は?劉闡?」
高沛が訝しげに後ろを振り返る。
するとそこには……
「遅刻のことは……申し訳……ありません……」
劉闡がいた。
いつもより少しだけ険しい表情で。
「楊懐さんは……楊懐さんは何処ですか!?」
「劉闡……ついて来ちゃったかー……」
高沛の横を通り過ぎ、劉闡はよろよろと劉備へと歩み寄ろうとする。
「劉備さん!答えて下さ……い?」
尚も進もうとする劉闡を、高沛は片手で静止した。
「ああ、そのことに関してなんやけどちと困ったことがあってなぁ……」
劉備が少し眉をひそめる。
「困ったこと?」
「そうさね」
ホウ統が小さく頷いた。
「先程、楊懐さんが劉備さんに挨拶に来たんだけど、話の途中で武器を持ち出しちまってねぇ……」
軽くホウ統が頭を掻く。
「よ、楊懐さんが!?楊懐さんがそんなこと……」
「おっと、話はまだ終わっちゃあいないよ」
劉闡の言葉を遮り、ホウ統は言葉を続ける。
「それでウチの劉備さんも仕方なく応戦したんだけど、結果として楊懐さんの階級章を奪っちまう形になっちまったんだよ」
傍らの劉封が持っていた包みを開けた。
そこにあったのは階級章と対の短杖。
高沛には一目でそれが楊懐の物だとわかった。
「そこでだ。この事をウチが不問にする代わりに……」
「白水門の軍を寄越せっていうんでしょ?」
高沛が口を開いた。
「寄越せだなんて言い方が悪いねぇ。張魯対策に人が足りないから貸して欲しいだけさね」
「一緒のことです!高沛さん、何としても楊懐さんのもごっ!」
劉闡の口を手で塞ぐ。
「劉闡……自分がタマの妹ってこと、忘れないで」
高沛はぐっと一歩だけ前に踏み出した。
「劉闡。タマにこのことを伝えて」
「え?で、でも私も……」
「くどいっ!急いでっ!」
高沛が叫ぶ。
「……わかりました。高沛さん……どうか御無事で」
「りょーかい!」
劉闡の声に高沛はいつもの明るい声で答えた。
「いいのかい?行かせちまって」
「構わへん、元々頭数は負けとるんや。それにウチにはあんさんがおるやないか」
「へえ、評価してくれるとは嬉しい限りだね」
ホウ統がニッと笑い、そして高沛へと向き直る。
「劉備。アンタがタマを裏切ろうが益州校区を狙おうがしったこっちゃない。大体タマったら周りの意見に左右されるわ、競争心の欠片も無いわ……はぁ〜」
眉を顰め、大きく溜息を付く。
「ははは、せやろな。一月も滞在しとったらわかるわ、そんくらい」
劉備も笑い飛ばす。
「それでもあたしの友達なんだよね。タマも楊懐も」
高沛がぐっと拳を握り締める。
「だからあたしから喧嘩売らせて。買ってくんない?」
「ああ、ええで」
劉備が深く頷いた。
その口元から笑みが消える。
「りょーかい。ふぅ……」
高沛が息を吸う。
「益州校区が主、劉季玉が臣にして友!高沛参る!」
朗々とした、それでいて真っ直ぐな声が響く。
高沛は劉備に向かって駆け出した。
少しだけ高い聞き慣れた声。
何度も聞いた声。
劉闡はその声を背に受けつつ、只管に駆けていた。
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