下
★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
186:岡本2003/02/16(日) 22:24
■広宗のG・P・M(2)■
翌朝、広宗の野に、大型スピーカーを通して「天使の声」の張角が歌う黄巾のマーチが流れる。
張梁旗下の黄巾軍団も歌いながら、鉅鹿棟に布陣する生徒会軍向けて進軍を開始する。
先鋒隊が生徒会軍の陣営直前に迫ったとき、彼女らの前に4名の生徒たちが立ちふさがった。
「地公主将様、いかがします?」
「構わん、押しつぶして通れ!!今日こそ、皇甫嵩を飛ばすぞ!!」
おおっと気勢をあげ、再び黄巾のマーチとともに張梁軍は進軍を開始した。
そのときである。
4名の中から、長身を武道着に包み腰に黒鞘の居合刀を帯びた女生徒が黄巾軍の前
に歩み出てきた。腰に余る豊かな黒髪とどことなく憂いを帯びた美貌を持つ佳人と
いっていい面持ちの人物だが、武道着の上からでも途轍もない心身の強靭さを秘め
ているのが見て取れる。
「今や、関さん!!」
何事、と見ていた両軍の目に、女生徒の腰間から放たれた銀の光芒が進軍を続ける
黄巾軍の行く手を断ち切るように一閃されるのが映った。黄巾軍の先頭が度肝を抜
かれて歩みを止める。剣の型を演じ続けるその女生徒の口から湧き出る深みのある
テノールが全ての喧騒を貫いて戦場に響き渡った。
その心は闇を払う銀の剣
朗々と響き渡る歌声に合わせて、大身の居合刀が銀の光芒を放って翻る。
刀身2尺7寸(82 cm)の美しい刃紋で知られる関の孫六兼定を模した模造刀
で、関羽が“冷艶鋸”と名づけて形稽古に用いているものだ。
絶望と悲しみの海から生まれでて
四方の敵を何れも一太刀で制する型を示した後、静かに引いた刀を
体の脇に捧げ持つように立てる“陰の構え”で止め、眼前の黄巾軍
を見据える。威圧感十二分である。
“関さん、絶ぇぇっ対、昨日演武の練習しとったな。”
苦笑する劉備に黄巾軍からのざわめきが届く。
「あれは関羽だ!」
「程遠志を飛ばした奴か!」
“黄巾のマーチ”はまだ続いているが、黄巾軍に動揺が走るのが感じ取られた。
関羽の隣に歩み出ていた少林拳の演武着を纏った女生徒が1.8 mはあろうかとい
う棍棒を構える。背は意外に低く童顔だが、全身がバネでできているかのような
逞しさをもっており、長身重厚な関羽にも見劣りしない。関羽のパートが終わる
や間髪をいれず、演武の型と共にソプラノの声が紡がれる。高いが力強さを感じ
させる声は、勇壮な演武にマッチしていた。
戦友達の作った血の池で
涙で編んだ鎖を引き
棍棒を瞬時に三節棍に変形させ、目にも留まらぬ勢いで連節棍の演武
を続ける。三節が攻めかかる大蛇の如き動きを見せ、歌に更なる威を
添える。
悲しみで鍛えられた軍刀を振るう
「こんどは摶ホをやった張飛だ!!」
更なる豪勇の登場に、黄巾軍の動揺が増加する。黄巾軍の進軍は完全に止まった。
「Gun-parade march (突撃行軍歌)で来たか!!」
思わず、曹操がうなる。最近の口コミで話題になっているゲームの歌だ。蒼天学園
でもかなり生徒が知っている。内容上、これ以上うってつけの歌は無い。しかも、
リーディングに起用した人物の声が武道で鍛えたのか深みのある声が非常によく通る。
肉声は電気変換された声に印象においてはるかに勝る。
“これが劉備の勝算だったのか…。”
関・張の間に赤パーカーを羽織り両手に張り扇をぶら下げた劉備が歩み出る。
滑稽な格好だが、眼鏡の奥から黄巾軍を見る真摯な眼差しには2人に劣らぬ
心の強さが感じられる。
どこか長閑ではあるが、けして諦めない強い意志を帯びたアルトが流れる。
どこかの誰かの未来のために
地に希望を 天に夢を取り戻そう
両手を大きく広げるや、天地の希望と共に目の前の黄巾軍を胸に抱きしめる
ように交差させる。歌詞自体は確かに甘い、夢を描いたような望みを言って
いる。だが、それを実現するかも知れないという可能性を感じさせる歌声である。
最後は3人の声が、テノール・ソプラノ・アルトが重なる。
我らは そう 戦うために生まれてきた
関羽が“冷艶鋸”を沖天の勢いで振り上げるや瞬時に大地を
両断するかの如くに振り下ろして破邪顕正の威を示し、張飛が
全ての敵を薙ぎ倒さんとする三節棍の型を決めて見得を切る。
2人とは対照的に、胸の前で交差させた張り扇を両手で広々と
大文字に掲げた劉備は、降した敵を慰撫する様を示した。
この瞬間、3人の歌声は張角の「天使の声」を凌駕した。
高らかに“黄巾のマーチ”を歌っていた黄巾軍の歌声がついに途絶える。
この好機に3人の後ろについた簡雍が、生徒会軍の方を向いて“せ〜のぉ!”
とばかりに両手を振り上げてメゾ・ソプラノで続ける。
それは子供の頃に聞いた話
誰もが笑う御伽噺
威圧されじりじりと後ずさりし始める黄巾軍へ劉備達4人は歩を進める。
再び関羽が、
でも 私は笑わない
私は信じられる
貴女の横顔を見ているから
張飛が、
遥かなる未来への階段を駆け上がる
貴女の瞳を知っている
そして簡雍が歌う。
今なら私は信じられる
貴女の作る未来が見える
3人が劉備の元に集まり、劉備の差し出す両手をとる。関羽・張飛・簡雍の合唱となった。
貴女の差し出す手を取って
私も一緒に駆け上がろう
高まった機運に呼応するように生徒会陣営からも歌う声が聞こえてくる。
その声を耳にした劉備が莞爾とばかりに微笑む。劉備たちの進軍に合わ
せて動き始める隊も増えてきた。関羽・張飛・簡雍と視線を合わせて頷き、
4人の合唱が野に響く。
幾千万の私と貴女で
あの運命に打ち勝とう
どこかの誰かの未来のために
マーチを歌おう
劉備たちの進軍に加わり斉唱に加わる者達は生徒会全軍に拡がる熱狂とともに
加速度的に増していった。最後は生徒会軍総員の進軍・大合唱になった。
そうよ未来はいつだって
このマーチと共にある
ガンパレード・マーチ
ガンパレード・マーチ…
地を震わせる生徒会軍総員の合唱に威圧され、黄巾軍は完全に崩れた。
進軍してくる生徒会軍におびえて、張梁や黄巾部隊長の制止を振り切って
逃亡を開始する者も出始めた。
「これほど見事にあたるとはね…。」
生徒会軍総指揮官の皇甫嵩が、竹刀を高々と抜き放つ。もはや台詞はこれしかない。
「All!Handed gun-parade!All!Handed gun-parade!
全軍突撃!
たとえ我らが全滅しようとも、最後の最後に我らの遺志
を継ぐ者が1人生き残れば我々の勝利だ!!
全軍突撃!
どこかの誰かの未来のために!!」
突撃行軍歌を歌いつつ猛進する生徒会軍の前に、もはや抗する力を失った黄巾軍は
張梁の制止の声も空しく雪崩をうって潰走した。生徒会軍全軍の追撃は夕方まで
続き、地公主将・張梁を飛ばす大勝となった。ここに、黄巾の猛威に対する一大反
抗作戦は大成功のうちに集終結し、蒼天学園全体に“聖徳の名将”、“生徒会の剣”
皇甫嵩の勇名は知れ渡った。
だが、会戦に先立つ4名の業績は生徒会の正式書類には残されていない。
上前次1-新書写板AA設索