★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
206:彩鳳2003/02/21(金) 19:03AAS
 さて、私も皆様に続きまして、第二部を・・・

 ■ 一月の花時雨 ■

 第二部 ―雪道の交錯―
 
 「ふぇっ・・・くしょん!!」
 「畜生! 寒くてかなわへん!!」

 ここは、荊州校区の新野棟。まだ表には出していないが、曹操が狙っている荊州校区の北東部に位置しており、校区の中枢である襄陽棟とは比べるべくも無い、辺鄙な棟である。
 だが、前年の秋に帰宅部連合総帥の劉備が棟長に就任してからというもの、事情が少々変わりつつある。
 
 前年度の夏休み、カント公園にて生徒会長の袁紹と副会長の曹操による一大決戦が行われた。
 戦闘開始直後は圧倒的な大兵力を擁する袁紹の勝ちかと思われた。だが、参謀の許攸が曹操側へ寝返った事で状況は一変、危機的状況にあった曹操が文字通りドンデン返しの大勝利を収めたのである。
 大敗北を喫した袁紹は会長を辞任、ここに曹操の覇権確立は決定的なものとなる。
 袁紹の大敗という誰もが予想出来なかった(一部の人間を除く。)結末に学園内部は震撼し、曹操の名前を知らない生徒は存在しなくなったと言っても過言ではなかった。
 当の曹操は会長に就任し、袁紹の後継者が定まらずに内部割れを起こす華北の情勢を見るや直ちに進撃を開始した。冀州、青州は立て続けに制圧され、袁氏の勢力圏は、并州の高幹と幽州の袁尚に分断された。
 なおも生徒会勢の進撃は止まらず、正月が明けてから李典・楽進率いる生徒会の大軍は高幹の守る并州校区へと動き出した。 
 数で勝る生徒会勢だが、高幹は地形を利して激しい抵抗を行っており、并州校区では現在も戦闘が続けられている。

 一方、帰宅部連合(新聞部)を率いる劉備は、カント公園の決戦直後に関羽と涙の再開を果たし、冀州に主力を向ける生徒会勢の後方攪乱を行うべく汝南棟へ移動、黄巾党の残存勢力と共に決起した。
 だが、蒼天会本部を狙う帰宅部の動きを曹操は見逃さなかった。夏侯惇、夏侯淵らの逆襲を受けた帰宅部は大敗し、汝南の地を維持出来ずに荊州校区へ逃亡したのである。
 荊州校区へ逃れた劉備一行は、校区総代・劉表の庇護を受け、新野棟長に就任。帰宅部本来の新聞部としての活動を再開し、校区公認のローカル新聞(地方紙)「新野通信」を刊行していた。
 「新野通信」は、その内容と劉備のカリスマ性との相乗効果で愛読者を多数獲得し、新野棟とその周囲の地域では徐々に劉備の名声と支持者が増大している。
 劉備の本拠地となった新野棟には劉備を慕う生徒達が集まり始め、僅かづつにではあるが辺鄙な棟は賑やかになりつつあった。
 だが、荊州校区本部では劉備の影響力を恐れ、蔡瑁を中心とするグループが密かに動き出していた。この動きは引退が近い荊州校区総代の後継者問題とも絡み、
このしばらく後から蔡瑁一派は幾度と無く劉備を付け狙う事になるのであった。

 当の劉備は、妹分の関羽と張飛を従えながら校舎への道を歩いてゆく。だが、今日は生憎の大雪で路面電車(レールバス)が止まっている。生徒達は皆、雪道に苦戦しつつも校舎への長い道を歩いていた。

 「・・・しっかしエライ雪やなぁ。歩きにくいったらあらへんで。」
 「確かに歩きにくいですが・・・姉者、雪で路面電車が止まっています。急いだほうが良いかも知れませんよ。」
 「・・・ハックション!!」

 「そやな、急ごうか。電車使(つこ)うてたから気付かんかったけど、寮から校舎まで結構な距離あるで。」
 「ええ、急ぎましょう。ここで我らが遅刻でもしようものなら、『新野通信』の名誉に関わります。折角生徒達の支持を集めてきたところです。生徒達を失望させるような真似は避けるべきです。」
 「関さん、そこまで大げさに考えんでも・・・って、遅刻する以前に朝飯食えへんな。遅れたら。」
 「・・・ハーックション!!」

 「・・・翼徳?あんた寒いんちゃう?」
 「まったく・・・だから『コートを着ていくように』と言ったのに・・・。」
 
 当の張飛は普通の制服姿だ。ただし『制服』だけであって、その上には劉備の様なパーカーも、関羽の様なコートも何も着ていない。他の生徒の様にマフラーもしていないのだ。

 「あんなのいらへん!だいたい動きにくいし面倒くさ・・・――ックショイ!!」

 『要らない』と言い張る張飛だが、意地を張っていることは誰が見ても明らかだ。
 劉備が白い溜息を付く。

 「――ったく、見てられへんなぁ。しゃーない、コレ貸してやるわ」
 「いえ、姉者がそこまでなさらなくても・・・それでしたら私が」
 「ええって、いらん言うとるねん!んな事言うひまがあったら先にいくぞ!」

 あくまでも拒絶する張飛であったが、劉備もこう言う事ではテコでも引かない。

 「うるさい!お前が着ない言うならワイが着せたる!! 関さん、手伝ってな!」
 「はぁ・・・姉者がそこまで言うのでしたら。」
 
 関羽が張飛の腕を押さえ込む。内心『こんな道の真ん中で・・・』と思っているのだが、その一方で張飛のやせ我慢に
呆れているのもまた事実だ。増してや劉備はやる気満々であった。こういう時は止めても無駄だと、長い付き合いで分かっている。

 「――っ、おい!よせって、こんな所で!!大体急ぐんじゃなんかったんか!?」
 「お前が人の言う事聞かんから、こんな所で上着着せてるんやで。それが嫌なら大人しくせや!」

 雪道の通学路でもみ合う三人。
 はっきり言って目立つ事この上ない。劉備自身多数の視線を感じているが、今更やめる気にはならない。意地でも自分のパーカーを着せる気である。

 もみ合う三人を避けて、横目で見ながら登校する生徒達。その中に紛れて――。

 「あーぁ、朝っぱらからよくやるよ・・・雪降ってるのに。ま、私は構わないけど。」

 遠巻きにこの騒動を見つめる少女たちの影に紛れ、嬉しそうに笑いを浮かべながら、一人の少女がビデオカメラを構える。周りの少女達も
目の前の騒ぎに目が向いていて、この少女の事に気付いていない。もちろん、劉備たちも――。

 「おっ、いいよいいよ。翼徳〜頑張れ〜☆」

 (『よくやるよ』って・・・そう言うあんたもよくやるよ、と私は思うね。ま、お互い様と言うところかな?)
 
 構えたビデオに夢中になっている少女をこれまた横目に見ながら、一人の女生徒がもみ合う劉備たちを眺めている。品定めをするかのようなその目つきは、
興味本位で三人を眺める女生徒たちや、すぐ近くで楽しげにビデオを廻す少女のものとは全く性質を異にしている。 
  
 「あぁ、玄徳のヤツ!何やってんだ。折角良いアングルなのに・・・」

 (『何やってんだ』はあんたもだろ。だが・・・確かに噂通り、面白そうな連中だな・・・)

 満足そうに目を細めた少女は、向きを変えて校舎の方へと再び歩き始めた。その手には、袋に納められた竹刀が握られている。
 
 (劉備玄徳・・・『新野通信』の責任者さんか。さて、どうしたものか・・・一応司馬徽先生に話しておくかな。)

 「翼徳のヤツ・・・(ププッ)パーカーのサイズ合ってないぞ。(まあ、玄徳のだから当たり前なんだけど。)しかし今日は朝からツイてるぜ〜☆」
 
 (それは良かったな。まあ、御健闘を。)

 録画の邪魔にならないよう、竹刀の少女はビデオの少女の後ろを回って、そのまま遠ざかってゆく。少し
離れたところでは、無理矢理サイズの合わないパーカーを着せられた張飛が、露骨なテレ隠しで喚き散らしていた。
いつの間にやら荷物係になっている関羽と、ハリセンを振り回して張飛と向かい合う劉備。そして、それを様々な目で見つめる女生徒たち。

 幾つもの思いが交錯しながら、新野棟の一日が始まろうとしていた。

 ―第二部 END―

  ■作者後記■

 ・・・何とか第二部、「雪道の交錯」が完成致しました。(タイトル被ったりしてませんよね?@滝汗)
 第一部、「北風の銀華」と第二部が《午前の部》
 次の第三部から《昼休みの部》となります。また製作が長引きそうで心苦しいのですが、どうか見捨てないで下さい(m‐‐m)

 ・・・張飛って冬でも薄着のイメージがあったので、あんな展開になりました・・・(^^;
 敢えて名前出さなかった人物が二名ほどおりますが、誰だか分かりますよね? (^^;
   
1-AA