下
★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
223:彩鳳 2003/03/06(木) 03:10 并州校区は学園北部のに位置しており、劉備の新野棟並みに辺鄙な校区である。袁紹が華北を 制した際に高幹が校区総代に就任し、それ以来彼女が校区を管理している。 前年の年末に南皮棟の袁譚を下し、冀州を制した曹操は、年度の始めから李典と学進を派遣して 并州校区の攻略に着手した。 高幹と生徒会の戦力差は大きい。しかし、高幹には強力な切り札が残されていた。 その切り札こそ「壺関ロック・ガーデン」(Rock garden=岩が主役の庭園・築山)である。 岩山で構成されたこの自然公園は登山同好会の上級練習コースとしても使用されており、 屈強な要塞としての高い評価を得ている。高幹はこの公園を決戦場に選択し、地形を駆使しての 防衛戦を目論んだのである。 高幹の判断は正しかった。狭く急な道を登ってくる生徒会の大部隊は、進撃ルートを制限されるが 故に用兵家のタブーである戦力の分散・逐次投入を半ば強制されたのである。 生徒会勢は狭い道の中でダンゴ状態となり、味方同士で立ち往生しているところへ高幹の手勢から 容赦の無い十字砲火を浴びせかけられた。 地形が地形だけに、生徒会勢は兵力の優位を生かした車懸かり(連続波状攻撃)戦法や 機動包囲戦法を取る事が出来ない。このため生徒会勢の連日の攻撃はワンパターン化してしまい、 生徒会の手勢は次々と倒れた。 「ロック・ガーデン」はその前評判を裏切らず、未だに生徒会勢の攻勢を跳ね返し続けている。 生徒会側も何とかしようと打開策を考えてはいたのだが、その答えはまだ出てきてはいなかった。 「―――と言う訳で、残念ですが并州攻略の目処は今のところ立っておりません。」 半ば予想された報告ではあったが、どうしても皆の口から溜息が出てしまう。重い空気の中、曹操が 口を開いた。 「流石は壺関と言うところね。打開策は考えているけど・・・。子孝?壺関では薔苦烈痛弾のみんなに 頑張ってもらうから、そのつもりでいてね。この雪だから今日は無理だけど、雪が消えたら仕掛けるよ。」 「―――っし!待ってました!! それで、何をすれば良いんだ?」 曹操が考えていたのは、薔苦烈痛弾の面々による少数精鋭での奇襲作戦だ。先にも述べたが 「ロック・ガーデン」は大人数での戦闘には全く不向きな地形である。ならば、戦闘能力の高い者を 少数差し向けたほうが却ってやりやすいのではないか?と考えたのである。 口には出さないが、すでに南の荊州・揚州校区の動向に目を向け始めている曹操としては、 ここで時間を取られるわけにはいかない。春休みまでに北方を制し、春休みを南方(特に荊州校区) 制圧のための準備期間に充てたいのが曹操の本音なのだ。 「要するに殴り込みか! ・・・上等だ・・・!!」 曹仁の身体から、心なしか激しいものが発せられる。その“気”を受けとめながら、曹操は次々と 指示を出す。 「曼成と文謙はしばらく休みね。薔苦烈痛弾の皆が動く時は陽動で動いてもらうけど、こっちからは 仕掛けなくて良いよ。 それから元譲は、南の抑えをお願いね。劉表や長湖部が動くとは考えにくいけど、元譲がいるなら 向こうから仕掛けて来る事は無いと思うから。あ、もちろんだけど北の方が片付くまでは仕掛けちゃ 駄目だよ。」 「「分かりました。」」 「了解。任せてもらう。」 「・・・あの〜・・・私は何をするの?さっきから呼ばれてないけど・・・。」 口を開いたのは、最後まで呼ばれなかった曹洪だ。参謀の郭嘉もまだ呼ばれていないので (最後に呼ばれるからには、きっと大事な仕事を・・・) と半ば覚悟していたのだ。が、それに反して曹操の言葉は彼女の全く予想しないものであった。 「あっ、ごめ〜ん。子廉の仕事は大事だよ。并州と幽州を取ったら祝勝会を―――」 「ゲぇッ!!!」 曹洪の顔が一気に青くなる。そして、彼女に寄せられる同情の眼差し。 「何よ〜『ゲッ』って。―――祝勝会をやる予定だから、会計係として頑張ってもらうってだけなのに〜。」 「はぁ・・・新年会の残務処理が終わったばかりなのに・・・。」 ゲンナリする曹洪。一方、それを見ていた夏侯惇や李典の脳裏には、書類の山と格闘する曹洪の 壮絶な姿が思い出されていた。 冬休み期間中はクリスマス会や忘年会、そして新年会と大きなイベントが連続する。無尽蔵に等しい 資金力を持つ蒼天学園の生徒会ともなれば、その支出は半端ではない。 増してや、曹操はこういう時はド派手に金を掛けるのだ。 盛大に行われる大パーティ。そして、パーティにつぎ込んだ金額に比例して増える書類と会計係の仕事。 冬休みが終わってから一気に寄せられてきた書類の山は、さながら霊峰・泰山の様だった。 書類の山の麓では、曹洪が印を傍らに置きながら、必死の形相でペンを走らせている。 寝不足気味で赤くなった目、目の下の隈、そして沢山並んだ栄養ドリンクのビン。 年頃の女子高生のあるべき姿でない事は、誰にも分かるであろう。 「けどさ、あの時は時間も掛かったけど、どうにかなったでしょ?今回は一回だけだからそんな 気にしなくて良いよ。」 「はは・・・その『一回』が問題なのよ・・・その『一回』が。」 「じゃあ会長、資金調達の方はオレに任せてもらうけど、構わないよな?」 「うん、そっちは奉公にお任せするから、どんどん稼いじゃってね!」 「ああ、今度は500円から頑張ってみるよ。どこまで稼げるか・・・オレの腕の振るいどころだ・・・!!」 半ば放心状態の曹洪を脇に見ながら、郭嘉と曹操が言葉を交わす。思いっきり不謹慎な会話だが、 この生徒会が公認しているので特に問題は無い。 「500円って、お前本気か?0が一つ足りないんじゃないか?」 「いや、奉公さんの事です。多分なんだかんだで大儲け・・・」 「なんと言うのか・・・よくやるよ・・・」 いつの間にか、ミーティングはお喋りへと変わってしまった。しかし、誰もそんな事を咎めはしない。 もう先に言うべきことは言ってしまったのだから。 楽しげに話すその姿は、一般生徒たちのそれと何の変わりも無い。 身も蓋も無く語り合う少女達の声は、他の生徒たちの声と重なり合い・・・喧騒となって 広い学食を満たしてゆく・・・。 時間は午後の一時を回ったばかり。 まだしばらくは、この喧騒が続きそうな気配であった。 ―第三部 END― ■作者後記■ すみませぬ。思ったよりも長くなりました。今のところ、一部と二部を合わせて26kbだったのですが、三部はそれ自体で27kbに達しました。ちょっと余計な話が多かったかも知れません。 第四部では、いよいよお待ちかね、放課後編となりますので、どうか気長にお付き合い下さい (m‐‐m) あ、ここだけの話、壺関の攻防戦は信州上田城の真田昌幸の戦い方を参考にしております。 (多分気付かれた方も多いのではと・・・汗)
224:アサハル 2003/03/08(土) 20:53 >彩鳳様 う…私も麺類は大好物だ…気をつけよう。 …それはさておき。 何というか、「蒼天学園」の全てがこのSSに凝縮されている ような気がしました。 階級制度があって課外活動と称して闘争に明け暮れ、でも その分そこには普通の学校よりもずっと濃くて熱い青春が ある…というか。 言葉が見つからないですけど。
225:★ぐっこ 2003/03/09(日) 20:15 >教授様 卒業シリーズ! 孫策と周瑜の卒業…。 切ないですよね…。 それでも周瑜を誘って、ともに卒業式を受けようという孫策たち。 この頃はもう劉備も曹操も学園にいないわけですが、もし会場で 鉢合わせたらどんな顔をするのか…。ふたりとも温かく迎えそう。 甘寧や、最近すっかり定番となったヤンキー魯粛もイイ味です(;^_^A >彩鳳様 乙〜。アサハル様が仰るように、このシリーズも定番としていよいよ安定! 学園生活と戦略進行がイイ感じでブレンドされてると思います。 そういえば楽李コンビ、高幹攻めで手こずってましたね… 曹操麾下の連中も、あれで気苦労が絶えない様子。 特に曹洪たん気の毒…・゚・(ノД`)・゚・
226:雪月華 2003/03/09(日) 23:36 I・G・Vの戦い −前編− ここは予州、長社棟付近。鉄門峡(IronGateValley)と呼ばれる山峡の地。幅5mほど左右を岩壁にはさまれた山道を400mほど登ると、500m四方の広場に出て、100人を収容できる講堂がある。講堂の後ろの山道をさらに進むと、そのまま後方の陽城棟に辿り着く。中央の山道以外に、山の左右を自転車道が通っているが、道の途中が黄巾党による落石でふさがれており、2本とも通行止めとなっている。 張角の入院直後、広宗で張梁が飛ばされ、次の日、張宝率いる100人の黄巾党がこの難攻不落の地に拠った。すぐさま執行部は皇甫嵩、朱儁の両名に400人をつけ討伐を命じた。その中には先日の広宗で非公式ながら勝利の直接原因となった4人の姿があった。 壇上では張宝による士気を鼓舞する演説が続いている。聴衆として守備の者以外の50人がおり、講堂は熱狂に包まれていた。赤く染めた髪をポニーテールにまとめた長身の少女が壁に寄りかかって周囲とは違う醒めた目でそれを見ていた。 張宝は変わった、とその少女、厳政は思った。小学生の頃からの付き合いだが、昔はここまで右翼的な考えは無かったはずだ。理想に拘りすぎる節はあったが純粋な学生革命家であったはず。学園を変える、それに共感できたからこそ、黄巾党に加わったといっていい。執行部の気に食わない連中を十数人飛ばした。後戻りはできないことも覚悟していた。しかし、あの冀州校区音楽祭の後、数千人を自由に使える立場になったとたん、張宝は二流の政治屋や愛国屋も恥ずかしがるような台詞を吐き散らすようになった。勢いはあり、美声ではあるが、よくよく聞くと支離滅裂の内容であることが容易にわかる。 変わってしまった友人を見ているのが辛くなり、厳政はそっと講堂を出た。 山道に近いところでは巨大なキャンプファイアーが炊かれている。灯油や薪も沢山用意されているようだ。この講堂付近では大規模な焚き火が執行部により禁止されている。その裏の意味を張宝は知り、利用しているのだ。暖められた空気は気圧差とI・G・Vの絶妙な地形を経て、烈風となって麓へ噴出す。その烈風を張宝は「神風」と呼んでいる。神風で動きの止まった敵を左右の岩棚に拠った30人が投石で撃退する。いい作戦だが、いずれ石も、火も尽きる。それが張宝にはわかっていない。 もともと、張宝の理想に共感して黄巾党に加わったのであるから、張角の天使声の影響を厳政は受けていない。その共感できる張宝が変化したことで、厳政は争うことに疲れ、醒め始めていた。しかし、これからどうしたらいいのかが、わからなかった。 突撃、そして撤退。すでに5度目である。40人単位で突撃させているが、負傷者が増えるばかりで一向に事態が進展しない。山道は目を開けているのも困難な烈風が吹き降ろし、左右の岩棚に拠った30人が投石攻撃をしかける。石よけの盾を構えれば台風時の現場リポーターの如く、風圧で前に進めなくなり、進んだとしても盾の死角から投石を受ける。 「また失敗!?上にはたった100人しかいないのよ!」 「落ち着け公偉。報告によればI・G・Vには強い向風が吹いているという。山頂に煙も見える。張宝の奴はおそらくアレに気づいているな。」 「アレに?生徒会の最高機密じゃないの?。」 「執行部のデータバンクに一ヶ月も前にハッキングされた跡が、一昨日見つかってな、最高機密である戦場データの大半が閲覧されていたらしい。稚拙な足跡消しだったからすぐに犯人は割れた。例の馬元義だった。」 皮肉屋で知られる皇甫嵩は一息つくとさらに皮肉な口調で続ける。 「一ヶ月も前にハッキングされたのに、それに気づいたのが一昨日。間抜けな話だ。我々は当面、前方の敵と、後方な無能な味方の両方と戦わねばならん。」 「随分と悲観的ね。」 「お前はいいな、いつも楽観的で。この戦いが終わったら終わったで、執行部とのいさかいは必ず起こる。奴らとうまくやる自信も無い以上、一時的に生徒会から離れることも覚悟せねばなるまい。悲観的になるのも仕方ないだろう。子幹もつまらん告げ口で罷免されたことだしな。」 「まったく、執行部の奴ら、戦闘中に指揮官が変わることがどれだけ士気に響くかわかってないのね。おまけに後任に指名されたのがあの董卓。まあ、失敗続きですぐ義真が総司令になったのは嬉しかったけど。」 「重荷なだけだ。私の才は子幹に数段劣る。」 魯植子幹。読書好きの物静かな眼鏡っ娘だが、合気道の腕は師範クラスであり、その戦略戦術は生徒会随一を誇った。総司令として敵の半数の兵力で黄巾党を圧倒していたが、執行部との折り合いが悪くなり、黄巾党との抗争中にもかかわらず、罷免されてしまったのである。 「とにかく、これ以上時間をかければ怪我人が増えるばかりだ。あの4人に期待するしかあるまい。」 「大丈夫かな?」 伝令の生徒が走りより、皇甫嵩に耳打ちした。 「3人が落石の手前から岩壁を登り始めたか。で、あと1人はどうした?」 「そ、それが…ちょっと目を離した隙にいなくなってて…」 「逃げたか。まあいい。持ち場にもどれ。」 皇甫嵩は一息つくと腕を組んだ。三人がうまくやれば、風はやむはず。それまで正面から陽動し続けなければならない。失敗したら黄巾をさらに勢いづかせることになる。頼むぞ、と皇甫嵩は心から思った。 厳政は高台の端。落石でふさがれた自転車道が眼下50mに見渡せる展望台までやってきた。少し風にあたろうと思ったからだ。ふと、転落防止用の柵に寄りかかって景色を見ている女生徒がいるのを見つけた。黄色いバンダナをつけてはいるが、この山に拠った100人の中にこの生徒はいなかったはずだ。怪しく思った厳政は声をかけた。 「ちょっと、こんなところで何してるの?」 「え?あたし?」 振り向いた女生徒の顔にはやはり見覚えが無かった。意外に整った顔立ちはしているが、女子高生らしくないぼさぼさの髪。飄々としたどこか眠そうな目。 「あなた、黄巾党の者じゃあないね?生徒会のスパイ?」 「はずれ。税務署の査察員よ。」 「はぁ?」 「あなた方、黄巾党には不正な蓄財があるというタレ込みがあって、調査にきたワケ。」 「嘘でしょ?」 「そう、嘘。ただの一般生徒よ。ま、そんなことより一杯どうよ?」 その女生徒は傍らのナップザックから、ラベルをはがした500mlペットボトルに入ったグレープジュースらしきものを取り出し、傍のベンチに座った。厳政もその放胆さに呆れつつ、腰を下ろす。手渡されたペットボトルの蓋を開けて口をつけた。思わずむせた。 「こ、これ、酒!?」 「自家製の赤ワイン。3年ものよ。」 「あなた未成年じゃ…」 「5年後には成人してる。それにワインなんて南ヨーロッパじゃ子供の飲み物よ。それに未成年飲酒禁止法だっけ?あれって売ったほうの責任について明記してあるだけで、呑んだほうの罰則は具体的じゃないの。それにこれは自家製。誰にも迷惑かかってないのよ。」 「そんなものなの?」 そんな会話を重ねつつ、ペットボトルは二人の手を往復し、気づくと中身は半分以下に減っていた。喉から胃にかけて不思議な、心地よい熱さが感じられた。 「酒は2回目だから、ちょっと酔ったかな?」 「酔人之意不在酒っていうよ。なにか、でかい悩みあるんじゃないの?」 ズバリ、である。 「…人に言えるようなことじゃないわ。」 「じゃ、無理には聞かないことにする。」 そのまま無言で飲み続けた。不意に厳政が呟く。 「ねぇ、人ってほんの数日で変わってしまうものなのかなぁ?」 「人の本質は変わらないよ。山だって北から見るのと南から見るのでは形が違うでしょ。要は見る人の心がけってやつよ。」 「心がけ…か。あたしはあいつの友人面してたけど、結局何一つわかってなかったのかな…」 ふと、岩壁の下に目をやると、岩肌に取り付いて登ってくる3人の人影が見えた。 「あいつら…たしか劉備、関羽、張飛。」 「あちゃ〜、見つかっちゃったか…」 「あなたの仲間?」 「そ。奇襲しようと思って登ってきたんだけど、運が悪かったみたい。」 「正直ね。」 そろそろ潮時かと思った。そして…張宝。あいつをそろそろ楽にしてやりたかった。今のままではさらにあいつは苦しむだけだ。そのことがはっきりわかった。 「酒のお礼。いいこと教えてあげるわ。」 「え?」 「張宝はこの先の講堂で演説をしてるわ。ここから講堂までは20人の歩哨がいるけど、そいつらはみんなあたしの部下。展望台の奇襲部隊を追い落としたってことにして、全員を前線に連れていったげる。」 「いいの?そんなことして。」 「講堂を左回りに行くと裏口があるわ。そこを入って左手の2つ目の扉を開けると直接舞台袖に出られる。まだ講堂には50人いる。正面から行ったら勝ち目は無いわよ。」 「あなたはどうするの?」 「あたしは…あいつへの義理がある。前線で一人でも多く、飛ばす。」 「あいつって?」 「張宝。物心ついたときからの付き合いよ。あいつは今苦しんでるわ。一刻も早く楽にしてあげて。」 そういって腰を上げた。酔いで足元が少しふらついたが何歩か進むと、酔いも醒めた。 自分の名前は多分、張宝を裏切った卑怯者として学園史に残るだろう。それでも良かった。変わっていくあいつを見ているのはもう沢山だった。
227:雪月華 2003/03/09(日) 23:38 I・G・Vの戦い −後編− 「姉者、もう少しです。静かなことから察するに、誰もいないようですな。」 「それにしても、人がこんなに苦労してる時に憲和はどこいったんや!」 「ここよ。」 「へ?」 劉備が顔をあげると、上では簡雍が微笑んでいた。 「い、いつの間に…」 「自転車道の脇に、昔の戦場の名残の地下道の入口があってさ、そこ辿ったら上に出れたの。出口で何人か竹刀もって警備してたけど、黄巾巻いてたら黙って通してくれたよ。」 「…その手があったか。」 「あんた達じゃダメ。幹部を何人か飛ばしてるから顔を知られすぎてるし。よいしょ。」 簡雍は3人を引っ張り上げながら笑った。 不意にステージの左手から3人が飛び出してきた。張宝の傍に侍立していた2人が誰何の声と共に駆け寄る。短い格闘の後、2人は関羽と張飛に叩き伏せられた。劉備が2人の前にずいと歩み出る。50人の聴衆はあっけにとられて身動きができない。 「貴様ら!生徒会か!?」 「あんたらの暴走によって迷惑をこうむった生徒代表っちゅうところやな。」 「この国賊が…」 女性ながら詰襟の学生服に身を包み、目に血光をみなぎらせた張宝が、日本刀を抜いた。水銀灯の光を照り返し、刃が不吉に光った。真剣である。周囲の空気が凍りつく。 関羽が劉備をかばうように一歩進み出た。右手には木刀が握られている。 「関さん!」 「お任せあれ。」 白刃を目の前にして、驚くほど静かな声。 「その器に見合わぬ力を持てば、その力はその器を砕く。それがその刀であり、多数の黄巾党であった。剣を引け。」 「小生には大和魂がある!亡国の非国民など斬り捨ててくれるわ!」 「聞こえておらぬか…」 「鬼畜米英!天誅を受けよ!」 張宝が袈裟懸けに斬りかかって来た。関羽は一歩踏み込むと無造作に木刀で刀を払う。澄んだ音がして張宝の刀が鍔元10cmを残して折れた。関羽はそのまま張宝の左手側に抜ける。続いて張飛が踊りかかり、例の三節棍で残った刀を叩き落として、右手側に抜けた。 「浪速の一撃!受けてみいや!」 劉備の愛用のハリセンが野球のアッパースイングの要領で張宝の顎に叩き込まれた。 20人を連れて前線についた時、後方で騒ぎが起こった。風も弱まってきている。劉備達にキャンプファイヤーが消され、張宝が飛ばされたか、と厳政は思った。うろたえる50人に対し、厳政は怒鳴った。 「地公主将が飛ばされた!神風ももうすぐやむ。逃げたい者は講堂の背後から陽城棟へ逃げるといい!」 「厳政先輩はどうなさるのです!?」 「あたしはここに残る。残って一人でも多く生徒会の連中を飛ばす。」 もとからいた30人が逃げ去っていった。残ったのは連れてきた20人だ。 「あなたたちも、ばかね。」 「ばかで結構です。がんばりましょう!」 風が弱まったことに気づいた下の生徒たちが、50人ほどで登ってくるのが見えた。 ぎりぎりまで引きつけ、ありったけの石を一斉に投げつけた。不意を疲れた50人は大混乱に陥る。石がなくなり、鍔無しの竹刀をとった厳政は白兵戦の指示を出した。 戦闘が収まり、二十数人を倒された生徒会は撤退していった。厳政の部下も7人が倒れ、苦しげにうめいている。それを見て厳政は心が痛んだ。 「もういい。あなた達も逃げなさい。」 「できません!」 「あたしは張宝とは物心ついたときから友達やってる。せめて、最後まで付き合ってやる義務があるのよ。あなた達はあたしについて2ヶ月しかたっていない。最後まであたしに付き合う必要はないわ。」 「たった2ヶ月でも部下は部下で…」 「利いたふうな口きいてんじゃねえよっ!!」 思い切り頬を張った。その女生徒は2m吹き飛んで気絶した。 「いいか、これ以上あたしに「いい人」をやらせてくれるな。まだわからないなら、あたしがあなた達を飛ばす!わかった!?」 「…」 「わかったなら、そいつら連れてさっさと逃げなさい。」 そういって背を向けた。しばらくして、背後の人の気配が消えた。 「やられた!?あの厳政って女…やるわね。どうしようか…」 「人海戦術。それしかあるまい。20、30と小出しにしても地形を利用されて犠牲者が増えるだけだ。幸い、風もやんでいる。障害はほとんどないはずだからな。」 人海戦術。中国人民解放軍お得意の戦法であり、少数の強敵に対して圧倒的な大軍をぶつけるのである。とにかく飛びかかり、のしかかり、引きずり倒す。 「全員突撃!一気に陽城棟まで押し切る!」 皇甫嵩のハスキーボイスが鉄門峡にこだました。 山道の麓から黒い川が逆流してくるように厳政は見えた。400人の突撃である。 「来ると思ったけど、いざ実際に見ると凄いわ…」 厳政は呟くと竹刀を構えた。下から道幅一杯に広がって400人が川のように走り登ってくる。不意にその川が二つに分かれた。あっけにとられる厳政の左右を数十人が駆け上った時、後ろから右肩に誰かが抱き付いてきた。もう一人に竹刀がもぎ取られる。反射的に振り上げた左手に二人が抱きついてきた。腹部に鈍い衝撃が走り、地面に引きずり倒された。意識が遠のく… 「張宝…義理は果たしたわ…お前が一日も早くまともに戻ることを…期待するわ。」 厳政の意識はそこで途切れた。 こうして、張角の入院からわずか2日で、張宝、張梁の姉妹は共に飛ばされた。まとまりを失った黄巾党は生徒会によって駆逐されてゆき、学園には束の間の平和が訪れることになる。 次の日、冀州校区総合病院の門の前に一人の女生徒が立った。皇甫嵩である。 蒼天学園。実地で覇を学ぶこの学園では、その校風ゆえ入院患者が発生しやすい環境にあるため、保健室では間に合わず、各校区にひとつずつ、入院設備の整った病院が誘致されている。学園医師会の医師が常時詰めているが、医師会会長の「神医」華陀は非常勤であり、興味の引く患者のいる校区を行ったり来たりしている。 張角は反乱の首謀者ではない。だが、学園を混乱させた元凶としての処分は与えねばならない。本当は温厚な魯植に行ってもらいたかったが、生徒会を退いた後、夏風邪を引いて寝込んでいた。頼める状況ではなかった。 「気の重い仕事だ…手負いの天使を狩らねばならんとはな…」 そう呟くと、皇甫嵩は病院の門をくぐった… −−−−−−−−−−−−−−−−− ふと浮かんだので、鉄門峡の戦い(横光風に劉備軍奇襲、張宝戦死)を書いてみました。 厳政がかなりかっこよくなってますが、原典どおりに、形成不利になって親玉の首を差し出した、ではなんとなく学三の雰囲気にそぐわないので、少年ジ○ンプ風に友情、努力、熱血をアレンジしてみました。結果的には裏切ったことになってるし。 簡雍、何気に大活躍(^^;)。あんなこと書きましたが、未成年の飲
228:雪月華 2003/03/10(月) 15:32 [sage] お詫び 魯植タン、眼鏡っ子じゃありませんでした(^^;)スミマセヌ あと、以前のSSで華陀先生を爺にしていましたが、 japan様、項翔様、御二方の正史を読み直した結果、女医であることが判明(汗)。 次のSSでは訂正してあります。 張角関連はあと2部ばかり続く予定(9割がた推敲済み)です。 第4部書いててふと思う…英文の作詞って難しい… >教授様 時期的にぴったりの卒業シリーズ。微笑ましかったり、切なかったり… そういえば彼女達の進路って一体…袁術は決まってたみたいですけど… >彩鳳様 学園生活、戦略戦術、相反するはずの二つをうまくまとめる…お見事です。 あと、確かに蕎麦って意外とカロリー高いですよね。
229:彩鳳 2003/03/11(火) 01:00 皆様、お久しぶりで御座います。しばらく蕎麦屋のバイトで留守に していたので返事が遅れてしまいました。 また木曜日or金曜日には戦線離脱しますが、それまではなんとか動けます。 私もSSのお詫びから先に(^^;;; 「二人は同時に周囲を見渡し、同時に口を開いていた。」 の部分で、二人(曹操&夏侯惇)は何を頼んだんだ? って思った方は当然いらっしゃると思います。 すみませぬ。その辺りを書くのを忘れていました(ドキューン) SSの続きに紛れ込ませることが出来れば良いのですが・・・完全に泥縄ですね(^^; >アサハル様、 アサハル様のおっしゃる様に、蒼天学園の生徒はなんだかんだで熱いと思います。 (その「熱さ」の形はそれぞれですけど・・・。) 高校生としては洒落にならないくらいにハードな毎日ですけど、それはそれで 一つの幸せなのでは・・・とも思います。 >ぐっこ様、 曹洪はまだ会計係として出て来た事はありませんよね? 私は高校時代二つの部の会計を掛け持ちしていたので、実体験を元に会計係の 曹洪を書いてみた次第です。 学三の曹操は、お祭りになると景気良く金をつぎ込むこと間違い無いので(^^; 気の毒ですが曹洪には頑張って頂く事に・・・(それが無ければ会計ってヒマなんですけどね(^^; まだ構想段階ですが、部活だったら予算折衝があるので、そっちのネタでSS書ければ・・・ と思っています。(いかんせん、帰宅部が参加出来ないのがネックですが・・・) >雪月華様 「I・G・Vの戦い」 拝読致しました。 厳政の葛藤が上手く書かれていると思います。しかし、こう言う立場の人って 歴史的に見ると結構多いような気が・・・
230:アサハル 2003/03/13(木) 18:49 >雪月華様 厳政…!!熱い!熱いぞ!! うああー…こんな素晴らしいSSの後に続くのが私の駄漫画というのが 申し訳ないです…(;´Д`) しかし最近簡雍ツッ走ってますなー!ワインも醸造できるのか…凄い人だ。 てゆーか盧植はメガネっこでもいいかもと一瞬でも思った私を許して下さい。
231:★ぐっこ 2003/03/14(金) 00:26 >雪月花様 むう! 黄巾の、厳政の熱い戦いを拝見しました! 黄巾の連中、とくに中堅幹部は張角への忠誠と現実の狭間で、 かなり無理をしていたようですね… そして敵がたたる皇甫嵩らの思いもむなしく、学園史は悪化の 運命を辿るのですな… 続編に期待! 学三演義にも熱が入るというモノ! >彩鳳様 実体験こみですか!曹洪たん…(^_^;) ケチというところから現在の設定がある曹洪ですが、実際でも 色んなトコロから資金やら人員やらを掻き集めた苦労人なんですよね… >アサハル様 むう、私も眼鏡っ娘盧植に萌えているところです。 本を読むときなんかはかけてるんだろうな(;´Д`)ハァハァ…
232:教授 2003/03/16(日) 01:55 ■■卒業 〜甘寧と魯粛〜■■ 「よーし…二代目は行ったな…」 甘寧は孫策達が走り去った事を確認すると、背中併せになっている魯粛に呼びかけ る。 「魯粛! そっちはどうだ!」 「やっばいよ! 何か…わらわら出てきた!」 声を荒げて状況を簡単に説明する魯粛。 その目には、病院から巣を突つかれた蜂の群れの如く医師や看護婦、警備員から患者まで映ってい た。 「な、なんだ〜!?」 後ろを振り返った甘寧も、その異様な光景に思わず驚いてしまう。 「こらぁ! 患者泥棒!」 「絶対安静の患者さんを連れ出すなー!」 「俺達の公謹ちゃんを返せー!」 様々な声や雄叫びを上げながら追っ手達が迫ってくる。 ある種の殺気が篭ってるからこれがまた恐い。 「…興覇。ずらかるよ!」 「あ、ああ…。あれにゃ勝てる気がしねーし…」 魯粛は世にも不思議な光景に呆然としている甘寧の肩を叩いて走り出す。 後ろをちらちらと見ながらも甘寧が後に続く。 幸い、近くにバイクを止めていた事もあったので追っ手に追い付かれる事はなかった。 甘寧は素早くバイクに跨ると、思いきりアクセルをふかす。 消音機が抜かれた違法改造バイクから放たれた轟音に追ってくる病院関係者達が足 を止めた。 「へへん! 俺様のデビルアローの前じゃカミサマだって足を止めるぜ!」 得意気な甘寧。 ふと、魯粛を見ると… 「うう…興覇のアホ…やるならやるって先に言え…」 耳を押さえて蹲っていた。 「わ、わりぃわりぃ…。とにかく後ろに乗れや…な?」 「後で何か奢れよ〜…」 「分かったから…早く後ろ乗れって」 機嫌を損ねた魯粛を宥めながら、バイクに乗せる。 だが、ここで足の速い警備員の手が魯粛の肩を掴み、引きずり降ろそうとする。 「わあっ!」 「捕まえたぞ! おとな…しぃっ!」 しかし、その警備員は甘寧の蹴りをまともに顔に受けて倒れた。 「ふざけんな! 捕まってたまるかよ!」 「助かったけど…口上してる暇があったら早く出して! ほらっ!」 この間に、追っ手と二人の距離はもう目と鼻の先になっていた。 「仕方ねえ…。子敬! しっかり掴まってろよ!」 「え!? う、うん…」 甘寧の叫びに魯粛はぎゅっと彼女の体にしがみつく…ただしそこは思ったより柔らかかった。 「ひゃっ! そ…そこは違うだろ! もっと下だって!」 顔を烈火の如く染めて猛抗議する甘寧。 「あ…ご、ごめん」 改めて魯粛は甘寧にしがみつく。 「よーし! 行くぜ!」 気を取り直した甘寧の右手が目一杯絞り込まれる。 バイクは雷鳴を轟かせながら急発進。 だが、甘寧はここでブレーキを入れた。 左足を地面に付け、大きくバイクを傾ける。 そして再びアクセルを全開。 途端にバイクは甘寧の左足を軸に半回転し…そして軸を取り除く。 バイクは瞬時に追っ手達の方を向いた。 「悪いけどオメーらに付き合ってられねんだわ…往生しな!」 と、同時に一気に彼等に向かって発進。 「うわわ!」 魯粛は振り落とされないように懸命に甘寧にしがみつく。 この突然の甘寧の攻勢に驚いた病院関係者達はその場で腰を抜かしてしまった。 「へへ…なーんてな。アバヨ!」 甘寧はブレーキを握り、体重を移動させ、ハンドルを切る。 その卓越した一連の動きは、最早人間業とは言えない程のものだった。 瞬きをする程度の時間、それだけの間にバイクは既に反対方向を向いていた。 医師達との間隔、実に1メートルあるかないかだ。 そのまま返す勢いに乗り、甘寧達はそのまま走り去っていく。 呆然とする医師達の耳に鈴の音を残して――。 「なー…子敬」 「んー?」 「卒業したら大学だっけー…」 「そーだけど」 「あーあ…俺もちったぁ勉強すりゃ良かったかな」 「何よ、寂しいとでも言うつもり?」 「バカ言え。俺は勉強続けるよりも気ままにフリーターやってる方が性に合ってる さ」 「興覇らしいな、それ」 「それにな…卒業したからって会えないってわけじゃねーんだから」 「…分かってるよ。…それよりも今は…」 「ああ…そーだな…」 バイクを走らせる甘寧、そして後ろに乗っている魯粛。 その後ろには…。 『あー、そこのノーヘルの二人乗り。速やかに止まりなさい』 白バイが尾いていた。 「アホか、誰が止まるんだよ」 「興覇といると退屈しないよねー」 「…お前もアホだな」 「お互いにね」 二人は微笑むと、物凄い勢いで朝霧の中に溶けて行った――。
上
前
次
1-
新
書
写
板
AA
設
索
★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★ http://gukko.net/i0ch/test/read.cgi/gaksan2/1013010064/l50