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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
25:★ぐっこ 2002/02/14(木) 23:41 ――その頃。 当の関羽は、常山神社に居た。 正確に言えば、逃げ込んでいた。もう、学園に彼女の居場所は無いのである。 「正直、今日ばかりは困った……」 大鳥居の基石に呆然と腰掛け、関羽は呟いていた。 杜は、相変わらずシンとしている。時刻は午前10時を回った頃で、穏やかな冬の朝だ。 ――傍らでは、巫女服に身を包んだ趙雲がせっせと箒を動かしている。 「ふつう、女→女という発想はないよな…」 と、関羽。彼女は生徒会に身を置いていた頃、あまりに目立ちすぎたのか、全校生徒から露骨な 「本命狙い」のターゲットにされているのだ。 下駄箱を開けた瞬間、明らかに下駄箱の容積をオーバーしていると思われる量のチョコが、彼女の 足もと(※彼女の下駄箱は一番下段です)からあふれ出た。彼女の上履きはもはや見る影もない。 そして、廊下の辻辻、階段の踊り場、あらゆる教室の入り口に、意を決した表情でチョコを抱いて 待ちかまえている少女達…。これが男なら本懐というべきだが、関羽のようなノリの少女にとって、 もはや地獄であった。 …で、とにかく目立たないように学園を逃げ回り、なんとか常山神社へ逃げ込んだ、というところ である。 「私はダメだ…ああいうのは」 心底疲れているらしい関羽、ぐったりと鳥居にもたれかかった。 「はい、どうぞ」 趙雲、いつのまにか厨から、盆に小綺麗な茶碗と茶菓子を乗せて持ってきている。茶碗をとると、 上品な香が立った。 「ああ、ありがとう」 趙雲も関羽の隣に腰掛けると、自分の茶碗を取り、ニッコリ微笑んだ。 「先輩はああいうのお嫌いでしょうけど、私は結構好きですよ」 「意外だな…」 「だって、今年はチョコをあげたい人がいるから…」 「何!?」 関羽は心底びっくりした表情で、この常山流薙刀術の達人を見遣った。 趙雲、べつだん悪びれる様子もなく、悪戯っぽく笑った。 「阿斗ちゃんですよ」 「ああ、なんだ…」 露骨にホッとした顔で、関羽はお茶をすすった。趙雲の阿斗ちゃん好きは有名であった。 「阿斗ちゃん、甘いもの好きだから喜ぶだろうなー。もう昨日から作ってるんです。あ、もちろん 先輩の分も」 「わ、私は要らないよ…」 「そんなに身構えないでください。こっちが照れるじゃないですか」 関羽の様子に苦笑する趙雲。ちょっと他では見られない状況であった。 「友チョコっていって、普通に女の子がチョコを交換してるんですよ。本命義理抜きで。それに…」 「それに?」 「もう、先輩、私のつくったチョコレートたべてます」 「あ…」 出された茶菓子。和菓子風に甘餅に包まれていて気付かなかったが、確かにチョコの味が口に 残っている。 「これで先輩も仲間ですよ。このお祭りの」 「………」 関羽が何か言おうと、口を開けたその瞬間―― 「いた――っ >>関羽タン――っ! ハァハァ」 黒い人だかりが、もの凄い勢いで石階段を駆け上がって来るのが見えた。
26:★ぐっこ 2002/02/14(木) 23:42 そのナゾの集団が趙雲の前を通過する頃には、関羽の姿はもうどこにも無かった。 「>>関羽タン――ッ! ハァハァ…!」 口々に奇声を発しながら、彼女らは関羽の姿を求めて離合集散を繰り返し、それでもまとまった 集団を保ったまま常山神社の杜を去っていった。 「……何、あれ?」 趙雲が知らないのも無理もないが、彼女らは「羽厨(ウチュウ)」と呼ばれる連中で、巨大匿名掲示板 「Gちゃんねる」に突如発生した、ナゾの暴走集団であった。ひたすら関羽を追いかけるらしい。 さしあたって趙雲の身に危害は加えられなかったが、去り際にひとりが集団を抜け出して、 「巫女タン…ハァハァ」と呟くのをハッキリ耳にしてしまった彼女は、限りない不安に駆られたという。 「――チョコの要はココロやっ!そうやな、張飛!」 「いや、味だろ」 重々しく呟く張飛の顔に、劉備は無言でチョコ生地をべしゃっと叩き込んだ。 「ええい、燕雀にはウチの志がわからん! とにかく、ハート形のが一個できたっ!…」 「このペースで行くと、予定個数つくるのにあと2週間かかるぜ」 口のところだけ穴をあけて、チョコ生地を貼り付けたままの張飛が毒づいている。 「ああもう!日が暮れてまうやんか!関さんが帰ってきてまうやんか!」 「俺に言われてもなー」 「どないしよ、もう曹操が手ぇ出してるころやないか!」 …劉備の想像は当たっていた。 生徒会へ荊州校区の書類を提出にいった関羽は、曹操においしいお茶をごちそうになっていた。 「ね、おいしい?」 「はい…」 曹操の無邪気な問いに、関羽は素直にうなずいた。実際、おいしいのだ。 控えめな青を基調にしたチャイナボーンのセットに、高価な紅茶、曹操お手製のチョコ・ババロアが 乗せられている。 それに、学園の制服の上からメイドが着るような白いエプロン(※萌えポイント)を付けて、 くるくるとお茶の用意をして回る曹操は、関羽が思わずぽーとなるほどに可憐であった。 夕刻を過ぎている。冀州校区にある生徒会施設の中の、品のいいラウンジに、客は関羽と曹操の姿が あるのみだった。 「――ところでさ、関羽」 ふいに、曹操が関羽の向かいに腰掛けた。 「想像はついてるだろうけど、生徒会に戻るつもりはない?」 「……ありません。帰宅部連合は、貧乏所帯ですけど、楽しいところですから」 ここに招かれたときから、こういう話になることは予想がついていた。が、曹操は食い下がる。 「あれだけの才能の集団が、学園から一銭も部費が出ないなんて、おかしいと思わない?」 「会長が出してくださらないだけの話です」 関羽が、なるべく失礼にならない程度に冷淡な答えを返すと、曹操はニッコリ微笑んだ。 「本当にそう思う?」 黄昏の残照が逆光になって、曹操の顔はよく見えない。でも、その奥の双眸が、怪しいくらいに 鋭く輝いているのが、関羽には見てとれた。 「豊富な資金が有れば、帰宅部連合のみんなも、もっともっと、好きなこと、やりたいことが出来る。 もっともっと、才能が伸ばせる。そうだよね?」 「…………」 「そうしてあげた方が、帰宅部連合みんなのためだよね…?」 「……」 「簡単だよ。私がひとこと、出す、っていうだけで。……この意味わかるよね?」 要するに関羽が生徒会に戻れば、帰宅部連合に部費を出す、という脅迫だった。 大人しいが剛毅な関羽である。普通ならこの種の脅迫を受けるや、相手構わずはり倒している ところだろう。 が、その相手が悪い。静かに関羽の顔を覗き込んでいる曹操には、関羽の上体をテーブルに貼り付 けるだけの迫力がある。 それに、曹操が言うことも一理ある。 帰宅部連合と通称されるような集団だが、本来は一国一城も堅いほどの俊傑ぞろい。まともに部活 を続けていたら金メダルも軽いのではないか、というくらいの連中が、首領の劉備が反生徒会運動を 続けている、というだけの理由で流浪の集団になっている。 劉備と、自分たちのわがままで…このまま彼女たちの未来の可能性を摘み取っていいのか…? …………。
27:★ぐっこ 2002/02/14(木) 23:55 「ハイ、そこまでや」 関羽が自分の中で答えを出すより一瞬早く、一つの声がラウンジの静寂を破った。 「……ち、もう来たの!」 舌打ちしたのは曹操である。この瞬間、関羽の身体が不意に軽くなった。まるで不可視の緊縛が 外されたようであった。 「あのなあ、曹操はん。帰宅部連合は同好会やで。部費は必要ないし、生徒会の承認を得なかん事は せえへん。みんながお気楽にやってる集まりや〜」 ラウンジの中に入ってくる劉備は、飄飄としているが、曹操へ向けた視線を外しもしない。 曹操も距離をとるようにジリジリとテーブル沿いに移動する。 「…外にいた娘たちは?」 「あんなん護衛にもならへんで、曹操はん」 曹操は内心で舌打ちした。変な嫉視反感を避けるために側近連中を遠くへやっていたことが、今回は 裏目に出た。 もっとも、仮に劉備と曹操が激突すれば、どう考えても曹操が勝つ。だが。ここには関羽がいる。 「…私はマスターキー(※玉璽)を持ってるんだよ。退学処分も出すことが出来るんだよっ…」 「やれるもんやったら、やってみるか……?」 曹操の脅しを、劉備はあっさり無視する。 と、睨み合いを続ける二人のまんなかに、関羽がすっと立ちふさがった。 「はい、そこまでです」 来たときの劉備と同じセリフで、関羽は二人を分けた。顔に苦笑がうかんでいる。 「もうやめましょう。部長、それに会長。…」 一瞬だけ睨み合うと、劉備も曹操も、体中から緊張を抜いた。 「そうだねー」 「せやな」 ふう、と溜息をついてふたりは腰を下ろした。 「あ、せやせや、ふたりにチョコ持ってきてん。手作りやで」 チョコ、と聞いて一瞬身構える関羽だが、曹操は嬉々として駆け寄った。 「え、どれどれ!?」 「はい、コレ」 包み紙から、よく言って鹿せんべいクラスの外見をもつチョコを取り出し、曹操に手渡す劉備。 曹操、薄っぺらく伸びたハート型(?)チョコを見て、 「あははははははははははははははははははははははははははは」 と大笑いを始めた。 「なんや! チョコの要はココロやで!」 さすがに嚇っとなって怒鳴る劉備に、曹操はちゃうちゃう、と手を振り、 「劉備ねえ。あんた、湯煎って知らないの?」 「へ……何?それ」 「湯煎っていうとねえ…ああ、今度説明するわよ、もう」 まだおかしいのか腹を抱えている曹操。その横を通って、関羽は劉備の方へ手を伸ばした。 「……いただきます」 「おっ、貰ってくれるかー! 劉備は、ちょっと照れたように関羽へチョコを手渡した。よくみると、 「本命・関羽へ 姐より」 と書かれていた。関羽、苦笑すると、いただきますと言って、パリパリに焦げた薄っぺらいチョコ を口にした。脂が抜けきったカカオの苦い香りと、焦げた香りが口の中に広がる。 でも―― 「どや、おいしいか?」 「はい、おいしいです」 関羽は、心の底から、そう答える事ができたのだった。
28:★ぐっこ 2002/02/14(木) 23:59 [sage] ◆おまけ 趙雲「おいしい? 阿斗ちゃん」 劉禅「おいしーよー!」 張飛「……もう喰えねえよ…」 孫権「ボクたち何か出番ないよね…」 陸遜「じゃあチョコあげます」 孫権「ありがとー」
29:玉川雄一 2002/02/15(金) 00:07 [sage] ◆追撃。 魏延「先輩、劉備せんぱーい! クソッ、どこ行ったんだよ! …そうか、またあのメガネ○○の仕業だな…」
30:玉川雄一 2002/02/15(金) 04:02 ◆あの姉にして…◆ 生徒会幹部の懇談会。 …ぶっちゃけた話、お茶菓子摘みながらダベってるだけではあるが。 そんな席の一コマ。 司馬師がふと、同席した鍾毓に軽口を叩いた。 「ねえ、稚叔。皐“ヨウ”はどんな人物だったかしら?」 その言葉に、陳泰、武ガイ(武周の妹)がクスクスと忍び笑いを漏らす。 皐ヨウとは学園伝説の名会長・舜の補佐役で、校則や罰則を司った人物である。 その実司馬昭は、鍾毓の姉にして生徒会の功労者、 鍾ヨウと同名なのをダシにからかっているのである。 「……………」 鍾毓は一瞬悔しそうな表情を浮かべたが、 何事もなかったかのように司馬師を見遣る。 少々予想外の反応に躊躇う彼女に、鍾毓は涼しい顔で言い切った。 「そうですね… いにしえの“懿(よ)き”人物ですわ」 切り替えされてたじろぐ司馬師を後目に、陳泰、武ガイへと向き直る。 既に気まずそうな表情を浮かべている二人ににっこりと微笑んで… 「君子は“周”して比せず、“羣”して党せず、ってとこかしらね?」 −君子は真心を尽くし(周)ておもねりへつらう(比)ことなく、 集まって(羣)も私心を以て助け合う(党)ことはしない− この当意即妙の受け答えに、司馬昭らは声もなかった。 鍾毓の機転が利くことはこのようだった。
31:玉川雄一 2002/02/15(金) 04:06 ◆この妹あり…◆ 今日も今日とて学園の朝は始まる。 司馬昭は陳騫、陳泰らと寮の廊下を歩いていた。 そこへちょうど通りかかったのが鍾会の部屋である。 司馬昭は廊下からドア越しに呼びかけた。 「ねえ、士季、いるんでしょ? 一緒に行きましょうよ」 「は、はーい、今行きます!」 実は、鍾会はまだ着替え中だった。 年齢に比して少々(かなり)発育過剰気味の体 −潁川鍾家の遺伝である−をもてあましつつ、 何とか身支度を整えると廊下に飛び出す。 「ごめんなさい、遅れました…って、ああっ!」 そこには誰もいやしない。 実は司馬昭、鍾会を呼ぶだけ呼んでおいて、 置いてきぼりにして先に行ってしまったのだ。 鍾会はすぐさま駆け出すと、ひとっ走りして一行にようやく追いついた。 両手を膝についてハアハアと息を整えている彼女に、 司馬昭は意地悪く尋ねる。 「あら、やっと追いついたのね。 行こうって言っておいて、なんてグズなのかしら? 私達待ってたのに、“遙遙”として全然来なかったじゃないの」 言うまでもなく、“遙遙”は鍾会の姉、鍾ヨウの名に引っかけた言葉である。 だが、鍾会はニヤニヤしている陳騫、陳泰らをキッと見据えると言い放った。 「矯(たか)くすぐれて懿(うるわ)しく実(まこと=寔)ある人は、 どうして羣(むれ)をなして行く必要があるのかしら?」 一同、これには返す言葉もなかったという。 そうこうして校舎へと向かう道すがら、司馬昭がまた尋ねた。 「皐“ヨウ”さんってどういう人だったか、あなた知ってる?」 鍾会、済ました顔で答えて曰く、 「上は堯、舜には及ばないし、下は周公、孔子には及ばないけど… まあ一代の“懿(よ)き”人物、ってとこでしょうかね?」 この少女、頭が切れるのは結構な事ながら、少々根に持つタイプのようで。 のちのち足下をすくわれなければ良いのだが…
32:玉川雄一 2002/02/15(金) 04:08 [sage] むー… 世説新語のネタをそのままパクってきたんですが、 面白くないですな。原文のテンポが生きてないし。 漢字がちゃんと当てられないと意味も伝わりにくいし。 失敗の巻♪
33:岡本 2002/02/15(金) 09:40 [jokamoto@spring8.or.jp] ちらっと、顔を出します。岡本です。 久しぶりに伺いますと、更新、更新また更新と、 1つ1つ拝見できないのが残念なくらい。 玉川様、文章、プチ絵と大活躍!!! 上のネタは、結構好きですが。
34:玉川雄一 2002/02/15(金) 22:54 ◆まじかる☆イリュージョン◆ 番外編・仲達の愛犬万歳! さて、司馬懿には春華という愛犬(土佐犬)がいた。 その出自は、山濤の実家からもらわれてきたものだという。 どういうわけか司馬懿に「だけ」はよく懐いており、 かつて司馬懿が曹操のスカウトに対して仮病を決め込んでいたとき、 それをチクろうとした生徒に噛みついたという伝説すらある。 だが、その反面他人にはとことん愛想が悪かった。 司馬懿の超然とした態度とも相まって、飼い主に似たのだという声が囁かれていた。 そしてまたこの春華は贅沢なことに軟らかく煮た鶏の肉しか食べないというのである。 噂では、生徒会特別顧問たるあの司馬懿が門限間際に寮を飛び出し、 近所の深夜営業のスーパーに駆け込むこともしばしばだという。 「フン、同じ“イヌ”同士、気が合うってことでしょ?」 曹爽は小馬鹿にした様子でそう語ったという。 生徒会という「主」に(少なくとも表面的は)忠実ではあるが面白みもなく、 煙たい存在である司馬懿を揶揄したのである。 だが、それを伝え聞いた司馬懿は相変わらず動じた風もなく、 「どちらが狗かは、いずれ分かること…」 と呟いただけであった。 そして、司馬懿はまさしく狗の皮を被った狼だった。 生徒会を掌握して奢る曹爽一派にクーデターを起こすと役職の返上を勧告したのである。 この時、桓範は曹爽を諫めた。曰く、 ここで弱みを見せれば、必ず司馬懿は容赦ない処断を下すはずだ。 職務権限を発動して、司馬懿を打倒するべきである、と。 しかし、曹爽はその言葉には従わなかった。 おとなしく引退して生徒会OBとして残りの学園生活を送れるのならそれで構わない、と言うのである。 桓範は天を仰ぐと悔し涙に暮れた。 「ああ、曹子丹は立派な人だったけど… その妹たちは、豚や犬にも及ばないのね! こんな奴に連座することになろうとは、夢にも思わなかったわ…」 かくして、曹爽一派はことごとく階級章を剥奪された。 司馬懿は曹爽に替わって生徒会長の地位を提示されたが、固く辞去したという。 これを本心と見るか、パフォーマンスと見るかは意見の分かれるところだろう。 だが、少なくとも彼女はやがて訪れる妹達の時代へと続く、強固なレールを敷いたのである。 その心の内を余人が推し量るのは至難の業ではあったが、 司馬懿は今日も今日とて春華のために鶏肉を煮るのだった。
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