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26:★ぐっこ 2002/02/14(木) 23:42 そのナゾの集団が趙雲の前を通過する頃には、関羽の姿はもうどこにも無かった。 「>>関羽タン――ッ! ハァハァ…!」 口々に奇声を発しながら、彼女らは関羽の姿を求めて離合集散を繰り返し、それでもまとまった 集団を保ったまま常山神社の杜を去っていった。 「……何、あれ?」 趙雲が知らないのも無理もないが、彼女らは「羽厨(ウチュウ)」と呼ばれる連中で、巨大匿名掲示板 「Gちゃんねる」に突如発生した、ナゾの暴走集団であった。ひたすら関羽を追いかけるらしい。 さしあたって趙雲の身に危害は加えられなかったが、去り際にひとりが集団を抜け出して、 「巫女タン…ハァハァ」と呟くのをハッキリ耳にしてしまった彼女は、限りない不安に駆られたという。 「――チョコの要はココロやっ!そうやな、張飛!」 「いや、味だろ」 重々しく呟く張飛の顔に、劉備は無言でチョコ生地をべしゃっと叩き込んだ。 「ええい、燕雀にはウチの志がわからん! とにかく、ハート形のが一個できたっ!…」 「このペースで行くと、予定個数つくるのにあと2週間かかるぜ」 口のところだけ穴をあけて、チョコ生地を貼り付けたままの張飛が毒づいている。 「ああもう!日が暮れてまうやんか!関さんが帰ってきてまうやんか!」 「俺に言われてもなー」 「どないしよ、もう曹操が手ぇ出してるころやないか!」 …劉備の想像は当たっていた。 生徒会へ荊州校区の書類を提出にいった関羽は、曹操においしいお茶をごちそうになっていた。 「ね、おいしい?」 「はい…」 曹操の無邪気な問いに、関羽は素直にうなずいた。実際、おいしいのだ。 控えめな青を基調にしたチャイナボーンのセットに、高価な紅茶、曹操お手製のチョコ・ババロアが 乗せられている。 それに、学園の制服の上からメイドが着るような白いエプロン(※萌えポイント)を付けて、 くるくるとお茶の用意をして回る曹操は、関羽が思わずぽーとなるほどに可憐であった。 夕刻を過ぎている。冀州校区にある生徒会施設の中の、品のいいラウンジに、客は関羽と曹操の姿が あるのみだった。 「――ところでさ、関羽」 ふいに、曹操が関羽の向かいに腰掛けた。 「想像はついてるだろうけど、生徒会に戻るつもりはない?」 「……ありません。帰宅部連合は、貧乏所帯ですけど、楽しいところですから」 ここに招かれたときから、こういう話になることは予想がついていた。が、曹操は食い下がる。 「あれだけの才能の集団が、学園から一銭も部費が出ないなんて、おかしいと思わない?」 「会長が出してくださらないだけの話です」 関羽が、なるべく失礼にならない程度に冷淡な答えを返すと、曹操はニッコリ微笑んだ。 「本当にそう思う?」 黄昏の残照が逆光になって、曹操の顔はよく見えない。でも、その奥の双眸が、怪しいくらいに 鋭く輝いているのが、関羽には見てとれた。 「豊富な資金が有れば、帰宅部連合のみんなも、もっともっと、好きなこと、やりたいことが出来る。 もっともっと、才能が伸ばせる。そうだよね?」 「…………」 「そうしてあげた方が、帰宅部連合みんなのためだよね…?」 「……」 「簡単だよ。私がひとこと、出す、っていうだけで。……この意味わかるよね?」 要するに関羽が生徒会に戻れば、帰宅部連合に部費を出す、という脅迫だった。 大人しいが剛毅な関羽である。普通ならこの種の脅迫を受けるや、相手構わずはり倒している ところだろう。 が、その相手が悪い。静かに関羽の顔を覗き込んでいる曹操には、関羽の上体をテーブルに貼り付 けるだけの迫力がある。 それに、曹操が言うことも一理ある。 帰宅部連合と通称されるような集団だが、本来は一国一城も堅いほどの俊傑ぞろい。まともに部活 を続けていたら金メダルも軽いのではないか、というくらいの連中が、首領の劉備が反生徒会運動を 続けている、というだけの理由で流浪の集団になっている。 劉備と、自分たちのわがままで…このまま彼女たちの未来の可能性を摘み取っていいのか…? …………。
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