★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
329:★教授2003/08/18(月) 21:58
■■ 帰宅部連合夏の陣! 〜第二章〜 ■■


「うりゃっ」
「わっ! やったな〜」
 燦燦と降り注ぐ暑く眩い陽の下。乙女は水と、そして仲間達と戯れている。
 薄く涼しげな衣に身を包み、一時の休息を愉しむ。
 日が沈み、そしてまた日が昇るその時まで――



「だーっ! 義姉貴! 反則だぞ!」
「こういうのはアタマ使った方の勝ちや!」
 プールサイドを楽しそうに逃げまわる張飛。そしてウォーターガンを両手にガンタタスタイルの劉備。
 玩具での攻撃…と言えば聞こえはいいのだが。ウォーターガンから射出される水の勢いは明らかに玩具の粋を脱していた。
「うりゃっ!」
 劉備の放った一撃がコンクリートの壁に当たる。――穴が開いた。
 張飛はその様を見て急速に蒼褪めていく。
「な、なな…何だよ、その規格外の破壊力は!」
「孔明に改造してもらったんや。アンタは頑丈やさかい、被験体になってもらうで」
「ひでぇ! 義理妹への愛が感じられねーぞ!」
 今度は本気で逃げ出す張飛。その後ろを本気で追い掛ける劉備。
 殺人ウォーターガンを作成した孔明はリクライニングチェアーに腰掛けながら、のんびりと義理姉妹の修羅場を眺めていた。威力の確認も兼ねているようだ。
 その横でビ竺が本(恋愛小説)を広げている。その優雅な姿は正しく『深窓の令嬢』という言葉がピッタリだった。
 更にビ竺の隣では雷同が目を回してうなされている。
「鬼が…歳食った鬼が…」
 そんなうわ言を繰り返しながら痙攣していた。不憫な娘である…。
 プールの中では黄忠と厳顔が浮き輪を手にぷかぷかと漂っていた。
 無邪気に泳ぐでもなく、ただ流されるままに漂っているのだ。
 そんな二人の横を法正が泳ぎ抜けていく。
 長い髪を綺麗にまとめて華麗なフォームで水をかき分ける。
 …と、法正の横に並ぶもう一つの影――簡雍だ。
(憲和!? 負けられない!)
 簡雍の姿を確認した法正がペースを上げる。
(やるじゃん、法正)
 にやりと口元を歪めると簡雍もギアを上げた。
 そして――二人の手がほぼ同時に縁に触れる。
「ぷはっ。…ちぇっ、法正の勝ちだよ」
「憲和の方が速かったよ…」
 お互いに勝ちを譲り合う。二人の顔に自然と笑みが零れた。
 そんな二人の近くに先ほどの漂流している黄忠と厳顔が漂ってきた。
「青春ね〜…」
「そうね〜…」
 ぼーっとそんな事を呟きながら再び遠ざかっていく。
「年増舟だ! やっぱり力無く漂ってる!」
 簡雍がとんでもない発言をする。
「誰が年増だ、こらぁ!」
「いい度胸してんじゃないの!」
 この発言は年増コンビに聞こえたらしく、物凄い勢いで戻ってきた。
 身の危険を感じた簡雍は法正を盾にすると…
「…って、法正が言ってました♪」
 と、身代わりにしてさっさとプールサイドに退却。
「え? え、ええっ!?」
 法正は自分が何を言われたのか、そして何をされたのか理解し切れずに、ただうろたえるしかなかった。
「法正! テメー、死なす!」
「無事に帰れると思うなよ!」
 年増コンビはうろたえる法正を捕獲すると、浮き輪の中に押しこめてプールの中央まで拉致しはじめた。
 ここに来て自分がスケープゴートにされた事に気付く。
「憲和ーっ! 覚えてなさいよーっ!」
「生きて帰って来れたらね」
 簡雍は喚き散らす法正にひらひらと手を振って、デジカメのシャッターを切った。
 芽生えかけた友情という芽はいともあっさり摘まれてしまった…。


 法正がお仕置きという名の粛正を受けてから一時間。全員が遊び疲れてプールサイドで休憩を取っていた。
「それにしても今日は暑いなぁ」
「そうですね、私の予想では明日もこのような天気かと」
 劉備の言葉に白羽扇を口元に孔明が太陽を見上げる。ちなみに黄忠から借りたサングラスを着用しているので眩しくはないようだ。
「……………」
 孔明の隣ではビ竺が小さく寝息を立てている。そしてそんな彼女をほっとけない二人がいた。黄忠と簡雍だ。
「気持ちいい天気だから眠たくなっても仕方ないな…」
 黄忠はビ竺を膝枕しながら髪を優しく撫でている。母性本能をくすぐる寝顔についつい黄忠の顔も綻んでいた。
「夏は最高な場面に出くわす事が多いしね♪」
 周りでは簡雍が忙しく動きながらビデオ撮影中。かなり際どい画像も撮っているようだ。
 ほっとけないというニュアンスがかなり食い違っている二人である。
「ビ竺は寝てるんだ、あっちの方で撮影してくれ」
 大人の余裕を見せながら簡雍を張飛の方へ押しやる厳顔。
 分が悪いと算段した簡雍も渋々その場を離れた。年の功が悪魔を遠ざけたのだ。
「雷同…何だソレ?」
「これが無いと落ちつかなくて」
 張飛が覗きこむその先には、雷同が手にした護身用武器。
 基本的にか弱い女性が犯罪から己の身を護るべく持つ代物――そう、スタンガンである。
「ふ、ふーん…それをどうするんだ?」
「しびれる為に使う」
 ごく当たり前のように、かなり危険な返答をする雷同。
 流石にこれには引いた張飛。一歩ずつ後ずさりしながらほくそ笑む雷同から離れる。
 後日、何の因果か雷同は張飛の下に付いて従軍する事になる。時折スタンガンを手にしてニヤニヤ笑う雷同に頭を振って悩む張飛の姿が戦場で見うけられたとか…その話はまた次の機会にでも。
 そして、法正はどうなったのか――
「憲和〜…もう許さない〜…あ…年増の鬼が…」
 雷同同様うわ言の様に恨み言と恐怖に慄く言葉を繰り返しながら、うつ伏せに寝かされていた。
「簡雍殿、法正の写真を撮ってもらえないかな?」
 うろうろと動きまわりながら撮影を続ける簡雍に声を掛ける孔明。
「いいよー。あ、そうそう…ここだけの話だけどね」
 簡雍がちょいちょいと手招きして孔明を呼ぶ。
 孔明も面倒くさそうに立ちあがると簡雍の傍に近づく。
「実はね、ダンナ。法正のちょっとした…俗に言う『ポロリ』な写真もゲットしてんですよ…一枚300円でどうっすか?」
 こそこそと悪事を耳打ちする簡雍。黒いシッポと羽が生えてる…。
「ほほう…買った。そちも相当の悪よのぅ…」
「いえいえ、お代官様ほどでは…」
 邪な笑みを浮かべる二人の悪魔がプールサイドに降臨。
 B級の時代劇の悪人のような二匹の悪魔の下で法正が更に魘されていた…。


「皆さん〜、アイス買ってきました〜」
 暫く休憩していると孫乾が両手一杯に紙袋を抱えて現れた。
「お、ご苦労さん。大変やったやろ?」
 紙袋を受け取りながら労いの言葉を掛けてやる劉備。
「いえ、皆さんが喜んでくださるのなら全然苦にはなりません〜」
 にこにこと太陽に負けないくらいの笑顔を見せる健気な少女、孫乾。
 その眩しさに目を背ける張飛と雷同と簡雍。眩しすぎる程疚しい事があるのだろうか。
「…えらい! そや、アンタも泳いでいき!」
 感動して滝の様な涙を流す劉備が孫乾の肩を掴む。
「え、えーと…」
 あたふたしながら動揺する孫乾。アイスを届けに来ただけなので水着も持ってきてないので返事に困っている様子だ。
「アイス落ちてるって!」
 張飛と雷同がコンクリートの地面に落ちた紙袋をかっさらっていく。
 そして、その動きを二匹の老鷹…失礼、二匹の鷹が追いかけていった…。

 一名増えそうな勢いのプールサイド――
 乙女達の夏はまだ終わらない――
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