★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
345:★教授2003/10/10(金) 23:21AAS
■■ 成都棟制圧 劉備と簡雍の決意 ■■


「…ちゅーわけで、これから成都棟を包囲するって事でええか?」
「異議無し。うー…燃えてきたぜ!」
「力に物を言わせて陥落させるんじゃないですよ、張飛さん」
 ここはラク棟会議室。最前線に立つ上将達が、今まさに成都棟に立て篭もる劉章達を降伏させる術を話し合っていた。
 論場で説き伏せようと意見する者、攻め落としてしまおうと意見する者。様々な意見が飛び交う中、最終的に決定されたのが『取り囲んで降伏させちゃおう』作戦だった。
 圧倒的な戦力差を見せつけ、アテもなく篭城を決めこむ生徒達の恐怖を煽る――そこはかとなくシンプルな手段だが、これ以上に効果的な手段もない。
 先日から法正が幾度と無く降伏を促す黒手紙を書きつづけているのも相乗効果をもたらしている。結構毒々しい内容なので割愛させてもらう事にした。
「ふむ…まあ伏線も引いてある事ですから、降伏して出てくるのにそう時間は掛からないと思いますが…」
 白羽扇を口元に当て、劉備一同及び会議室全体を見渡す諸葛亮。そして天井を仰ぐ。
「長引くと士気の低下、及び周辺組織の攻撃…特に曹操辺りでしょうか。…その辺りが心配になりますので…その際は諸将の方々、頼みます」
「…そうはならないようにしたいなぁ。劉章はんも頑張らんと降伏してくれればえぇんやけど…」
 劉備は溜息を吐くと窓を開けて成都棟の方角を哀しげな眼差しで見つめた。


「ふー…」
 簡雍は溜息を吐きながらラク棟をとぼとぼと歩きまわっていた。
 いつもの感じとは違う、少しアンニュイな表情を浮かべている。傍目から見ても悩みを抱えている事が誰の目にも明らかだった。
 彼女の心の中にあるのは、『益州校区成都棟総代』劉章の事唯一つ。
 劉備達と共に益州校区に入ってすぐに劉章に気に入られ、いつ何時でも彼女は簡雍を誘ってきた。色々な所へ連れて行ってもらったり色々な物を貰ってきた。自分達が益州校区を乗っ取るつもりで来た事も知らずに――。
 それだけに気に入られた自分が劉章を追い落とす…未だかつて経験した事のない『恩を仇で返す』事。それに戸惑いを覚えていたのだ。
「あの娘には法正同様裏切り者だって思われてるんだろーな…」
 ラク棟の中庭、池の側のベンチに腰を掛ける。自然と溜息が零れた。
「…玄徳の事だから降伏論で制圧論をねじ伏せてるんだろうけど…」
 そう呟きながらちらりと会議室のある棟を見上げる。丁度同じ時間に会議が終わっていた。簡雍の読み通り、劉備の降伏論で締めくくられて。
「最初は私もノリノリだったんだけどなぁ…らしくないや」
 ごろんとベンチに横たわると青々とどこまでも広がる空を、雲の流れを見ながら目を閉じる。
 浮かんでくるのは劉章の笑顔、声、そして哀しげな後姿。その背中が自分を『裏切り者』、『恩知らず』、『卑怯者』と蔑んでいる様に映った。
(違う! 裏切るつもりなんて…なかった!)
 心の中で全てを否定する。しかし、声は尚も簡雍を締めつける。木霊の様に、残響を残しながら全身を駆け巡る。
(違う! 違う! 違う!)
 何が違うのか、それすらもどうでもよくなっていた。とにかく否定する事しか出来なくなっていた。
 劉章の体がこちらを振り返る。哀しくも憎悪に満ちた目を向けながら。
『何が違うの? 仕方なかったなんて言わせない!』
 怒号が体の中に染み渡る。切り裂かれるような、引き裂かれるような…そんな痛みが突き抜けて行く。
 逃げ出したかった。形振り構わず、自分の立場もプライドもかなぐり捨てて遠く…遠くまで逃げ出したかった。
 だが、出来なかった。自分にしか出来ない事があったから――
 簡雍は心の中の劉章に真っ直ぐ目線を向けた。
(私は…君を…)




「…劉章はん。何で出てきてくれへんのや…」
 成都棟を取り囲んで既に何時間も経過していた。
 周囲には張飛、趙雲、馬超、黄忠といった名だたる将…そして帰宅部連合に降ってきた益州校区の雄将達が、攻め込む為の最終調整を行っていた。
 劉章の降伏をひたすらに待ちつづけた劉備にも焦りの色が強く浮かんでいる。
 そんな劉備に諸葛亮が最後通告を言い渡す。
「…部長。そろそろ…攻め込む時間です。これ以上は待てませんぞ」
「…仕方あらへんな…」
 最後通告、即ち劉章への死刑宣告に等しい言葉を劉備は苦々しく受け入れる。
 そして手を高らかに挙げると率いる全ての隊に号令を下した。
「全軍…とつげ…」
「あーあー…物々しいったらありゃしない」
 号令は最後まで続かなかった。眠そうなトボけた声が軍の中を割って飛び出してきたのだ。
 全員が声のする方を振り向いた。
「何? そんな大勢で取り囲んじゃ降伏できるものも出来ないっつーの」
 軍を割って簡雍が酒瓶を片手に劉備の前に立った。
「憲和…何しに来たんや? 今はあんたの出番とちゃうで」
 きっと簡雍を睨みつける劉備。しかし、それを涼やかに受け流す。
「玄徳。すこーしだけ時間ちょーだい。私が行って口説いてくるからさ」
「は、はあ? そ、そんな事したらあんた階級章取り上げられて追い出されるで!」
「大丈夫大丈夫。まあ、仮にそうなっても別にいいんだけどね」
 ぐいっと酒をラッパ呑みする。景気付けのつもりかどうかは分からないが豪気である事には違いない。
「憲和…あかんて」
 劉備は心配そうな眼差しを向ける。長い間ずっと自分に付いてきてくれた友人を失いたくはなかったのだ。
「あー…もう! 大将がそんなツラしてどーすんだよ、周りの士気も考えろっつーの。じゃ、行ってくる!」
「あ! 憲和!」
 簡雍は劉備の制止の声を聞かずに成都棟に向かって歩き出した。
 うなだれる劉備の肩に諸葛亮が手を置く。
「…今は簡雍殿にお任せしましょう。もし、簡雍殿の身に何かあった時は…」
「分かってる。でも…ウチはまだ憲和を失いたくない」
「…簡雍殿の仰られた通りですぞ。貴方がそのような顔をされると貴方に付いてきた全ての生徒が不安になられます。貴方は…我々の担ぐ神輿なのですから」
「…そやな。よしっ! 全軍、このまま待機! 指示があるまでそのままの態勢やで!」
 パシッとハリセンで地を叩く。その顔に迷いの陰はどこにもなかった――


「劉章…」
 簡雍は成都棟の正門前に立っていた。窺いを立てるので暫く待っててくれと言われているので大人しく待っているのだ。
「君は…私が…」
 天を仰ぎ、そして酒瓶を投げ捨てる。
「私が救ってみせるから!」


 ――簡雍が成都棟に入って1時間余り後
 劉章は簡雍に連れられて成都棟から出てきた――
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