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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
397:★教授 2004/01/07(水) 00:29 三角巾を頭に巻きつけマスクを付けて…ゴミ袋に不要な物品を放りこむ。 ある者は箒、ある者は雑巾…力のある者は机や椅子の運び出しに粗大ゴミの撤去。 どこにでもある学校の大掃除。それはこの蒼天学園でも同じだった。 舞台は益州校区成都棟演劇部部室。関係者以外知る事のない季節外れの春一番が開幕していた―― ■■簡雍と法正 -仲良き事は美しき哉-■■ 「やー…色んな衣装があるもんだな」 簡雍が衣装棚をごそごそと漁る。一つ手に取り、またもう一つ手に取る――先刻からこれの繰り返しだった。 「ちょっと憲和。掃除しにきてるんでしょ、衣装見てサボってる場合じゃないわよ」 真っ白な三角巾に白衣を着こんだ法正がぽんぽんとハタキで簡雍の頭を叩く。ジャージに身を包んだ簡雍が鬱陶しそうにハタキを払いのける。 「分かってるよ、だからこうやって衣装の整理を…」 「見てるだけじゃない。それに掃除を始めて一時間、憲和は箒の一本も持ってないのよ?」 「よく見てるな…」 「総代からしっかり面倒見てやってって頼まれてるのよ」 これ見よがしに大きな溜息を吐くと簡雍に雑巾を手渡す法正。 当の簡雍は雑巾を渡されると頭を掻いて少しだけ眺めて、周りでダンボール箱を片付けていた女子生徒に写真を添えて渡していた。勿論、法正の見ている目の前で。 当然、法正も黙ってるわけがなかった。簡雍の胸座を掴んでゆさゆさがくがくと揺らしはじめる。 「憲和! 何で他のコに雑巾渡すのよ! それに…今一緒に何を渡したの!」 「うぷ…やめろよー。昨晩から今朝にかけて呑み会やってたんだからー…」 揺らされる度に青くなっていく簡雍。一瞬、法正の脳裏に1分後の凄惨な現場がちらついた。慌てて揺らす手を止めると、簡雍はふらふらと椅子に座りこんでぐったりしてしまった。酒脱人とはいえ、やはり二日酔いになるのだろう。 「もー…一体何を渡したのよぅ」 肩を竦めて、雑巾を渡された女子生徒を見る――目が合う。と、その女子は顔を赤らめて顔を背けた。 そのリアクションを見た法正の頭に電気が流れる。ずかずかと女子生徒に近づくと、写真を脅し取る。そして―― 「け、憲和ーっ!」 法正はコンマ何秒の世界で顔を朱色に染めると写真を放り投げ、ぐったりしてる簡雍をハタキでぺしぺし叩き始めた。 「何だろ…」 その辺で作業をしていた他の生徒達が放り出された写真を手に取り、眺める。 「…………」 10人前後の生徒が写真を見て、全員が同じリアクションを取っていた。 「…いや、でも法正さんだから…」 「黒下着って大人っぽいよね…ガーターだって…」 「胸なくてもこれはこれで…」 喧喧諤諤と写真に付いての考察まで始める始末。しかし目ざとい法正がそれに気付かないわけもない。 「お前等っ! 全員でてけーっ! その写真の事を忘れなきゃヒドイ目に遭わせるからなっ!」 ぶんぶんとハタキを振り回して女子生徒達を部室外に追い出す法正。簡雍も女子生徒達に椅子ごと運ばれて出ていった。 「はぁはぁ…憲和のヤツ、一体何処であんな写真撮ったのよ…」 大きく息を切らしながら写真を丸めてゴミ袋に投げこむ。 「これじゃ大掃除にもならないわよ…ったく」 深呼吸、溜息と続けると三角巾を外した。今日はもう大掃除は止めにしたらしい。汗を拭い鏡の前で髪を整える、こうしていると普通の女の子にも見えるかもしれない。 ふと、法正の視界に簡雍が物色していた衣装棚が飛びこむ。好奇心をそそられるのか徐に近づくと衣装を手に取って眺めはじめた。 「へぇ…憲和じゃないけど本当に色々あるんだ……あ、これ…」 一着の衣装を手にした時、法正の動きが止まる。少し考えた後、きょろきょろと辺りを警戒しながら部室の入り口に鍵を掛けた―― 約10分後―― 衣装チェック用の大きな姿見の前で自分の姿に感動している法正の姿があった。 「一度…着てみたかったんだよね…これ」 先ほどまで怒り爆発させていた女子と同一人物とは思えない笑みを浮かべる法正、余程着てみたかったのだろう。 「女の子だったら誰でも一度は…って感じかな」 姿見の前で軽やかに一回転。洋風の花嫁衣装…分かり易く言うとウェディングドレスの裾がふわりと浮かんだ。純白のドレスだけならまだしも、実は唇に薄紅を引いたりと化粧まで周到だった。 一人、鏡の前で悦に浸る法正。しかし、シンデレラに制限時間は付き物だった。 「何や…鍵かかっとるわ…」 部室のドアがガタガタと動くと同時に、外から関西弁が飛び込んできたのだ。一瞬にして青褪める法正。 「やば…総代が…」 慌ててドレスを脱ごうとする法正、しかし焦る気持ちが手に正確な情報を伝えない。 「総代、法正はもう帰ったのかもしれませんぞ?」 「んー…そうかもなぁ…」 ぼそぼそと聞こえてくる諸葛亮と劉備の会話が余計に法正の心をかき乱す。自分で蒔いた種とは言え、こんな姿は見られたくない――泣きそうになりながらドレスを脱ごうと必死になる。 「まぁ、でも鍵もあるさかいに…一応チェックだけはしとこ」 「そうですな。では…」 絶体絶命の窮地に立たされる、例えるなら一人分にも満たない足場の断崖絶壁で強風が吹き荒れる――そんな所だろう。法正はじたばたしながら脳をフル回転させた。 そして――部室のドアが開き劉備と諸葛亮が姿を見せた。 「なーんや…誰もおらん。法正、やっぱり帰っとるわ」 制服の上からエプロンを着こみ、ハリセン代わりの箒を持った劉備は広くはない部室を見渡すと踵を返した。 「ふむ…仕方ありませんな。この部屋の掃除は明日にでもやらせますか」 白羽扇の代わりにちりとりを扇ぎながら劉備に続いて部室から出ていく。 長い沈黙。静かでゆっくりとした時間が流れる。その静寂を破ったのはロッカーが開く音だった。緩々と開くロッカーの中から法正が出てきたからだ。 「あ、危なかった…」 冷や汗を流しながら安堵の息を漏らす。と、次の瞬間―― 「いただき」 「え? うわっ!」 強烈な閃光、その向こう側に簡雍が立っていた。正にお約束。 「け、憲和…何でいるの?」 カクカクと口を動かす法正。フラッシュの眩しさ云々よりも簡雍がこの場にいる事の方がショックだったようだ。 「玄徳と一緒に入ってきてたんだよ。何かあるな〜って思って待機してたら…へぇ〜」 にやにや笑いながらウェディングドレス姿の法正を上から下まで眺める簡雍。法正はただ頬を染めて後ろを向くしかなかった。と、ある重要事項に気付いた。 「憲和!」 「な、何だよ…急に」 「そのカメラ寄越せ!」 「わわっ! やめろって!」 飛び掛かる様に簡雍に襲いかかる法正。無論、カメラを奪う事が目的だ。 しかし、簡雍も折角のスクープを無に帰す訳にはいかないから抵抗する。お互いに体力、筋力は似たり寄ったりの性能なので一進一退の攻防になっていた。しかもかなりの低レベル。 やがて、簡雍が疲れ気味の法正の隙を突いて押し倒してマウントポジションを取る事に成功。 「へへー…観念しろい」 「く、くやしーっ!」 勝ち誇る簡雍に本気で悔しがる法正。 「さーて…どうしてくれようかな?」 「な、何よ…」 意味深な動きで法正を翻弄する簡雍。まだ酔ってるのだろうか。 その時だった、部室のドアが開いたのは―― 「憲和〜。鍵渡すの忘れ…て…?」 劉備が苦笑いしながら入ってきて…凍った。同時に法正も凍っていた。きょとんとしているのは簡雍一人だけだった。 「な、何してんのや…?」 劉備から見れば『簡雍が法正を押し倒して襲ってる』ようにしか見えない。堅い笑みを浮かべながら劉備が尋ねる。 「いや、見ての通り…私が法正を…」 簡雍が普通に答える。しかし、冷静さは時に悲劇を招く事もある。 「あ、アンタら…そんなイケナイ関係はあかんって! 同人だけにしときや!」 「は、はぁ? ち、ちょっと…玄徳! それは誤解…」 ここで初めて簡雍が動揺し始めたが、時既に遅し。劉備は猛烈な速度で部室を後にしていた。 マウントポジションのまま呆然とする簡雍と法正。我に返ったのはほぼ同時だった。 「ど、どーすんだよ! 玄徳のヤツ誤解したまま行っちまったぞ!」 「知らないわよ! 憲和が押し倒したりなんてするからこんな事になったんじゃない!」 「法正が襲い掛かってこなかったらこんな事にもならなかったんだよ!」 「私のせい!? 有り得ないよ!」 そのままの体勢でぎゃーぎゃー喚き散らす二人。 この口喧嘩の果てに得たものは大勢のギャラリーと二人に関するちょっと危ない噂だった―― 数日後の夜―― 簡雍と法正は劉備の部屋で弁解をしていた。 「そやから、二人が怪しい関係なんやっちゅー事は衆知の事実で…」 「違うって言ってるだろ! 玄徳は説明聞いてたのかよ!」 「そうですよ! 私が総代に嘘を吐くように見えますか!?」 二人して劉備に迫る。ちょっと恐くなってるので一歩後退する。 「そんな二人して真剣やと…余計に怪しいわ…」 苦笑いしながら二人を逆撫で。 「「そんな事はない!」」 簡雍と法正の声が重なると、今度は矛先が互いに向き合った。 「大体、憲和が余計なマネしなきゃこんな事にはならなかったの!」 「だーかーらー! 法正が襲いかかってこなきゃ在らぬ噂をかきたてられる事もなかったんだよ!」 弁解は何処吹く風、二人で責任転嫁を繰り広げ肥えた話術で戦闘している。こちらは高レベルな争いだ。この隙に劉備はいそいそと部屋から脱出した。ドアをゆっくり閉めて溜息を吐く。 「ふー…何やかんや言うても…あの二人、仲ええんよな…」 苦笑いを浮かべると論争巻き起こる自室を後にした。 それから数十分後、二人が疲れた顔をして出てくる。 「…コンビニ行く」 「私も…割引チケットあるから…使う?」 「使う…」 「じゃ、行こ…」 簡雍と法正の微妙に和やかな光景。劉備の言う通り、本当は仲がいいのかもしれない。 その答えは彼女達しか知らない。 「肉まん美味しいね…」 「うん…美味しい…。あ、これ法正の分のコーヒー…奢りだよ」 「ありがと…」 コンビニ前の二人、白い息は風に吹かれて儚く消える。 薄暗い外灯の光が缶コーヒーを持った二人に降り注ぐ。 この御話はここで終幕。でも二人の舞台はこれで終幕ではない。 脚本も観客もいない御話。続きが語られるのは、また別の機会――
398:★教授 2004/01/07(水) 00:34 復帰一発目に目に悪いものを投下した事を深くお詫び申し上げます。 嗚呼、もっと文章力が欲しい…発想力も…。 ホントはXデー(1/18)用だったんですけども…別ネタが浮かんだので投下。何て安直なんだろう…(凹) まあ、存在表明みたいな感じになればいいかと思いますし…ここ最近の参加者様に『こんな変な生き物いたんだ…』って認識してもらえれば幸いです。
399:那御 2004/01/07(水) 00:56 直接教授様とお会いするのはお初でしょうか、那御と言いますデス。 過去の作品を読ませていただき、簡雍らに萌えまくったわけですが、、 いやはや、今回もこのお二人というわけで、 大掃除の時に、物を触るだけで仕事しないヒトは、どこにでもいるもんですw 2人の友情が、末永く続きますように・・・(何
400:★惟新 2004/01/07(水) 09:34 教授様キタキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!! いやもう待ちに待ってましたって(;´Д`) 泣きそうになりながらドレスを脱ごうともがく法正とか 自爆して動揺したり誤解を解こうと必死になったりする簡雍とか(;´Д`)ハァハァ んでもってそんな二人の仲をしっかり見抜いている劉備の深さにも(;´Д`)ハァハァ そのうえXデー用に別ネタが!? これは楽しみに待つしかあるまいて!
401:★玉川雄一 2004/01/07(水) 19:37 憲×孝スペシャルキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!! マウントポジションハァハァ……でなくて! ええなあ…これでこそ学三ですわ。 なにげに、メインキャラだけじゃなくてモブ女生徒が出てるのもポイント。 でも、アレ例のセクスィ写真(絵板の旭絵)ですよね… 流出しちゃったらそれこそえらい事ですよ? さあ、ここでドレス着用版法正を描く猛者はおらぬか!?
402:アサハル 2004/01/07(水) 23:30 (゚Д゚)… コソーリ(,,・∀・)つ http://fw-rise.sub.jp/tplts/dress.jpg
403:玉川雄一 2004/01/07(水) 23:54 - - - -=二三⌒ヽ >>402 - - - - - - -=二三 ´_ゝ`) - - - - -=二三_ / すいません、全速力で通りつつその法正タンをいただきますよ… ⌒; - - - - -=二三(__ ヽ )⌒); - - - -=二三ミ/  ̄彡 )⌒), , - - -=二三〃 -=二彳
404:那御 2004/01/08(木) 00:08 キタァ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!! ダメダメダメダメ!討ち取られる!(廃人化) >>403 一足・・・遅かったようですねw ならば奪い取るまでッ!(←真性バカ)
405:★惟新 2004/01/08(木) 00:49 さて…無双3諸葛亮伝のごとく、我ら求婚者たちは コブシで語り合わねばならないようですね…(コキッコキッ ああもうタマランですよ! らびゅーんですよ!(;´Д`) おねだりされた玉川様もグッジョブ! ドレスのデザインも素敵ですねぇ… 私もいつの日か愛しい人にこのようなドレスを着せたいもの…(;´Д`)
406:雪月華 2004/01/12(月) 04:16 草原の小さな恋 緑色に波打つ午後の草原を、甘ささえ含んだ梅雨明けの風が吹き抜けてゆく。 7月初頭。午後三時過ぎ。幽州校区と并州校区の境目付近の草原は、輝くような優しい日差しに包まれていた。 こんもりと盛り上がった丘の上に一本だけ立っている、常緑樹の生い茂った枝葉が作り出す陰に、長ラン・サラシ・高下駄・目深にかぶった破れ学帽に身を包んだ、身長2メートルオーバー・超筋肉質の大男が寝転んでいた。荒削りで精悍そうな顔つきであり、いかにも時代遅れの番長といった貫禄を漂わせている。木の傍には、かなり使い込まれた750tの単車が駐められていた。 丘から二百メートルほど離れた場所には幾つかの水田が区切られており、并州、幽州の園芸部員数人が、合同で水質調査や雑草の駆除などを行っている。 草を踏む音が近づいてきて、それが大男の頭上付近で止まった。大男がめんどくさそうに重いまぶたを開けると、そこには見知った顔が、大男の顔をのぞきこんでいた。 「ヒマヒマ星人、みーっけ」 「ち…オメーか、丁原」 迷惑が五割、安堵が五割といった表情と声で、大男…烏丸高校総番である丘力居は舌打ちした。 「隣、いい?」 「勝手にしろ」 丘力居の返事も半ばというところで、もう丁原は腰を下ろしている。丘力居も、めんどくさそうに上半身を起こし、そのまましばらく、二人は無言で水田のほうを眺めていた。 「一ヶ月ぶり…か?」 「そだね。黄巾事件の前に会ったきりだから」 水田のほうを見やったまま、丘力居が短く問い、丁原が応じた。 烏丸高の丘力居と蒼天学園の丁原は、もう一年ちかくの付き合いになる。少なくとも、恋人ではないと丘力居は言う。一年前、好奇心から、放課後ひとりで蒼天学園に侵入し、昼寝を楽しんでいた丘力居を発見したのが、巡察中の丁原の一隊であった。 当然のことながら、丁原は退去を命令する。性格から言って、丘力居が応じるはずが無い。命令が反論を招き、それが口論に発展し、実力行使が用いられるまでに30秒とかからなかった。 激闘は10分近く続き、それ以来、お互いを認め合い『強敵』と書いて『とも』と読む間柄となったのである。 不意に丁原が、丘力居の顔を覗き込んだ。 「随分とシケた顔してるね?悩みでもあるの?」 「オメーにゃ関係ねえよ」 そっけなく丘力居が応じたが、丁原はなおも食い下がる。 「やっぱりあるんだ。なに?なに?お姉さんに話してみ?」 「…ち、まあいいか。猫や犬に相談すんのは、もう沢山だからな。少なくともオメーは人間だし」 「なんか、シャクに触る言い方ね」 「気のせいだろ」 相変わらず水田のほうに目をやりながら、丘力居が悩みとやらを打ち明け始めた。 「先週、そこの水田に農業指導に来てる人に一目惚れしちまってな…寝ても覚めても、あの人の顔が目に焼きついて離れねーんだ」 「…へえ。朴念仁のアンタが恋をねえ。こりゃあ聖母マリアさまの処女懐妊以来の大事件だよ、で、その人って誰?」 「名前までは知らん。その日以来、ほとんど毎日ここで張ってるんだけどな…」 「写真とかある?」 これだ、といって、丘力居は胸ポケットから安物の定期入れを取り出した。それに収められた写真の中では、柔らかく後ろで三つ編みにされた豊かな髪を揺らしながら、クリップボードを持った長身の少女が、このあたりの風景と似たような草原をバックに微笑んでいる。 「…この写真、随分とアップで撮ったみたいだけど、どうやって撮ったの?」 「…撮ったわけじゃねえ。なんせ俺は、使い捨てカメラすら上手く扱えねえからな。ここの生徒から買ったんだよ」 「幾らで?誰から?」 「…二万だ。ヨレヨレの制服で、耿雍って名乗ってたな。3日くらい前、いきなり話し掛けてきて、いい写真があるから買わないかって…」 「…アンタ馬鹿でしょ」 「そんだけの価値はあるさ。いいか、俺はオメーみてえな、口より早く手が動くような暴力女には、憧れって奴を感じねーんだ…!」 言い終わった瞬間、その巨体に似合わぬ敏捷さで、丘力居は飛びのいていた。コンマ一秒前まで丘力居の鼻のあった部分を、丁原の裏拳がマッハで通り過ぎている。 「いい度胸してるわねえ?かかってきなよ、純情君?」 「いわれるまでもねえっ!」 言い終えるなり、丘力居は丁原に掴みかかっていった。 …3秒後。 「あだだだだだだ!放せ!折れる、折れるって!」 「まいった?」 「ま、まいった!俺が悪かった!」 実にあっさりと丁原にサブミッションをかけられ、右の肘と肩、手首を同時に極められて、丘力居は情けない悲鳴をあげた。 一年近くの付き合いのうちに、幾度もド突きあいを演じているが、初手合わせ依頼、未だに丘力居は丁原に勝てないでいる。膂力や体格でははるかに勝っているものの、戦闘技術では遠く及んでいないのである。 「これでアタイの21連勝っと。いつになったら、アンタはアタイに勝てるようになるのかしらね?」 「…ってて。いいか、俺は、オメーがいちおう女だから手加減してやってんだからな。それを忘れんなよ」 「それがホントならいいんだけどねぇ?」 右腕をさすりつつ、丘力居は憎まれ口を叩く丁原の傍に座りなおした。定期入れも返してもらい、そのまましばらく、二人は初夏の心地よい風に身を任せていた。 「…セッティング、したげようか?」 「あん?」 唐突に、丁原が思いがけない事を言った。 「実はさ、その人のこと、満更知らない訳でもないのよ。で、アンタさえ良ければ…ね」 そういう丁原は、どこと無く淋しそうな気配を漂わせていた。当然、そんなことに気付かず、考え込んでいた丘力居が、ようやく口を開いた。 「…そこまでしてもらう必要はねーよ」 「アタイが信用できないっての?」 「そうじゃねえ。あの人と俺とに間に縁ってものがありゃ、また会えるさ。そしてそん時、俺は…」 「俺は?」 「…真正面から」 「真正面から?」 一旦言葉を切った丘力居が、うつむき、両手を握り締め、やっとのことで声を絞り出した。 「交際を申し込む」 沈黙した二人の間を、夏の風が吹き抜けていった。しばらくして、丁原があきれたように、溜息をついた。 「でかいガタイに、ド凶悪な面構えの割には、やろうとしていることは、妙にプラトニックね。どうせなら掻っ攫ってきて、無理矢理キスとかしちゃえばいいのに」 「バ、バ、バ、バカ野郎!俺ぁ仁と愛に生きる正義の番長だぞ!あの人に対して、そんな下衆で破廉恥なマネができるわけねえだろうが!」 「冗談よ。なにをバカみたいに慌ててんのさ」 二人の眼下では、一連の仕事を終えた園芸部員達が、撤収を始めていた。それを見た丘力居が、ひとつ伸びをすると腰を上げた。 「さて、もう帰るか。どうやらあの人は今日も来ねえみてーだからな。じゃ、またな、丁原」 「あ、待って」 慌てて立ち上がった丁原が、丘力居を手招きした。2mを超える巨体の丘力居と、150cmあるかないかの小柄な丁原が並ぶと、まるで熊と猫が並んでいるかのように見える。 「ちょっと耳貸して」 「なんだよ」 両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、丘力居が丁原の傍に立った瞬間、丁原の右拳が、完全に油断していた丘力居の鳩尾にめり込んでいた。 「ぐお…!?」 「なんで…なんで気付いてくれないのさ!この…」 強烈なボディブローを食らって、丘力居は体を「く」の字に曲げ、顎がちょうどいい位置まで下がった。丁原が右拳を、再び後ろに引いた。その両目に涙がたまっているのが、暗くなりかけた丘力居の視界に入った。 「鈍感やろ──────っ!」 地面を擦るように繰り出された、力石式アッパーカットが、爽快な音を立てて、丘力居の顎に炸裂した。 …… … 午後6時。既に草原は茜色に染まっている。心なしか、吹き渡る風も冷たさをはらみ始めているようだった。 丘の麓で大の字になってのびていた丘力居が、ようやく目を醒ました。あたりに人影は既に無く、強烈な打撃を受けた顎と鳩尾がずきずき痛むだけであった。 「ってぇ…あの野郎…しっかりヒネリまで加えやがって…」 顎をさすりながら上半身を起こした時、かさり、と音を立てて、胸の上に置かれていた封筒と、重石として乗せられていた小石が滑り落ちた。どこにでも売っている無地の封筒で、中に紙のようなものが入っているようだった。少々躊躇った後、丘力居は封筒から手紙を取り出した。鞄の上で書いたらしく、ミミズが這ったように字が乱れている。 『丘力きょへ たん刀ちょく入にいえば、アタイはあしたから、らくようとうへ、てん校します (えいてんだって!ワーイ\(^O^)/。でも、えいてんってどういういみ?(゜_。)? ) 今年ど中には、もう会えないと思いますが、お元気で 丁原』 読み終わった丘力居の顔に、ほろ苦い微笑が浮かんだ。 「…ち、あの野郎。最後ってんならもうちょっと素直になりゃあいいものを…、ま、ああやって意地を張り合うのが、あいつの持ち味だったんだけどな……ん?続きがあるな」 『ついしん アンタの思い人は劉虞さんといって、ゆう州校区総代として、けい棟に通っています。 おとなしいおじょうさまだから、いじめちゃだめだよ。せいぜいお幸せにね(^o^)/~~~~~』 「劉虞さん…か。そこはかとなく、まろやかさを感じる名前だぜ…サンキュな、丁原」 丘力居は手紙を封筒に戻すと、上着の内ポケットに大事に仕舞いこんだ。そして丁原がいるであろう、南のほうに向きなおり、学帽のつばを指で弾いた。 「…劉虞さんとは、意地でも幸せになってやるさ。じゃあ、あばよ丁原。オメーは俺の最高の…ダチ公だったぜ」 そう呟くと、丘力居は丘の上に停めてある単車に向かって歩き出した。 ひとつの恋が、おたがいの綺麗な思い出となって終わり、もうひとつの恋がこの草原で始まろうとしていた。 茜色に波打つ夕暮れの草原を、甘ささえ含んだ梅雨明けの風が吹き抜けていった。 −完− …その夜、中央女子寮705号室の、皇甫嵩&朱儁の部屋では、酒盛りが始まっていた… 皇「それでは!建陽の洛陽棟着任を祝って…乾杯!」 朱「かんぱーい!」 盧「乾杯」 丁「……かんぱい…クスン」 皇「そうそう、建陽。失恋おめでとう!いや、めでたい!」 朱「なんだかよくわかんないけど、おめでとう」 盧「おめでとう、建ちゃん」 丁「うわーん!しーちゃんまでひどいー!みんな嫌いだーっ!!」 翌日、三日酔いの丁原は、洛陽棟への転棟初日に3時間の遅刻をしてしまったらしい。
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