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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
414:7th(ver.祭り) 2004/01/18(日) 20:53 荊州校区と益州校区のちょうど境界に一つの建物が建っている。 「いや〜助かったよタマちゃん」 「いえ、大したことはありませんよ」 簡雍の言葉に、タマちゃんと呼ばれた少女が返事する。 彼女の名は劉璋、あだ名は季玉。故に簡雍はタマちゃんと呼んでいる。前益州校区総代であった彼女は、総代の座を劉備に譲り渡してから、この建物でまったりしていることが多い。ご多分に漏れず、この日も彼女はここにいた。 「大変だったようですね。…お茶でも淹れましょうか?」 「あ、いいねぇ。お願い」 喫茶店でコーヒーを飲みそびれたことを思い出し、簡雍は肯いた。 お茶を淹れに席を立つ劉璋。それを見送る簡雍。 ふと窓の外を見つめる。その目が捉えたのは違和感。 良く目を凝らして物陰を見遣る。そこにあったのはかすかな人の影。 気付かれたか?いや、それにしては早過ぎる。 5分ほどそうしていただろうか。そちらへ向けていた意識を、劉璋の声によって引き戻された。 「お茶がはいりましたよ〜」 劉璋がお盆の上にのせたお茶を持ってくる。よく冷えた麦茶だった。 やはりおかしい。差し出された麦茶を前に簡雍は考える。 冷えた麦茶。冷蔵庫から出してコップに注ぐだけの手順の筈が、何故こんなにも時間がかかる? そして向かいに座った劉璋の態度が、かすかだがそわそわと落ち着き無い。 もう一度、窓の外を見遣る。巧妙に隠れてはいるが、明らかに人の数が増えている。 …つまり、結論は一つ。 「タマちゃん、アタシを売ったね?」 じっと劉璋を見据える簡雍。 「…何のことです?」 あくまで平静を装う劉璋。だがその目が泳いでいるのを簡雍は見逃さない。 「…ならアタシの前のこの麦茶、飲んでみせて」 「……っ!それは…」 思った通りだ。多分その麦茶の中には睡眠薬か何かが入れられているのだろう。 「ごめんなさい……私…」 俯いたまま泣き出しそうな声で謝る劉璋。 「ん、いいよ別に。タマちゃんが悪いんじゃないし」 彼女にそんな悪知恵があるとは思えない。きっと誰か……諸葛亮あたりに入れ知恵されたに違いない。 さて、また逃げないと。幸い、まだこの建物の周りの追っ手は少人数だ。何とか撒くことも出来るだろう。 簡雍はそう判断し、ドアを開けた。 『うえるか〜む!』 ドアを開けた先に待ちうけていたのは追跡者の皆さん。開けた早さに倍する速度でドアを閉め、鍵をかける簡雍。 「謀ったね!タマちゃん!!」 一連の劉璋の行動は全て時間稼ぎ。ここの包囲がまだ完成していないと錯覚させつつ、わざとダミーの計略を看破させ、着々と包囲を進めていたのだ。 今更気が付くも既に遅し。出口は既に固められている。 簡雍は部屋の中に入れてあったキックボードをひっ掴むと、窓の方へ向かって走る。 「か、簡雍さん、ここ二階…」 「てりゃっ!」 劉璋が止めるより先に、簡雍は窓から飛び出した。 着地。そして尻もち。落ちた先は幸運にも花壇の中だった。 「…へっへ〜、日頃の行いが良かったせいかな」 軟らかい土にショックは吸収されたせいか、服は汚れたものの、体はほとんど無傷である。 頭上から心配そうに見下ろす劉璋に親指を立てて無事をアピールすると、簡雍は少々痛む体を引きずって逃走を再開した。 「ふんふふふ〜ん♪」 鼻歌混じりに何やらごそごそと物をあさる簡雍。 あまたの監視の目をくぐり抜け、やってきたのは寮の一室…というか簡雍と法正の部屋である。灯台もと暗しとはまさにこの事か。 ポーチにフィルムその他を詰め、カメラのコンディションを確認する。 「よし、完璧」 簡雍、完全装備完了。本気の相手…タイガーファイブ級を相手取るにはこのくらいしないと、逃げ切るのも容易ではない。 「さーて、また逃げるかね」 「そうはいかないわよっ!!」 簡雍の言葉を遮る雄叫び。一瞬の後、大きな音を立てて開けれる鉄製のドア。 「…もうもうと土埃の立つ中、逆光を背負って現れたるは『漢・魏延』!」 「そこ!地の文にかこつけて口に出さない!てか絶対わざとでしょ、それ!!」 竹刀をづびしぃ!!と突きつける魏延。どうでもいいがアンタ乙女志望はどうなった? …そんなことはどうでもいいとばかりに簡雍から目と竹刀を逸らさず、後ろのドアを蹴り閉める魏延。これで退路は窓だけとなった。 「どうする?また飛び降りてみる?尤も、ここは四階だけど」 張飛あたりならともかく、簡雍にそれは無理だ。例え無事飛び降りたとしても、下に待ちかまえているであろう連中に捕まって終わり、のはずだ。 だが簡雍に動揺はない。にいっと口の端をゆがめて、勝ち誇ったように宣言する。 「甘い」 そう言っておもむろに天井からのびたロープを引っ張る。刹那、ブラインドが下り、さらに暗幕がかかる。部屋の明かりはついていない。すなわち、真っ暗闇。 写真の現像のために、部屋を暗室にするギミックを簡雍は施していた。…まさかこんな用途で使うことになるとは思っていなかったが。 勝手知ったる自分の部屋。ベッドの位置、冷蔵庫の位置、果ては法正の持ってるぬいぐるみの位置までつぶさに記憶している。簡雍にとっては、この暗闇の中でドアまで辿り着くことなど朝飯前だ。 だが魏延は違う。暗闇に慣れぬ目を凝らし、簡雍を見つけようとするも何も見えず。駄目か、と諦めかけたそのとき、目に飛び込んでくるかすかな赤い光。 光の正体はカメラの発光ダイオード。その光の動きで簡雍の位置は手に取るように解る。 竹刀をひと振りして足下に障害がないか確認。足下の安全を確信した魏延は、一足飛びに間合いを詰める。そして竹刀を振り下ろそうとしたその瞬間――――視界が真っ白に染まった。 必殺簡雍フラッシュ。部屋が暗かった事もあって威力は倍増だ。あまりの眩しさにもんどりうって転げ回る魏延。 「あ、散らかしたのは片付けといてね」 そう魏延に告げて悠々と外へ逃げる簡雍。その言葉が魏延に聞こえているかは怪しいが。 さて、どうしたものか。このまま逃げ続けても、いずれ捕まるのは目に見えている。 ならどうするか。臭い物は元から絶つべし。ということで、この騒動の元凶である法正をとっちめて、例の言葉を撤回させれば良い。 結論は出た。ならば後は実行するのみ。 「ふっ、法正。首を洗って待ってなさいよー!」 「魏延の突入、失敗しました」 「呉班のD班、目標をロスト。現在、呉懿のB班・雷銅のF班が周辺を捜索中」 次々に持ち込まれる報告に、劉備はやれやれと嘆息した。 「無理やろな。連中ごときに見つかる程、憲和は甘ないわ」 「ほう、どういうことですかな?」 傍らに立った諸葛亮が問う。 「実戦経験の差やな。考えても見ぃ、憲和は黄巾騒動の時からウチらと一緒だったんやで?踏んだ修羅場の数なら馬超や漢升はん、子龍でさえ及ばんやろな。まして新入りの魏延や争いの少なかった益州の連中ならなおさらやな」 学園一のトラブルメーカー、劉備新聞部の初期メンバーにしてカメラマン簡雍。その役目柄、危険にさらされたことは数知れずある。しかし、彼女はトばされてはいない。 その逃げ足の早さを以て知られる劉備だが、彼女すら逃げ足という一点においては簡雍に一歩の遅れをとると思われる。 「言い出しっぺはどした?」 「法正殿なら何人か連れて外に行きましたが、何か?」 「…ま、あっちはあっちで何か企んどるんやろ」 こと戦略・戦術においては諸葛亮すらしのぐ才を持つ彼女だ。何か罠を仕掛けていることだろう。 「張飛より入電!『我、目標を発見。追いつき次第交戦を開始する』以上です!」 「益徳か!?そら拙いわ。ウチも後詰めに出る!…ちゅーことやから孔明、後頼むわ」 「お任せ下さい」 慇懃に礼をする孔明の姿を目の端に留め、劉備はその身を戦場へと赴かせた。 ばんっ!! 聞こえてきたのは炸裂音。それが聞こえた方へ劉備は走る。 校舎の角を曲がった劉備が目にしたものは、目を回してぶっ倒れている張飛と、その傍らに立つ簡雍の姿。 張飛のことだ。多分、飛びかかっていった瞬間、簡雍に返り討ちにあったと思われる。 「言わんこっちゃ無い…」 先程の音、あれはおそらくスタングレネードを使用した音。至近距離で炸裂したならば、その音と閃光によって一発で戦闘不能に陥るシロモノだ。 「丁度良かったわ。玄徳、法正は何処?」 「知らんな。それよりも憲和、そろそろお縄についた方がええんちゃうか?」 「話す気はない……ようね」 「そっちも捕まる気はないようやな」 どこからともなくハリセンを取り出し、慎重に間合いを計る劉備。 右手にカメラを、左手にスタングレネードを構える簡雍。 凍り付く気配。流れる一触即発の空気。 先に動いたのは簡雍。左手のスタングレネードを劉備に向けて投げる。 「甘いわっ!!」 気合い一閃、弾かれたグレネードは2秒後、劉備の頭上で爆発した。 ハリセンをヒュンヒュンとガン=カタばりに回し、簡雍に近づく劉備。 「さーて、そろそろ年貢の納め時やで?大人しく捕まってゴスロリを着ぃ」 「ごっ、ゴスロリぃ!?待て待てまてマテ、なにゆえゴスロリか」 「決まっとるやん。そっちの方がおもろいからや」 きっぱりはっきり断言する劉備。それを聞いて、簡雍はげんなりした。 この部はアホばっかりか?そう考えざるを得なかった夏の日だった。 「ほれほれ、考え事しとる場合やないで!」 目の前に迫る劉備の顔。そしてハリセン。紙一重でそれを避けるも、続いて二撃、三撃目が飛んでくる。いつしか背後には壁。完全に追いつめられていた。 「今大人しく捕まったら手荒なことはせんが、どや?」 完全に劣勢のこの状況。選択肢は降伏か死かと思われるこの状況下で、あろう事か簡雍は唇の端をゆがめて嗤った。 「断る」 そう言って左手に持った物体を地面に投げつける簡雍。地面にたたきつけられたそれは、凄い勢いで煙幕を吹き出した。 煙に紛れて劉備の横をすり抜ける簡雍。だがそれに気付いた劉備はしつこく簡雍を追う。 不意に、劉備の鼻先に投げつけられたボール。それは破裂すると、辺りにコショウをまき散らした。 「ぶえーくしっ、がん゛よ゛〜!ぶえっくしゅん!」 …涙と鼻水まみれになった劉備は、簡雍の追跡を諦めた。張飛はまだ目を回している…と言うか既にそれは失神から睡眠へとシフトしていた。 世界は平和である。そう思った夏の日の午後だった。
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