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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
452:岡本2004/04/20(火) 18:36AAS
■ 邂逅 ■(1)
「あれっ、憲和。この写真って…。」
帰宅部連合写真部の記録保管庫にて整理作業中に一休みしてアルバムを見ていた法正はその中にあった一枚の写真に目を留めた。アルバム自体もほこりの多い片隅に平積みと保管が悪かったため、ほとんどの写真はセピア色に色褪せていた。
法正が課外活動からの引退を決意したのは高2の12月。帰宅部連合の一員としてやりたいことは先週の漢中アスレチックス攻防戦の勝利で大体終え、受験を考えての惜しまれながらの早期引退を行ったのである。1つ上の悪友というべき簡雍も卒業を控えてほぼ同時期の引退を決意。以後、帰宅部連合を揺り動かす大事件が連続して起こることは神ならぬ彼女らには予想もできなかった。
ともかく、2人は年明け1月の引退を考えた引継ぎ作業に12月の中旬はてんてこ舞いであった。もっとも、主として引き継ぎ作業で忙しかったのは運営の重鎮であった法正の方で、ものぐさな簡雍のほうは帰宅部連合劉備新聞部写真班班長および帰宅部連合写真部部長であったのだが、書類仕事は前々から全部後輩に投げていたので事務上の手続きの手間は実質皆無であった。
なのに今、保管庫の整理を法正がしているのは新聞部と写真部に残された簡雍の管理物品(のはずの物)の整理に駆り出されたからである。当初は簡雍の手伝いをしていたのであるが、肝心の簡雍がすぐにサボるため、法正も途中で忍耐を切らし、気晴らしに古いアルバムを見ていた。
本当に闇に葬らねばならない、墓場まで持っていかねばならないような社会的に政治的にヤバイ代物、あるいは金になりそうな物件は簡雍自身がちゃっかり安全なところにいち早く動かしていたのだが、それ以外のあまり重要でないか重要そうに見えないもの、公的に発表して問題ない物は“やはり”新聞部の私物棚に投げっぱなしになっていた。こういう物件に関して簡雍は自分の手から離れた瞬間存在自体を忘れることも多々あるので、最初のファイル閉じのような整理作業自体も行ったのは実際にその写真を使用した別人であるに違いない。
当然、荊南地区を制覇して正式に帰宅部連合が発足した今年度初頭以前のネガやデータファイルは全て処分されている。片隅に積み上げられていたこのアルバムもそれ以前のものであるため、もはや焼き増しもできず後は朽ちる一方である。
セピア色に色褪せた写真には、満開の桃の花のした、筵に座って甘酒が入っていると思われる器を手にした人物が3人写っている。折りたたんだ三節棍を腰に挿し片膝立てて座り、左手に杯を持ち右手でヴイサインをしている張飛に、刀袋を脇に正座して両手に杯を持ちカメラに向かって穏やかな笑みを浮かべる関羽、そして二人の間で甘酒の入っていると思しき酒瓶と切り分けられた肉料理を載せた皿を前において、胡坐をかいた劉備が右手の張り扇を肩に担ぎ、左手に杯を持って、二カッと朗らかな笑顔を向けていた。また3名とも制服ではなく私服姿である。劉備はトレードマークの赤パーカーを緑のシャツとジーパンの上に羽織っている。関羽は黒のシャツとベージュのチノパンの上にカーキ色のトレンチコート。張飛はオレンジ色のタンクトップの臍だしルックにデニムパンツとジージャン。
日時は3年前の3月3日。劉備、関羽、張飛そして簡雍がまだ中等部3年もしくは新高1としての期待に胸を膨らませていたであろう時期である。それに日付。“桃の節句”
間違いない、“ピーチガーデンの誓い”の写真だ。
最近の帰宅部連合の隆盛はすさまじく、劉備、関羽、張飛の所謂“ピーチガーデン三姉妹”の名は蒼天学園でも知らぬものがない。
−我ら三姉妹、蒼天学園に入学した時期は違えど、願わくば同じ年、同じ月、同じ日に引退せん。−
“ピーチガーデンの誓い”は彼女らの交誼の固さを示すものとして既に学園の伝説となっている。帰宅部連合の前身である劉備新聞部発足時に、資金・印刷機器と取材の足を提供してくれた張世平と蘇双の縁者が現在、幽州校区における3姉妹関係のグッズやイベントに関しての権利を持っている。例えば、該当地の幽州校区涿地区のピーチガーデンにおいては、“ピーチガーデンの誓い”で当の三姉妹が食したという“桃園結義ランチ”なる便乗メニューがあったりする。
だが、その誓いが存在したかの真偽のほどが疑問とされていた以上、このメニューに付属する話も疑わしい。3人も初期の活動区域は涿地区だったため、ランチ自体はどの時期にかは食べていた可能性はある。つまり決定的な証拠がないのである。
ピーチガーデンの宣伝パンフに“ピーチガーデンの誓い”の説明として、咲き乱れる桃の花のした、劉備が差し上げた張り扇に両脇に居並んだ関羽と張飛がおのおの居合刀と連結式三節棍を交差させている写真が添付されているが、この写真は人差し指を突きつけての“異議あり”の連発である。3名とも蒼天学園“高等部”の制服姿であるし、つけている階級章も当時着けていたと思われる1円玉でなく高額の紙幣章である。第一、3人ともいかにも“やらせ”と分かるぎこちない笑みを浮かべている。この写真自体は実際の年以降、おそらく今年の春に撮影されたものであることは明らかである。
当事者の3名に聞けば一発で分かると思われるが、3名の名がここまで大きくなった今、“あれはあったのですか”と直に聞けるほどの度胸の持ち主はほとんどいない。とはいえ、宴会の席等でぽろっと漏れた情報が皆無というわけでもなかった。法正は、その証言内容を思い起こしてみた…。
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