★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
492:★教授2004/06/22(火) 03:33AAS
◆◆復活ショートショート ある日の更衣室◆◆


「でさー…玄徳のヤツ、『頼む! 殺さんといてくれ!』って言うんだよねー。それがあまりにも悲痛だったから思わず情が移っちゃった」
「でも、殺っちゃったんでしょ?」
「当たり前じゃん。この憲和様の『爆弾包囲網』で爆殺してやった。そしたら『もう1回チャンスくれ!』って…何度もしつこいっての」
「ゲームでそこまで熱くなれる人も珍しいですよね」
 簡雍はスカートを下ろしながら隣で着替えをしている伊籍と談笑している。どうやら簡雍と劉備のゲーム対決が話題の中心になっているようだ。
「げーむとは云えど手を抜かないのが礼儀というものでしょう」
「お、いい事言った! その通りだってばー、玄徳に言っちゃれ言っちゃれ」
 伊籍の更に隣で着替えをしている趙雲も話に参加。談笑の熱がまた加熱された。
「………」
 そんな笑い声やおしゃべりが絶えない更衣室に一人ぽつんと椅子に座って姦しい3人の美女を物憂げに見つめている女子がいた。
「………(大きいよ、3人とも大きいよ…)」
 その恨めしそうな瞳の先には自分にない大きなもの。法正は心の中でため息を吐いた。
 自分は大きくない、むしろ小さい、お父さんお母さん、貴方達を恨みます…と、ずっとその事を呪い、気にしていた彼女に取って、今この空間は地獄にも匹敵する。もし、念で人に呪いを掛けられるのならこの3人の胸を小さくしてくれと心底考える辺り随分と心が荒んできてる。
 法正の恨みがましい視線に気付いたのが簡雍。憎悪とも取れる眼差しの奥にあるその羨望と嫉妬の心も勿論読んでいた。物凄くいやらしい笑みを浮かべると、いきなり隣の伊籍の胸を後ろから掴む。その行為に思わず吹き出す法正。
「きゃあ! 憲和さん…わ、私にはそんな趣味は…」
「愛い奴め、何食べたらこんな大きくなる?」
 耳元で息を吹きかけながら嫌がる伊籍を責めたてる簡雍、超危険な女だ。たまらず伊籍が隣の趙雲に助けを求めるが…
「………」
 手製のアトちゃん人形を見ながら遠い世界へ行ってしまっていて伊籍の助けを呼ぶ声は届いていなかった。伊籍の胸を掴んだまま方向転換して法正に向き直る簡雍。
「今年は豊作だぞー…ほれほれ」
「う、羨ましくなんかないわよ! 何さ、牛乳! 大きければいいってもんじゃないわよ!」
 カチンときた法正が食らい付いてきた。簡雍にしてみれば狙い通りであったのだが。 
「わ、私で遊ばないでくださいよ! それに牛乳って私の事!?」
 抵抗及び脱出を試みた伊籍だが、しっかり簡雍の巧みなロックに阻まれて文句の声だけが法正に届く結果に終わった。
「どうせ、私は小さいよ! 肩凝らない分お得だもんね!」
「んー…法正ったら可愛い!」
 伊籍を解放して今度はふてくされる法正に躍り掛かる簡雍。瞬間的に赤ランプが激しく点灯した法正、驚異的な反射神経でそれを回避した。
「待て待てー」
「あーもう! 何でこうなるのよ! あっちいけったら!」
 更衣室内に巻き起こる壮絶な鬼ごっこ。今日は捕まったら一巻の終わりの法正が逃亡者、捕まえたら悪戯三昧の簡雍が鬼…珍しい光景だった――


「更衣室が何が何やら騒がしいな」
「いつものアレでしょ。放っておこう」
 黄忠と厳顔がどったんばったん騒がしい更衣室を横目に通り過ぎる。大人の反応なのか関わり合いになりたくなかっただけなのかは分からないが…。
 20歳の現役高校生の二人、体育の授業なのだろう…体操服姿ではあるが…。
 飽きたのか更衣室から出てきた簡雍。二人の姿を見るなり正直な言葉が飛び出す――

「うわ、きっつ!」
「「何だとコラ!」」

今度は簡雍が二人に追い掛け回される。今日も平和だ――


「よいしょ…」
 簡雍、黄忠、厳顔がいなくなった廊下に法正と伊籍を担いで歩く趙雲の姿があった。
 法正と伊籍が何をされたのかは不明。当人達も語らないし誰も触れない――

              言迷を残して糸冬言舌
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