★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
506:海月 亮2004/12/17(金) 03:20
倒れ伏した甘寧の姿を見つめ、沙摩柯は何の感慨もなく、呟いた。
「まさか…本調子ではなかった…?」
切れ長の双眸には、長湖部軍の筆頭将を打ち破ったことへの歓喜はない。沙摩柯にも解っていたのだろう、もし甘寧の体調が万全であれば、あのアッパーで自分が飛ばされていたことを。
古武道の達人である彼女の実力であれば、徒手であっても並の剣士など物の数ではない。しかしながら、今打ち倒した相手は、剣術の心得はないものの、合肥で「学園最強剣士」として名高い張遼と互角に戦ったといわれる学園屈指の喧嘩屋なのだ。
何でもありの「喧嘩」ということであれば、その戦闘能力は帰宅部の誇る"五虎"とほぼ同等とまで言う者さえいる。それが誇張だとしても、明らかに今の自分より格上であったことは間違いないことは、現実に手合わせして思い知っていた。
「でも、此処は戦場…悪く思わないでください」
省47
507:海月 亮2004/12/17(金) 03:20
本来の病状に加え、先ほどのダメージの為に顔色は目に見えて悪く、息も荒い。触れた手からは、明らかに高熱を発していることも理解できた。表情には出さないが、今こうしていることも、甘寧にとっては辛いことなのかもしれない。
「でも…先輩を置いていくなんて…ッ」
「バカヤロウ、此処でお前までっ、飛ばされたら…お前のことを任された、部長に、申し訳たたねぇんだ!」
その一喝に、丁奉は二の句が告げない。泣きそうな表情の丁奉に、甘寧は不意に表情を緩めた。
「俺が…お前のこと、任されたとき…将来長湖部に、とって、必要な人材になるから、大切にしてあげて、って…部長が、言ってたよ。俺なんかの、せいで…そんなヤツを、さっさと、飛ばされるわけに…いかねぇ。ここは、逃げ延びるんだ…部長の、ためにも…俺の、ためにも…」
「でも…」
省41
508:海月 亮2004/12/17(金) 03:26
と、此処までで第一話終了です。
後の文章量もさほど、変わらんのですが…外見描写とか余計なんだろうか…。

史実どころか演義と比べてもなにやら無理のあるキャストになってます。
甘寧最期のシーン、実は横光三国志のオマージュなんですが…

省7
509:海月 亮2004/12/20(月) 21:49
第一部 >>503〜>>507

風を継ぐ者」
-第二章 その涙は誰が為に-

「…そう…興覇のヤツ、最後の最後までカッコつけて…もうっ…」
省41
510:海月 亮2004/12/20(月) 21:50
(や〜れやれ…まさか、興覇までやられちゃうなんてねぇ…)
この日…甘寧脱落の報を受け、さらに沈み込んだ長湖部本営の会議室を一番最初に出てきたのは、ボリュームのある色素の薄い髪を、無造作に二つ括りにした少女だった。
どこか人を食ったような細いタレ眼が特徴的なその少女の名は(カン)沢、綽名を徳潤という。
苦学生であったが、記憶力に優れた明晰な頭脳と、かつて赤壁島戦役において曹操に黄蓋の偽降を信じ込ませたといわれるほどの能弁を認められ、長湖部の重鎮に登りつめた一人である。
実家が寺であったことから仏教関係の事跡に特に詳しく、のちに揚州学区の外れにある古寺を改修した際、一言一句過たずに書き上げられた経典を奉納したことで知られることとなる…それは、さておき。
(カン)沢の明晰な頭脳は、先ほどの会議のあらましを正確にリピードしていた。
省42
511:海月 亮2004/12/20(月) 21:50
「どうして、あんなに伯言に冷たくあたるんです、公瑾さん?」
群がっていた後輩達と陸遜を帰したあと、(カン)沢は周瑜と1対1になった個室の病室でこう切り出した。普段は飄々とした(カン)沢が、柄にもなく真顔で問い掛けてくるのを見て、周瑜は苦笑した。
「なにを言い出すかと思えば…まさか徳潤、そんなことを聴く為に残ったの?」
「…真面目な話ですよ。まさか去年の合宿の一件、まだ根に持ってるんですか?(「長湖部強化合宿〜ひと夏の思い出」参照のこと)」
この、ささやかな歓送パーティの際もやはり周瑜は、陸遜とまともに取り合おうとさえしなかった。
他の若手部員の手前、あからさまに無視するようなことはしなかったが、一瞥した程度ですぐに別の後輩達の相手をする。
省36
512:海月 亮2004/12/20(月) 21:51
「部長…どうして、ここに?」
「…ボクも公瑾さんに、ちゃんと挨拶しときたかったから。子布さんを撒くのは大変だったけど」
必死に感情を抑えようとしているみたいだったが、眼と声は嘘をつけない。その声は、今にも泣きだしそうなくらい、震えていた。
「みんなには内緒だったんだよ…」
そう言って席につくと、孫権は懐から一枚の写真を取り出した。それを手にとった(カン)沢は怪訝な表情をして孫権に問い掛けた。
「これは…」
省30
513:海月 亮2004/12/20(月) 21:52
日はすっかり落ち、何時しか、病室の電灯に明かりが灯っていた。時計は、5時半を少しまわっていたので、本来ならとっくに面会時間は過ぎていたはずだ。恐らくは、孫権が入ってくる時に職員に頼み込んだか何かしたのかもしれない。
そこには少女三人を中心に、沈黙があるだけだった。いったい最後の言葉から、どのくらいの時間が経っていたのだろう。その沈黙を突き破るように、(カン)沢は心なしか重くなったような、自分の口をようやく開いた。
「そうだったんですか…」
まるで独り言のように、そう言うのが精一杯だった。彼女の聡明さは、総てを聞かずとも、その真相を完全に解き明かしていた。
陸遜のことを大切に思っていたからこそ…その才能を知りながら…自分の後継者として申し分ないと思っていたからこそ、自分と同じ道を歩ませたくなかったのだ。
おそらくは自分と魯粛の跡目についた呂蒙の末路を聞き及び、その想いを一層強くしていたのだろう。
省38
514:海月 亮2004/12/20(月) 21:59
その翌日のこと。
会議はいまだ紛糾の様相を呈していた。先に停戦和議の為に赴いた程秉も、傅士仁・糜芳が関興によってぶちのめされる様を記録したビデオを上映しながら、劉備のドスが利いた「宣言」を聞かされたショックで寝込んでしまう始末だった。
いわゆる「文官系幹部」の中でも、肝っ玉の据わった程秉がそんな有様なのは、いかにそれが凄惨な有様だったかをよく物語っていた。和議が叶わないと言う事は、劉備の態度を鑑みれば帰順を申し入れても無駄だということと同義といっていい。
「まぁ、これで張昭大先輩お得意の"降伏ー!"は使えないわよね〜」
「聞こえてるわよ歩隲ッ! それどういう意味よ!」
「あ!い、いえ、これはただのジョークでして…」
省36
515:海月 亮2004/12/20(月) 22:03
「風を継ぐ者」
-第三部 風を待った日-

一体どれほどの者か…と期待していた幹部達にとって、それはあまりに意外すぎる人物の名前だったに違いない。満座、呆気にとられて開いた口が塞がらない様子であったが、皆一様に「何を言ってるんだ、コイツは」と言う表情をしている。
ただ一人、孫権を除いては。
「なんですって!!」
省44
1-AA