★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
511:海月 亮2004/12/20(月) 21:50
「どうして、あんなに伯言に冷たくあたるんです、公瑾さん?」
群がっていた後輩達と陸遜を帰したあと、(カン)沢は周瑜と1対1になった個室の病室でこう切り出した。普段は飄々とした(カン)沢が、柄にもなく真顔で問い掛けてくるのを見て、周瑜は苦笑した。
「なにを言い出すかと思えば…まさか徳潤、そんなことを聴く為に残ったの?」
「…真面目な話ですよ。まさか去年の合宿の一件、まだ根に持ってるんですか?(「長湖部強化合宿〜ひと夏の思い出」参照のこと)」
この、ささやかな歓送パーティの際もやはり周瑜は、陸遜とまともに取り合おうとさえしなかった。
他の若手部員の手前、あからさまに無視するようなことはしなかったが、一瞥した程度ですぐに別の後輩達の相手をする。
それを何時しか一歩離れて見ていた(カン)沢には、なんともやりきれない気分になった。周瑜の表情を見る限り、このイベントを迷惑がっている風はなかった。
「仲…いえ、部長も、こんな気を遣わなくたって…」と声を詰まらせていたのは、芝居には思えなかったし、心からの一言に思えたからこそ、(カン)沢は横から、これは陸遜の仕業だ、とわざと茶化した風に言ってみせた。
だが、それを受けても周瑜は「部長が来れないから、代わりに来てくれたんでしょ? 無理しなくてもいいのにねぇ」なんて言い出す始末だ。
一見、陸遜に対する労いにも聞こえなくないが、これでは立役者の陸遜も浮かばれない。(カン)沢は、それが哀れでならない。
そんな周瑜の態度を気にした風もなく、輪から外れて言葉をかけかねている後輩を促して歩き、満座に気を遣う陸遜の姿を見れば、ひとしおだ。
分かれゆく陸遜にも、一言も声をかけない周瑜の態度を見かねたからこそ、(カン)沢は周瑜にその訳を問い詰めるつもりでいた。
「言ってる意味が解らないわよ…そんなことに付き合ってられる程ヒマじゃないわよ、私」
「とぼけないでください!」
あくまではぐらかそうとする周瑜の態度に(カン)沢は思わず手を壁に叩きつけた。その視線には、らしくなく怒気を含んでさえいる。
「伯言の力量(ちから)は、既にあなたの後継者として十分でした! 聞けば、子敬ねぇさんが引退するときに、わざわざ口を出して、伯言をその後継にすることを邪魔したなんて話も聞いてます! どうして、そんなことをしたんですか!? あいつは…あいつはあんなに、公瑾さんのことを…」
「…いい加減にして徳潤…誰か聞いていたらどうするの?」
そう言って(カン)沢の言葉を途切れさせようとする周瑜だったが、無駄なことだと悟っていたかもしれない。おそらく(カン)沢は、あらかじめ人払いくらいはしているだろう。この少女の抜け目ないところは、周瑜もよく知っていた。
「構うもんですか! それにあなただって今の長湖部がどういう状況だってわかっているでしょう!? せめて置き土産として、伯言を推挙してあげてもバチは…」
「……わかった風な……こと言わないで……」
興奮気味だった(カン)沢は、消え入りそうな声にはっとして周瑜を見つめなおした。何時しか目の前の少女は耳をふさぐようにして俯き、かすかに震えている。その表情はわからないが、声は泣き声だった。
「あなたに…あなたに、私とあの娘の何がわかるって言うのよ…!」
「解りますとも! 少なくとも、あの合宿から、あなたがそれとなく伯言を避けている位は…いえ、あなたがあの娘のことを嫌っているくらいは!」
「馬鹿言わないでッ!」
周瑜の凛とした、そしてトーンの高い怒声が、夕日の差し込む病室に響いた。眦を引き裂き、涙で真っ赤に腫れ上がった瞳で、キッと(カン)沢を睨みつけた。
その迫力は、かつて赤壁直前に黄蓋とやらかした芝居の喧嘩のときに見せた表情に似て、それにはない鬼気迫るものがあった。その迫力に、(カン)沢は思わず倒れそうになり、なんとかふんばって見せた。
あまりの剣幕に呆気に取られた(カン)沢が周瑜の方へ向き直ると、当の周瑜は俯き、泣いていた。
「公瑾…さん」
「馬鹿なこと…言わないでよ…私はあの娘のこと、嫌いじゃない…嫌いなんかじゃない……っ」
それこそ、それまでずっと彼女が抱きつづけていた、本音なのだと(カン)沢は悟った。
それと同時に、自分はそれを知らず、彼女の心の、決して他人が土足で踏み込んではいけないところに、自分が踏み込んでしまっただろう事にも、気がついた。
でも、だからこそ聞きたかった。聞かずにはいられなかった。わざと陸遜を避ける、その理由を。
「だったら…何故」
「徳潤、もうそのくらいにしてあげて」
不意に別の声が聞こえ、此処には自分と周瑜しか居ないと思い込んでいた(カン)沢はぎょっとしてそちらを振り向いた。そこには孫権の姿がある。
前線に駐屯している周泰ならいざ知らず、いつもちょこまかと後ろについてきている谷利の姿もなく、一人でそこにいた。
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