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516:海月 亮 2004/12/20(月) 22:04 ところ変わって、陸口棟。 「何ですって? それ本当なの?」 「ええ…今通達が来ました。もうすぐ、到着するそうです」 陸遜、前線総司令の任に就く……その命令を受け、諸将は困惑の色を隠せない。 ただ一人、丁奉を除いては。 「部長も人が悪い…こんな時に新手の冗談を試さなくてもいいものを」 「あんな文学少女にこんな大役、勤まるわけないじゃん。部長も何考えてるんだか…」 仏頂面をさらに難しい顔に変える周泰、そして不満一杯の表情で毒吐く潘璋。陸遜に先立って棟の幹部室に来ていた宋謙や徐盛にとっても「とてもあの娘なんかじゃ…」というのが本音である。 長湖部に参画する数少ない文化部のひとつである軽音部のマネージャーで、賀斉の所属するビーチバレー部のマネージャーを兼任する陸遜は、経理の才能などは「そこそこできる」程度の認識はされていた。 だが当然ながら、そこからはとてもこの局面に総大将として用いるに足りる才能があるとは思われていなかった。 潘璋の揶揄も、普段から陸績と一緒に所構わず文庫小説を読み漁っている姿を目撃されていることに起因する。陸遜(と陸績)の「本の虫」ぶりはある意味では語り草になっているほどだった。 だが、丁奉だけは違う。去年赤壁島キャンプに紛れ込み、陸遜と仲良くなったことでその才覚をよく知っている彼女は、この局面をひっくり返せるだけの能力が、陸遜に備わっていることを信じて疑わない。 そのキャンプの後、周瑜にきつく言われていた彼女は、いつかうっかりそのことを話してしまった呂蒙以外にそのことを話していない。 「冗談じゃない…あの娘に止められるようなら、あたし達が既にやってるよ!」 「まぁまぁ…みんな、そこまでにしましょ。今までの印象はそうかもしれないけど、もしかした本当に何かあるのかもしれない…ここは、彼女の戦略方針を聞いてから判断しても、遅くは無いわ」 凌統をなだめ、最高学年として表面上取り繕ってみせる韓当にしてみても、不満の色は隠せない。諸将も彼女の顔を立て、渋々納得してみせたという顔つきだ。 そのことから見ても、此処での実質のまとめ役は韓当であることに間違いなく、韓当が陸遜の展望に不満を示せば、暴発は必至だろう。 しかし、丁奉はそれすらも、陸遜なら多分変えてしまえると確信していた。 恐らく、慎重な性格の陸遜なら、初めはいろいろ言われるかもしれない。その分、この戦いが終焉したときには、陸遜へ寄せる信頼や尊敬は揺ぎ無い物となるだろう。 (伯言先輩なら、きっと大丈夫…でも…本当にこれで良かったんですか?…部長、公瑾先輩…) その一方で、丁奉はどこか、酷く寂しいモノを感じていた。 もう二度と戻らない、彼女達が願ったひとつの小さな幸せは、今ここに終わってしまったのだから。 「…という訳で、菲才ながら私、陸遜が此度の大役を任されることになりました。宜しく、御願いします」 諸将を幹部室に集め、命令文書を読み上げた陸遜は、手短にそう挨拶した。 丁奉、駱統以外の諸将の顔はなおも不満そのもの、韓当は「お手並み拝見」といった感じで、表面上は涼しい顔をしている。 「それでは、これからの戦略方針についてですが…公緒、近隣の地図を」 「はいっ、只今」 控えていた駱統が、あわただしくも手際良い動きで鞄から地図を取り出し、黒板に貼り付ける。そして陸遜の指示に従って、地図にマグネットの部隊マークを配置する。 赤のマグネットは帰宅部連合、青のマグネットは長湖部の布陣を表していた。 「現在、オウ亭を最終防衛ラインとして、既に韓当先輩が完璧な布陣を終えてくださいました。現状、この布陣において特に付け加えるべき点はございません。宋謙先輩、徐盛先輩は、それぞれ左翼、右翼の中核に配し、後は遊撃軍として、本陣に置きます」 それを聞くと、一部の者は明らかに小馬鹿にしたようにクスクスと笑った。「コイツ、やっぱりわかってないなぁ」といった感じのあからさまな嘲笑である。 「えと、お静かに。御意見がある方はお伺いします」 「では、僭越ながら一言、具申させて頂く」 座の中から、周泰が進み出た。 「先に出陣し、やむなく夷陵棟にて篭城を余儀なくされている孫桓殿と朱然殿のことだ。知っての通り、孫桓殿は部長の従姉妹であり、部長の一家の中では、もっとも部長の寵愛を受けている。その方の危難を一刻も早く救い、部長の心痛を安堵させることが重要と思われるが」 普段無口な周泰が、こうも饒舌になるのは珍しいことである。諸将も思わず、聞き入ってしまっていた。しかし陸遜は、気にした風も無く、彼女が言い終わるのを待ってから、おもむろに己の見解を述べる。 「確かに、それも重要です。しかしながら夷陵は堅牢な地であり、そこには非常食の蓄えなども十分との報告を頂いています。その上で、恐らくは若手随一の指揮能力をお持ちである孫桓さんと、実戦経験豊富な朱然さんがサポートについているのであれば、落ちる事はほぼ無いでしょう。むしろ、そこを包囲している帰宅部連合の精鋭を釘付けに出来ている意味では、現状のままにしておくのがベストです」 人物評価に誇張せず、その上で現状を踏まえた、これまた見事な答弁であった。この一言を吐いたのが周瑜や呂蒙であれば、諸将はみな感服して、大人しくその指示に従っただろう。 しかしながら、これまで歯牙にもかけていなかった一書生の意見、として諸将は見ている。ましてや、彼女等は先の敗戦の恥を雪ぐため、血気にはやる風をみせているだけに尚更であった。 「よって、現状で特に大きな変化が無い限り、我々も特に動いてみせることもありません。各員、指示があるまで防御を固めて待機といたします。軍議は、以上とします」
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