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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
631:国重高暁2005/05/21(土) 18:12AAS
■■ シ水関 ■■
劉備・関羽・張飛が蒼天学園高等部へ進んだ頃、その内側はかなり荒れていた。
涼州校区総代だった董卓が、生徒会執行部員十名の追放を口実に洛陽棟へ入り、一挙に学園の主機能を制圧し、蒼天会長を少さまから献さまへすげ替えるなどの暴威を振るったのである。
これをみて、陳留棟の曹操は中華市内各地へ檄を飛ばし、南皮棟の袁紹らと「董卓追討軍」を結成。横河の南岸のシ水関で衝突したが、苦戦を強いられ、果ては敵将・華雄により、孫堅軍の剛勇・祖茂をリタイアさせられたのであった。
「たれか、あいつを飛ばせる娘はいないの?」
追討軍の盟主・袁紹が、本陣全体を見渡して号令した。と、そこへ、冀州校区総代・韓馥の部下、潘鳳が進み出て言う。
「俺が飛ばしてやるぜ!」
「頼もしいですね。では、お任せしましょう」
癒し系の声援を受け、彼女は戦場へ飛び出した。
「行くぜ!」
気合一閃、模造刀を振るって斬りかかった次の瞬間。
(き……消えちまった?!)
何と! 相手の姿が、視界から外れたではないか。
(全く、あんたは猪武者ね)
華雄は、潘鳳の切先をかわし、背後へ回り込んでいた。そして、自分の模造刀で、うろたえる彼女を袈裟懸けに斬った。葛餅みたいに三角に……はならなかったが、それでもうつ伏せにばったり倒れた。
「じゃ、これはもらっていくわ」
華雄は、潘鳳の階級章を引きちぎり、横河へ向かって思い切り投げ捨てたのである。
「たれか、あいつを飛ばせる娘はいないの?」
袁紹は、再び本陣全体を見渡して号令した。と、そこへ、彼女の異母妹・袁術の部下、兪渉が進み出て言う。
「先輩、わたしにお願いできないでしょうか?」
「では、あなたが潘鳳さんのリベンジを果たすというのですね」
「はい。この兪渉、必ず、あの娘を飛ばしてまいります!」
不退転の決意と共に、彼女は出陣した。
「先輩、胸を借りさせていただきます」
両手両足をおっ広げ、ちらちらと誘いの隙を見せる。
(もらったわ!)
挑発された華雄は、模造刀を振るって斬りかかったが、それが相手の思う壺。先刻とあべこべに、自分がバックを取られる破目となった。
(見せましょう。わたしたち、柔道部員の力を……)
兪渉は、腕をフックし、担ごうとする。
(甘い!)
これをみて、華雄は右足を振り上げ、恥骨結合の辺りをぼかんと蹴りつけた。相手がびっこを引いて飛びのくと、容赦なく鉄拳制裁を食らわす。
「人の三大急所、それは眉間・鳩尾・恥骨接合よ。覚えときなさい!」
彼女は、仰向けに倒れた兪渉の階級章を引きちぎり、横河へ向かって思い切り投げ捨てたのであった。
「たれか、あいつを飛ばせる娘はいないの?」
袁紹は、三たび本陣全体を見渡して号令した。
「本初ちゃん、あんたの部下を出したら?」
と提案したのは、傍らにいた曹操。彼女とは、幼馴染で同級生の間柄である。
「いえ、それが、その……わが冀州校区の誇る『ソードマスター』と『ナイトマスター』が、まだここへ到着しておりませんので……」
袁紹は、歯噛みしてそう言った。
こんな彼女たちの会話を、本陣の片隅で聴いていた三人娘がある。
「何や、かったるいな……」
最も小柄な、ショートカットの眼鏡っ娘が、大きく伸びをしてそう言った。
「姉者、いかがなされた?」
最も大柄な、ストレートロングの少女が問う。
「どないしたもこないしたもあるかい。本初先輩の派遣した娘が、あっちうまに二人も飛ばされて……うち、もう観ちゃおれんのや」
「よし、ほな、うちがやっつけたる!」
立ち上がるなり、右手を高々と挙げて叫んだのは、両者の向かいに座っていたツインテールの少女である。
「益徳、行くな!」
やにわにその場を離れようとする彼女の袖を引き、ストレートロングが警告した。
「何でやねん?」
「あの娘は腕っ節も強いが、頭脳プレーもできる。お前のような猪武者では危ない」
「はあ、さよか……」
ツインテールがしおしお引き返す。入れ替わりに、ショートカットがストレートロングへ近づいて言う。
「雲長、どないする?」
「姉者、お任せくだされ。私には、あの娘を飛ばす自信がある。早速、本初先輩へ掛け合うといたそう」
寸考ののち、ショートカットはぽんと手を打って答えた。
「よし、ここはあんたに頼も。ほな、飛ばされんように頑張りや!」
ストレートロングは小さくうなずき、袁紹の元へ馳せ参じたのである。
「見慣れない娘ですね……あなたは、一体たれなのでしょう?」
盟主の問いに答え、かの少女は自己紹介をした。
「私は、姓を関、名を羽、字を雲長と申す者。平原棟の弓道部長を務めておる」
「平原棟といえば……玄徳さんのところですね」
「いかにも」
「わかりました。それはそうと、この私に何の御用でしょう?」
関羽は、戦場の華雄を指して言った。
「当方、あの娘の階級章を剥奪したいと存ずる」
「何ですって?!」
驚いたのは袁紹である。幾ら平原棟長・劉備の義妹といっても、身分の低い者を前線へ出すわけにはいかない。
「ちょっと、地位をわきまえてくださいません?」
「身分などどうでもいい。私には、あの娘を飛ばす自信がある」
「とはいえ、うかつにあなたを派遣いたしますと……」
悩んでいるところへ、曹操が再び首を突っ込んだ。
「本初ちゃん、この娘は闘いたくてうずうずしてるわ。罪を糾すなら、負けて逃げ帰ってからでも遅くはないわね」
寸考ののち、袁紹は答えて言う。
「わかりました。あなたがそうおっしゃるなら、私も従いましょう」
そして、温かい緑茶の缶を関羽へ差し出した。
「雲長さん、景気付けに飲んではいかがですか?」
「いや、今はいらん。まず、あの娘を飛ばしてからいただくとしよう」
彼女は、袁紹のもてなしをはねつけ、凛々と戦場へ向かったのである。
腰の模造刀を抜き、関羽と華雄は身構えた。互いの眼が光る。
「華雄先輩、階級章は奪わせていただく!」
「さあ、それはどうかしら?」
と、先に仕掛けたのは相手方であった。
「わが刃、受けなさい! 燕返し!」
右腕一本で模造刀を持った華雄が、体をぶん回しながら斬りかかる。
ジャキーン!
互いの刃が触れた次の瞬間、彼女は仰向けに倒れていた。必殺の「燕返し」を関羽に受け止められ、頚動脈を斬られたのである。
(な、何という強さ……)
あわれ、華雄は階級章を剥奪され、永久に蒼天学園の歴史から除去されたのであった。
大きな戦利品を手に、関羽は本陣へ舞い戻った。
「お帰り。結果はどないやった?」
「うち、それだけを気にしとってん……」
劉備や張飛から声がかかる中、彼女は華雄の階級章を提示する。
「わお、華雄先輩の階級章やないか!」
「ほんまや……ほんまに、華雄先輩の階級章や……」
しばし茫然とする両者を差し置き、関羽は袁紹の元へ向かった。
「当方、約束どおり、あの娘を飛ばしてまいった」
「何ですって?!」
盟主も驚きを隠せない。何しろ、既に友軍武将を三人も飛ばされたのだから。
「ちょっと、冗談は止してくださいません?」
「冗談ではない。彼女の階級章がここにござる」
と、関羽は後ろ手に握っていた物を提示した。
「な、何と! あ、あなたが華雄さんを……い、一介の棟長の部下にすぎないあなたが、よくも、まあ……」
不快感を覚えた袁紹が、彼女へ撃ちかかろうとすると、曹操が割り込んで制止した。
「本初ちゃん、あたしの言ったとおりでしょ? 『罪を糾すなら、負けて逃げ帰ってからでも遅くはない』って」
そして、乳房の間から、先刻の缶入り緑茶を取り出す。
「これ、懐で保温しといたわ。さあ、一気に飲み干しなさい」
「かたじけのうござる。では、お言葉に甘えて……」
関羽は、軽くタブを開け、両手で缶を奉げ持ち、まだ冷めていない緑茶をキューッと空けた。彼女の傍らには、華雄から奪った階級章が投棄されていた。
糸冬
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