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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
712:雑号将軍2005/07/04(月) 22:20
■卒業演奏 Part2■
ついに卒業式がやってきました。
私は朝の光をいっぱい受けながら、大きく深呼吸をします。
「三年間、ありがとう。最後だけど、今日もよろしくね」
そう語りかけて、制服に袖を通しました。最後だと思うとなんだか悲しい気持ちになります。
それでも、私は新しい世界が待っています。そこへ進むためには私は前に進まなければなりません。だから私は自室を後にすることにしました。
洛陽棟第一体育館。もうたくさんの生徒でごった返していました。そこには私が知っている方々の姿がちらほら。
そんなことを考えながら、私は自分の教室に向かおうとしました。そのとき、ほんの一瞬でしたが、懐かしい人の姿が見えました。
「あ、あれは孟徳さん!?」
私が振り返ったとき、もうその姿はありませんでした。
曹操 孟徳・・・・・・私がこの学園で最も信頼していた先輩。中には彼女のことを悪く言う人もいたけれど、私は思います。あの人以上に学園の統一を望んでいる人はいない・・・と。
教室では担任の董仲舒先生が号泣していました。まだ卒業式も始まっていないのに。
そんな先生は私たちに卒業式の諸注意をすませると、体育館へと移動することを、促しました。
廊下に並んだ私たちは下級生から胸に付ける花を受け取り、体育館へと歩いていきました。
「卒業生入場」
司会の先生合図で私たちは会場へと向かいます。ここまでくると、やっぱり緊張するものです。私は何度も深呼吸をして、自分を落ち着かせようとしましたが、むしろ逆効果でした。
席に着いてから私は気が気じゃありませんでした。
失敗しちゃいけない・・・・・・。そんなプレッシャーが私の身体の中を満たしているみたいな気がします。
でも、私は負けるわけにはいきません。選考会で私と一緒に競い合った人たち、私に投票して下さった皆さんの想いを受けて、私はこの場に立つことができているのですから・・・・・・。
「卒業生全員合唱」
ついにこのときがきた。私はすっと席から立ち上がり、グランドピアノのある方へと向かいます。
こつこつと、革靴の乾いた音が体育館に響きます。それほどまでに体育館は静まりかえっていたのです。
席に着き、私は気持ちを指先に集めます。これは私がピアノを弾くときに必ずします。こうした方がピアノに気持ちが乗りやすいような気がして。
指揮者が私の方を向き、指揮棒を振り始めました。それに合わせて私も鍵盤に指を滑らせるようにして、ピアノを弾き始めました。
♪僕らの前にはドアがある いろんなドアがいつもある
♪ドアを大きく開け放そう 広い世界へ出て行こう
これは「広い世界」という名前の歌です。小等部の卒業式で歌った歌で、もう一度、歌ってみたくて、皆さんにお願いしてこの歌にしていただきました。
私はそこまでしてくださった皆さんに応えるために、必死に、全力で、自分の最高の演奏を目指しました。
周りではみんなが泣き声になりながらも歌っています。泣いていたのはみんなだけではありませんでした。私も、三年間を振り返ると、自然と涙が溢れて、止まってくれません。
それでも、私は持てうる力のすべて、なにより想いをピアノに載せて、ピアノを弾き続けました。
♪雨に打たれ 風に吹かれ
♪手と手をつなぎ 心をつなぎ
♪歌おう 歌おう 歌いながら
もう、この曲も終わりに近づいてきました。この歌が終わってしまうと、もうみんなは別々の道へと旅立ってしまう。
そう思うと、一度は止まりかけた涙が、もう一度、堰を切ったようにまた溢れてきました。もうこの想いは止められませんでした。
私はせめてこの想いをこの会場にいる皆さんに伝えるために、より一層、気持ちを前面に押し出し、ピアノと心を一つに、そして、最高の音色を響かせようと努力しました。
歌は終わりました。
すると、会場にいた皆さんが本当に、本当に、会場が揺れるんじゃないかというほどの拍手を私たちに向けて送って下さいました。
下級生、招待席に座っていた誰もが、涙を流してくれていました。
これが、多少なりとも自分の演奏のおかげだと思うと、今度はうれし泣きをしてしまいました。今日は泣いてばっかりです。
みんなに会場に来ているみんなと想いを共有することができるから、ピアノはやめられないのだなあと私は改めて思いました。
そして、私はそんな自分の気持ちがピアノで伝えられる。そんなピアニストになりたいです!それが私の夢・・・・・・。
卒業式は終わった。荷物をまとめ、懐かしい中等部時代の友だちと昔話を弾ませた後、私は体育館に舞い戻ってきていた。
体育館の舞台に上がった私は、その横に置かれている、漆黒でとても大きな友だちに触れました。
「二年間、ありがとう。あなたと一緒にいられて楽しかったです」
窓の隙間から差し込んでくる光は私の友だち・・・グランドピアノを鮮やかに輝かせます。その姿が笑いかけてくれているように見えました。
「最後にもう一曲だけ、一緒に・・・・・・ね」
私はそう言ってゆっくりとその頭を撫でてあげた後、椅子に腰を下ろし、このピアノとの最後の演奏をしようと鍵盤に手を添えたとき・・・・・・。
「伯和ちゃん!最後の演奏にあたしを呼んでくれないってのはどういうことなのっ!」
「ほんま、ほんま。伯和はん、つれないやないですか〜」
二人の少女の声が私の耳に響き渡ったのです。
この声の主を私は知っていました。私を「伯和」と呼んでくれる人なんて、あの二人しかいませんから・・・・・・。
「孟徳さん!玄徳さん!」
私はその名前を大きな声で呼びました。
「伯和ちゃん卒業おめでとっ!あたし感動して泣いちゃったんだから!」
そう言って、孟徳さん・・・曹操は私の方にパタパタと走って来ます。
その後ろを追うようにして、玄徳さん・・・劉備が私の方へと来てくれました。
「邪魔かも知れませんけど、伯和はんの高校生活最後の演奏、うちらも参加させてもらいますわ。うちもギターくらいは弾けますし!」
玄徳さんはそう言って、不敵な笑みを浮かべていました。この笑顔にはなにか人を惹きつける力があるような気がします。
「いいんですか?じゃ、じゃあお願いしてもいいですか?」
私はうれしさ半分、恥ずかしさ半分でそう言うと、二人は笑い、そして頷いてくれました。
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