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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
712:雑号将軍 2005/07/04(月) 22:20 ■卒業演奏 Part2■ ついに卒業式がやってきました。 私は朝の光をいっぱい受けながら、大きく深呼吸をします。 「三年間、ありがとう。最後だけど、今日もよろしくね」 そう語りかけて、制服に袖を通しました。最後だと思うとなんだか悲しい気持ちになります。 それでも、私は新しい世界が待っています。そこへ進むためには私は前に進まなければなりません。だから私は自室を後にすることにしました。 洛陽棟第一体育館。もうたくさんの生徒でごった返していました。そこには私が知っている方々の姿がちらほら。 そんなことを考えながら、私は自分の教室に向かおうとしました。そのとき、ほんの一瞬でしたが、懐かしい人の姿が見えました。 「あ、あれは孟徳さん!?」 私が振り返ったとき、もうその姿はありませんでした。 曹操 孟徳・・・・・・私がこの学園で最も信頼していた先輩。中には彼女のことを悪く言う人もいたけれど、私は思います。あの人以上に学園の統一を望んでいる人はいない・・・と。 教室では担任の董仲舒先生が号泣していました。まだ卒業式も始まっていないのに。 そんな先生は私たちに卒業式の諸注意をすませると、体育館へと移動することを、促しました。 廊下に並んだ私たちは下級生から胸に付ける花を受け取り、体育館へと歩いていきました。 「卒業生入場」 司会の先生合図で私たちは会場へと向かいます。ここまでくると、やっぱり緊張するものです。私は何度も深呼吸をして、自分を落ち着かせようとしましたが、むしろ逆効果でした。 席に着いてから私は気が気じゃありませんでした。 失敗しちゃいけない・・・・・・。そんなプレッシャーが私の身体の中を満たしているみたいな気がします。 でも、私は負けるわけにはいきません。選考会で私と一緒に競い合った人たち、私に投票して下さった皆さんの想いを受けて、私はこの場に立つことができているのですから・・・・・・。 「卒業生全員合唱」 ついにこのときがきた。私はすっと席から立ち上がり、グランドピアノのある方へと向かいます。 こつこつと、革靴の乾いた音が体育館に響きます。それほどまでに体育館は静まりかえっていたのです。 席に着き、私は気持ちを指先に集めます。これは私がピアノを弾くときに必ずします。こうした方がピアノに気持ちが乗りやすいような気がして。 指揮者が私の方を向き、指揮棒を振り始めました。それに合わせて私も鍵盤に指を滑らせるようにして、ピアノを弾き始めました。 ♪僕らの前にはドアがある いろんなドアがいつもある ♪ドアを大きく開け放そう 広い世界へ出て行こう これは「広い世界」という名前の歌です。小等部の卒業式で歌った歌で、もう一度、歌ってみたくて、皆さんにお願いしてこの歌にしていただきました。 私はそこまでしてくださった皆さんに応えるために、必死に、全力で、自分の最高の演奏を目指しました。 周りではみんなが泣き声になりながらも歌っています。泣いていたのはみんなだけではありませんでした。私も、三年間を振り返ると、自然と涙が溢れて、止まってくれません。 それでも、私は持てうる力のすべて、なにより想いをピアノに載せて、ピアノを弾き続けました。 ♪雨に打たれ 風に吹かれ ♪手と手をつなぎ 心をつなぎ ♪歌おう 歌おう 歌いながら もう、この曲も終わりに近づいてきました。この歌が終わってしまうと、もうみんなは別々の道へと旅立ってしまう。 そう思うと、一度は止まりかけた涙が、もう一度、堰を切ったようにまた溢れてきました。もうこの想いは止められませんでした。 私はせめてこの想いをこの会場にいる皆さんに伝えるために、より一層、気持ちを前面に押し出し、ピアノと心を一つに、そして、最高の音色を響かせようと努力しました。 歌は終わりました。 すると、会場にいた皆さんが本当に、本当に、会場が揺れるんじゃないかというほどの拍手を私たちに向けて送って下さいました。 下級生、招待席に座っていた誰もが、涙を流してくれていました。 これが、多少なりとも自分の演奏のおかげだと思うと、今度はうれし泣きをしてしまいました。今日は泣いてばっかりです。 みんなに会場に来ているみんなと想いを共有することができるから、ピアノはやめられないのだなあと私は改めて思いました。 そして、私はそんな自分の気持ちがピアノで伝えられる。そんなピアニストになりたいです!それが私の夢・・・・・・。 卒業式は終わった。荷物をまとめ、懐かしい中等部時代の友だちと昔話を弾ませた後、私は体育館に舞い戻ってきていた。 体育館の舞台に上がった私は、その横に置かれている、漆黒でとても大きな友だちに触れました。 「二年間、ありがとう。あなたと一緒にいられて楽しかったです」 窓の隙間から差し込んでくる光は私の友だち・・・グランドピアノを鮮やかに輝かせます。その姿が笑いかけてくれているように見えました。 「最後にもう一曲だけ、一緒に・・・・・・ね」 私はそう言ってゆっくりとその頭を撫でてあげた後、椅子に腰を下ろし、このピアノとの最後の演奏をしようと鍵盤に手を添えたとき・・・・・・。 「伯和ちゃん!最後の演奏にあたしを呼んでくれないってのはどういうことなのっ!」 「ほんま、ほんま。伯和はん、つれないやないですか〜」 二人の少女の声が私の耳に響き渡ったのです。 この声の主を私は知っていました。私を「伯和」と呼んでくれる人なんて、あの二人しかいませんから・・・・・・。 「孟徳さん!玄徳さん!」 私はその名前を大きな声で呼びました。 「伯和ちゃん卒業おめでとっ!あたし感動して泣いちゃったんだから!」 そう言って、孟徳さん・・・曹操は私の方にパタパタと走って来ます。 その後ろを追うようにして、玄徳さん・・・劉備が私の方へと来てくれました。 「邪魔かも知れませんけど、伯和はんの高校生活最後の演奏、うちらも参加させてもらいますわ。うちもギターくらいは弾けますし!」 玄徳さんはそう言って、不敵な笑みを浮かべていました。この笑顔にはなにか人を惹きつける力があるような気がします。 「いいんですか?じゃ、じゃあお願いしてもいいですか?」 私はうれしさ半分、恥ずかしさ半分でそう言うと、二人は笑い、そして頷いてくれました。
713:雑号将軍 2005/07/04(月) 22:27 ■卒業演奏 Part3■ しかし、不意の客人はこの二人だけではなかったのです。私が、二人と談笑しているまさにそのとき。 私がもっとも会いたかった人が来てくれました。 本当に綺麗にまっすぐと腰まで伸びる黒髪。痩せてしまっていたけれど私は一目見て彼女が周瑜さんだとわかりました。 「ちょっと伯符、自分で歩けるからっ!」 「なに言ってるんだ。さっきも倒れそうになったくせにっ!」 周瑜さんは伯符という少女に抱きかかえられて、私の方まで来ると降ろしてもらい、恭しくひざまずくと、その美しい声で私に声をかけました。 やっぱり病気のせいか、どことなく顔が強ばっているような気がします。 「今日はお疲れ様でした。実は私、献サマにお詫びしなければならないことがございます」 「や、やめて下さい。私はもう「献サマ」じゃないんですから。劉協というただのピアノが好きな女の子です」 私の言葉に周瑜さんは最初、驚かれていましたが、微笑すると、近くにあった椅子に腰を下ろしました。 私は周瑜さんが落ち着かれたのを見て、話を進めました。 「ミカン売りの少女は自分だった・・・ですよね。音楽の先生が教えて下さいました。周瑜さんのピアノは本当にお上手で、私なんかは到底及びませんでした。今日はどうでした?ちょっとは周瑜さんに追いつけましたか?」 私は訊いてみることにしました。訊くのが怖くないと言えばウソになります。でも、私は、どうしても訊いておきたかったのです。 私が前へ進むために・・・・・・。 周瑜さんはしばらく黙り込んでいました。 やっぱりまだまだだったのでしょうか。私がそんな悲観的になり顔を打つ目受けて考え込んでいると、ついに周瑜さんがその口を開いて私の質問に答えてくれました。 「・・・・・・私の負けです。もう献・・・劉協さんのピアニストの実力は私の全盛期のものを遙かにしのぐほどに成長しています。だから、もっと自分に自信を持って下さい。貴女には私なんかとは比べものにならないほどの素養を持っておられるのですから・・・・・・。今日の演奏が何よりの証拠です」 私はうれしかった。本当にうれしかった。自分が目標、いや、憧れとしていた人から誉めてもらえるなって思ってもいませんでした。 私はちょっぴり泣いてしまいました。私はそれを隠すように手で拭うと一つ提案しました。 「今から、孟徳さんと玄徳さんと一緒に演奏しようと思うんですけど、周瑜さんとそちらの方もどうですか?」 「あっ、紹介が遅れました。私の幼なじみで親友の孫策という者です。今日も彼女のおかげで卒業式に来ることができました」 周瑜さんは慌てて横にいた少女・・・孫策を私に紹介します。 「私、孫策って言うんだ。よろしく。で、公瑾。どうするんだ?」 孫策さんは私にからっとした笑顔で答えてくれました。 「でも、そろそろ帰らないと・・・・・・」 「公瑾〜。そんなにしたそうな顔で『帰らないと』とか言われてもなあ。やってたらどうだ?自分の後悔がないようにさ」 孫策さんの言葉に周瑜さんはうれしそうに頷いていました。二人は通じ合っているみたいです。私もそんな友だちがほしいです。 「やれやれ。蒼天学園の元トップどもが、がん首揃えて演奏することになるなるとわねっ!」 「まったくや。関さんや益徳にも見せたかったわぁ」 「普通は見られないスペシャルステージってとこだ」 孟徳さん、玄徳さん、孫策さんの三人が代わる代わるそう言いながら、笑っています。私もそれにつられて声を上げて笑ってしまいました。 しばらく、みなさんと蒼天学園での出来事のお話をしていました。楽しかったこと、つらかったことなど、いろいろなことを聞きました。 やっぱり箱に開けられたちっぽけな窓から見える世界だけでは、すべてを見ることはできなかったんですね。 「じゃあそろそろ、やろっか」 話しが一段落したところで孟徳さんが切り出しました。それに皆さんも素直に答えます。 玄徳さんはギター、孫策さんがドラム、孟徳さんは指揮者を務めることになりました。 「ピアノは劉協さん、弾いてもらえますか?」 私は思わず息をのみました。周瑜さんが私に、ピアノを弾いて欲しいと言って下さったのですから・・・・・・。 「よ、よろこんでっ!じ、じゃあ、周瑜さんはシンガーをお願いできますか?」 私の混乱する言語中枢は必死に言葉をたぐり寄せ、周瑜さんの問いかけに答えることができました。 「わかりました・・・・・・。それで、歌う歌は?」 「これしかないじゃないっ!この歌がなかったらあたし今頃こんな生活してなかっただろうし」 周瑜さんが物腰鷹揚にそう尋ねると、横で鞄の中を探っていた孟徳さんは四人分の楽譜を取りだして手渡します。 どうやら孟徳さんはここに来る前からこうなることを予測していたみたいです。 「こ、これは・・・・・・」 その楽譜は古びて、セピア色になっていていました。端の方はもうぼろぼろです。それでも私はこの曲を弾いていたときのことを昨日のことのように、本当に鮮明に覚えています。 「じゃ、いくよっ!」 そう言うと、孟徳さんは腕をゆっくりとなだらかに振り始めました。私もゆっくりと鍵盤の上を滑らせます。 それに続いて、玄徳さんのギター、孫策さんのドラムが音を奏でます。そして・・・・・・周瑜さんの美声が波が海岸に広がっていくかのように、体育館全体を流れていきました。 この日は私は生まれてから一番楽しい日だと思います。 ひとりごと・・・・・・ 「卒業演奏」これでお終いです。なんとか短くしようと頑張ったのですが、無理でした・・・・・・。 誰か書きたいなあって掲示板をさまよっていると、雪月華様の「学園正史 劉氏蒼天会紀 孝献蒼天会長紀」を見つけまして・・・・・・。さらにある一部分にひどく萌えてしまって、こんなことに。申し訳ありません。雪月華様。一度ならず二度までも面汚しをしてしまいまして・・・・・・。 後、どうでもいいことなんですが、あの「広い世界」は自分が小学校の卒業式で歌った歌で、僕が音楽の授業で歌ってきた歌の中で一番好きな歌です。 でも歌詞がちゃんと覚えて無くて・・・・・・。 もう感想は躊躇無く批判して頂けるとありがたいです。 読んで頂き本当にありがとうございました。
714:雑号将軍 2005/07/04(月) 22:34 玉川様、教授様、アサハル様、はじめまして!梅雨入りで蒸し暑いこの季節になぜか卒業ネタを書いた雑号将軍です。 常連の皆様が次々と復活されて・・・・・・。ほんとに楽しみですっ!なんの役にも立たないですが、よろしくお願いします。 も、申し訳ないのですが、皆様の作品は修学旅行から帰ってきてから、ゆっくりと読みたいと思います。 自分勝手で申し訳ありません。
715:北畠蒼陽 2005/07/04(月) 23:39 [nworo@hotmail.com] >雑号将軍様 献サマの卒業式ですか。いいですねぇ、しみじみ。 時期モノなだけに今の季節ってのが残念デス^^; >修学旅行 あっ!? あっ!? なんか降りてきた! 降りてきましたよ!(DM
716:雑号将軍 2005/07/09(土) 12:13 >海月様 なんかもう、かなりのマイナ・・・・・・失礼、後期の武将が多かったですな。とくに陸姉妹と半分寝てる丁奉!いいですなあ。 >教授様 あらためてご挨拶を。はじめまして。教授様がいない間に学三に巣くっていた雑号将軍というヤローです。 さすがは教授様!孫乾って主役になったの初めてじゃないですか?もうまさに「ぽややんネゴシエーター」ですな!
717:北畠蒼陽 2005/07/10(日) 00:14 [nworo@hotmail.com] 「旅行の夜といえば枕投げ、でしょお?」 毋丘倹がどアップで言い切った。 顔があまりにも近かったのでみんな離れながら頷いた。 枕の杜に見る夢 ※誰が戦死したかメモをとりながら読むとわかりやすいかもしれません。 中華学園都市も当然、学園であるからには学校行事というものが存在する。 ただやはりいまだに生徒会も学園統一を成し遂げていない以上、各校区1つ1つがばらばらに旅行をするというのは……学園都市においてすべての課外活動が単位となる、と定義づけられている以上……敵対勢力につけこまれるもとになりかねない。 かといってすべての校区がまとまって旅行に行く、というのもコストがかかりすぎる。 折衷案として提出されたのが現行の『何方面かに校区を分割し、まとまって旅行に』というものだった。 今、ここに対長湖部において名を馳せた少女たちが集っていた! 全員浴衣で! 「……でね? そのとき後ろを振り返ると人形が血まみれで廊下にぽつーん、と落ちていたの」 「あ、あぁうぅぅぅぅ」 王昶はマイペースに昜を怪談で泣かしていた。 昜半泣き。怖いのなら聞かなければいいのに。 「はい、そこ。いいから話を聞け」 毋丘倹がツッコむ。 「……ん〜、でも……テレビが……」 旅館備え付けのテレビに100円を入れようとしながら王基が呟く。 「あとにしろ。あーとーにー」 毋丘倹がツッコむ。 「ねぇ? それより温泉入りにいかない?」 うきうきしながら諸葛誕が言った。ちなみに10分前まで温泉に入っていた。まだ入るのか。 「さっきも入ってただろ、お前!」 毋丘倹がツッコむ。 忙しいやつだ、毋丘倹。 「それってさ、『ホンキ』でやっちゃっていい、ってことだよね?」 令孤愚の言葉に毋丘倹は笑いながら頷いた。 「戦術の粋を集めた枕投げ。おもしろそうじゃない?」 ルール。 枕が当たったものは戦死扱いとする。 2チームに別れ相手チームを全滅させたほうの勝ち。 枕さえ使えばあとは自由。 フィールドは旅館の敷地すべて。 単純明快なルールである。 「んじゃグーとパーでチームわけー」 「10人かぁ……5人ずつに別れる、って結構珍しいんじゃない?」 「……別に同戦力で開始しなくてもいいじゃない」 「うわ、なんかすごい意見が出た。じゃあ1対9もありってこと?」 「いじめじゃない、それ」 「ちょ……もしかして今、チョキ出したら……死?」 「死だねぇ、それは」 「第3勢力誕生かよ!」 「あんまり勢力が拮抗しそうにないよね、それ」 「じゃあいくよー」 『グーとパー!』 ちょうど5人ずつにわけられた。
718:北畠蒼陽 2005/07/10(日) 00:15 [nworo@hotmail.com] 便宜上、Aチーム、Bチームとわけられるそのメンバーは…… 「よおお待ちどう」 「……それ、別のAチーム」 そのメンバーは……っ! Aチーム。 世代無双! 毋丘倹。 現生徒会において、図抜けた統率力を有し、次代のリーダーシップを期待される戦乙女。 どもりの国のプリンセス! 昜。 地理の成績だけ天才的。ただしいまだ開花しないものの統率の才能は先輩である万能の怪物、郭淮のお墨付きである。 静かなる威風! 胡遵。 文武の才をあわせ持ち、西方の大実力者、張既によって召し出された俊才。 心にいつもひとかけらの邪心! 令孤愚。 四天王の北、田豫を校則で取り締まったために蒼天会長の叱られ、そのときの言葉をそのまま名前にしたある意味、剛毅な少女。 冷徹な智将! 王基。 生徒会執行本部本部長の王凌に見出され、その信頼ぶりは中央執行部からの王基召集命令を無視するほどのものであった。まさに文武両道の申し子である。 Bチーム。 小さな駿馬! 州泰。 一般生徒から1日にして棟長に上り詰めた奇才。その才能はからかいの言葉を投げかけた鍾ヨウすらを喜ばせるものであった。 勇武英略! 王昶。 毋丘倹がナチュラルに戦うことを得意とするのならば彼女はすべての意図を戦闘に乗せることを得意とする。その瞳は常に悪いことを考えている。 戦一文字! 文欽。 まさに剽悍。反乱者、魏フウと仲がよかったために一時失脚するものの、その才能で返り咲き、またその協調性のなさでたびたび弾劾されたが蒼天会長に庇われる才人。 義士! 諸葛誕。 蒼天会長、明サマには疎んじられたものの、その言葉は夏侯玄、トウヨウらとともに生徒の人気を集めた。諸葛瑾、諸葛亮の従妹にあたる。 楽進の風格! 楽チン。 果断剛毅。楽進の実の妹であり『そっくり』といわれるほどの風格の持ち主。姉に似て、背は高くないもののその胆力は戦場を脅かす。 「Bち……B……! くっ! ボケられないっ!」 「……無理にボケなくていいから」 戦いのはじまり、である。 旅館の通路に2つのチームが対峙する、両手には枕。ハートには野獣。いや、野獣かどうかは微妙だが。 「んじゃコインが落ちた瞬間、戦闘開始ねー」 王昶がにやにや笑いながら左手でコインをつまんでみせる。 コイントスする人間は最初から左手に枕を持つことができない、というハンデはあるものの戦闘開始タイミングをある程度左右することができる、というメリットも存在する。 どちらが有利に左右するかはともかく王昶がなにかを考えていることだけは敵として対峙していなくてもよくわかる。 「んじゃ開始ー」 王昶は左手を高く上げゆっくりとコインを放り投げ……
719:北畠蒼陽 2005/07/10(日) 00:15 [nworo@hotmail.com] Aチームの面々がコインの軌跡を追う。 王昶は高々と上げた左手をいきなり振り下ろした。 Aチームメンバーは唖然とし、次の瞬間、王昶の考えを理解する。 王昶はこう言った。『コインが落ちた瞬間、戦闘開始』……別にコインを放り投げたあともう一度、コインに触れない、とは一言も言っていない。 Aチームメンバーが理解したときには加速度をつけた左手とともにコインが旅館廊下に叩きつけられ…… 「おぶわッ!?」 諸葛誕が横殴りの一撃を受けて吹っ飛んだ。 「ふふ……ってなんで諸葛誕ーッ!?」 王昶が勝ち誇った笑みと同時に絶叫する。なかなか器用である。 ちなみに諸葛誕はBチームだ。 諸葛誕に枕を投げつけたのは文欽だった。 ちなみに文欽もBチームだ。 「おぉっと、あまりにも偽善者くさいから間違えちった。なに? オウンゴールってやつ?」 そんなに嫌いか、諸葛誕のことが。 Aチームメンバーが呆然として事の成り行きを見守る。 頭を抱える王昶。気持ちはよくわかる。 そして悪びれない文欽。 「あ……あんたってやつは……」 側頭部に強烈な一撃をくらいながら、諸葛誕は唖然と文欽を見上げる。 「うるさい。戦死者に発言権はない」 Aチームもどう動いていいのかわからなさそうに顔を見合わせ…… 王基がしゃがんで頭上を高速で吹っ飛んでいく枕を回避し、令孤愚は枕をモロに顔面で受ける羽目になった。 「ちぃ、当てるつもりだったのに!」 「こっちは撃墜マーク1個、まぁまぁね」 地団太を踏んで悔しがる楽チンとガッツポーズの州泰。 さすがに諸葛誕戦死は予想外であったものの、その混乱に付け込むことができずただ呆然とする敵に対し、立て直し、即反撃するところはさすが生徒会の一流ドコロといえた。 しかし当然、Aチームも生徒会の猛者である。 武器である枕を手に全員が散会した。 州泰は旅館通路をひた走っていた。 ルールはよく覚えている。 枕が当たったものは戦死扱いとする。 逆を言えば極論、銃で撃たれても戦死にはなりえない。 ではその枕はこの世に無限に存在するのか? 否、である。 フィールドが旅館のみに限定される以上、当然のように枕の数も有限である。 武器がなくなればジリ貧になることは間違いない。 であればまずは武器の確保にいそしむべきであろう。 どこから武器を徴収する? いくらなんでもまったく知らない客が泊まっている部屋に入っていって枕を要求するわけにもいかない。 当然、同じ修学旅行という空間である以上、同じ旅館に泊まっている学校の人間に要求することになるが…… 「え、えっと……そ、そこまでです」 後頭部に枕がぽすん、と当たる感覚に州泰は天井を見上げた。
720:北畠蒼陽 2005/07/10(日) 00:16 [nworo@hotmail.com] 「どもー! 実況の令孤愚です! 昜選手、素晴らしい動きです!」 令孤愚がマイクを握り、興奮したようにしゃべりまくる。 「枕を確保しようとした州泰選手の進路を読みきった上で先行し、隠れてやり過ごした上で後ろからの攻撃! これには州泰選手、どうしようもありません! 今の昜選手のプレイをどう見られますか、解説の諸葛誕さん」 「文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね」 解説どころか会話になっていなかった。 楽チンの目の前には毋丘倹が立っていた。 楽チンの背を冷たい汗が伝う。それはそうだ、毋丘倹と勝負するには楽チンには圧倒的に経験が足りない。 しかしそれでも姉譲りの胆力は健在であった。 「ここであんたを討ち取れるなんてね」 よし、声も震えていない。 楽チンは自分をほめてやりたくなった。 ぎゅっと枕を握り締める。 毋丘倹はその楽チンの両の手に目をやってから楽チンの目を正面から見据える。 「楽チン……」 両手に1つずつの枕を持ち、毋丘倹は流れるように動いた。 無造作に左手の枕が楽チンの眼前に投げ出される。 その枕は緩慢な動きで…… 「こんなので私の動きを止めるつもりかぁ!」 楽チンが左手で簡単に枕をキャッチしたそのとき…… 毋丘倹の右手の枕によって楽チンは足を払われ、尻餅をついた。 「……あんたが私を討ち取るなんて無理があるんじゃない?」 「毋丘倹選手、貫禄の勝利です。先に投じた枕で楽チン選手の視界を奪った上で、しゃがみながらの足払い! これには楽チン選手、対応できません」 「文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね」 令孤愚が恨みがましい目で諸葛誕を見た。 「さて……どこに隠れてんのかな?」 にやにやと笑いながら文欽が歩く。 実のところ敵の位置は大体わかっていた。 毋丘倹はさすがに気配を消す術にも長けているものの楽チンとの無用な勝負によって位置をさらけ出してしまった。 「まぁ、まずは昜、かな」 自分が昜ならどうするか考える。 さすがの文欽でも昜の地理把握能力には感服せざるを得ない。 昜はすでにこの旅館の1部屋1部屋に至るまで自分の空間として自在に移動することができるだろう。 ならば…… 考えろ、文欽。 自分がそんな能力を持っていたとしたら、『文欽』という人間をいつ、どこで襲うか…… 文欽の唇が笑みの形に持ち上がった。 いつ襲うか? そんなの決まっている。 「今だろうがぁッ!」 文欽はいきなり後ろを振り返り、枕を投げつけた。 後ろからそ〜っと近寄っていた昜はその一撃を顔面に受け昏倒した。 「えっと……文欽選手、お見事です」 「……ッ!?」 令孤愚がすごい目をした諸葛誕に睨まれた。
721:北畠蒼陽 2005/07/10(日) 00:16 [nworo@hotmail.com] 「あんまりいたずらが過ぎるんじゃないかな、文欽」 ついに毋丘倹が文欽の前に立つ。 「そうでもないよ。みんな準備運動にも付き合ってくれないんだもん……毋丘倹だったら準備運動くらいにはなるかな?」 そのあまりにも大胆な発言に毋丘倹は苦笑する。 「ご期待に沿えるかはわかんないけど努力してみるわ」 そういいながら両の足を大きく広げ、両手に持った枕をやや後ろに構える。 投擲する気か? しかも両方? 文欽の心に迷いが生まれる。 投擲は確かに遠距離の相手に対して有効だ。 しかし避けやすい、という欠点もある。 ……だったら避けて攻撃、だね。 にやり、と笑い文欽は毋丘倹の攻撃を誘うように大きく構えを取る。 一瞬、緊迫した時間が流れ…… 毋丘倹が両手の枕を文欽の足元を狙うように投げつけてきた。 ……なるほど、こういうことか。 文欽は感心する。 枕はほぼ横に並び、横に避けるというのは難しそうだ。 普通に避けようとしただけでは足を枕がかすっていくことだろう。 だが……! 「横がダメなら縦で……ッ!」 ジャンプして避ければなんの問題もない。 ましてや毋丘倹はすでに両手の枕を使い切り、武器がない状態だ。 取れる……ッ! 口元を哄笑するように歪めながら、しかし枕を投擲せずにより確実に止めを刺すために握り締める。 そのとたん毋丘倹はばっ、と廊下に伏せた。 文欽はジャンプしながら唖然とする。 両足を大きく広げ構えていた毋丘倹の向こう側には…… 「……いくら文欽でもジャンプしてるときに軌道を変えるのは難しいんじゃない?」 冷静な王基の超遠距離狙撃が宙を舞う文欽の胸に吸い込まれた。 「おっと王基選手、頭脳プレ……」 「うわはははははははははははははははははっ! 文欽ざまあみろー!」 解説しようとした令孤愚の頭を押さえつけ、諸葛誕が涙すら流しながら爆笑した。 「あー、気分いい! 気分いいから温泉いってくるー」 諸葛誕は鼻歌を口ずさみながら上機嫌でタオルを持って立ち上がる。 「いや、また入るのかよ!」 聞いてない。 諸葛誕はスキップでもしそうな足取りで立ち去り…… 「えっと……?」 マイクを持ったまま令孤愚は途方に暮れた。 昜がなぜか期待するような視線を令孤愚に送ってくる。 「あんた、どもるからダメ」 令孤愚の言葉に昜はショックを受けたように黙り込んだ、半泣きで。
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