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814:雑号将軍 2005/10/29(土) 18:54 皇甫嵩の予感は的中した。もっとも、これが悪いものか良いものかは皇甫嵩自身もわからなかった。わかるのは盧植にはめられたということ・・・・・・。 そしてそのプロというのが・・・・・・。 「り、李儒ではないか!?何故ここに?」 皇甫嵩は走り出したが、どうやら自分が短いスカートを履いていることを忘れているらしい。 それに気が付いた李儒と呼ばれた深緑のショートカットに癖毛が特徴の少女は両手を前で組み、無表情だがたしなめるように言う。 「皇甫嵩様。メイドは極力走らないようにしなければなりません。そして、歩くときは両手をお腹の前で合わせるように、スカートを乱さないようにゆっくり歩いてください。判って頂けましたか?」 この少女の声にはどうも音の強弱がない。本当に一定のリズムで話す。その声は澄んでいて、よく通っているのだが、いかんせん聞き手には怒っているのか、冗談なのかの区別が付かない。 極論すれば彼女の言い方は感情がこもっていないのだ。 「そ、そうなのか?す、すまぬ・・・・・・。このようなことしたことがないので勝手がわからんのでつい・・・・・・」 皇甫嵩が李儒のペースに飲まれている。もっとも皇甫嵩が李儒に弱いというのも関係しているのだが・・・・・・。 李儒はすぐさま言葉を続ける。 「皇甫嵩様。そのような言葉遣いもメイド服を着ているときはおやめ下さい」 「なに?それもいかんのか・・・・・・。ならば、どのような話し言葉がよいのだ?」 最初はやる気の全くなかった皇甫嵩だが、今では李儒の説明に聞き入っている。盧植の思うつぼということに皇甫嵩はまったく気が付いていない。 しかし、次の一言は皇甫嵩のプライドを打ち砕くものであった。 「では私のいう言葉を復唱してください。『ご主人様、おかえりなさいませ』はい、どうぞ?」 「・・・・・・・・・・・・」 皇甫嵩は顔を真っ赤にし、口をかすかに上下させていたが、李儒の言ったことをリピートすることはできなかった。 「言っては、いただけないのですか?これでは私が盧植様にしかられてしまいます・・・・・・」 なんということであろうか。 今までまったく感情もこもらず無表情で話していた李儒が一変した。目を皇甫嵩から眼をそらし、うつむき加減となり、細々と消え入りそうな声で言った。 「な!卑怯だぞ、李儒、こういうときだけ感情を表に出すとは!」 皇甫嵩が一瞬ドキッとしながらも、激しく抗議している。それが、自らの首を絞めることとなった。 李儒は皇甫嵩のそれほど大きくもない声に驚いた振りをし、泣きそうになりながら、頭一つ大きい皇甫嵩を上目遣いで見てくるのだ。 もはや、皇甫嵩に選択の余地はなかった。 「わかった、言う!言うから!」 皇甫嵩はがっくりと肩を落としてそう言った。このとき彼女は自らのプライドを捨てたのだ。 「本当ですか?!では『ご主人様、今日は早く帰ってきてくださいませ。私、ご主人様がいなくては寂しくて寂しく、我慢できません・・・・・・』どうぞ」 (くっ!わざわざ台詞を変えたな!もうなんでもよい!)皇甫嵩は横で盧植が見ているのにも気付かずに、李儒の言葉を復唱する。 「ご、ご主人様、今日は、早く帰ってきてくださいませ。わ、私、ご主人様がいなくては・・・寂しくて寂しくて、我慢できませんっ!・・・・・・これで満足か・・・・・・?」 皇甫嵩がどもりながらもなんとか最後まで言い切った。 照れていて、声が擦れたり上擦っていたりもしたが、それはそれで初々しいと思えば、むしろ、良い効果であるといえた。 「八十点です」 「なんだと!私のプライドを捨てての文字通り捨て身の演技だったのだぞ!」 「いいえ、まだまだ、練習が必要のようです」 もう李儒はいつもの無表情に戻っていた。それに皇甫嵩は為す術もなく飲み込まれてゆく。まるで荒波が小舟を吸い込むように。 こうして、皇甫嵩の高等部生活最後にして最凶の学園祭が始まろうとしていた・・・・・・。
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