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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
837:北畠蒼陽 2006/01/08(日) 16:59 [nworo@hotmail.com] 「きゃっ」 「わぁ」 王昶の体の上に柔らかいものが覆いかぶさってきた。 柔らかいが重いものだった。 王家只今合宿中 それは夏休み前までさかのぼる。 「夏休み、みんなでうちの別荘にいかない?」 王凌が読んでいた単行本から、ふ、と顔を上げてみんなに声をかけた。 青州棟の棟長の執務室にいた人間がみな王凌の顔を見る。 王凌と姉妹の契りを交わした王昶。 王凌に見出された王基。 王凌の従妹、令孤愚。 3人の1年生の視線が王凌に集中する。 「えっと……お姉さま、今なんと?」 他の2人の思いを代弁するかのように王昶が口を開いた。 「合宿……そうね、合宿とでも思えばいいわ。今の時期ならお姉様もおられるはずだし……」 王凌が呟くように言う。お姉様……かつて学園の全校評議会評議長にまで上り詰めた王允のことだろう。 夏休みの予定……3人はそれぞれ考える。 もちろん王凌の申し出を断る理由は見つからなかった。 「いらっしゃい、みんな」 白いワンピースに身を包み、深窓の令嬢といった風貌の王允が4人を出迎える。 にっこりと微笑みながら……このような笑みは学園にいたころの、あの苛烈な性格からは考えづらいものだ。昔のように皺が眉間に刻まれていることもない。 『いろいろ苦労したんだろうなぁ』とか思いながら王凌以外の3人は内心でうんうんと頷く。 「お姉様、しばらくよろしくお願いしますね」 「こちらこそ……さ、疲れてるでしょ。入って」 笑顔の王凌に笑顔の王允。 珍しいことではある。 玄関から入っていく2人の後ろを見ながら、王昶、王基、令孤愚は一瞬顔を見合わせて、いそいそとあとに続いた。
838:北畠蒼陽 2006/01/08(日) 17:00 [nworo@hotmail.com] 「やっぱり久々だとずいぶん埃もたまってるわね……」 いち早く荷物を部屋に置いて、応接室でくつろいでいた王昶に、やはり部屋に荷物を置いてきたのであろう、2階から下りてきた王凌が声をかけた。 王基と令孤愚はまだ部屋で荷物の整理中。 王允はキッチンでご飯を作っているようだ。 王昶も王允の手伝いをしようとしたのだが『お客様はもてなされるのが礼儀よ』とやんわり断られてしまったので手持ち無沙汰なのである。 つまり応接室にはお姉様とたった2人なのだ。 「……あ」 それと自覚した王昶は顔が赤くなるのを感じる。 それに気づいているのかいないのか、王凌は王昶の座っているソファのそばにより……壁を指でなぞり…… 「ほら、ここなんてこんなに……」 そのままバランスを崩して王昶の上に倒れてきた。 そしてシーンは冒頭に移行する。 下から王昶は王凌の体を抱きしめながらドキドキしていた。 ちょっと重たいがそんなことは問題ではない。 王凌の匂いとか体温とかそういったものがいろいろ感じられて……鼻血が出そうだった。 「はい、そこまでー」 「……17時台でそれ以上の展開はダメよ」 2階に2人ほどお邪魔キャラがいたのを忘れていた王昶は真っ赤になって王凌から離れた。 「文舒、ラブコメなら私らのいないとこでやれ」 「……ま、あとで思い出になるわね」 令孤愚はからかうようにいい、王基は冷静に手元にあるデジカメを確認する……ってデジカメーッ!? 「伯輿……それはどんな思い出なのかな?」 「……お姉さまに押し倒されたのになにもできなかったヘタレな思い出」 冷静に受け流しながら満足そうに頷く王基。 いい画像が撮れていたらしい。 「にゃんだとーッ!?」 王昶は王基につかみかかろうとし、王基は2階に逃げる。あとはお定まりの鬼ごっこ、だ。 少し呆然としていた王凌だったがやがてくすりと笑みを漏らす。 「彦雲姉、ご機嫌じゃん」 ととと、と階段をスキップするように下りたった令孤愚が王凌の顔を覗き込む。 「そうね……」 2階ではどすんばたん、という音。 「楽しい夏休みになりそうだな、って思って……ね」 呟いてくすり、と笑う。 「みんなー、ご飯できたわよー」 王允の声が別荘に響いた。 夏の一番星が別荘の上に輝く。
839:北畠蒼陽 2006/01/08(日) 17:01 [nworo@hotmail.com] あれー? 何ヶ月ぶりー? どうも空気を読まない北畠蒼陽です。 一応、復活ってことでよろしくお願いしますよ。こんだけブランクあいたってことで新入り扱いで。午後ティー買ってきまっす! せっかく海月様が旭日記念日をあげたのにSS投稿という自分のクオリティに大変満足しつつネタもないのに文章を書こうとするとこんな支離滅裂なものになってしまうので注意が必要です! みんなはマネしちゃだめだぞっ☆ しかも季節感度外視だしなっ☆
840:海月 亮 2006/01/08(日) 22:08 久しぶりのことなんで散々ネタに逡巡した挙句、結局普通の挨拶しか思い浮かばないヘタレの海月が来ましたよ(゚∀゚) それはさておき、お久しぶりです。 なんにせよ、無事こうやってお姿を拝見するだけでなく、このような土産を引っさげてお帰りになられたこと、ただ感動するほかありませぬ(ノД`) …というか旭日祭を前にしてここまで萌えさせられたらたまりませんな(;´Д`) つかあの文舒たんが完全に祐巳すけ状態…(;´Д`) いや、「マリみて」にこんなシーンはなかったとは思うけど、なんとなくそんなイメージが湧いただけで…(;´Д`) よーし、私めも前哨戦に何か持って(ry
841:雑号将軍 2006/01/08(日) 22:16 ど、どうも、おひさしぶりであります。それからあけましておめでとうございます。 北畠蒼陽様、ついに復活して頂けましたか!待っておりました。これからもよろしくお願いします。 王允がまさか登場するとは!それも丸くなってる!!皇甫嵩たちといろいろあったんでしょうねぇ。王昶が麗しのお姉様に囲まれて顔がゆるんでいるとこを想像してしまいました。 僕?えーと・・・ただいま制作中・・・・・・。
842:北畠蒼陽 2006/01/09(月) 10:59 [nworo@hotmail.com] 「センパイ……ここ、間違ってますよ」 「あ、ご、ごめんなさい」 年下の棟長の冷ややかな視線が突き刺さる。 「私だってヒマじゃないんですよ。補佐ってのは私の仕事を楽にしてくれるためにいるんであって、仕事を増やすためにいるわけじゃないと思うんですよね」 「ごめんなさい。す、すぐに訂正します」 滑稽なほどぺこぺこと頭を下げる彼女。 その目の端には涙が…… 日のあたる場所 彼女はベンチに座ってずいぶんと遅い昼食をとっていた。時刻はもう3時を回っている。 自分が不器用なのは知っていたけど、まさかここまでなんて、ね…… 彼女はそういって自嘲気味に笑う。 膝の上には弁当。家計を切り詰めるためだ。自炊しなければならない。コンビニ弁当なんて贅沢なんてできやしない。 彼女は手を合わせていただきます、と言おうとして不意に視線を感じ顔を上げた。 そこにはいたのは少女だった。 目が悪いのだろうかメガネをかけた少女はじっと彼女のほうを見ている。 少女は中等部の制服を着ていた。まぁ、このベンチは校内とはいえ立ち入りのできない場所にあるわけではない。そう珍しくもないことだ。 しかし彼女はそう思いながら少女から目をそらすことができなかった。 それは少女の強い目の光を見てそう思ったのだろうか……だから彼女は少女がベンチに向かって歩いてくるのを見て思わず心臓が高鳴るのを感じた。 その少女は紛れもなく彼女を見ていた。 彼女も少女をずっと見ていた。 そして時間が流れる。 「先輩、この校区の方じゃないですよね?」 少女がようやく口を開いたとき彼女は一段と心臓が高鳴るのを感じた。 「ど、どうしてそう思うの?」 見透かされた、と思った。 「いえ、昔話です。この潁川棟が韓信先輩の本拠地だったころに今、先輩が座っているベンチが韓信先輩のお気に入りだったんです。なんとなく座らないようにしよう、って不文律があるんですよ」 少女の言葉を聞いて彼女は仰天し、立ち上がろうとする。 「じゃ、じゃあ……」 別のベンチに、と言おうとして少女の次の行動にあっけにとられた。 「でもただの昔話。そんなの守る義務はありません」 少女はすとん、と彼女の横に腰を下ろした。
843:北畠蒼陽 2006/01/09(月) 11:00 [nworo@hotmail.com] 彼女はどぎまぎしながら少女のことを見ていた。 少女は黙って紙パックから牛乳を飲んでいる。ぶらぶらさせる足が可愛らしい。 「先輩、出身校区はどこなんですか?」 紙パックから口を離して少女が彼女に尋ねた。 「え、あ、うん。私は涼州校区」 「そんな遠くから?」 少女は彼女の答えに若干驚いたようだ。この校区出身ではないにしてももっと近い校区だと想っていたのだろう。 「うん、私、バカだからね。課外活動に参加しようと思ったら出身校区じゃなくても、どんなとこにでもいかなきゃ」 彼女の苦笑にも似た笑いに少女が眉をひそめる。 「課外活動は義務じゃありません……なぜそこまでして……?」 「はは、私が多少でも課外活動しておかないと妹が課外活動をするとき苦労するでしょ? 多少でもコネ……まぁ、ないよりマシ程度だけどさ……作っておいてあげないと、ね。私はこんなだけど妹は棟長……もしかしたらそれ以上になれるくらいの人間だと思ってるから」 彼女の言葉を少女は黙って聞き……そしてやがて深いため息を漏らした。 「先輩の妹さんはとても幸せ者ですね。ここまで想ってくれるお姉さんなんてなかなかいません」 自分の出身校区である涼州校区から、ここまで遠く離れた予州校区まで来て…… そして年下の棟長に疎まれ、文句を言われながらも…… それもすべて妹のため。 「先輩、もしよければ先輩のお名前と妹さんのお名前を教えていただけませんか? もしかしたら先輩の妹さんがいずれこの校舎の棟長になるのかもしれませんし……」 少女はそこまで言ってはっ、と気づいたように口を押さえた。そういった仕草は歳相応で可愛らしいのだが発言は大人びている。 「失礼しました。私は……」 彼女は少女の名前を胸に刻む。 「私は荀揩ニ言います」 うん、と彼女は頷いた。 「私の名前は……」 荀揩ヘ彼女と、その妹の名前を胸に刻む。 「私は董君雅。妹の名前は董卓よ」
844:北畠蒼陽 2006/01/09(月) 11:00 [nworo@hotmail.com] 『冬の体があったまる飲み物ってな〜んだ?』と聞かれて『しょうゆ』と即答できる北畠蒼陽です。あったまるけど健康にはむやみに悪いですね。 異色な2人を書いてみました。ありかなしかの2択でいったら……あり? ぎりぎりあり? ま、董君雅が涼州出身でありながらまったく違う場所に派遣された、とか、嫌いではないエピソードなのですよ。年下の上司にいびられたんだろうなぁ、とか。 この2人のことは気が向いたらまた書くかぁも? あ、ちなみに今はリハビリ代わりに連投してみただけなんでペースは続きませんよ? あ、あとは任せた(ガクリ
845:海月 亮 2006/01/09(月) 17:31 何時かはこんなときがくる…なんとなくではあったが、彼女にもそんな"確信"があった。 だがむしろ彼女は、周瑜、魯粛という余りにも偉大な先達の後釜に据えられたそのときから、「自分こそがそれを成し遂げなければならない」という、そんなプレッシャーとともに毎日を過ごしていた。 普段は億尾にも出さないが、彼女を襲う頭痛は日に日に強さを増していた。 「…間に合うのかな…?」 自分がこの頭痛で参ってしまうのが先か、それとも…。 その呟きを聞く者は、その場には自分だけだった。 -武神に挑む者- 呂蒙が長湖部の実働部隊を総括するようになってから、既に半年が経とうとしていた。 学問を修め、驚異的な成績アップを果たして注目を集めるようになった彼女は、好んで兵学書を読むようにもなり、一読すればまるで乾いた真綿が水を吸い込んでいくかのように、その内容を覚えていった。 そしてその知識は、合肥・濡須棟攻防戦において見事昇華し、その戦いの決着がつく頃には「長湖に呂子明あり」というほどの名将にまで成長していた。 それまではただの「十把一絡げの悪たれのひとり」でしかなかった少女は、その一挙一動を注目される存在にまでなってしまったのである。 しかし。 彼女がその名を不動にする頃には、長湖部は実に多くの名将を失っていた。 南郡棟攻略時の事故で周瑜を欠き、合肥・濡須攻防戦以降は甘寧も動ける状態になく、時を同じくして魯粛も留学のため学園を去った。 公式には甘寧は未だ課外活動に在籍している。しかし、戦場に突出した凌統を庇いながらの、張遼との戦いで受けた怪我のダメージは大きく、何時ドクターストップがかかるか解らない状態だ。 魯粛も年度末には学園に戻るとはいえ、学園から籍をはずす以上は活動からも引退を余儀なくされる。復学したとしても、課外活動への再参加は認められていない。 在籍する中では、初代部長孫堅以来からの古参組である韓当や宋謙、孫策時代からの猛将として知られる蒋欽、周泰、潘璋、凌統、徐盛といった輩も居る。 しかし、そう言った荒くれ連中をまとめ、大々的に戦略構築が出来る人間は、知られる限りでは呂蒙ただひとりだった。 「…やっぱり厳しいなぁ…」 長湖部員で主将・副将クラスに属する少女の名が記された名簿を睨みながら、そのサイドポニーの少女…呂蒙は、そう呟いた。既に時計は深夜0時を回り、締め切った部屋の明かりは手元のスタンドだけ。 名簿には、色とりどりのマーカーや蛍光ペンで、その少女に対する短評がつけられている。それも総て、呂蒙が実際のその少女と会い、あるいは噂話や実際の仕事振りから気がついた点を書き出したものだ。 このマメさこそ、今の彼女がある…そういっても、過言ではない。 「何処かにもうひとり、興覇クラスの"仕事人"が居てくれりゃあなぁ」 「やっぱ厳しいん?」 「うわ!」 不意に後ろからひとりの少女が、肩口から顔を突っ込んできたのに驚いてのけぞる呂蒙。 見れば、それは同い年くらいの人懐っこそうな風体の少女だ。栗色のロングヘアに、学校指定ではない臙脂色ジャージの上下を着ている。呂蒙はシンプルな水色のパジャマを着ているところから考えれば、彼女はそのルームメイトであり、かつその格好が彼女のラフな格好なのだろう。 「驚かすなよ叔朗…寿命が12年は縮まったぞ」 「心配あらへん。モーちゃんならきっとまだ五百年生きるやろから十二年くらいどってことないで」 「…あたしは何処の世界の妖怪だ。つか、何処にそんな根拠がある?」 「なんとなく〜」 その、どこか"ほわわん"としたその少女の受け答えに、思わず頭を抱える呂蒙。 しかしその少女…孫皎、字を叔朗という彼女は、現長湖部長孫権の従姉妹に当たり、この天然なピンクのオーラで甘寧とひと悶着起こしたほどの猛者である。幼い頃は関西にいたらしく、その京訛が特徴的だ。 「せやけどモーちゃん、あんまり気ぃばっか張っとったら身体に毒やで。うちなんかと違(ちご)おて、モーちゃんにもしもの事遭ったら、皆きっと悲しむで?」 孫皎が心配そうな面持ちでその顔を覗き込んできた。 「うちにはモーちゃんの代わりになれるような能力(ちから)もないし、友達とかもようおれへん。せやから」 「んなこたねぇだろ、あんたがあたしのサポートをしてくれるおかげで色々巧くいってんだ。それに、あんたのとこにはいつも人が集る」 呂蒙の言葉を否定するように、孫皎は寂しそうな顔で頭を振る。 「ちゃうよ。あの子達はみんな、うちが仲謀ちゃんのイトコやから、ちやほやしてくれるだけ…うちには、ほんまに仲良いなんて、おらへんのや」 「ばか、それじゃああたしはあんたの何だってんだ。あたしが一方的に"友達"だと思ってただけか?」 「え…?」 呂蒙はそう言って孫皎の額を小突く。 「あまり自分のことを悪く言うな。興覇だってあんたのこと、胆の据わった大したヤツだって褒めてたよ。それに今度の戦いはあんたの頑張りを全部引き出してくれないことにゃ始まらないんだからな」 「うん…頑張ってみる。おおきにな」 「礼言うトコでもないよ、もう」 自分のベッドにもぐりこんだ孫皎が自分に微笑みかけてくるのを見て、呂蒙も苦笑を隠せない。 人選の刻限は徐々に近づきつつあったが、彼女は"友達"に倣ってとりあえず切り上げ、寝ることにした。
846:海月 亮 2006/01/09(月) 17:31 翌日の昼休み。 混雑しているだろう学食を避け、予め出掛けに買い込んでいた菓子パンを頬張りながら、再度名簿と睨みあってる呂蒙。 「なぁモーちゃん、文珪ちゃんとこのこの娘とか、どない思う?」 「ん?」 隣りでサンドイッチを食べながら、孫皎が指差したのはひとりの少女だった。 「あぁ、承淵か…確かにいい素質は持ってんだけどなぁ」 「あかんかなぁ…確かにまだ中学生やけど、こないだの無双でもいろいろ活躍しとったし」 「主将クラスは足りてんのさ。あたしが欲しいのは、スタンドアローンで動ける軍才を持った、それなりに無名の人間だ。関羽が油断して、江陵周辺をがら空きにしてくれるくらいで、その留守の短い間にその辺平定しちまうくらいの」 「うーん」 サンドイッチを口にくわえたまま、腕組みして考え込んでしまう孫皎。 実際に難しい人選である。というか、ほとんど無茶に近いといってもいい。要するに呂蒙が欲しい人材というのは、呂蒙と同等かそれ以上の能力を持ち、かつまったく名前の知られていないということ…。 「でもそれやと、興覇さんがおったとしてもあかんのやないの?」 「んや。その場合は誰か適当なヤツをあてがって、その隙にあたしと興覇が別々に動くことができる。興覇が入院中の今となっちゃ、それが厳しい状態だ。その代わりにあんたを使うことを考えても見たんだが…」 「うちを? でも…」 「実力的には申し分ない。けど、今あたしの軍団からあんたを欠くのはマジで痛いからな。編成している中では潘璋分隊の義封、蒋欽分隊の孔休を外すと途端に機能不全だ。同じことがあんたにもいえるからな」 自信なさ気な孫皎を気にかけるもなく、パンを飲み込みながら難しい顔の呂蒙。 「マネージャーとはどうなんかな?」 「マネージャー?」 「うん。マネージャーで、なんかすごそうな人。例えば、こないだの濡須とき、援軍を指揮してた緑髪の娘とか。あの娘確か公苗さんとこのマネージャーって」 「陸伯言か。そう言えばこないだ興覇とふたりで承淵をからかった時、話題は伯言の話だったな…」 数日前、呂蒙は甘寧の妹分であった丁奉を伴い、入院中の甘寧の見舞いに行った。 そのとき、去年の赤壁決戦前の夏合宿で調理実習をやったとき、同じ班に居た陸遜の話で話題が盛り上がったときのことを、呂蒙は思い出していた。 「はぁ? 伯言が公瑾のお墨付きだぁ?」 「あ…えっと、それは」 狐色の髪が特徴的なその少女は、ベッドから上体を起こした状態で呆気にとられた甘寧と、その傍らでぽかんとした呂蒙の視線を浴びて、明らかに動揺していた。 明らかに、いわでもなことを言ってしまった…そんな感じだ。 昨年の合宿では自分たちの悪戯のせいで周瑜に完全に目の仇にされ、ただおろおろしているだけの気の弱そうなヤツ…ふたりにとって陸伯言という少女はその程度の存在でしかない。朝錬の際甘寧と凌統が喧嘩したのに巻き込まれたときも、周瑜に命ぜられるまま律儀にふたりに付き合って罰ゲームを受けたり、失敗した料理の処理をまかされて保健室へ直行したり…まぁ流石のふたりも「悪いことしたなぁ」くらいは思っていたが。 「ということはなぁ…承淵の言葉が正しければあのあと、あいつらが仲直りしていたってことになるが」 「となると休み明けに伯言がやつれてたのそのせいか。あの赤壁キャンプを乗り越えたとなれば相当なもんだな、伯言のヤツ」 「あ、だからその、それはちょっとした…」 ひたすらおろおろと取り繕おうとする狐色髪の少女…丁奉の慌てる様子から、呂蒙と甘寧もその言葉の真なるところを覚った様子だ。中学生ながら、荒くれ悪たれ揃いの長湖部の中で一目置かれるこの少女だが、それだけにその少女の性格はよく知られていた。 すなわち、絶望的にウソをつくのがヘタな、素直で真面目な性格の持ち主であるということだ。 そして自分の尊敬する者に対して強く敬意を払う。彼女の普段の甘寧への接し方を見ていればよく解る。それが彼女らにとって取るに足りない存在だった陸遜に対して「周瑜が認めた天才」と言うのであれば…。 「まぁ能ある鷹はなんとやら、とも言うしな。長湖実働総括も伯言に任せりゃちったあ楽できるかね、あたしも?」 「だ、だめです! そんなことしたら公瑾先輩が…」 「なんで? いいじゃねぇか、公瑾が出し惜しむならあたしが伯言を活かしてやるまでさ」 「きっとその方があいつだって喜ぶだろうしなぁ」 「だからそうじゃないんです!」 必死にその言葉を取り消させようとする少女の姿が面白くて、呂蒙も甘寧も完全に悪乗り状態だ。陸遜に実力があるかどうかは別として、今はそのほうがふたりには面白かった。 「…解りました…でも、なるべくなら他の人には黙っててください…こんなことが知れたら、あたし長湖部に居れなくなってしまいますから…」 そうして、半泣きになった彼女は、ことの詳細をふたりに語って聞かせた。 その話を聞いてもなお、呂蒙は半信半疑だった。 丁奉は話し終えると、何度も何度も念を押す様に「このことは絶対に内緒にしてください」と取りすがるようにして懇願してきた。恐らくは相当の事情があるのだろうことは呂蒙にも理解できた。だから、以降はその話題に触れまいと思っていたのだが…。 「ここはひとつ、承淵の顔でも立ててみるかねぇ?」 遊び半分ではない。 彼女はそれがまだ見ぬダイアの原石であることを信じ、陸遜の元へと出向くことにした。
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