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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
862:北畠蒼陽 2006/02/12(日) 21:19 [nworo@hotmail.com] >冷霊様 んー、東州をこのまま進めていくと…… いや、とても私好みの血で血を洗う展開になりそうです。めでたい! とりあえず楊懐&高沛はがんばってほしいですね。うひひ。
863:北畠蒼陽 2006/02/17(金) 17:59 [nworo@hotmail.com] 夏の日差しがプールの水面に乱反射する。その眩しさに諸葛誕は目を細めた。 「いっやー、あっついねぇ! もう青春って感じだねぇ!」 隣にはご機嫌な王昶。王基はちょっと離れたところで泳いでいる。 「ちょっと静かにしなさいよ……っていっても聞いてくれるようなタマじゃないわね」 諸葛誕が自分のセリフに諦めたように視線を斜め下45度のあたりへ彷徨わせた。 「こう暑いと太陽に向かって叫んじゃうね! 青春セリフバンザイ!」 青春セリフってなんだ…… 「あぁ、叫んでもいいから大人しくしてて」 「公休は不純異性交遊のエキスパートになりましたー!」 王昶は諸葛誕にエアウォーターガンの射撃を食らった。 「目がー目がー」 「水が当たったのは胸だし! あんたが向かって叫んだのは太陽じゃなくて女の子だし! そもそも不純じゃないし!」 泳いでいた王基が諸葛誕の方向に顔を向ける。 「……不純じゃないってことは男がいる事実だけは認めるのね」 「あんたらなにやってんのよ……」 視線を向けると諸葛恪が怖い顔をしていた。 なついあつのほにゃらら 「あー、やっほー、元遜」 「やっほー」 諸葛誕が嫌な汗を額に浮かべながら手を振る。王昶もまねをした。王基は無表情に手だけ振った。 「あんたら、なにやってんのよ……」 諸葛恪がもう一度同じ質問を発する。 「ほら、泳ごうと思って」 王昶が滅多やたら明るく答えた。 「あの……私は止めたのよ?」 諸葛誕が目線をそらす。 「泳ぎたい、それはわかった……で……」 諸葛恪が言葉の途中に無理やり笑みを浮かべる。額にはもちろん青筋。 「な ん で わ ざ わ ざ 建 業 棟 ま で 泳 ぎ に 来 る の か し ら ?」 「ん、だってここのプール広いじゃん」 王昶がこともなげに言って王基はこくこくと頷いた。んで泳ぎだした。 「泳ぐな人の話を聞けー!」 王基が不満そうな顔をして泳ぐのをやめる。 「いや……私は止めたのよ?」 諸葛誕は目線をそらしたまま。でもしっかり水着を用意しているので同罪だと思う。 「……まぁまぁ、夏休み中は無礼講」 とりなすように言う王基。 「無礼すぎるわッ! ……うっ」 頭に血があがってちょっとふらっときたようだ。 「あー、大丈夫?」 「はぁはぁ……大丈夫、ありがとう……じゃないわよッ! ……うっ」 ふらっときた。 「もぉ……ほんとに夏休み中だけだからね! それ以降来るんじゃないわよ! あとあんたらが来たらうちの部員がドン引きするから前もって襲撃を連絡してちょうだい!」 不機嫌な表情のまま、それでも何を言ってもムダと悟ったか諸葛恪がため息をついた。 「悪いわね、元遜」 「いいわよ。あんたもヘンなヤツらのお守り大変ね、公休」 従妹同士が苦笑を交わす中、王昶が張り切って宣言した。 「じゃ、前もって連絡ってことで明日明日ー!」 「毎日来るつもりかよッ! ……うっ」
864:北畠蒼陽 2006/02/17(金) 17:59 [nworo@hotmail.com] やっとギャグが書けました。 これを書いてる最中に新聞屋が襲撃したので撃退成功。つまりこの物語が書けたのは新聞屋のおかげです。ありがとう新聞屋。もうこなくていいよ! 夏ダイスキ星人、北畠にとって今の季節ってのは、まぁ、じょじょにあったかくなってきてるとはいえ苦痛でしかないので夏ですよ! ド夏! はやくあったかくなれー。30度くらいに。
865:海月 亮 2006/02/19(日) 00:18 -何処までも甘い一日- 妙に開けづらいと思ったら、空けた瞬間に何か大量の包み紙がぎっしりと詰まっていた。 私は徐にその一角を摘み、引きずり出そうとするが…どんな密度で詰め込まれているのか、まったくびくともしない。 「…どうやって詰めたのよ、こんなに…?」 私は包み紙の大群に占拠された自分の下駄箱の有様に苦笑するしかなかった。 たっぷり30分かけて下駄箱から内容物のすべてを引き出し、それを体操服の入ったリュックサックへと詰め込んだ。 今日は体育があったんで、学生鞄とは別に持ってきたものなのだが…普段体操服一式を入れるだけではいささか大きすぎるそれが、見事に満杯だ。 面倒くさいのと、さすがに時期が時期だけにスカートだけじゃ寒いので、体操着の半袖どころかジャージの下まで着込んでいた分あったスペースなんてあってないようなものだ。 「…というか去年より多い」 …いやいやいや、そうじゃないだろ私。 状況をストレートに口に出してしまったが、どう考えても女子高で女の子がバレンタインにチョコ貰うのっておかしいでしょ。 しかも私は去年も、一昨年も貰っている。しかもその9割が差出人不明だ。 そりゃあ私だって、妹達にチョコをあげたり貰ったりしてるし、医者という仕事柄滅多に家にいない父のためにチョコを用意したりもするけど…でもこの場合「私がこんなに貰ってどうすんだ?」って言う気持ちがある。 いったい、私の何処が良くて、みんなこんなに一生懸命になって用意してくれるのか…それだけがよく解らなかった。 そして何より、私はチョコレートというヤツが、実は死ぬほど嫌いなのだ…。 一方その頃、呉郡の中等部寮では。 「…それで此処まで逃げてきたってワケですか?」 「まぁそういうこった」 部屋の主と思しき、狐色の髪をポニーテールに結った小柄な少女…丁奉が差し出した水を、一気に飲み干す茶髪の少女はその姉貴分である甘寧。 部屋着代わりに学校指定じゃない紺ジャージの丁奉に対し、甘寧は制服姿である。かつて学園の問題児であった甘寧も卒業を控え、それなりに真面目な学生生活を送ってきたことをうかがわせる。 現在一留の三年生で、しかも既に引退して往年のパイナップル頭を辞めて久しい甘寧だが、彼女は暇をもてあますとふらっと長湖の三年部員の元に現れては自堕落な休日を過ごすこともしょっちゅうである。だが、いくら親しくとも流石に中等部にいる後輩のところに転がり込んでくるようなことはなかった。 まぁそれだけの緊急事態であることは察しがつく。何しろ今日は学園全体がある種の狂気に支配される日なのだ。 甘寧にとってみれば、何故自分が標的にされてしまうのかと首を捻っているのだが…。 「幼平や公績も俺同様逃げ回ってるクチだし、文珪は何処行ったかよくわかんねぇ。子明さんと子敬は大学寮の下見で不在。あと頼りになりそうなのはお前くらいしかいねぇんだ」 ほとほと困り果てた様子で溜息を吐く甘寧。 「それじゃあ阿撞さんと蘇飛さんは?」 「……多分生きてると……思いてぇな……」 遠い目をする甘寧。どうやら甘寧は、銀幡の二枚看板ともいえるこの二人の尊い犠牲があって、ようやくノーマークの丁奉の元へ逃げてきたようである。 丁奉も流石に苦笑を隠せない。 「つーわけだ、ほとぼりが冷めるまでちと匿ってくれないか? 礼は必ずするから」 「お礼なんて…何にもない部屋ですけど、こんなところで良ければ」 急須にポット、更にはお茶菓子まで一通り出し終えたところで、丁奉は甘寧と向かい合う形で座った。 そして悪戯っぽく笑う。 「それにお礼なら、阿撞さんたちにしてあげたほうがいいと思いますけど、ね」 「…それはもちろん」 後輩の鋭い一発に、最早苦笑するしかない甘寧であった。 「…勘弁してよ」 教室へ行けば黒山の人だかり。その中心には私の机。 下駄箱があんな感じだったから大体予想はついたが…机の鞄架けに引っ掛けてある袋包みの数も、机からはみだしている包みの数も…いやもう置ききれなくなったらしい包みが机の上にも所狭しと並んでいる。 異常だよ。はっきり言うけど。 「あ、仲翔先輩、おはようございます」 その中心で、風紀委員の腕章をつけた少女数人を引き連れていた、ライトブラウンのロングヘアが特徴的な少女が、にっこりと笑いかけてきた。 交州学区総代の呂岱、字を定公。色々あって、結果的に親しくさせてもらっている後輩の一人だ。 「…おはよ。ていうか、この状況は…ナニ?」 「いやいや、先輩に心当たりがないとなると私にも解りませんって」 それもそうね、と返して、互いに苦笑する。 話を聞けば、どうやら私よりも先に来ていたクラスメートが私の机の状態を見て、驚いて風紀委員を呼びに行ったらしい。 まぁ無理もない。ほとんど"学園の辺境"とも言える場所柄か、構内の何処かで何か興味を引く事件が起こると皆寄って来てしまう。見回せば、別クラスの同輩はおろか下級生達もわんさか寄って来ている。 「…とりあえず…コレどうします先輩? このままでは、机もろくに使えなくて困りますよね?」 「うん…どこかに置いておける場所とかない? 帰りに取りに来るから」 「解りました、じゃあとりあえず執務室もって行きましょう。ね、たしか使ってない段ボールあったよね、持ってきてくれる?」 定公の命令一下、風紀委員たちはパタパタと駆け出していった。
866:海月 亮 2006/02/19(日) 00:19 所変わって…。 「…で…なんで私まで巻き込まれなきゃなんないんですか…?」 「…済まん…本当に済まん」 呉郡寮に程近い公園の茂みの中に、二人の少女が隠れていた。 ひとりは緑がかった髪をショートボブに切りそろえ、小柄ではあるがスタイルの良い童顔の美少女。 もうひとりは流れるようなロングヘアを銀に染め、目鼻の整った長身の美人。 緑髪の少女…陸遜は制服を着ているが、銀髪の少女…周泰は"長湖さん"トレーナーに黒のハーフコート、ジーンズにスニーカーと文句のつけようがない私服。 「しかし何で毎年毎年こうなるんだ…私がいったい何をやったと…」 心底困り果てた様子で空を見上げ、長嘆する周泰。 実はというと、陸遜は午後の授業に必要な教科書を寮に忘れたことに気づき、昼休みのうちに取りに戻ろうとした途中、暴徒の大群に追われていた周泰とばったり出くわし、勢いでその逃亡劇に巻き込まれてしまったのだ。 なんというか…陸遜も始めはその理不尽さに、当然ながら少々ご機嫌斜めの様子であったが、気分が落ち着いてくるにつれて周泰の立場に同情の念を禁じえなくなっていた。 (というか…このひとが人気ないってったら、きっと関羽先輩だって追っかけまわされずに済むんでしょうけどね) そう考えると、少し可笑しくなって、陸遜は少し笑った。 「…何が可笑しいんだ…?」 それに気づいて恨めしげな目で睨む周泰。 「いえ、別に。ところで先輩、これからどうしましょうか?」 「どうしようか…って言われてもなぁ…去年の様子を見るからに、多分このまま廬江棟に行っても公績も居ないだろうし…」 今頃は自分と同じく、暴徒の大群に追っかけまわされているだろう友を想い、さらに途方にくれる周泰。 陸遜も巻き込まれた以上、流石にあの暴徒の群れに捕まるのは御免被りたいところである。自分の身を守る意味でも、ちゃんとした逃亡経路を見つけ出す義務はあるだろう…そう思うと、彼女の脳裏にある場所が思い浮かぶ。 「…そうだ…今日確か中等部の三年生は午前放課だったから、寮にうちの妹が居るかも」 「え?…あ、そうか呉郡寮か!」 「いくらなんでもあの場所までは誰も考えてないでしょう。身を落ち着けるのはもってこいです」 ようやく安堵の表情を見せた周泰が、感心したように呟く。 「流石は伯言…こう言うのもなんだが、結果的にお前を巻き込んだのは大正解だった」 「いや〜…私としては、大迷惑極まりないんですけどね」 陸遜は苦笑を隠せない。 ふたりは茂みの中をこそこそと、今だ彼女達を探して大路地を行ったり来たりしている暴徒の目を避けるように移動し始めた。 放課後。 しゅんとした表情の、金髪碧眼で巻き髪が特徴的な少女と、耳のようなクセ毛のある黒のロングヘアの少女、そして定公と私が向かい合う格好で、執務室のソファに座っている。 「…こりゃあまた…」 黒のロングヘアの少女…子瑜(諸葛瑾)が、呆れたというか面食らったという感じで苦笑しながらつぶやいた。 その視線の先には、回収されたチョコレートが溢れんばかりに詰め込まれた段ボールが二箱。 実はあれから、休み時間の度に見知らぬ女の子たち(恐らく後輩)に次から次へと押し付けられ、更にひと箱ぶん増えてしまったのだ。 「…なんというか、モテモテじゃない」 「ごめんその冗談笑えない」 我ながら見事な棒読み。きっと表情もなかったかもしれない。 「幹部会にすら仲翔の本性知らない人間が多かったんだから、学園にいるほぼすべての人間は仲翔がチョコ嫌いってコト知ってるわけもないか」 「え? そうなんですか?」 溜息交じりな子瑜の解説に、定公が目を丸くする。 まぁ話してもないことを知ってられてもそれはそれで困る。でも私の記憶が確かなら子瑜に話したこともなかったはずだけど…。 「話してもいい?」 「いいけど…情報源(ソース)は何処よ?」 「昨日、部長に内緒で幹部会のみんなと商店街に行ったときに伯言(陸遜)から。彼女は彼女の妹からあなたの妹経由で聞いたらしいんだけど」 納得。 そういえば妹…世洪の世代はみんな仲がいい。伯言の妹…幼節(陸抗)とかならうちによく遊びにくるしね。 まぁ子瑜の場合、いったい何処から情報を得ているのか解らない事も時々ある。何しろ彼女の身内には、今は故あって課外活動を退かなければならなくなった奇人・諸葛亮が居るわけだし…子瑜はともかく、あの孔明ばっかしは得た情報で何を仕出かしてるか解ったもんじゃない。 「じゃあ当人の口から聞いたほうが早いでしょ。あまりいい話じゃないけどね…」 溜息をひとつ吐き、気が重いながらも私はその経緯を語って聞かせた。 遡る事十年前。 虞姉妹に六人目の妹が生まれると言うことで、身重になった母親は父親の勤める病院に入院してしまい、姉妹のうち八つになった長女と四つの次女、三つになったばかりの三女は、近所に住んでいた父方の祖父母に預けられることとなった。 そんなある日、祖父母がたまたま家を空け、長女は妹二人を監督する大役を仰せつかっていた。 戸棚にはその前日買ったばかりの袋入りチョコレートがあり、祖母からおやつとしてあてがわれていた。 学校帰り、保育園へ妹二人を迎えに行き、そして帰宅。 「ねーねー、おやつまだー?」 しばらく遊んでいた二人の妹が、生真面目にも机に向かっている長女の袖を引いてきた。 時計を見れば、ちょうどそういうものが恋しくなる時間帯。 「はいはい。今用意するから、一緒に食べよ」 「はーい♪」 妹二人を引き連れ、いそいそと台所へ向かう。 ご多分に漏れず甘いものが大好きだった姉妹にとって、袋いっぱいのチョコレートとくればまさに宝の山。 長女は菓子皿にそれをすべて注ぎいれ、皆で行儀良くテーブルに着くと、姉妹で心行くまで頬張り始めた。 「あぅ…」 食べ初めて間もなくのころ、長女はなんだか妙な感覚に襲われていた。 何処かふわふわといい感じなのに、何でか天地がぐるぐると回転してそこはかとなく気分が悪い。そして何より、体が火照ってしまって二月とは思えないくらい暑かった。 「おねーちゃん…どうしたの?」 「お顔がまっかだよ?」 心配して覗き込んでくる二人の妹の顔が、ぶれて一人が三人にも四人にも見えた。 目がちかちかとしたと思ったら、そのまま長女の視界が暗転した…。
867:海月 亮 2006/02/19(日) 00:19 「後で知った話なんだけど、祖母が買ってきた袋入りの中に、ウィスキーボンボンが一個偶然に紛れ込んでたらしいの。しかも製作工程のミスで、全然アルコールが飛んでなかったらしくて」 「知ってた人間が言うのも何だけど…なんともありえない話よね」 呆れ顔の子瑜。でも現実に起こったものは仕方ない。 「一応、父さんがすぐ飛んできてくれてね。私の胃の中身まで出して検査してくれたカルテの写しがまだ残ってるけど…見てみる?」 「そんなものって…とってあるものなんですか?」 「裁判沙汰になったからね。証拠品として」 ぽかんとした顔で、はぁ、と相槌を打つ定公。 まぁこんな荒唐無稽な話、鵜呑みにするほうがヘンだ。事実は小説より奇なり、とも言うけど。 「それで三日ほど生死の境をさまよったトラウマでね、チョコの匂い嗅いだだけでも気持ち悪くなるの」 「それだったら仕方ないわね…とのコトですが、どうします部長?」 そうしてさっきから一言も喋らず、俯いている少女に問いかける子瑜。 金髪の少女…長湖部長である仲謀(孫権)さんが此処にきたのも、その手の中のものを見ればなんとなく察しがつく。ひとつは定公の分だろうが、やはりもうひとつは私のためにわざわざ用意してくれたものなのだろう。 もっと早くこのことを話してあげるべきだったと、申し訳ない気分だ。 「…知ってたもん」 「そうですよね〜知ってますよね〜…って、知ってたんですか?」 ようやく口を開いたその言葉に、子瑜だけでなく私まで面食らってしまった。 「伯符(孫策)お姉ちゃんから聴いたんだ。仲翔さんならどんなのを喜んでくれるか知りたくて…だからはじめからチョコなんて買ってないし作ってない」 そういった彼女の顔は至極不機嫌に見えた。 確かに私は、一昨年のバレンタインデーにチョコ交換会をやるって話になったとき、伯符さんや子明(呂蒙)、君理(朱治)など一部にそういう話をしたことがある。孫姉妹はきわめて仲がいいから、よくよく考えれば仲謀さんが最初から知っていても不思議ではない。 でも、だったらどうしてこんな表情を…? 「…本当はボクがいちばんにあげたかったのに…」 「え…」 その一言に、私の心臓がまるで口から飛び出してしまうんじゃないかと思う勢いで跳ねた。 次の瞬間、頬の温度が一気に上がっていく感覚に襲われる。 「あ…えっと…その…」 あとで思えば、自分でも可笑しくなるくらい狼狽している自分が居たと思う。 とても嬉しかった。 かつては決して受け入れてくれないかも知れないと思っていたひとが、今こうして私のことを想っていてくれた事に。 「順番なんて…そんなの関係ないです。あなたの気持ちが、私には、一番…嬉しいから」 「…仲翔さん」 驚いた風に私を見つめてくる彼女。 見る間にその頬が紅潮し、再び俯きながら、その胸に抱いていた包みをそっと、差し出してきた。 「うん…じゃあ、これはボクから。受け取って…もらえるかな?」 「…喜んで」 差し出された包みを受け取ると、彼女はようやく満面の笑顔を見せてくれた。 「…で、結局お前達もここに居るってオチなのか」 テーブルの前に胡坐をかいて、呆れたような眼差しで先客を見やる周泰。 「いやぁ…流石に今年も寒中水泳したら、多分死ぬし」 「つか最終的に頼りになるのは承淵しかいなかったってことでファイナルアンサー」 丁奉の部屋には甘寧のほか、ジャージ姿の凌統の姿もある。 周泰と陸遜は幸運にも暴徒達の目を逃れ呉郡寮に辿り着いたものの、陸遜が頼りとしていた陸抗も、親戚の陸凱、陸胤も夕食の買出しで不在という有様だった。それゆえ、丁奉の部屋に上がりこんでいた。 まぁそれもそのはず、生徒が自炊しているこの中等部寮においては、基本的に人数分の食糧しか用意されていないのだ。それゆえ、この三十分ほど前に命からがら逃げ込んできた凌統を迎え入れた時点で、これ以後も逃亡者が来るだろうことを見越して買出しに出かけたのである。 「まぁお陰で俺達はこうしてのんびりできるわけだがな。お、これで王手だな」 「え…うわ、そう来たかっ!」 流しではお茶の用意をしている丁奉を尻目に、先輩二名はのんびりと将棋を指していた。序盤は凌統の攻勢を許しながらも、残った駒で美濃囲いを完成させた甘寧が形勢を逆転したと言った風の盤面である。 「…てか客分を満喫しすぎじゃないですか?」 「…朝から追っかけまわされた身にもなってよ…あたし此処に来るまで五時間飲まず喰わずでトライアスロンやらされる羽目になったんだから」 陸遜の一言に、泣きそうな表情で反論する凌統。 「一応その代わりと言っちゃなんだが、連中が戻ってきたら俺達が夕飯を作ることにしてるんだよ」 「まぁ、そのくらいしてやらなきゃ罰が当たるな…ん?どうした伯言?」 甘寧が「夕食を作る」といったあたりでびくっと震え、真っ青になってかたかたと怯えている陸遜。 かつて合宿で炊事をやった際、陸遜は甘寧、魯粛、呂蒙の問題児三人組の班に放り込まれ、三人がふざけて作った超激辛スープ(豚汁らしい)の餌食になったことがあった。 それを思い出し、げらげらと笑う甘寧。 「まぁ安心しろって、一応俺様も以後はちゃんと料理作れるように勉強はしてるんだからよ!」 「…秋に紅天狗茸でキノコ汁作ったのは何処の誰だったっけ?」 「…う」 凌統の冷静なツッコミに言葉を失う甘寧。 「あぁ、あの時も大変だったな。仲謀さんと仲翔が完全に出来上がって…」 「傑作なことは傑作だったけどね〜」 「う、煩ぇ! 大体お前等だって美味しい美味しいって人一倍貪り食ってやがったクセに!」 「まぁまぁ、先輩が料理上手なのはうちらも良く知ってますから。あ、こういうのもなんですけど、一応バレンタインデーということでどうぞ」 居間へ戻ってきた丁奉の差し出した、菓子皿一杯の一口チョコレートに、一同は苦笑しながら顔を見合わせた。 「ちわっす。例のもの、回収しに来ましたよ」 しばらくして、交祉棟執務室に数人の少女が顔を見せた。 徳潤(敢沢)、子山(歩隲)の長湖苦学生コンビに、何故か文珪(潘璋)まで。 「あら、早かったわね…てかどうしてあんたまで居るのよ文珪」 しかも徳潤たちは制服着てるのに、文珪だけ何故かジージャンにジーパン、青のチェックが入った厚手のシャツという超私服…多分バレンタインの騒ぎに乗じて学校サボってたのかも知れない。 「チョコ嫌いなのにやたらとチョコを押し付けられてしまうヤツが居るときいて、そのおこぼれ頂戴に来たんだよ。文句あるか?」 しかもなんて言い草だよコイツは。 てかこうもストレートに欲求を言われると最早怒る気もしないから不思議なものである。まぁ確かに彼女の言うとおり、私はチョコを一切食べられない口なのだが。 「しっかし、今年はやけに多いですね〜」 「コレなら三人で山分けしても十分でしょ〜ね♪」 感心したような様子の徳潤に、まるでお宝の山を目にしたみたいに嬉しくて仕方ないといった感じの子山。実は去年もこのふたりにチョコを食べてもらったのである。 「ばっか言え、半分はあたしが戴く。あんた達はこっちひと箱」 「うっわ、なんかとんでもねー狼藉働いてる人が居るよおい」 やや多めに入った箱のほうを自分のほうに引き寄せ、しっかりキープする文珪と、ぶーぶーと遠まわしに文句を言う子山…浅ましいなオイ。 「あんた達ね〜、自分で買いも貰いもしないくせに、ひとのもらい物で…」 「まぁまぁ、私が持っていても仕方のないものだし…私がコレをくれた娘たちの気持ちさえ受け取っているなら、あとに残ったチョコレートはこの娘たちの胃袋に収めてもらったほうがいいわ」 「…そういうものなの?」 そう。大切なのは中身じゃなくて、それをくれたひとがこめてくれた想いだから。 私は中身のそれを食べることは出来ないし、どうしてこんなにも自分のために一生懸命作ってくれるのかは理解できないけど…それでも、その気持ちだけは無性に嬉しかった。 そして私の頭には、さっき貰ったばかりの、緋色のリボンが結いつけられている。 其処に刺繍されている"長湖さん"が、彼女の手によるものであることをちゃんと主張していた。 「大切に、使わせてもらいますね」 「うん」 おそろいの、紺色のリボンを結いつけている送り主が、柔らかな笑みを返してくれていた。 (終わり)
868:海月 亮 2006/02/19(日) 00:29 一週間ほど過ぎてしまいましたがバレンタインのお話。 余談ですがベニテングタケは死ぬほどの毒キノコではないです。 バイキングは闘争心をかき立てる為、戦闘前にはこのキノコを食べてトリップ状態になったとも言いますし。 あと塩やウオッカ漬けにして普通に食べるという地方もあるそうで。 まぁ私は喰ったことないですけどね^^A >北畠様 いやぁ暑いですね良いですねw スク水大好き人間というどう見ても「人間的にどうよ?」な某も夏が恋しいのであります。 ともかくGJであります(´ー`)b あぁ、読んでたらなんか急に西瓜喰いたくなって来たw
869:弐師 2006/02/19(日) 19:56 「あ、あのぉ・・・」 「ん?」 声をかけられて、振り返る。 そこには、小柄な、いかにも気の弱そうな少女が立っていた。 何度か、北平棟で見かけたことのある顔だが・・・はて? 「ぜ、単経さん・・・ですよね?」 「ああ、そうだけど。」 「私、田揩っていいます・・・その、弟子にしてください。」 「?」 何を言っているのだろう。変わった人だ。 そういえば、田揩。 そう、そうだ、そんな名前だったな。 ああ、すっきりしたな。 「じゃあ、そう言うことで。」 すっきりしたところで行くか。 「え・・・」 田揩君が唖然としているが、どうしたんだろう? 「あの・・・弟子・・・」 ああ。 そうだった。 つい私は人に言われたことを忘れてしまう。 悪い癖だ、まったく。 「いいけど、何故私の弟子などになりたい?私は裁縫もペン習字もできないぞ?」 「い、いえそんなのじゃなくて、その・・・」 彼女は自分の話をたどたどしくし始めた。 自分の気の弱さ、そんな自分が嫌いで変わりたいということ。 なるほど、それで仏頂面で有名な私のところに。 よし、納得。 「じゃ、そう言うこ・・・」 「待ってください!」 ああ。 なんかついさっきもこんなことが。 これがデジャ・ヴというものか。 「まあ、話は理解した。それで、だ、田揩君。」 「あ、田揩でいいです、弟子ですから。」 「・・・」 私はどうしたらいいのだろう。 ううむ・・・ 「あれ〜単さん。どうしたの?」 おや、越君。 助かった。 これで何気なくこの場を・・・ 「おお、田さんまで。二人って仲良かったんだ。二人とも仲良くね。それじゃあ、ばいばい。」 ふむ。 これってもしかして気を逸したのではないだろうか? これが戦だったら飛ばされてたぞ。 って、そんなことはどうでもいい。 まあ、しょうがないか、諦めよう、降伏だ。 「・・・わかった、だが、私は人に何か教えるのは苦手だ。其処のところは覚えておいてくれ。」 「いえ、そんな、そばに居させてもらえるだけで良いんです。」 「あと、私のことも単経で良い。師匠などと呼ばれても困る。」 「はい!単経さん!」
870:弐師 2006/02/19(日) 19:58 それから、一週間ほど彼女、田揩と過ごした。 やはり、そう簡単に性格など変わるものではない、彼女はまだおどおどしていることには変わりない。 だが、少しは変化があった。 私には、何故か常に笑顔で話してくるようになったのだ。 まあ、それは良い傾向なのだろう。 彼女の笑顔を見るのは、私も嫌ではない。 それに、段々と彼女の話を聞くのが楽しくなってきたのだ。 他愛ないような話。 例えば、今日は誰々と話すことができた、こんな話をできた。 私からしてみたら、あまりにも「普通」なこと。 それでも彼女は、まるで子供のように、目を輝かせながら話してくれる。 そしてそのたび、「ありがとう」と私に言う。 「あなたのおかげです」と。 彼女は私のことをまだ凄いと思っているのだろうか? こちらにしてみれば、彼女の方が偉いと思う。 私も、変わりたいと思っていた。 そう、私は、彼女とどこか同じ部分を持っていた。 それなのに彼女は、変わっていっている。 私を、残して。 「君は・・・偉いな。」 「え、何がですか?」 「いや・・・この少しの間に、君は確実に変わっていっている、それに比べ、私は情けないな。」 「そんなことないです、単経さんだって、変わって来ていると思いますよ?」 「私が?」 「そうです、こんなこと言ったら失礼かもしれないですけど、単経さん、笑うようになりました。」 「私が、笑う?」 「はい、私と話しているとき、楽しそうに笑ってくれてますよ。だから、いつも言うんですよ?私の話を微笑みながら聞いてくれてありがとうって、あなたが微笑んでくれてるから、私も、同じように笑いながら話せるんです、変わって来ていると言うのなら、それはあなたのおかげです。」 「そうか、いや、むしろ、礼を言わないといけないのは私の方だな。ありがとう」 「いえ、そんな・・・じゃあ、お互い様って事で。」 そう言って彼女は笑う、竜胆の花のように。 可憐に、それでいて控えめに。 そんな彼女につられ、私もいつの間にか笑っていた。 笑うというのは、良いものだな。 今は、本当にそう思う。 そう思えるのも、彼女のおかげだ。 彼女が居てくれたから、私も、変わっていけた。 心から、感謝している。
871:弐師 2006/02/19(日) 19:59 単経さんに弟子入りしてから二週間、私と単経さんは、北平棟の棟長室に呼ばれた。 伯珪さんが言うには、私たちに烏丸工の抑えをして欲しいとのことだ。 それまでは、彼女の一つ下の妹である越ちゃんと、その越ちゃんと同じ学年の厳綱ちゃんがその役を負っていたのだが、彼女たちでは抑えきれなくなり、私たちに変わって欲しいと言うことらしい。 私では、力不足かもしれない、だけど、伯珪さんの期待を裏切るわけには行かない。 それに、私一人では無理でも、単経さんがいてくれる。 「わかりました。」 「が、頑張ります!」 「じゃあ、頼んだよ、二人とも。」 漁陽棟を出て、少し北に奴らはいた。 見回りの中、数人の娘しか連れてないが、こんな連中にはこれだけで十分だ。 「田揩、私はあいつらの中に突っ込むから、君は後詰めを頼む。」 「え・・・でも・・・こちらの人数が少な・・・」 「大丈夫、私があんな奴らに負けると思うのか?」 そう言って、私はバイクを走らせる。 皆、敵に突っ込んでいくのは恐ろしいという、伯珪さまですら、そうなのだそうだ。 何故、私はそうじゃないのだろう? 私は狂ってでもいるのか? 皆、そんな私を賞賛しながら不気味がっている。 田揩も、こんな私を見たら、嫌いになってしまうのだろうか? だが、敵が近づいてくると、そんなことはどうでも良くなった。 連中の一人を、バイクから叩き落としてやる、それで、怖じ気づいたか、あいつらは逃げて行く。 それを私は追い討つ、有る程度痛めつけてやった方が良いだろう。 そして、気付いたら、少し深追いしていた。 まずい、戻らなくては。 そう思ったとき、後方から悲鳴が聞こえた。 まさか、罠? だとしたら、田揩が危ない。 そう気付いた瞬間、背中に悪寒が走る。 頭が上手く回らない。 血の気が引いていく。 これが、恐怖という物か? 気付けば、私は叫び声を上げながら引き返していた。 田揩・・・! どうか、無事で。 ――――――――私は、生まれて初めて、神に祈った。
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