★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
865:海月 亮2006/02/19(日) 00:18AAS
-何処までも甘い一日-


妙に開けづらいと思ったら、空けた瞬間に何か大量の包み紙がぎっしりと詰まっていた。
私は徐にその一角を摘み、引きずり出そうとするが…どんな密度で詰め込まれているのか、まったくびくともしない。
「…どうやって詰めたのよ、こんなに…?」
私は包み紙の大群に占拠された自分の下駄箱の有様に苦笑するしかなかった。

たっぷり30分かけて下駄箱から内容物のすべてを引き出し、それを体操服の入ったリュックサックへと詰め込んだ。
今日は体育があったんで、学生鞄とは別に持ってきたものなのだが…普段体操服一式を入れるだけではいささか大きすぎるそれが、見事に満杯だ。
面倒くさいのと、さすがに時期が時期だけにスカートだけじゃ寒いので、体操着の半袖どころかジャージの下まで着込んでいた分あったスペースなんてあってないようなものだ。
「…というか去年より多い」
…いやいやいや、そうじゃないだろ私。
状況をストレートに口に出してしまったが、どう考えても女子高で女の子がバレンタインにチョコ貰うのっておかしいでしょ。
しかも私は去年も、一昨年も貰っている。しかもその9割が差出人不明だ。
そりゃあ私だって、妹達にチョコをあげたり貰ったりしてるし、医者という仕事柄滅多に家にいない父のためにチョコを用意したりもするけど…でもこの場合「私がこんなに貰ってどうすんだ?」って言う気持ちがある。
いったい、私の何処が良くて、みんなこんなに一生懸命になって用意してくれるのか…それだけがよく解らなかった。

そして何より、私はチョコレートというヤツが、実は死ぬほど嫌いなのだ…。



一方その頃、呉郡の中等部寮では。
「…それで此処まで逃げてきたってワケですか?」
「まぁそういうこった」
部屋の主と思しき、狐色の髪をポニーテールに結った小柄な少女…丁奉が差し出した水を、一気に飲み干す茶髪の少女はその姉貴分である甘寧。
部屋着代わりに学校指定じゃない紺ジャージの丁奉に対し、甘寧は制服姿である。かつて学園の問題児であった甘寧も卒業を控え、それなりに真面目な学生生活を送ってきたことをうかがわせる。
現在一留の三年生で、しかも既に引退して往年のパイナップル頭を辞めて久しい甘寧だが、彼女は暇をもてあますとふらっと長湖の三年部員の元に現れては自堕落な休日を過ごすこともしょっちゅうである。だが、いくら親しくとも流石に中等部にいる後輩のところに転がり込んでくるようなことはなかった。
まぁそれだけの緊急事態であることは察しがつく。何しろ今日は学園全体がある種の狂気に支配される日なのだ。
甘寧にとってみれば、何故自分が標的にされてしまうのかと首を捻っているのだが…。
「幼平や公績も俺同様逃げ回ってるクチだし、文珪は何処行ったかよくわかんねぇ。子明さんと子敬は大学寮の下見で不在。あと頼りになりそうなのはお前くらいしかいねぇんだ」
ほとほと困り果てた様子で溜息を吐く甘寧。
「それじゃあ阿撞さんと蘇飛さんは?」
「……多分生きてると……思いてぇな……」
遠い目をする甘寧。どうやら甘寧は、銀幡の二枚看板ともいえるこの二人の尊い犠牲があって、ようやくノーマークの丁奉の元へ逃げてきたようである。
丁奉も流石に苦笑を隠せない。
「つーわけだ、ほとぼりが冷めるまでちと匿ってくれないか? 礼は必ずするから」
「お礼なんて…何にもない部屋ですけど、こんなところで良ければ」
急須にポット、更にはお茶菓子まで一通り出し終えたところで、丁奉は甘寧と向かい合う形で座った。
そして悪戯っぽく笑う。
「それにお礼なら、阿撞さんたちにしてあげたほうがいいと思いますけど、ね」
「…それはもちろん」
後輩の鋭い一発に、最早苦笑するしかない甘寧であった。



「…勘弁してよ」
教室へ行けば黒山の人だかり。その中心には私の机。
下駄箱があんな感じだったから大体予想はついたが…机の鞄架けに引っ掛けてある袋包みの数も、机からはみだしている包みの数も…いやもう置ききれなくなったらしい包みが机の上にも所狭しと並んでいる。
異常だよ。はっきり言うけど。
「あ、仲翔先輩、おはようございます」
その中心で、風紀委員の腕章をつけた少女数人を引き連れていた、ライトブラウンのロングヘアが特徴的な少女が、にっこりと笑いかけてきた。
交州学区総代の呂岱、字を定公。色々あって、結果的に親しくさせてもらっている後輩の一人だ。
「…おはよ。ていうか、この状況は…ナニ?」
「いやいや、先輩に心当たりがないとなると私にも解りませんって」
それもそうね、と返して、互いに苦笑する。
話を聞けば、どうやら私よりも先に来ていたクラスメートが私の机の状態を見て、驚いて風紀委員を呼びに行ったらしい。
まぁ無理もない。ほとんど"学園の辺境"とも言える場所柄か、構内の何処かで何か興味を引く事件が起こると皆寄って来てしまう。見回せば、別クラスの同輩はおろか下級生達もわんさか寄って来ている。
「…とりあえず…コレどうします先輩? このままでは、机もろくに使えなくて困りますよね?」
「うん…どこかに置いておける場所とかない? 帰りに取りに来るから」
「解りました、じゃあとりあえず執務室もって行きましょう。ね、たしか使ってない段ボールあったよね、持ってきてくれる?」
定公の命令一下、風紀委員たちはパタパタと駆け出していった。
1-AA