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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
866:海月 亮2006/02/19(日) 00:19AAS
所変わって…。
「…で…なんで私まで巻き込まれなきゃなんないんですか…?」
「…済まん…本当に済まん」
呉郡寮に程近い公園の茂みの中に、二人の少女が隠れていた。
ひとりは緑がかった髪をショートボブに切りそろえ、小柄ではあるがスタイルの良い童顔の美少女。
もうひとりは流れるようなロングヘアを銀に染め、目鼻の整った長身の美人。
緑髪の少女…陸遜は制服を着ているが、銀髪の少女…周泰は"長湖さん"トレーナーに黒のハーフコート、ジーンズにスニーカーと文句のつけようがない私服。
「しかし何で毎年毎年こうなるんだ…私がいったい何をやったと…」
心底困り果てた様子で空を見上げ、長嘆する周泰。
実はというと、陸遜は午後の授業に必要な教科書を寮に忘れたことに気づき、昼休みのうちに取りに戻ろうとした途中、暴徒の大群に追われていた周泰とばったり出くわし、勢いでその逃亡劇に巻き込まれてしまったのだ。
なんというか…陸遜も始めはその理不尽さに、当然ながら少々ご機嫌斜めの様子であったが、気分が落ち着いてくるにつれて周泰の立場に同情の念を禁じえなくなっていた。
(というか…このひとが人気ないってったら、きっと関羽先輩だって追っかけまわされずに済むんでしょうけどね)
そう考えると、少し可笑しくなって、陸遜は少し笑った。
「…何が可笑しいんだ…?」
それに気づいて恨めしげな目で睨む周泰。
「いえ、別に。ところで先輩、これからどうしましょうか?」
「どうしようか…って言われてもなぁ…去年の様子を見るからに、多分このまま廬江棟に行っても公績も居ないだろうし…」
今頃は自分と同じく、暴徒の大群に追っかけまわされているだろう友を想い、さらに途方にくれる周泰。
陸遜も巻き込まれた以上、流石にあの暴徒の群れに捕まるのは御免被りたいところである。自分の身を守る意味でも、ちゃんとした逃亡経路を見つけ出す義務はあるだろう…そう思うと、彼女の脳裏にある場所が思い浮かぶ。
「…そうだ…今日確か中等部の三年生は午前放課だったから、寮にうちの妹が居るかも」
「え?…あ、そうか呉郡寮か!」
「いくらなんでもあの場所までは誰も考えてないでしょう。身を落ち着けるのはもってこいです」
ようやく安堵の表情を見せた周泰が、感心したように呟く。
「流石は伯言…こう言うのもなんだが、結果的にお前を巻き込んだのは大正解だった」
「いや〜…私としては、大迷惑極まりないんですけどね」
陸遜は苦笑を隠せない。
ふたりは茂みの中をこそこそと、今だ彼女達を探して大路地を行ったり来たりしている暴徒の目を避けるように移動し始めた。
放課後。
しゅんとした表情の、金髪碧眼で巻き髪が特徴的な少女と、耳のようなクセ毛のある黒のロングヘアの少女、そして定公と私が向かい合う格好で、執務室のソファに座っている。
「…こりゃあまた…」
黒のロングヘアの少女…子瑜(諸葛瑾)が、呆れたというか面食らったという感じで苦笑しながらつぶやいた。
その視線の先には、回収されたチョコレートが溢れんばかりに詰め込まれた段ボールが二箱。
実はあれから、休み時間の度に見知らぬ女の子たち(恐らく後輩)に次から次へと押し付けられ、更にひと箱ぶん増えてしまったのだ。
「…なんというか、モテモテじゃない」
「ごめんその冗談笑えない」
我ながら見事な棒読み。きっと表情もなかったかもしれない。
「幹部会にすら仲翔の本性知らない人間が多かったんだから、学園にいるほぼすべての人間は仲翔がチョコ嫌いってコト知ってるわけもないか」
「え? そうなんですか?」
溜息交じりな子瑜の解説に、定公が目を丸くする。
まぁ話してもないことを知ってられてもそれはそれで困る。でも私の記憶が確かなら子瑜に話したこともなかったはずだけど…。
「話してもいい?」
「いいけど…情報源(ソース)は何処よ?」
「昨日、部長に内緒で幹部会のみんなと商店街に行ったときに伯言(陸遜)から。彼女は彼女の妹からあなたの妹経由で聞いたらしいんだけど」
納得。
そういえば妹…世洪の世代はみんな仲がいい。伯言の妹…幼節(陸抗)とかならうちによく遊びにくるしね。
まぁ子瑜の場合、いったい何処から情報を得ているのか解らない事も時々ある。何しろ彼女の身内には、今は故あって課外活動を退かなければならなくなった奇人・諸葛亮が居るわけだし…子瑜はともかく、あの孔明ばっかしは得た情報で何を仕出かしてるか解ったもんじゃない。
「じゃあ当人の口から聞いたほうが早いでしょ。あまりいい話じゃないけどね…」
溜息をひとつ吐き、気が重いながらも私はその経緯を語って聞かせた。
遡る事十年前。
虞姉妹に六人目の妹が生まれると言うことで、身重になった母親は父親の勤める病院に入院してしまい、姉妹のうち八つになった長女と四つの次女、三つになったばかりの三女は、近所に住んでいた父方の祖父母に預けられることとなった。
そんなある日、祖父母がたまたま家を空け、長女は妹二人を監督する大役を仰せつかっていた。
戸棚にはその前日買ったばかりの袋入りチョコレートがあり、祖母からおやつとしてあてがわれていた。
学校帰り、保育園へ妹二人を迎えに行き、そして帰宅。
「ねーねー、おやつまだー?」
しばらく遊んでいた二人の妹が、生真面目にも机に向かっている長女の袖を引いてきた。
時計を見れば、ちょうどそういうものが恋しくなる時間帯。
「はいはい。今用意するから、一緒に食べよ」
「はーい♪」
妹二人を引き連れ、いそいそと台所へ向かう。
ご多分に漏れず甘いものが大好きだった姉妹にとって、袋いっぱいのチョコレートとくればまさに宝の山。
長女は菓子皿にそれをすべて注ぎいれ、皆で行儀良くテーブルに着くと、姉妹で心行くまで頬張り始めた。
「あぅ…」
食べ初めて間もなくのころ、長女はなんだか妙な感覚に襲われていた。
何処かふわふわといい感じなのに、何でか天地がぐるぐると回転してそこはかとなく気分が悪い。そして何より、体が火照ってしまって二月とは思えないくらい暑かった。
「おねーちゃん…どうしたの?」
「お顔がまっかだよ?」
心配して覗き込んでくる二人の妹の顔が、ぶれて一人が三人にも四人にも見えた。
目がちかちかとしたと思ったら、そのまま長女の視界が暗転した…。
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