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885:冷霊 2006/03/04(土) 20:34 葭萌の夜 〜白水陥落・壱〜 「劉備が帰る?それホントなの?」 高沛がページをめくる手を止める。 「ああ、何でも荊州校区の方でトラブルがあったそうだ」 楊懐が何やら作業をしつつ答える。 「確か蒼天会の侵攻でしたっけ。皆、その話題で持ち切りですよ?」 劉闡が稽古の手を休め、棒を傍らに置く。 「え?あたしは長湖部が荊州返せってもめてるって聞いたけど?」 「あれ?そうなんですか?」 高沛の言葉に首を捻る劉闡。 「うーん、あたしはそう聞いたんだけど……」 高沛も劉闡に続き、首を捻る。 「どちらにせよ、帰ってもらえるのなら幸いだな。戦力の低下は免れんが、皆が落ち着くのは確かだ」 楊懐が静かに呟く。劉備が来て以来、益州校区では全体的に落ち着きが無かった。 葭萌門や白水門だけでは収まらず、成都棟よりはるばる劉備の顔を見に来た生徒もいた。 一方の劉備も益州校区への挨拶回りをきちんとやっており、益州校区の大半の生徒が劉備の顔がわかる程だった。 「じゃあ、帰る前にもう一回くらい挨拶しといた方がいいかもね。世話になったのは事実だしさ」 「そうですね。それなら何か、手土産とか準備した方がいいですか?」 「んー、そうだね。今の季節だと蜜柑とか温泉の素とかでいいかな?」 高沛が蜜柑を手に取る。そのとき、がらりと扉が開けられた。 「楊懐いるー?」 「あ、孟達さん」 入ってきたのは孟達、現在は法正と一緒に葭萌門の劉備の手伝いをしつつ目付役を務めている。 「劉闡も一緒?なら丁度良かったわ」 「ほうひはほ?ははひはひひはひは……」 「高沛、飲み込んでから話せ」 楊懐が冷静に言う。 「えっと、どうなさったんです?」 劉闡が孟達に駆け寄る一方、高沛は口一杯に頬張った蜜柑を何とか飲み込もうとしていた。 「三人に招待状だそうよ、ホラ」 孟達は足を止めると、駆け寄ってきた劉闡に招待状を差し出した。 「劉備が荊州に帰るって話は聞いてるわよね?」 「聞いた聞いた。荊州の方で何やら揉め事だって?」 高沛がごろりと寝転がり、孟達を見上げる。どうやら炬燵から出て来るつもりはないらしい。 「そう。だから、世話になったお礼も兼ねてパーティーを開くそうよ。」 「パーティーですか?そんなこと、わざわざして頂かなくてもいいのに……」 劉闡が招待状を受け取り、申し訳なさそうに小さくなる。 「タマも来るのか?」 楊懐がふと疑問を口にした。 「急な話だったから劉璋さんは来れないみたい、残念だけど」 孟達が小さな溜息をついた。楊懐は耳だけを傾けている。 「その代わりってわけじゃないけど、それも兼ねて劉闡には是非とも来て欲しいって言ってたわよ」 「わ、私もですか?」 自分の名前を呼ばれ、思わず声が裏返る劉闡。 「えっと、私はその……」 劉闡が申し訳なさそうに楊懐達を見やる。 「三人にって言ったでしょう?今夜はもちろん空いてるわよね?」 孟達が高沛を見下ろす。 「うーん……見張りは皆に任せてもいいし、問題無い……かな?」 高沛が首を傾げ、楊懐の方を見やる。 「……ん?ああ、必ず行く」 楊懐が腕組みを解き、孟達に視線を移す。 「わかったわ。それじゃ、今夜六時に葭萌門に来て頂戴ね」 「りょうかーい」 高沛が手をひらひらと振って、孟達の後姿を見送る。 「高沛さんどうしましょう!?お土産の準備とかまだ出来てないですよ!」 劉闡が戸棚や冷蔵庫の中身を慌てて確認する。 「お土産ねぇ……どうしよっか?身嗜みも整えないといけないし……っと、楊懐」 「ん、すまない」 高沛が楊懐に櫛を放り投げる。楊懐は櫛を受け取ると、鏡台に向き直る。 「六時から、か……」 長い髪を梳かしながら、楊懐は再び呟いた。
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