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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
891:海月 亮 2006/03/05(日) 18:36 >弐師様 悪魔の囁きは何処までも甘いのですな( ̄ー ̄) 私もこういう展開大好き。いやマジで。 そして廃位計画の話。時代的には、 1.濮陽興、張布 2.陸凱、丁奉、丁固 の順です。1は決行前に孫皓がふたりを粛清して、2は実行には至らず終っています。 以降はぐだぐだで、万揩烽モと不満を漏らしたのが原因で留平もろとも粛清されています。 そのあとにも賀循、楼玄、王蕃といった連中が孫皓の逆鱗に触れて殺されていますが・・・ 陸凱の件にしても、陸凱伝に触れられているのみで、真偽のほどははっきりしてないんだそうですよ。 まぁだからこそいじくり甲斐があるわけでwww
892:弐師 2006/03/11(土) 17:57 あ〜あ、暇だなぁ。 私は、いつも厳さんで遊んでる屋上に寝転がって、空を見ている。 仕事が、無い! 私たちのルールは「自分の仕事は自分で、己が領分を越えるな」なので、自分の仕事が終わるとかなり暇だ。 仕事中の厳さんでもからかって遊ぼうかな? あ、単さんだ、どうしたんだろ。 あの人は厳さんと違って乗りが悪いからなぁ、冷静すぎてつまんない。 弱点の田さんも弄りにくい人だし・・・ そんなことを勝手に考えていると、彼女は私を見つけて話しかける 「おや、越君じゃないか、伯珪さまが呼んでいたぞ。」 「え、本当ですか?ありがとうございます。」 よかった、このままだと暇で暇で死ぬところだった。 跳ね起きて、一直線に階段に向かう。 「じゃあ、失礼します!」 「あ、ああ。」 まったく、相変わらず元気な娘だな。 だが・・・何か彼女には引っかかるところがある、何が、とは言えないが、彼女は自分自身を隠している気がする。 その時、一陣の風が、吹き抜けた。 まるで、彼女のことを、私の頭から追い払おうとするかのように―――――――― 「お姉ちゃん、入るよ?」 「ああ、越。よく来てくれたね。」 そう言って、お姉ちゃんはいつものように私に微笑む。 本当に、この人は私の誇りだ。 「それで、用というのはだな・・・」 言いにくそうに、お姉ちゃんは私にそれを告げた。 袁術先輩への、使い。同盟の強化のために白馬義従の人たちを十人くらいつれて、彼女の元へ行くということだった。 はあ、あの人のところに行くのか。 お姉ちゃんは、私が彼女に好意を抱いてないのを知っているはずだけど。 「そう嫌そうな顔をするな。仕様がないことだ。劉虞さんも自分の妹を送ったんだ。 本来なら範に行ってもらうところだが、生憎範には張燕さんの所に行ってもらっているから。」 「うん、わかってる、せいぜいあのお嬢様のご機嫌を損ねないように気をつけるよ。」 「ああ、済まないな。頼んだよ。」 「ふふ、任せといてよ!」 そう言い放って、私は棟長室を飛び出した。 よし!やりますか! 疲れた。 全く、確かに以前よりはずっとましだが、デスクワークはつまらない。 やはり人間嫌なことをしたら疲れるわけで・・・ 「あ!厳さん!もう仕事終わったの!?凄いね!早いね!」 疲れてるときにはあまり会いたくない奴が来た・・・ なんでこんなに元気なんだこいつは・・・ 「えっと、まあ、何て言うか、とりあえず越、落ち着け。」 「だって、これからお使いだよ、テンション上げないと!」 「え?」 それは初耳だ、いったい誰の所に?そう言えば、詔勅が出たとか言って劉虞先輩が袁術先輩の元に兵を送ったらしいが・・・ならば袁術先輩か? 「そうだよ、その通り。袁術先輩のとこ。」 「そうだったんだ・・・って私は何も言ってない!」 「ふふ、顔を見れば分かるよ。」 こいつは・・・本当に疲れる。 でも、逆に言えばこいつぐらいしか私を疲れさせられるような奴は居ないし、それはそれでいいのかも。 って何を考えてるんだ、私は。 「じゃあ、いってきま〜す!お土産はいらないよね?」 そう言って、あいつは笑い、私に背を向ける。 あたりまえでしょう、と言い返そうとしたが、その言葉は胸に詰まって出てこなかった。 何故か、あいつが帰ってこないような気がしたから―――――――― 私が何も言えないでいると、あいつは不思議そうな顔をして振り向いた。 「ん?どしたの?」 「いや、その・・・ちゃんと、帰ってきてね。」 「おやおやぁ?ラブコールですか?わかりました!厳綱姫!必ずこの公孫越、貴女の元に!」 「違っ・・・別にそんなつもりじゃ・・・!」 「ははは、わかってるよ、安心して。私は、ちゃんと戻ってくるから。」 静かに笑いながら、あいつはそう言った。 だけどその笑顔が、さっきの背中以上に儚く見えて、私は、目を背けた。 「どうしたの?赤くなっちゃってさ。」 「うるさい!元はといえば貴女が・・・!もう、知らない!とっとと行けばいいでしょう!」 「ふふ、はいはい、言われなくても行きますよ〜。」 そう言って、いつもの意地の悪い笑顔で走っていった。 大丈夫だ、きっと私の杞憂で終わる。 あんな憎たらしい奴が、そう簡単に飛ばされるはずはない。 きっと・・・そうだ。
893:弐師 2006/03/11(土) 17:59 > 北畠蒼陽様 とりあえず、越を気に入ってもらえたようで。 董卓大ブレイクですか、それはそれで楽しそうですね。 そして袁紹はあんまり人気が無いんですかそうですか・・・ とりあえずルールとか全然分からずにイラストだけで判断してますw 魏続が妙に格好いいのがツボですw >海月 亮様 ふむふむ、勉強になります。 丁奉さんは好きなんですが、陸凱さんなんかは海月様の紹介で初めて知りました。 呉は2代目世代はあまり分からないです・・・ では、期待しています!
894:雑号将軍 2006/03/12(日) 15:10 えーと、その…はじめましてじゃないけど、はじめまして。雑号将軍です。 皆さんの作品、読ませて頂きました! > 北畠蒼陽様 なんか、毋丘倹格好良くないですか!?これはもう、三國志\の毋丘倹の武力と統率を90に編集するしかないですね! お見事でした。 >冷霊様 お見事です!白水関をここまで再現されるとは!そんな偉そうなこといいながらも、僕は演義でしか白水関のあたりは知らないんですけどね。 これからの展開に期待しておりまする。 >弐師様 それがしめも越殿はお気に入りとなりました。いや横山三国志でも「兜(ていうかツノ)がいいなあ」と一人で思っていたのですが、今度はこのなんとういうのか小悪魔な感じがよいですなあ。 それがしめも何か書こうと思うのですが、難しいものです…。大学受験と言う名の戦に巻き込まれ始めたので…。
895:冷霊 2006/03/22(水) 14:26 葭萌の夜〜白水陥落・弐〜 夕日がもうじき沈む。 「もうすぐやな……」 劉備は一人、夕日を見つめながら呟いた。 「悪いけどウチはここで止まるわけにはいかへん……」 ぐっと拳を固める。 それは皆の誹りを受けるかもしれない恐れとそれに対する覚悟の表れであろうか。 士元とも十分に話し合って決めたことだ。 だが、ここまで着実にやってきたが為に踏み切れない。 「孔明なら……いや、気にしてもしゃあないな」 ふと漏らす一言。士元が頼りになるのもわかっている。 だが、それ以上に孔明という存在は彼女の中で大きくなっていた。 「姉貴、どうした?」 不意に後ろから影が差す。 「ん?いや、次は誰のネタで行こうか思うてな」 劉備は振り返り、劉封にニッと笑ってみせる。 「次のネタねぇ……」 劉封は少しだけ腕組みをし、考え込む。 「そうだ。法正さんや孟達さんとかどう?」 「孟達はもうちょいしてからの方がええやろ。法正は……一考の余地はありそうやな」 何やら笑みを浮かべつつ手帳に書き込む劉備。 「お。ここにいたんだねぇ」 後ろから声がかけられる。 「ホウ統はんか。どないしたんや?」 劉備が振り向く。そこにいるのはホウ統だった。 今回の張魯征伐……いや、蜀攻略の軍師である。 「劉備さんにお客さんさね。なんでも孟達さんが話したいことがあるんだとさ」 「孟達が?今頃何の話やろ?」 手帳を仕舞うと劉備はホウ統に目を向けた。 「ま、一応聞いといてやりなよ。いい報せだといいねぇ」 ホウ統はくいと管理棟の方に視線をやる。 「管理棟やな?わかった、すぐ行く」 劉備は歩き出そうとして、もう一度だけ夕日の方を振り返った。 「姉貴?」 劉封が止まった姉を怪訝そうに見やる。 すると突然、劉備がパァンと己の頬を叩いた。 劉封が驚きの表情を見せる。 「ウチはウチのやりたいことをやる……それだけや」 ぼそりと呟き、劉備は葭萌門へと向かう。 「そう、うまく行けばいいんだけどねぇ……ホント」 劉備とその後ろを付いて行く劉封の姿を見送りつつ、ホウ統は呟いた。
896:冷霊 2006/03/22(水) 14:31 葭萌の夜〜白水陥落・参〜 「孟達、首尾はどないやったん?」 「問題無しね。三人とも慌てて準備してたわよ」 「そうか?そんなら大丈夫やな」 葭萌門管理棟。 部屋には劉備と孟達の二人きり、劉封は只今お茶を注ぎに行っている。 「で、話したいことってなんや?なんぞ、向こうさんの情報でもあるんか?」 孟達が僅かにかぶりを振った。どうやら情報を持ってきたわけではないらしい。 僅かに息を吸う。そして孟達ははっきりとした声で言い放った。 「蜀を取った後、貴方はどうするつもり?」 部屋の空気が止まる。 一瞬だけ孟達の視線を正面から受け止め、劉備は口を開いた。 「蒼天会に対抗出来るだけの勢力を作るだけや。蒼天会や長湖部の連中とは肌が合わんしな」 真面目な口調。滅多に見せない表情に、孟達は僅かに息を呑んだ。 「そやけど……」 不意に口調ががらりと変わった。 「ウチの周りにおる奴等と楽しい学園生活を送る。これが一番の目標や」 劉備がニッと笑ってみせた。 「その為やったらウチは何でもしたる。それがウチらの夢やからな」 本心からの台詞なのだろう。孟達にもそれが伝わっていた。 鬼にも仏にもなれる人物……それが劉備なのだと。 「なんや?劉璋はんの心配しとるんか?」 一瞬の間。 「ま、まあね。していないと言ったら嘘になるわ」 孟達は視線をそらし、窓の外に目をやる。外は次第に暗くなりつつある。 「そやなぁ……劉璋はんには雲長と一緒に荊州棟でも頼もうか。あっちなら治安もええし、劉璋はんには合うてると思うで」 劉備は立ち上がり、窓から外を眺めた。孟達の反応はない。 「なんや?安心してぇな。もちろん、東州のこともまとめて面倒見るつもりやで」 その言葉を聞いた途端、孟達の顔から表情が消えた。 ギィンッ!! 次の刹那、劉備のハリセンは孟達の短杖を受け止めていた。 「劉備……やはり君とは分かり合えない」 「そら残念やったな。東州の纏め役をオトせたら楽やったんやけどなぁ」 素早く両者は距離を取る。 「多分楊懐はんの方やろ?アンタならウチのこと、わかる思うてたんやけどなぁ」 残念そうに呟く劉備。孟達がマスクを掴み、剥ぎ取る。その下から現れたのは楊懐の顔。 「分かっているつもりだ……だからこそ渡せない」 楊懐は短杖を構え直す。 「そんならどうして劉璋はんにこだわるんや!今のやり方やったら益州は……」 「わかっている」 きっぱりと、しかし強い口調で言い切った。 「今のままでは蒼天会どころか張魯にも勝てないだろう。タマは益州校区を統べる器ではない」 「うわ、きっついなぁ……」 劉備が軽く苦笑いを浮かべる。 「だが……」 楊懐が再び口を開く。 「行き場の無い私達に場所をくれたのが君郎さんだった。趙イさんが私達が問題起こしたから追い出そうとしたとき、タマは言ってくれた。私達はここにいてもいいのだ、と」 両者の間に流れる緊張した空気は変わらない。 「タマと……季玉といる益州校区が私達の居場所なんだ。私の中にある益州校区に君はいない」 静かながらも強い口調。 「例え、ウチらが益州校区を劉璋はんに任せる言うてもか?」 劉備が一瞬、窓の外へと注意を向ける。 「タマと君、どちらが優れているかは自明の理だろう?頭は二つも要らない」 「それは関しては同感やな」 楊懐と劉備、互いに笑みを浮かべる。 だが、両者の瞳は真剣そのものである。 「姉貴、お茶淹れてきたけどー……」 「ホウ統さんが伝言があるってー……」 劉封と関平がやってきたのはそんなときであった。
897:冷霊 2006/03/22(水) 15:03 悩んだ挙句、四話構成になっちゃいそうです……冷霊です。 白水門、こういう形になっちゃいました。 劉備サイドもちょっぴし書いてみたかったもので……。 白水関って正史に記述がほとんどない場所ですからねぇ。 やはり蜀としては細かいところを伝えるわけにはいかなかったのかな、とか思ってしまいます。 次は高沛の見せ場が……うまく作れるといいなぁ、と。 >弐師様 正史を見てると越って、袁術繋がりで孫堅と共に戦ってるんですねぇ……。 こうしてみると袁術って意外と人間関係の核となってるのかも?w そういえば厳綱もこの後の界橋の戦いで麹義とやりあってますし、 界橋の戦いを諌めたという話も聞きませんし……こういう絆があったのかもと想像してしまいますね。 >北畠様 静かに始めてみました。 確認すると楊懐の方が高沛よりも上の立場だったようで、ある意味こういうのもありなのかなぁと。 正史では二人とも酒宴の際に二人して斬られてますが。 劉闡の記述がないので、密かに悩んでたりしてますが……きっとなんとかなるでしょうw >雑号将軍様 演義も実は正史とそこまで変わってはおりません。 ただ、楊懐が匕首を帯びていますが、暗殺しようとしたとの記述は確かなかったかと。 華陽国志やら劉焉・劉璋伝を只今読破中で御座いますw
898:海月 亮 2006/03/25(土) 23:59 何時かはこんなときがくる…なんとなくではあったが、彼女にもそんな"確信"があった。 だがむしろ彼女は、周瑜、魯粛という余りにも偉大な先達の後釜に据えられたそのときから、「自分こそがそれを成し遂げなければならない」という、そんなプレッシャーとともに毎日を過ごしていた。 普段は億尾にも出さないが、彼女を襲う頭痛は日に日に強さを増していた。 「…間に合うのかな…?」 自分がこの頭痛で参ってしまうのが先か、それとも…。 「あたしが…あの武神を打ち倒すのが先か」 その呟きを聞く者は、その場には自分だけだった。 -武神に挑む者- 第一部 至上命令 少女…呂蒙が長湖部の実働部隊を総括するようになってから、既に半年が経とうとしていた。 学問を修め、驚異的な成績アップを果たして注目を集めるようになった彼女は、好んで兵学書を読むようにもなり、一読すればまるで乾いた真綿が水を吸い込んでいくかのように、その内容を覚えていった。 そしてその知識は、合肥・濡須棟攻防戦において見事昇華し、その戦いの決着がつく頃には「長湖に呂子明あり」というほどの名将にまで成長していた。 それまではただの「十把一絡げの悪たれのひとり」でしかなかった少女は、その一挙一動を注目される存在にまでなってしまったのである。 しかし。 彼女がその名を不動にする頃には、長湖部は実に多くの名将を失っていた。 南郡棟攻略時の事故で周瑜を欠き、合肥・濡須攻防戦以降は甘寧も動ける状態になく、時を同じくして魯粛も留学のため学園を去った。長湖部最古参のまとめ役でもあった程普、黄蓋らも時を同じくして引退していった。 公式には甘寧は未だ課外活動に在籍している。しかし、戦場に突出した凌統を庇いながらの、張遼との戦いで受けた怪我のダメージは大きく、何時ドクターストップがかかるか解らない状態だ。 魯粛も年度末には学園に戻るとはいえ、学園から籍をはずす以上は活動からも引退を余儀なくされる。復学したとしても、課外活動への再参加は認められていない。 在籍する中では、初代部長孫堅以来からの古参組である韓当や宋謙、孫策時代からの猛将として知られる蒋欽、周泰、潘璋、凌統、徐盛といった輩も居る。 しかし、そう言った荒くれ連中をまとめ、大々的に戦略構築が出来る人間は、知られる限りでは呂蒙ただひとりだった。 「…やっぱり厳しいなぁ…」 長湖部員で主将・副将クラスに属する少女の名が記された名簿を睨みながら、そのサイドポニーの少女…呂蒙は、そう呟いた。既に時計は深夜0時を回り、締め切った部屋の明かりは手元のスタンドだけ。 名簿には、色とりどりのマーカーや蛍光ペンで、その少女に対する短評がつけられている。それも総て、呂蒙が実際のその少女と会い、あるいは噂話や実際の仕事振りから気がついた点を書き出したものだ。 このマメさこそ、今の彼女がある…そういっても、過言ではない。 「何処かにもうひとり、興覇クラスの"仕事人"が居てくれりゃあなぁ」 「やっぱ厳しいん?」 「うわ!」 不意に後ろからひとりの少女が、肩口から顔を突っ込んできたのに驚いてのけぞる呂蒙。 見れば、それは同い年くらいの人懐っこそうな風体の少女だ。栗色のロングヘアに、学校指定ではない臙脂色ジャージの上下を着ている。呂蒙はシンプルな水色のパジャマを着ているところから考えれば、彼女はそのルームメイトであり、かつその格好が彼女のラフな格好なのだろう。 「驚かすなよ叔朗…寿命が12年は縮まったぞ」 「心配あらへん。モーちゃんならきっとまだ五百年生きるやろから十二年くらいどってことないで」 「…あたしは何処の世界の妖怪だ。つか、何処にそんな根拠がある?」 「なんとなく〜」 その、どこか"ほわわん"としたその少女の受け答えに、思わず頭を抱える呂蒙。 しかしその少女…孫皎、字を叔朗という彼女は、現長湖部長孫権の従姉妹に当たり、この天然なピンクのオーラで甘寧とひと悶着起こしたほどの猛者である。幼い頃は関西にいたらしく、その京訛が特徴的だ。 「せやけどモーちゃん、あんまり気ぃばっか張っとったら身体に毒やで。うちなんかと違(ちご)おて、モーちゃんにもしもの事遭ったら、皆きっと悲しむで?」 孫皎が心配そうな面持ちでその顔を覗き込んできた。 「うちにはモーちゃんの代わりになれるような能力(ちから)もないし、友達とかもようおれへん。せやから」 「んなこたねぇだろ、あんたがあたしのサポートをしてくれるおかげで色々巧くいってんだ。それに、あんたのとこにはいつも人が集る」 呂蒙の言葉を否定するように、孫皎は寂しそうな顔で頭を振る。 「ちゃうよ。あの子達はみんな、うちが仲謀ちゃんのイトコやから、ちやほやしてくれるだけ…うちには、ほんまに仲良いなんて、おらへんのや」 「ばか、それじゃああたしはあんたの何だってんだ。あたしが一方的に"友達"だと思ってただけか?」 「え…?」 呂蒙はそう言って孫皎の額を小突く。 「あまり自分のことを悪く言うな。興覇だってあんたのこと、胆の据わった大したヤツだって褒めてたよ。それに今度の戦いはあんたの頑張りを全部引き出してくれないことにゃ始まらないんだからな」 「うん…頑張ってみる。おおきにな」 「礼言うトコじゃないよ。あたしが勝手に思っていることなんだからな」 「うん」 自分のベッドにもぐりこんだ孫皎が自分に微笑みかけてくるのを見て、呂蒙も苦笑を隠せない。 人選の刻限は徐々に近づきつつあったが、彼女は"友達"に倣ってとりあえず切り上げ、寝ることにした。
899:海月 亮 2006/03/25(土) 23:59 翌日の昼休み。 混雑しているだろう学食を避け、予め出掛けに買い込んでいた菓子パンを頬張りながら、再度名簿と睨みあってる呂蒙。 「なぁモーちゃん、文珪ちゃんとこのこの娘とか、どない思う?」 「ん?」 隣りでサンドイッチを食べながら、孫皎が指差したのはひとりの少女だった。 「あぁ、承淵か…確かにいい素質は持ってんだけどなぁ」 「あかんかなぁ…確かにまだ中学生やけど、こないだの無双でもいろいろ活躍しとったし」 「主将クラスは足りてんのさ。あたしが欲しいのは、スタンドアローンで動ける軍才を持った、それなりに無名の人間だ。関羽が油断して、江陵周辺をがら空きにしてくれるくらいで、その留守の短い間にその辺平定しちまうくらいの」 「うーん」 サンドイッチを口にくわえたまま、腕組みして考え込んでしまう孫皎。 実際に難しい人選である。というか、ほとんど無茶に近いといってもいい。要するに呂蒙が欲しい人材というのは、呂蒙と同等かそれ以上の能力を持ち、かつまったく名前の知られていないということ…。 「でもそれやと、興覇さんがおったとしてもあかんのやないの?」 「んや。その場合は誰か適当なヤツをあてがって、その隙にあたしと興覇が別々に動くことができる。興覇が入院中の今となっちゃ、それが厳しい状態だ。その代わりにあんたを使うことを考えても見たんだが…」 「うちを? でも…」 「実力的には申し分ない。けど、今あたしの軍団からあんたを欠くのはマジで痛いからな。編成している中では潘璋分隊の義封、蒋欽分隊の孔休を外すと途端に機能不全だ。同じことがあんたにもいえるからな」 自信なさ気な孫皎を気にかけるもなく、パンを飲み込みながら難しい顔の呂蒙。 「マネージャーとはどうなんかな?」 「マネージャー?」 「うん。マネージャーで、なんかすごそうな人。例えば、こないだの濡須とき、援軍を指揮してた緑髪の娘とか。あの娘確か公苗さんとこのマネージャーって」 「陸伯言か。そう言えばこないだ興覇とふたりで承淵をからかった時、話題は伯言の話だったな…」 数日前、呂蒙は甘寧の妹分であった丁奉を伴い、入院中の甘寧の見舞いに行った。 そのとき、去年の赤壁決戦前の夏合宿で調理実習をやったとき、同じ班に居た陸遜の話で話題が盛り上がったときのことを、呂蒙は思い出していた。 「はぁ? 伯言が公瑾のお墨付きだぁ?」 「あ…えっと、それは」 狐色の髪が特徴的なその少女は、ベッドから上体を起こした状態で呆気にとられた甘寧と、その傍らでぽかんとした呂蒙の視線を浴びて、明らかに動揺していた。 明らかに、いわでもなことを言ってしまった…そんな感じだ。 昨年の合宿では自分たちの悪戯のせいで周瑜に完全に目の仇にされ、ただおろおろしているだけの気の弱そうなヤツ…ふたりにとって陸伯言という少女はその程度の存在でしかない。朝錬の際甘寧と凌統が喧嘩したのに巻き込まれたときも、周瑜に命ぜられるまま律儀にふたりに付き合って罰ゲームを受けたり、失敗した料理の処理をまかされて保健室へ直行したり…まぁ流石のふたりも「悪いことしたなぁ」くらいは思っていたが。 「ということはなぁ…承淵の言葉が正しければあのあと、あいつらが仲直りしていたってことになるが」 「となると休み明けに伯言がやつれてたのそのせいか。あの赤壁キャンプを乗り越えたとなれば相当なもんだな、伯言のヤツ」 「あ、だからその、それはちょっとした…」 ひたすらおろおろと取り繕おうとする狐色髪の少女…丁奉の慌てる様子から、呂蒙と甘寧もその言葉の真なるところを覚った様子だ。中学生ながら、荒くれ悪たれ揃いの長湖部の中で一目置かれるこの少女だが、それだけにその少女の性格はよく知られていた。 すなわち、絶望的にウソをつくのがヘタな、素直で真面目な性格の持ち主であるということだ。 そして自分の尊敬する者に対して強く敬意を払う。彼女の普段の甘寧への接し方を見ていればよく解る。それが彼女らにとって取るに足りない存在だった陸遜に対して「周瑜が認めた天才」と言うのであれば…。 「まぁ能ある鷹はなんとやら、とも言うしな。長湖実働総括も伯言に任せりゃちったあ楽できるかね、あたしも?」 「だ、だめです! そんなことしたら公瑾先輩が…」 「なんで? いいじゃねぇか、公瑾が出し惜しむならあたしが伯言を活かしてやるまでさ」 「きっとその方があいつだって喜ぶだろうしなぁ」 「だからそうじゃないんです!」 必死にその言葉を取り消させようとする少女の姿が面白くて、呂蒙も甘寧も完全に悪乗り状態だ。陸遜に実力があるかどうかは別として、今はそのほうがふたりには面白かった。 「…解りました…でも、なるべくなら他の人には黙っててください…こんなことが知れたら、あたし長湖部に居れなくなってしまいますから…」 そうして、半泣きになった彼女は、ことの詳細をふたりに語って聞かせた。 その話を聞いてもなお、呂蒙は半信半疑だった。 丁奉は話し終えると、何度も何度も念を押す様に「このことは絶対に内緒にしてください」と取りすがるようにして懇願してきた。恐らくは相当の事情があるのだろうことは呂蒙にも理解できた。だから、以降はその話題に触れまいと思っていたのだが…。 「ここはひとつ、承淵の顔でも立ててみるかねぇ?」 遊び半分ではない。 彼女はそれがまだ見ぬダイアの原石であることを信じ、陸遜の元へと出向くことにした。
900:海月 亮 2006/03/26(日) 00:01 呂蒙は様々な折衝事を孫皎に任せ、たまたま陸遜が出張ってきている丹陽棟を訪れていた。 その棟内に足を踏み入れてすぐ、廊下の向こうから出てきた一人の少女が呂蒙に気づき、駆け寄ってきた。 「や〜、また珍しいお客さんが来たもんねぇ」 「これはこれは君理棟長殿。あんた自らの出迎えとは恐れ入るな」 襟にかかる程度の柔らかなショートカットの黒髪を揺らし、その少女…丹陽棟切っての顔役・朱治が笑う。 「まぁこんなところで立ち話もなんだし、ちょっと寄ってく?」 「うーん…そうだな、たまにはゆっくりさせてもらおうかな」 呂蒙とてそう暇があったわけではないが、そもそも彼女は此処へ人探しに来ていたわけだから、それなら顔役である朱治に話を聞いたほうが早いと判断した。 「そーかそーか。ね、ちょっとお茶用意してもらっていい?」 「はい」 傍らに寄り添っていた少女が恭しく一礼して立ち去ると、呂蒙も朱治に伴われるまま階段を上っていった。 「随分、規律が整っているもんだな」 周囲をざっと見回し、思わず感嘆する呂蒙。 棟内に落書きのようなものは一切なく、廊下で無駄話しているような生徒もいない。そしてすれ違う少女達も軽く会釈し、挨拶して立ち去っていく様子は、長湖部の本部がある建業棟にも見られないものだった。 「コイツもやっぱり、あんたの人徳のなせる業かい?」 「いやいや、とてもじゃないけどあたし一人じゃこうはならないさ。ほとんど仲翔のお陰さね」 「仲翔だって?」 意外な人物の名前を聞き、呂蒙は鸚鵡返しに聞き返した。 仲翔…即ち会稽の虞翻も、呂蒙や朱治と並ぶ"小覇王"孫策時代からの功臣の一人だ。確かに彼女みたいな"キレるとコワい"タイプの文治官僚(ビューロクラート)がいれば、このくらいの状況を作り出すのも朝飯前だろうが…。 「確かあいつは幹部会にいたんじゃなかったのか?」 「それがねぇ…」 朱治は苦笑いして、 「あの娘、どういうわけか知らないけど、唐突にこっち寄越されたのよ。別に幹部会で何かやらかした話は聞かないんだけど…どうもあの性格だからね、丹陽の風紀更正の名目で厄介払い食らわせられたのかもしれないわ」 と肩を竦める。 虞翻は確かに経理に強いし、仕事振りも真面目なのだが、その生来の真面目さゆえか自分が正しいと思ったことは梃子でも曲げない性格だ。孫権も孫権で同じくらいに意地っ張りなものだから、普段何気ないところからでもかなりの軋轢が生じているだろうこと位は、容易に想像できた。 「なるほど…確かにそういう理由付けされたら、流石の子布(張昭)さんも何も言えないだろうな」 「まぁ、お陰で私は助かってるんだけどねぇ…」 ふと、校庭の方へ目をやると、一人の少女とすれ違った二人組の少女が、眉をひそめてこそこそ言っているらしい様子が目に映る。 すれ違ったプラチナブロンドの少女は、それを意に解するでもなく、そのまま歩き去ってしまう。 「相変わらずだなぁ…仲翔のヤツも」 その様子には流石の呂蒙も苦笑せざるを得なかった。 「…陸伯言? まぁ確かにあの娘も此処にいるけど」 執務室の一角、朱治の趣味で設置された畳三畳のスペース、お茶の用意されたちゃぶ台に二人は向かい合う形で胡坐をかいていた。 そこで思いもがけぬ名前が呂蒙の口から出たことに、朱治は小首を傾げた。 「どうしてまたあの娘の名前が? 確かによく働く娘だけど、そんな目立って何かすごいトコもないような気もするけど…」 「そいつは悪いけど詮索無用で頼むわ。で、今あいつは何処に?」 「うーん…あの娘そこらじゅう動き回ってるからねぇ…呼び出す?」 あぁ頼む、という言葉が喉まで出掛かった呂蒙だったが、何故かそうしてしまってはいけないような気がして止めた。 冷静になって考えてみれば、陸遜の件に関する証言は丁奉からしか得られていない。 合肥では確かに彼女の指揮振りを実際目にしているものの…まだまだ自分の中では彼女に対する評価材料が少なすぎる。 「いや…今日は余裕があるし、散歩ついでに探してみるよ」 「そお?」 丁奉の言葉を疑うわけではないが…だがその言葉を信じればこそ、いきなり面と向かってしまえば、陸遜は警戒し、その本音を明かそうとはしないだろうと呂蒙は思った。
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