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895:冷霊 2006/03/22(水) 14:26 葭萌の夜〜白水陥落・弐〜 夕日がもうじき沈む。 「もうすぐやな……」 劉備は一人、夕日を見つめながら呟いた。 「悪いけどウチはここで止まるわけにはいかへん……」 ぐっと拳を固める。 それは皆の誹りを受けるかもしれない恐れとそれに対する覚悟の表れであろうか。 士元とも十分に話し合って決めたことだ。 だが、ここまで着実にやってきたが為に踏み切れない。 「孔明なら……いや、気にしてもしゃあないな」 ふと漏らす一言。士元が頼りになるのもわかっている。 だが、それ以上に孔明という存在は彼女の中で大きくなっていた。 「姉貴、どうした?」 不意に後ろから影が差す。 「ん?いや、次は誰のネタで行こうか思うてな」 劉備は振り返り、劉封にニッと笑ってみせる。 「次のネタねぇ……」 劉封は少しだけ腕組みをし、考え込む。 「そうだ。法正さんや孟達さんとかどう?」 「孟達はもうちょいしてからの方がええやろ。法正は……一考の余地はありそうやな」 何やら笑みを浮かべつつ手帳に書き込む劉備。 「お。ここにいたんだねぇ」 後ろから声がかけられる。 「ホウ統はんか。どないしたんや?」 劉備が振り向く。そこにいるのはホウ統だった。 今回の張魯征伐……いや、蜀攻略の軍師である。 「劉備さんにお客さんさね。なんでも孟達さんが話したいことがあるんだとさ」 「孟達が?今頃何の話やろ?」 手帳を仕舞うと劉備はホウ統に目を向けた。 「ま、一応聞いといてやりなよ。いい報せだといいねぇ」 ホウ統はくいと管理棟の方に視線をやる。 「管理棟やな?わかった、すぐ行く」 劉備は歩き出そうとして、もう一度だけ夕日の方を振り返った。 「姉貴?」 劉封が止まった姉を怪訝そうに見やる。 すると突然、劉備がパァンと己の頬を叩いた。 劉封が驚きの表情を見せる。 「ウチはウチのやりたいことをやる……それだけや」 ぼそりと呟き、劉備は葭萌門へと向かう。 「そう、うまく行けばいいんだけどねぇ……ホント」 劉備とその後ろを付いて行く劉封の姿を見送りつつ、ホウ統は呟いた。
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