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934:弐師 2006/07/29(土) 20:08 その報告を聞いたのは、あらかたの仕事を片づけて、もう休もうかとしているときだった。 越ちゃんが、飛ばされた。 すぐに私は、伯珪姉のいる棟長室へ向かった。途中で同じく報告を聞いたという単経ちゃん、田揩ちゃんと合流することが出来た。 棟長室の前へ辿り着く。少し息が上がっている、それほどまでに焦っていたのか。 少しためらいつつもドアを開く。いつもと変わらない部屋の中、ただその部屋の主だけが常ではない。 手を組み、目を堅くつぶり、近寄りがたいほどの怒気を発している。 背筋がぞくっとする。こんな伯珪姉は今までに見たことがない。 伯珪姉が口を開く、いつもより声のトーンが低い。 「来たか・・・では、行くぞ」 え? 行く? 何処に? 誰が? 何のために? ・・・思考回路が上手く働かない。自分自身焦っていることもあるが、あまりにも言葉に脈絡がない。 だが、唖然としている私達を置き去りに、伯珪姉は棟長室を出ていった。私は急いでその後を追いかける。 「い、行くって何処へですか!?」 「範、あまり愚かなことを聞くな、袁紹の元に決まっているだろう?」 そう答えながらも歩く速度はゆるめない、私の方など見ようともしない。その長く美しい髪をたなびかせながらどんどん歩いていく。 止めようと、袖をつかみ、言葉をかける だけど、私では止められない・・・今の彼女の視界に、私は入っていない。 今の伯珪姉は、袁紹しか見えていない。 その時、廊下の向こうに一人の少女の姿が見えた。廊下の真ん中に、伯珪姉の行く手を遮るように立っている。 ――――――――厳綱ちゃん・・・! 「おや・・・棟長、何処に行かれるのです?」 言葉自体は丁寧だが、厳綱ちゃんの声はどこか挑発しているようだった。 そんな彼女を、伯珪姉は押しのけようとする。 「どけ、邪魔だ」 「ふふ・・・ずいぶんと冷たいじゃないですか」 そう言い返しながら、彼女は決して道をあけようとしない。 見てるこっちがひやひやさせられる。伯珪姉はかなり苛立っているようだ。 「聞こえなかったか?邪魔だと言っている」 「何と言われようと此処を退くわけには行きませんね。越のためにも・・ね」・ 「そう言うなら、何故邪魔をする?私はこれから袁紹を討ちに行こうとしているのだが・・・」 「・・・復讐は、完全に行われなければならない。それが私の持論です」 「・・・」 「あの袁紹を、完全に、完膚無きまでに、徹底的に撃ち破り、屈辱の底にたたき込んだその時に、私は復讐が完遂されると思っています。今は、まだ機が熟していない・・・私はそう思いますが」 無言。 二人の視線がぶつかり合い、火花を散らす。 どちらも退かない、真っ直ぐに相手を見据える。 暫く続いた沈黙は、伯珪姉によって破られた―――――――― 「――――――――ついてこい、厳綱。これから棟長室で会議だ、お前も出ろ」
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