★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
174:彩鳳2003/02/14(金) 06:14 [shouji-sakurai@mti.biglobe.ne.jp]
 ■ 一月の花時雨 ■

 第一部 ―北風の銀華(はな)― 
 

 「う〜んぅぅぅ ・・・」
 
 ・・・寒い・・・真冬の冷気が頬を刺す・・・もう朝だ・・・起きないと・・・
 
 ・・・だけど・・・寒いよ・・・もう少し・・・もう少しだけ・・・このまま・・・
 
 「んううぅぅぅ〜 ・・・」
 
 ・・・それにしても静かだ・・・変だなぁ・・・朝なのに・・・朝なのに鳥の鳴き声が聞こえてこな―――――!!―――もしかし―――

 ズゴン!!

 「いった〜ぁ!」

 目から火花が出る、とは正にこの事だ。彼女が寝ていたのは二段ベッドの下の方。勢い良く跳ね起きた彼女は、ベッドの上の階に頭をぶつけてしまったのだ。

 彼女が痛がるのは無理もない。だが、この姿を見ていたなら誰が思うであろう。痛そうに頭をさするこの少女こそ、この蒼天学園において最大の勢力を誇る新生徒会長・曹操孟徳その人であろうとは。
 
 「おはよう、朝から大丈夫?」

 一部始終を見ていたのであろう、ベッドの上の方の主(あるじ)が苦笑しながも曹操に声を掛けてくる。隻眼のパートナー・夏侯惇だ。
 既に制服に着替えている彼女は小さい棚からティーカップを取り出し、電気ポットのお茶を注いでいる。
  
 「おはよう。今日は早いね〜。いつもは私の方が早いのにね。」
 「別に早くはないよ。私血圧低いし。あんたが遅いだけ。昨日は遅くまで起きてたろ?気配で分かる。」
 「あ、気付いてたの?」
 
 曹操と話しながらも、夏侯惇は作業の手を休めない。
 「はい」と言って出来あがった紅茶と小さなタオルを彼女に差し出した。

 「あ、サンキュー☆」

 曹操は差し出されたティーカップに手を伸ばし、口元へと運ぶ。
 だが、そんな曹操に夏侯惇が待ったを掛ける。

 「孟徳? あんたひょっとして気付いてないの?」
 「?」

 お茶を飲もうとした曹操に待ったを掛けて、夏侯惇はタオルの方に手を伸ばす。
 そして、タオルを掴んだ夏侯惇の手は、そのまま曹操の口元へと伸びた。

 「あ・・・」

 どうやら夏侯惇の意図に気付いたらしく、曹操自身は動かずに大人しくしている。
 一方、「作業」を終えた夏侯惇の顔は、呆れ顔だった。

 「あんたねぇ・・・どんな夢を見たのか知らないけど、このくらい気付いたら? 生徒会長がそれじゃぁみっともないよ。」
 「だってぇ〜いきなり頭が―――あっ!!」

 突然言葉を切って、曹操が窓辺へと駆け寄る。紅茶の事は彼女の頭から消え去ってしまった様だ。(実は夏侯惇の事も。)結露して、濡れた窓に手を伸ばすと、勢い良く窓を開ける。
 
 「あぁ〜っ☆ やっぱりぃ〜!!」

 空一面は灰色の淡い斑模様に彩られ、白銀(しろがね)色の花びらが風に乗って舞い踊る。――見事な雪景色が彼女の眼前に広がっていた。   
 窓から冷たい風が吹き込んでくるが、曹操は「心、ここに在らず」といった様子で気にもしていない。
 
 「ああ、それか。昨日は天気予報で雪になるって言ってたけど、思ったよりも積もってる。このままだと・・・」
 (って、聞いてないか。)

 別に怒ったわけではないが、夏侯惇は溜息を一つ吐(つ)くと部屋の奥へ姿を消した。



 曹操は、外の光景を飽きる事無く見つめていた。空を流れる雲、寒風に舞う雪、真っ白に染まった樹木・・・。
 だが、今やそれらの何一つとして彼女のの目には入っていない。いつの間にか、彼女の目は景色への興味を失っていた。
 ならば、彼女の目には一体何が映っていると言うのか・・・?
  
 曹操は南を向いている。その方向に位置しているのは―――。だが、普段はこの窓から遠望できるカント公園も、[六兄]州校区や豫州校区の校舎群も、この日は雪のカーテンにその姿を覆い隠されていて、その姿を見る事は出来ない。なにしろ、彼女の居る冀州校区の校舎ですら、雪に霞んで見えるのだから。

 しかし、曹操の目には明らかに明確な意思が宿っている。その瞳は遠くを、雪のカーテンの遥か向こうを見ているように感じられる。その様子はまるで、見えない物が見えているかの様な印象すら放っていた。

 (北の袁尚は頑張っているけど、もう生徒会の敵じゃない。烏丸の連中と組んでる様だけど、春までにはカタを付ける。むしろ南の劉表や孫権の方が重要ね。
 孫権は孫策の件があるからまず動かない。地理的要素もあるから今は大目に見るとして、問題は荊州校区の方。
 ま、大黒柱の劉表はもうすぐ引退だからね。あそこには劉備と愉快な仲間達がいるけど、代が替わったら一気に行く。帰宅部の奴らがいくら頑張っても、物量で押しまくれば勝てる筈。いくら質的要素が侮れないとは言ってもね・・・フフ・・・。
 ・・・荊州さえ押さえれば、勝負は決まる。後は―――。)


 ボン!!


 曹操の頭を、柔らかな感触が伝わってゆく。丁寧に畳まれた彼女の制服だ。

 「考え事は良いんだけどさ・・・あんた学校休みたいの?こんなところで風邪ひいたらみんなが困るんだからさ・・・ほら!さっさと着替える!!」

 夏侯惇がボヤくのも無理はない。曹操の格好ときたら起きたままの格好―――パジャマ姿だった。

 「も〜折角考え中だったのに〜・・・元譲の乱暴者ぉ。」
 「折角持ってきたのに、感謝の言葉も無しか・・・。」

 だが、言葉を交わしつつも、曹操は制服を受け取ると部屋の奥へと小走りで駆けてゆく。

 「言っとくけど余り時間が無いから、急いで着替えなよ!」
 「うん、元譲、有難うね!」
 「・・・・・・」

 夏侯惇の予想に反して、曹操の返事は素直な物だった。思わず返事に詰まってしまう。
 
 「やれやれ・・・」

 言葉を返すタイミングを失してしまった。言うべき言葉はある。しかしタイミングが悪い。
 彼女の意図に反して、出てきた言葉は――――。  

 「はぁ・・・・・」と嘆息して、夏侯惇は窓の外へ目を移す。

 「ったく・・・窓くらい閉めていきなって・・・」


 ―第一部 END―
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