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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
214:教授2003/03/03(月) 23:36
■■卒業 〜法正の涙〜■■
卒業式も滞りなく終わった。
周りには泣いてるコもたくさんいたけど…私には込み上げてくるものが何一つ無かった。
自分でも驚くくらい呆気なく感じられた。
卒業…まあ、勉学に関しては修めてるから卒業とは言えるだろうけど。
でも、何か納得できない。
満たされない…何かがまだあるの?
難解な迷路の何ランクも上の迷宮に迷い込んだみたい…。
答えは…何処?
「おーい、法正〜」
「ん…?」
コートを羽織り、教室を出たところで『酔いどれクイーン』こと、簡擁憲和に声を掛けられた。
いつも通りの元気そうな笑顔。
だけど、それも今日で見納めかしら。
「憲和、どうしたの?」
「一人で帰るの?」
一人で帰る?
まあ…確かに誰かを誘うつもりもなかったし、お呼びが掛かってるわけでもないからね。
「そうね。一人で帰るつもりだったけど」
私の答えに憲和が首を傾げた。
「今日で最後なんだから、一人で帰るのは勿体無いぞ〜」
「…別に。今までとそう変わりはないわ…」
「さみしー事言わないように。友達甲斐のないセリフだからね、それ」
「友達…」
その単語に心の中で何かが揺れた…。
私を…友達だなんて…。
…何だろう、胸が…苦しい。
痛い程に締めつけられてる…。
それに…自分の鼓動が耳に届いてる…。
分からない…何でこんな事に…。
「ほーせー?」
「…憲和……っ! 何でもないよ」
心配そうに私を覗き込む憲和に我に返った。
でも…まだ症状は治まらない。
「何でもないって顔じゃないけどなー。っと、シチューとパシリが来た」
「卒業してもパシリ扱いってのも…」
私は苦笑いを浮かべ、憲和の見ている方に向き直る。
『お使い乾ちゃん』こと孫乾と『おじょーさま』ことビ竺のコンビが仲良く私達の元にやってきた。
と、早々に子仲がにこにこと微笑みながら口を開く。
「法正さん、一緒に打ち上げ行きませんか〜?」
「打ち上げって…私はやめとく…」
「何でよー」
憲和が抗議の声を上げる。
「…私が行っても…」
私はここで言葉を切った。
後には『楽しくなんかならないよ』って続くはずだったけど…。
三人に気を遣わせてしまいそうでイヤだった。
でも、それ以上に気になる事があった。
「それに、何で私を誘うの?」
私の言葉に三人がきょとんとした目を私に向けた。
な、何よ…その目は…。
「何でって…ねぇ?」
「うん、そうですね」
憲和と孫乾が互いを見合って頷き合う。
それにビ竺も加わった。
何か分からないけど…。
「あのね…法正さん」
孫乾が三人を代表して私に話し掛けてきた。
「何?」
「法正さんを誘うのって…友達だからなんですけど…」
「友達って…」
再び蘇る諸症状。
顔まで熱くなってきた…。
「え、えーと…友達って…、わ、私の事?」
な、何動揺してるのよ…。
「はあ? 法正以外の誰を指してると思うのよ」
憲和がさも当然のように答えを返してきた。
孫乾とビ竺も頷く。
「私が…友達…」
やっと…自分に納得いかなかった理由が分かった気がする。
私の事を…友達として見てる人がいなかった…。
いや、いないと思い込んでいた。
課外活動だけの仲間、友達未満の繋がり。
それだけ…ただ、それだけだと…ずっと思ってた。
でも…今、こうして目の前に私を友達と呼んでくれる人達がいる。
霞に隠れていた…もやもやしていた部分が見えてきた…。
「ほーせー♪」
「え…っ!」
憲和の声に顔を上げた途端、強烈な光が目に飛び込んできた。
「憲和…」
「へへー…法正の泣き顔ゲット♪」
「私の泣き顔って…あ…」
慌てて自分の頬に触れると、濡れた感触が伝わってくる。
「さぁて、法正の泣き顔も手に入れた事だし…行きますか!」
憲和が私の肩をぐいっと引き寄せ、そのまま歩き始めた。
「け、憲和〜…だから、近すぎるってば…」
「恥ずかしがる事ないじゃん」
悪戯っぽく笑う憲和。
「仲がいいですね」
「…喧嘩する程仲が良いと言いますし」
孫乾とビ竺もくすくすと微笑みながら、私達の後ろから付いて来る。
「全く…」
私は…無意識に自分の顔が綻んでいた事に気付いてはいなかった。
私達が校舎から出ると…そこには見た事もないような綺麗な光景が広がっていた。
「うわ…」
「綺麗…」
憲和と孫乾が感嘆の声を漏らす。
朝はまだ蕾だった桜が…今は大きく花を開き、文字通り咲き乱れていたのだ。
「早咲きの…桜ですか…」
ビ竺はそんな事を呟き、風に吹かれてきた桜の花弁を手に取る。
「私達の門出には…最高の祝福…だと思いませんか?」
にこりと微笑むビ竺。
その目尻には涙が滲んでいた。
私も目頭が熱くなるのを感じている。
孫乾は…溢れてるし、憲和は…潤んでる。
「卒業は別れじゃない…また…いつでも会えます」
「そうだね…。会えなくなるわけじゃないもんな」
ビ竺の言葉に感慨深く答える憲和。
答えてはいないが、私も孫乾もきっと憲和と同じ事を思ってるだろう。
と、憲和が何かに気が付いた。
「おっ、あそこにいるのは…玄徳とその妹達じゃん。合流しよっか?」
憲和の指差す先には…元総代達の姿が見えた。
私と…孫乾、ビ竺は顔を見合わせる。
「行こう!」
三人の声が重なった。
憲和はその答えに微笑みを返すと、そのまま駆け出した。
「私達も行こっ」
孫乾とビ竺は並んで走り始める。
私は…ゆらりひらりと舞う桜の流れを見上げていた。
「こんなにも心が軽くなったのは初めてだよ…ずっと、ずっと続いてほしい…」
心の中にあった本当の気持ちが素直に言葉に出来た。
もう少し早く気付いていれば良かったなぁ…。
ちょっと後悔。
「法正〜! 早くおいでよ〜!」
遠くの方から憲和が私を急かす。
「分かってる! そこで待っててよ!」
私は笑顔を向けると、親友のいる場所へと駆け出した。
きっと…心の底から笑っていられてるよね?
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