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216:雪月華 2003/03/05(水) 00:45 長湖部夏季強化合宿。 孫堅が提唱し、孫策が受けついだ、夏休み開始から1週間にわたって行われる長湖部名物行事であり、そのハードさは孫権が三代目部長に就任した今も衰えていない。そのスケジュールは、 6:00 起床・洗顔・身支度 6:30〜7:30 長湖南岸(10km)早朝ジョギング 7:30〜8:10 朝食&宿舎の掃除 8:15〜10:00 全員での基礎体力づくり (10分休憩) 10:10〜12:00 〃 12:00〜13:00 昼食・ミーティング 13:00〜15:00 各種目ごと練習 (10分休憩) 15:10〜17:30 〃 17:30〜18:00 全員での柔軟体操 18:00〜 自由時間(外食可) 21:00 門限(違反者は翌日、練習量2倍のペナルティが課せられる) 23:00 消灯 となる。 生徒会が荊州校区を席巻し、赤壁島の決戦が差し迫った今、イメチェンに成功した周瑜が部長の孫権の全権代理として総指揮にあたっている。脱落者、不適応者は容赦なく退部となるため、黄蓋ら3年生からは不評を買っていたが、その効果については異論のはさみようがなく、いわば実績が不満を押さえ込んでいた形であった。 …23:30 消灯時間は過ぎているが、いまだ眠る気配の無い一室がある。消灯といっても、3年生が一度各部屋を見回るだけで、それさえやり過ごせば後は結構自由な時間が持てる。 灯りを消し、なにやらボソボソと語り合う数人の気配。 魯粛、甘寧、凌統、呂蒙、蒋欽の長湖部問題児軍団に加え、陸遜、朱桓ら数名の1年生の姿も確認できる。話の内容は、怪談のようだ。修学旅行、合宿など、若い者同士の一夜の定番である。 「…つまりさ、いないはずの5人目がいたのよ。」 懐中電灯で顔を下から照らした魯粛が話を締めくくる。話をする者には懐中電灯が渡され、場を演出するために使用される。 「つまんねぇな。どっかで聞いたぜ。その話。」 「黙って聞きなよ。」 洗いざらしの金髪を無造作にタオルで包んだいわゆるタオラー状態の甘寧に凌統がつっこむ。 この二人、仲は悪いくせに不思議と隣り合って座ってしまう。教室でも、食堂でも、練習でもシャワー室でも。 「次は、えーと、一年生の君。」 「はいっ!任せてください、とっておきがあるんですから!」 仕切り役の呂蒙に指名を受けたのは朱桓休穆。部長の孫権の同級生で、スポーツ万能で学業成績もいい。性格も思い切りがよく、長湖部期待の新星の一人である。 「これは、人に聞いた話じゃなくて私が実際に体験したことなんです…」 「私が小学校4年の頃、母が風邪をこじらせて入院したので父はお手伝いさんを雇ったんです。Aさん、としておきますね。外国の方らしいのですが、日本語が堪能で、仕事も速く、正確なので父はとても気に入ってたんです。」 「外国っていうと、東南アジアあたりか?」 「タイ人だとAさんは言っていましたが…なぜか、うちの飼い犬がやたらとAさんに吠え付いたんです。今までは絶対に他人に吠えたりしなかったのに。」 「へぇ…」 「雇って1週間たったあたりで、…見てしまったんです。」 「何を?」 「あの日の夜、2時ごろでした。私はトイレに行こうと思って、2階の自分の部屋から1階に降りていったんです。そこで信じられないものを見てしまったのです。」 座が静まり返る。 「Aさんがいました。ただし首だけで。首から下が無くて、向こう側の洗面台が見えたんです!」 朱桓が懐中電灯をつけて顔を下から照らした。 その顔が3m近く上、天井近くに見えた! 「うわあぁーーー!!!」 どすん、ばたん、ゴキッ! 電灯がつけられた。 朱桓は積み重ねた布団の上に立っていただけだった。 面白そうな顔をしている魯粛。あまり動じていない蒋欽。後ろ手をついて仰け反っている呂蒙。微妙な表情をしている甘寧。そして…なぜか甘寧の首にしっかりと抱きついている凌統。一番驚いたのは間違いなく彼女である。 「ほ、ほんとの話、それ?」 「はい。信じてもらえないかもしれませんが、本当です。あの後、Aさんの部屋へ逃げていったので、追いかけたら、部屋の中でAさんが泣いていました。あのあと、すぐ辞めちゃいましたっけ。」 「追いかけたって…あんたは凄いわ。」 「……凌統。」 「なに?」 「…いつまで抱きついてるつもりだ?」 「あっ…」 慌てて凌統が離れる。 「俺様にはそんな趣味は無いんだが…」 「う、うるさい!物のはずみよ!」 「ところで陸遜は…あ」 呂蒙の隣に座っていた陸遜が目を回して仰向けに倒れている。暗闇の混乱の中、仰け反った呂蒙のエルボーをまともに顎に受けたらしい。 無防備に気絶している陸遜を眺めていた魯粛にふと、悪戯っぽい笑みが浮かんだ。計画を他の者に耳打ちする。 やがて話がまとまり、甘寧が頭側を、魯粛が足を持って部屋からいずこかへ運び出していった。 …視界のエメラルド色のもやが晴れてくる。起きたら顔を洗って、歯を磨いて、寝床を整理したら着替えて食堂に。今日はトーストと紅茶のセット。残っていたらベーコンエッグも… 陸遜が目を開けるとそこには見知った、しかしそこにいるはずの無い人の寝顔があった。意識の混乱が収まり、その人物が周瑜であることに気がつくと、慌てて跳ね起きる。つられて周瑜も目を覚ました。 「な、なに、何?なんで!?」 「ちょ、ちょっと陸遜!?どうして私の布団に!?」 「ち、違います!違います!!違いますっ!!!」 何が違うのかわからないがとにかく否定する。董襲、陳武、徐盛らが起きだしてきた。絶体絶命のピンチである。昨夜、魯粛の提案で集まり、怪談話をしたところまでは覚えているが、そこから先の記憶が無い。なにやら顎のあたりが痛むが…。 廊下のほうで複数の笑い声が聞こえ、逃げるように足音が遠ざかっていった。 「あ!まさか…まてー!」 陸遜が慌てて部屋を飛び出してゆく。部屋の隅では魯粛が狸寝入りで笑いを堪えるのに苦労していた。 …夏休みの間、陸遜は周瑜に口を聞いてもらえなかったらしい。 ーーーーーーーーーーーーー ちょっと季節外れですが、張角SS推敲の合間に息抜きのつもりで書いたものです。 実際の朱桓もこの妖怪に遭遇しているらしいです…。 最後の悪戯は、高校時代、実際に修学旅行で悪友数人と行ったもので、真っ先に寝た者を隣の部屋の誰かの布団に添い寝させるという荒技です。異性の布団だとシャレにならないことになるので、同性の布団に添い寝させ、そのまま私達も部屋に戻りました。…翌朝、隣の部屋から絶叫が(^^;)…徹底したアリバイ工作&黙秘で事件を迷宮入りさせましたが、今、この場で真相を明かします。
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