★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
245:雪月華2003/04/08(火) 02:54
長湖部夏合宿 その2

夏休み4日目の午前6時45分。朝日に煌く長湖の水面を右手に見ながら若々しい掛け声とともに約千人の長湖部員が早朝ジョギングを行っていた。後漢市を南北2つに分けている長湖の北岸と南岸(揚州校区限定)では気候がまったく違う。北岸は典型的な北日本的気候であり、湖岸には防風林の役目を果たす針葉樹が目立つ。さらに、冬になれば湖面は凍結し、アイススケートやワカサギ釣りをもを楽しむことができる。長湖のほぼ中央に位置する赤壁島を南に越えるとそれは一変し、湖岸にはヤシの木が立ち並び、ハイビスカスやヒマワリが咲き乱れる。冬でも雪は降らず、日中最高気温は27℃、夜の最低気温16℃と、ほとんどハワイと変わらない常夏の地域なのである。この校区だけが異常気象となった理由は、万博の折、撃ち上げられた気象操作ミラーの誤作動であり、この地域だけに他の地域の数倍の日光が降り注ぐことになってしまったからである。いまだ復旧の目処は立っていない。

早朝ジョギングとはいえ、そこは長湖部夏合宿(日程については>>216参照)。生易しいものではない。距離的には10Kmだが、すべてが舗装路というわけでは無論無く、ときに砂浜を走り、水深が腰まである幅10mの川を何本も渡り、石ころだらけの山道を踏破し、登り坂の数はそれこそ無数。あまりのハードさから「地獄の行軍訓練」との恐ろしげな通称で呼ばれ怖れられていた。だが、この行軍訓練もこの後の地獄のスペシャルメニューのいわばオードブルに過ぎないのである。現に合宿二日目の時点で、脱落し、泣きながら退部する者は70名を越えていたが、不思議と、3日目には脱落者は出ていなかった。そして4日目の行軍訓練が開始されていた。

「それにしても呂蒙サン、なんで凌統はあそこまで俺様を敵視するんスか?」
「…甘寧、あんた、それマジで聞いてる?」
「ええ。何でですかね?長湖にきてから、アイツに特別何かした記憶はないんスけど?」
甘寧は心底不思議そうな表情で、隣を走る呂蒙に尋ねた。
地獄の行軍訓練の半ば、5q地点近くである。1年生などはそれこそ必死で駆けているのだが、甘寧、呂蒙らはダベる余裕すら見せている。そもそもの基礎体力が並外れているのだ。
「あんたがまだ黄祖んトコいたとき、長湖部と黄祖んトコで遠征試合したよね。あんた、そのとき凌統の姉さんの凌操先輩をおもいっきり飛ばしたじゃないの?」
「…ああ!妙に突出してきた紫っぽい長髪の3年がいたから、逃げるフリして誘い込んで囲んだ後、全本気でアッパー食らわしたんッスよ。その直後にそっくりな顔した奴が乗り込んできて、船から落っこちたそいつを引き上げていったんスよね。道理で凌統と顔あわせたときに初対面って気がしなかったわけっスよ。」
「とにかく気をつけなよ。凌統は本気であんたを憎んでるんだからね。」
「んじゃ、凌統は姉の仇ってことで俺様を憎んでいるんスか?小さいやつっスね!」
「…誰の胸が小さいって?」
「おわっ!?凌統!?てめ、いつの間に?」
「小さい小さい好き勝手言ってるみたいだけどね、アタシ83あるんだよ。」
どうやら凌統、肝心なところを聞いていなかったらしい。その短慮を呂蒙が嗜めようとした。
「凌統、誰も胸のはなし…」
「そんくれぇで自慢になるかよ!俺様はなぁ、92あるんだぜ!」
「うそっ!?」
「バーカ。嘘だよ。いくらなんでもそこまででかいはず無いだろうが。邪魔になって仕方がねー。ま、てめぇよりあるのは確かだがな」
「何よ!でかけりゃいいってものじゃないでしょ!」
「てめぇ、さっき小さいって言われて反発してたじゃねーか!」
「やっぱり、胸の話してたんじゃないのよ!」
「…あなたたち、ずいぶん仲がいいのね。」
冷ややかな美声が果てしなく続くかと思われた口喧嘩を制した。
「げっ!副部長…」
「二人とも、自分の隊の引率はどうしたの?」
口喧嘩を続けるうちに走るペースが上がってゆき、隊列の中ほどを走っていたはずの二人はいつのまにか先頭を走る周瑜の近くまで来ていたのである。
「随分元気があまっているようね。」
「ご、誤解っス!もとはといえばこの凌統が…」
「いえ、この甘寧がもともとの原因で…」
「問答無用!ふたりともこの場でスクワット300回!隊列の最後尾が宿舎に帰着するまでに追いつけなかったら朝食抜きよ!」
「げっ!そんな殺生な!」
「監視役として陸遜を残すわ。いいわね陸遜?」
「えっ?ひょっとして私も追いつけなかったら朝食抜きってことに…?」
「当然」
「ええええええ!そんな!私が何を…」
じろり、と周瑜が陸遜を睨み、沈黙させた。どうやら一昨日の朝(>>216参照)のことをまだ根に持っているらしい。
こうして、その場には甘寧と凌統、とばっちりの陸遜が残された。甘寧と凌統はスクワットを開始し、二人のメンチに絶えられなくなった陸遜も半べそでスクワットを始める。まだ朝の7時だが強烈に照りつける太陽の下、すでに気温は21℃を超え始めていた。

7時10分。
「298、299…300!いよっしゃー!終わった!んで、甘寧はあと何回?」
「今271回目だ。」
「じゃあ、先行ってるよ。」
「てめ、待ってやろうって気はねぇのか!?」
にたり、と凌統は邪悪な微笑を浮かべた。
「てめ、何かたくらんでやがるな…」
「別にぃ」
そう言って、凌統は駆け出していった。
「ったく…陸遜、お前今何回目だ?」
「に、254回です…」
「そういや…なんでお前まで、スクワットやってるんだ?」
「お二人が睨むからじゃないですか!」
「睨んでねぇよ。ちょっと足が痛んで顔がひきつっただけだ。おい、あといいぜ。先行っとけよ。」
「え、いいんですか?」
「いいも何も、お前までやる必要ねぇだろうが。ホラ。朝飯逃すぜ。」
「じゃ、じゃあ失礼します!」
すこしよろめきながら陸遜が走り去り、その一分後、甘寧も後を追った。

7時25分。約2分前に行軍に追いついた凌統。そして今ようやく甘寧が追いついてきた。流石に息が乱れている。
「おっ、随分早かったじゃないの」
「てめぇ!たった3分先行しただけで、どうやったらあそこまでトラップ仕掛けられるんだよ!」
「急ごしらえだったから足止めにもならなかったかな?」
「十分足止めになってるぞ。陸遜には」
「え?マジ?」
「…俺様はしらねぇぞ。」

陸遜が朝食をとり損ねたのは言うまでも無い…合掌。
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どうも、掲示板移転お疲れ様です。
無双3にハマっててしばらく執筆してませんでしたが、久しぶりにネタが浮かんだので記念、というカタチで投稿します(また季節外れネタ…)。
同時進行で、黄巾シリーズの董卓vs張角歌合戦というお馬鹿なSS書いているんですが、皇甫嵩ら後漢4天王や袁紹、曹操、劉備一統が絡んできて、萌え、ギャグ、シリアス入り乱れたかなりの大作に(汗)。完成はまだ遠いです。
1-AA