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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
287:雪月華 2003/05/23(金) 12:45 広宗の女神 エピローグ 始まりの終わりへ 董卓配下の100人以外で、進軍してきた山道にたどり着いた生徒会軍は7人に過ぎず、まともに鉅鹿棟にたどり着けたのは4人に過ぎなかった。4人のうちの一人が、董卓であるのは言うまでもない。 無事にたどり着けた理由にひとつに、追いすがる黄巾党200人に、突然現れた謎の二人組が奇襲をかけ、瞬く間に30人近くを叩き伏せ、残りの者を撤退させたということがあった。だが、董卓の提出した報告書にはその二人のことは触れられていなかったので、この二人が何者だったのかは、謎となっている。生き残った者の証言によると、一人は、ずば抜けた長身で、漆黒の見事な長髪が人の目を引く、静かだが圧倒的な風格のある美女で、竹刀を携えており、もう一人は意外と小柄で可愛らしい童顔をしていたが、隆々と盛り上がる筋肉と、常に青筋立ててる表情がそれと悟らせない少女であり、三節棍を携えていたらしい。崖の上に、さらに二人居たようだが、逃げるのに必死で、詳しくは覚えていないとのことだった。そのうちの一人は赤い上着を羽織っていて、それだけが印象的だったらしいが… 「第一次広宗の戦い」の参加者は、生徒会軍550人。黄巾党250人。飛ばされた者は、生徒会軍447人。黄巾党37人。生徒会側にとって、酸鼻極まる数字である。ことに、張角の女神の歌で昏睡状態に陥った440人あまりの生徒は、3日間意識が戻らず、まともに立てるようになるまで2週間を要した。ここまで一方的な敗北を喫したのは蒼天会成立以来であり、総司令官の董卓は更迭され、涼州校区へ戻ることになった。戦場に最期まで残って味方の撤退を助けた、という武勇伝は残りはしたが… この敗戦により、生徒会直属である450人の正規兵を一気に失ったことで、各校区の私兵や義勇兵に頼る比率がさらに大きくなり、生徒会の権威は日に日に失墜していく事になる。 ──二日後の放課後、洛陽棟第一体育館において 「皇甫嵩を対黄巾党総司令官に任命する。速やかに反乱を鎮圧し、学園をもとのあるべき姿にせよ」 「非才なる身の全力をあげて」 内心はどうあれ、表面上は完璧に礼儀を保ったまま、壇上で皇甫嵩は執行部長、張譲に対面した。洛陽棟で100円玉貨幣章以上を持つ、上級生徒全員が整列する前で「悪趣味な」総司令官の腕章と、総司令官の辞令を受け取る。 張譲らとしても、ほかに選択肢がないのである。激減した戦力を補い、勢いづいた黄巾党に対抗できる人材を、献金がまめな人物から見出すことが、ついにできなかった。醜態を演じた董卓を推薦した張譲としては、面目を失ったというところであろう。すでに監査委員の左豊に推薦の濡れぎぬを着せて階級章を剥奪しており、表面上は何事もなかったかに思えるが、この一件で何進の信用をかなり失ったことだけは確かであった。 総司令官職への抜擢。武人としては最高の名誉であり、階級章にもかなり加点される。軍事に関する権限も飛躍的に大きくなる。式典の様子は学内ケーブルテレビで、全校区に中継され、皇甫嵩の武名は学園中に鳴り響く事になる。だが、式典の間ずっと、皇甫嵩は仏頂面をしていた。もともとあるべき状態に戻っただけであり、事態が手遅れになりかけてから押し付けられ、しかも片手だけで勝てと言われたようなものである。前途のあまりの多難さに、機嫌がいいはずがなかった。 体育館を出た皇甫嵩に、珍しく改まった表情の朱儁が敬礼を向けた。あの後は、お互い少々気まずくなり、ろくに会話を交わしていなかった事を皇甫嵩は思い出し、少し狼狽した。 「公偉?」 「総司令官への就任、祝着に存じます。今後とも、全身全霊をもちまして補佐奉りますゆえ…」 堅苦しい言葉遣いからすると、やはり、まだ完全には打ち解けられないか、と、皇甫嵩は少々さびしく思った。 「…ってね、ガラじゃなかったかな?」 唐突に、朱儁は態度を変え、いつもどおり、屈託なく笑った。つられて、ずっと仏頂面だった皇甫嵩も、笑顔を見せる。 盧植は謹慎二週間に加え風邪を引きこみ、丁原は并州校区に戻ったが、まだ傍には親友の朱儁がいる。孤立無援というわけではないのだ。皇甫嵩はそう思うと、少し気が楽になった。単純だな、とやや自嘲気味に皇甫嵩は思った。 「義真、これからもずっと、よろしくね!」 「こちらこそ、よろしく頼む。公偉」 皇甫嵩は、差し出された右手を強く握りかえして、最も信頼できる僚友と頷きあった。朱儁がにやりと笑って言葉を続ける。 「ほら、義真って何かと不器用だから、私がいないとダメだし…むわっ!?」 「生意気を言うのはこの口か?ん?」 皇甫嵩は朱儁の両頬をつまんで、かるく左右に引っ張った。 「やったなーっ!」 「うわっ!?お返し!」 「うきゃあっ」 胸を触られた皇甫嵩は、お返しとばかりに朱儁の「ツノ」をぐいっと引っ張った。 十年来の親友同士の、小学生のようにふざけあう、微笑ましい姿がそこにあった。 こうして、二将の間に入った亀裂は完全に修復され、生徒会の危機のひとつは回避された。吉凶定かならぬ事件の多い昨今、皇甫嵩の司令官就任と、この仲直りだけは、完全に「吉」と言えるものであっただろう。 激減した兵力の再編に忙殺されていた皇甫嵩の元に吉報が飛び込んできた。少なくとも、周囲の者にとっては吉報である。だが、皇甫嵩にとっては、このうえない凶報であった。 「黄巾党首領張角、広宗音楽堂での舞台中、吐血、昏倒」 皇甫嵩の心に氷刃が滑り、鋭く冷たい痛みを走らせた。この瞬間、盧植と交わした誓いのひとつが、永遠に果たせなくなってしまったのである。皇甫嵩は無意識のうちに、胸のロザリオに手を伸ばした。 (すまない、子幹。あの子を救う事はできなかった。だが、もうひとつの誓いは必ず果たす。あと一週間以内に張宝、張梁らを討ち、この乱を終わらせてみせる!) 誓いを新たにすると、皇甫嵩は精力的に活動を始めた。激減した兵力を補うために、各校区の総代、棟長への募兵の指示を出す。勢いを盛り返した張宝、張梁の動きはどうなっているか調べ、対策を練る…解決しなければならないことは山積しており、皇甫嵩の判断を待っているのである。なにかと煩雑で苦労の多い仕事だが、その苦労を皇甫嵩は嫌いではなかった。 −広宗の女神 完− 〜あとがき〜 まず、ぐっこ様、改装、乙かれさまです。 ようやく完結です。全9回の長い間、つたない駄文にお付き合いくださってありがとうございました。アウトルッケがようやく復活しましたので、次回から、長文はちゃんと投稿しますのでご容赦を。m(_ _)m 皇甫嵩、かっこいいですよね。強くて優しい、頼れるセンパイという感じで、書いてて楽しかったです。この後冀州校区生徒会長に就任してテーマソング作ってもらったり、董卓を引き連れて西へ行ったり、表彰式で張譲を殴ったり(?)…歳のせいか、董卓入京後は著しく精彩を欠きますが(泣) 後、李儒。こちらも結構良く書けたと思います。張角の神がかり的怖さとは対照的な、人間の怖さと言うものを書いてみたんですが…いかがだったでしょうか。 1−1 >>259 ・1−2 >>260・1−3 >>266・1−4 >>267 2−1 >>281 ・2−2 >>282・2−3 >>285・2−4 >>286 おまけ 張角の夢 >>180 (デビューSS。今読み返してみると赤面もの(^^;)
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