★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
325:ヤッサバ隊長2003/08/13(水) 23:56
■■魏文長、その密やかなる趣味(2)■■


 放課後。
 蒼天学園の生徒達がそれぞれの課外活動に精を出している中、魏延もまた荊州校区風紀委員の一人として、長沙棟内の巡回を行っていた。
 だが、一方で帰宅部連合部長という重役である劉備は、その魏延の数倍の作業をこなしている。
 無論、諸葛亮や馬良、ホウ統といった総務役も部長のサポートに回っていたのだが…。
 益州攻略の時が近づいていた今、劉備の双肩には、多大な責任が圧し掛かっていたのである。

「うー、孔明…ちったぁ休ませてんかぁ〜」
「いけません。今日中に、各予算の配分を完了してしまわねば。
 この荊州の地盤をしっかりと固めねば、長湖部に背後を襲われるやもしれません」
「さよか…ま、しゃーないなぁ」

 ブツブツと文句をたれながら、劉備は鉛筆を片手に頭を悩ませている。

「せやけど、こーゆー仕事は庶務の三羽ガラスがやるもんやろ。
 何でうちが…」
「仕事を部下に任せて、主は椅子に座って命令するだけというのは、三流の組織の体系です。
 それに、部長自らが雑務をこなす姿を見れば、おのずと部下もついてくるというものですよ」
「うう〜…」

 孔明は、お得意の舌先三寸で劉備を上手く丸め込んだ。
 しかし、問答をしている諸葛亮自身も山のような書類と格闘しており、劉備にぐうの音も言わせない。
 そんなこんなで、その日の雑務を終えた時には、既に時計は夜6時を回っていた。

「う〜、やっと終わったわ…」

 へとへとになり、思わず机にうつ伏せになる劉備。
 諸葛亮は、そんな彼女の目の前に栄養ドリンクのビンを置いた。

「部長、お疲れ様でした。
 この『スパビタンX』を飲んで、元気を出して下さい」
「おおきに、そんじゃお言葉に甘えて遠慮なく…」

 劉備は、諸葛亮に渡された栄養ドリンクを一気に飲み干す。
 しかし、直後劉備の顔が真っ青に染まり、苦しみの表情へと変わってゆく。

「ぐぁっ…!!
 な、なんやコレ!? 一体ナニが入っとんねん…?」
「ああ、それでしたら…私が市販の栄養ドリンクをベースに冬虫夏草と高麗人参、さらにはマムシやスッポンのエキスをブレンドした特製品ですが?」
「!!!?」

 それを聞いた劉備は、口を両手で抑えながら真っ直ぐトイレへと駆け込んで行ってしまう。

「…やはり、栄養を重視しすぎたかな…?」

 諸葛亮は、さして罪の意識を持っていない様子で、『スパビタンX』のビンを眺めるのだった…。



「あ〜、えらい目に遭うたわ…」

 暫くして、劉備は余計疲れたような表情でトイレから現れた。
 そんな時、偶然巡回をしていた魏延とばったり出会う。

「あっ、部長。こんな時間までお疲れ様です」
「おう、文長か。あんたもこんな時間まで大変やな」

 劉備は苦しそうな表情を必死に隠しながら、魏延と普段どおりに会話しようと努めた。

「いいえ、あたしは見回りですから。いつもデスクワークに追われている部長達に比べたら…」
「せやなぁ。孔明や士元、季常にいっつもせっつかれるんや。
 おまけに、今度益州校区まで行かなあかんやろ。大変や〜」

 劉備は力で益州を攻める事に、乗り気では無かった。
 だが、漢中の張魯が益州への侵攻を開始した為に、劉備は益州校区生徒会長である劉璋の援軍として出陣する事になったのだ。
 しかし、その裏では諸葛亮を始めとする謀臣達が益州攻略の策を練っており、一方の劉璋陣営でも親劉備派が帰宅部連合を迎え入れる準備を始めていた。
 劉備の思惑に反するかのように、時勢は激しく動きつつあったのである。

「心配しないで下さい。
 この魏文長、部長に同行する事が決まった以上、必ずやお役に立ってみせます!」

 不安を抱えていた劉備を、魏延が励ます。
 魏延は、今度の遠征で劉備と一緒に戦える事が大そう嬉しかった。
 勿論、新参者である彼女にとって、理由はどうあれ劉備の下で武功を上げられるチャンスだったからでもあるのだが。

「元気やな、あんたは。
 うちも、もっとシャキッとせなあかんな」
「部長…」

 魏延に励まされ、劉備はようやく心の迷いを僅かながら消し去る事が出来た。
 その様子を見て安心したのか、魏延の表情も綻ぶ。

「そうだ、部長に渡したいモノがあるんです。
 受け取って貰えますか?」
「お、おう」

 魏延はそう言うと、スカートのポケットの中に忍ばせておいた小さな紙の箱を取り出し、劉備に手渡す。

「開けてみて下さい」
「ん…分かった」

 劉備が箱を開けると、そこにはクマさんの形をしたクッキーが入っていた。
 だが、流石の劉備もまさかこのようなモノが入っているとは思いもしなかったようで、

「な、何やコレ!? く、クマさん…!!?」

 そう言った直後、思わず口から笑い声が噴き出してしまうのだった。

「ギャハハハハッ! あ、あんた、こないなモンどないしたんや?」
「あ、あたしが一生懸命作ったんです!
 部長に食べてもらおうと思って、誰にも見つからないように、必死にお菓子の勉強をしながら…!」

 魏延の真摯な態度に感銘した劉備は、どうにか笑いを止めて魏延に向き合う。

「す、すまん笑ろたりして。
 いや〜、それにしても『漢魏延』がクマさんクッキーたぁ、なんちゅーミスマッチやねん。
 せやけど、あんたにこんなモンを作る趣味があったなんてな」

 劉備の言葉に対し、魏延は顔を真っ赤にして俯く。
 やはり、相当恥ずかしいのだろう。

「うう〜、それについては話せば長くなるんですけど…。
 と、とにかく食べてみて下さい」
「ああ、分かった…」

 劉備は、箱の中にあったクッキーの一つを手に取り、口に含んだ。
 そして、ゆっくりとそれを噛みしめてゆく。

「んん〜…」
「ど、どうですか?」

 恐る恐る、劉備に尋ねる魏延。
 だが、劉備は満面の笑みでそれに応えた。

「うん、美味いわコレ」
「ほ、ホントですか!?」

 その言葉を聞いて、思わず喜び舞い上がる魏延。
 やはり、憧れの人物に手作りのクッキーを食べてもらい、さらに「美味しい」と言って貰えたのが余程嬉しかったのだろう。

「ああ、ホンマに美味いわ。
 よう考えてみたら、こないな手作りの菓子なんざ、もう10年は食べてへんな。
 おおきにな、文長…」
「部長…」

 感激の余り、両目が潤む魏延。
 しかし直後、薄暗い廊下に眩い閃光が走った!

 パシャッ!!

「な、何や!?」
「えっ!!?」

 二人が同時にその光の方を向くと、何とそこにはカメラを持った簡雍の姿が!!

「遂に捉えたぁ、決定的瞬間!!」
「ああっ!! け、憲和ッ!!?」
「ヒューヒュー! お熱いねぇ、お二人さん!」
「……!」

 見事にイチャイチャ(?)現場を押さえられた劉備と魏延は、驚きの表情を隠せない。
 特に、魏延は自分の一番見られたくない姿を見られたショックで、声も出ない…。

「それにしても…『漢魏延』と恐れられた魏延に、そんな趣味があるなんてねぇ〜♪」
「ぐぐぐ…!!」

 魏延は、必死に怒りを抑えて俯いているが、全身が激しく震えている。

「な、なぁ憲和…その写真のネガ譲ってんか…頼むわ」
「ん〜、どうしよっかねぇ〜」

 簡雍は、内心してやったりと大喜び。
 そして、わざと劉備達に対してそっぽを向き、二人の反応を見て楽しんでいる。

「うううう〜ッ!! 憲和様、この通りでございますッ!!
 何卒、その写真をバラ撒くのだけはお止めくださいッ!!」
「あたしからも、どうかッ!!」

 劉備と魏延は、揃って床に手をついて簡雍に懇願する。

「へいへい。んじゃ、一人2千円づつお恵みを頂きましょ〜か」

 劉備達の情け無い姿を見て満足したのか、簡雍はようやく二人を許すのだった(と言っても、しっかり金は取っているのだが)…。

「毎度あり〜♪ んじゃ、あたしはこれで」
(く〜っ!!堪忍やでぇっ!!)
(きばると文長! こげん試練も真の乙女になる為じゃッ!!)

 悠々と廊下を後にする簡雍の背中を見ながら、怒りに打ち震える劉備&魏延。
 その夜、劉備は魏延と共謀し、簡雍の部屋に忍び込んで眠っている彼女の額に「肉」の文字を黒の油性マジックで書き入れ、ささやかなる復讐を果たすのだった。

「ああ〜っ!! な、何よこれぇっ!?」



 終
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