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349:★玉川雄一 2003/11/09(日) 21:21 前編>>265 前編の2>>273 前編の3>>276 前編の4>>279 ▲△ 震える山(前編の5) △▲ その頃、張嶷は徐質と対峙しつつ姜維たち本隊の脱出のタイミングを計っていた。しばらくは体勢を立て直した徐質の斬撃をいなしていたが、頃合いはよしと見計らうと地を蹴って猛然と反撃を開始する。 「それじゃ、そろそろ仕掛けさせてもらうよ!」 「くっ…」 先程までの守勢が嘘のように積極的に打ち込んでくるその鋭い太刀筋に、一転して徐質は防戦一方となってしまう。辛うじて左腕のシールドで受け止めてこそいるものの、このシールドというものはあくまでも補助的な装備であって連続した打撃を完全に防ぎ止めるための物ではない。打ち込まれた衝撃は吸収しきれずに腕にまで届いており、このままでは骨折、とまでは行かないにしても腕を痛めるのは確実だった。 「くうっ… 離れろーっ!」 徐質は隙を見計らって後ろに跳び、距離を空けるとエアガンを放つ。だがその射線は張嶷のシールドに弾かれて空しく飛び散るばかり。本来ならその時点で速やかに射撃を中止せねば無駄に弾を消耗するだけなのだが、徐質はトリガーから指を離せなかった。張嶷を相手に白兵戦を挑むことを心のどこかで恐れているのだろう。そして程なくしてガリガリッ、という嫌な音を発したかと思うと案の定エアガンは沈黙してしまったのだった。 「弾切れ!?」 双方は睨みあった体勢のままでしばらく時が流れる。徐質は相手の様子を窺いつつ腰のベルトに装着した予備弾倉のパックにそっと手を伸ばすが、張嶷がそれを制するようにエアガンを構える。身動きがとれないままでさらに沈黙が続いたが、再び張嶷から距離を詰めると嵩に懸かってナイフを振るう。弾切れを起こした徐質も接近戦で応じなければならず、弾倉交換のために距離を取るだけの余裕は皆無だった。しかし度重なる衝撃に耐えかねたのか、シールドを腕に固定するバンドの一本がバツン、と弾ける。こうなると効果的なガードはもはや不可能となってしまい、腕への衝撃は一層激しさを増す。だがそれでもなお斬撃をシールドで受け続けることができているのは彼女もまたいっぱしの格闘センスを有している証でもあった。 「はッ、反射神経だけはいいようね!」 張嶷も相手がそれなりの力量を備えていることを確信したが、さすがに業を煮やしたかこれまでの連続した攻撃から一旦呼吸を置くとナイフを持った右腕を振るう。 「だけどこれが… 避けられるかッ!」 瞬間、放り出されたナイフがあらぬ方向に飛んで行くのが徐質の視界に入る。 −そして、ついそれを目で追ってしまったのだ。 (しまった!) 近接格闘戦では、ほんの一瞬でも相手から視線を逸らしてしまえば致命的な隙を生むことになる。その間隙を埋めるべく視線を戻した時にはもう、眼前には急突進してきた張嶷の姿が迫っていた。 「目の良さが命取りよ!」 ズンッ! 「ぐうっ…」 肉薄した張嶷が放った拳が徐質の鳩尾に吸い込まれる。このままではやられる… と遠のいてゆく徐質の意識は、しかし途切れる直前に投げかけられた声で辛うじて引き上げられた。 「まだ終わっちゃいない。悪いけど、もう少し生きててもらうよ」 背後に回った張嶷が、がっちりと徐質の腕を絡め取る。動きを封じられた徐質は、これから自分はどうなるのだろうと考えようとしたが、茫洋とする意識の中でその答えは浮かんでこなかった。 「し、主将!」 「なんてことよ…」 デポ(装備補給所)で弾薬を補充して駆けつけた胡烈と牽弘の目に最初に映ったのは、ぐったりとした徐質と背後から彼女の動きを封じている張嶷の姿だった。 「畜生、弾を補充しに行ってみりゃこのザマか…」 「そのままじゃアンタらもやられてたわよ! 今は狙撃班を死守よ、死守!」 ぼやく胡烈に楊欣が半ばヤケになって応じる。張嶷は徐質の腕を固めながらも器用に自らのエアガンの弾倉を交換していたが、胡烈らがやってきたのを見ると徐質をグイと立たせてその姿を見せつけると、挑発するように言い放った。 「安心しなさい… まだ、この娘は『生きて』いるわよ!」 張嶷は実質上ダウンしている徐質のとどめを刺そうとはしないでいた。彼女の存在を人質をすることで08小隊や狙撃班の行動を掣肘し、ひいては姜維らの脱出へ時間を稼ごうと企図していたのだ。牽弘は不安げに徐質の様子を窺ったが、目立つ傷こそないものの表情は朦朧としており、張嶷から受けたダメージは確実に利いているようである。 「主将… 私達、どうすればいいの…」 残念ながら徐質にその声は届いてはいない。だが、その意識の中では何かが少しずつ浮かび、形を結びつつあった。 続く
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