★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
457:岡本2004/04/20(火) 18:39
■ 邂逅 ■(6)

関羽は、境内で香取神道流の型を一通り遣って一汗かいた後、山門から石段を下るときに目に入った桃園によることにした。
緑の木々の間に淡い桃と白の花が慎ましくも美しく咲き乱れ、遠目にも芳しく薫るようである。18年後に陶淵明が随説を書く、荊州校区は武陵地区の秘境・桃源郷にも見劣りはしないであろう。

桃はバラ科サクラ属モモ亜属、つまり桜の仲間で花を楽しむ花桃と果実も取れる実桃がある。3月の花であり、古来東洋では明るく美しい女性の象徴である。
“ほとんどの桃の花の開花時期は3月下旬から4月上旬。暖冬とはいえ今咲いているということは桃色は矢口、白色は寒白ですね…。”
花桃の主な種類としては早生種の矢口(桃)、寒白(白)、中生種の源平(一つの木に桃と白の花が咲く)がある。雛祭りで用意されるのは矢口であるが、これは枝ごと切ったものを温室においてより早く開花させたものである。
一般の桃の花の開花時期は桜とほぼ同じくらい、もしくは少し遅いのである。3月3日は“桃の節句”というが、本来は陰暦の三月最初の巳の日の行事であり、これは現在の3月末から4月中旬にあたる。ここらが通常桃の花の咲く季節である。今日は、暖冬の影響で、花開いたものと思われた。桃園に近づいていくにつれて周りの景色が華やかになっていくが、人の数も増していた。ごった返すというほどではないが、かなりの学園生が花見に訪れているようである。
人の流れに逆らわないように、桃園の奥へ向かう路を両側に立ち並ぶ桃の花を楽しみながら抜けていくと、陸上競技場ほどに大きく開けた広場にたどり着いた。広場を囲むように立ち並んだ桃の木々が遠めに見た以上に華やかに咲き乱れ、蒼天学園生が開いている花見客相手の出店も数多く立ち並んで食欲を誘うにおいを振りまいていた。客寄せの声が活気よくここそこであがっている。
花より団子というわけでないが、かなり運動したこともあり、昼食抜きは流石に応える。
飲食物を扱っている出店の一つに立ち寄ろうとして、ふと足を止めた。
“今日は手持ちが不如意でしたね…。”
進学手続きで授業料を納入したこともあり、帰りの運賃を払ってしまえば手元にはほとんど残らなかったのである。せいぜい、甘酒を1杯買える程度で食事するほどはない。編入試験が好成績だったおかげで、明日からは中等部の学生相手の家庭教師のバイトの口があり日々の食費は購えるのであるが…。
夕飯まで我慢することにしようとしたところ、食欲をそそる匂いに釣られて、ぐうぅぅぅぅ、と腹の虫が鳴るのが分かった。思わず顔を赤らめる。
“少々、見っとも無かったですね。”
武士は食わねど高楊枝という言葉もあるが、腹が減っては戦はできないのも事実である。少しは腹を満たしてからゆっくり桃の花を楽しみたい。さて、どうするかと思案しつつ出店を縫って歩いているうちに、解決策と思しきものが目に入った。
“ひとつやってみましょうか…。”
関羽は広場の一角の人だかりの方へと歩みを向けた。

ギャラリーの注目の中、がっしりとして体力に自信のありそうな女生徒が手に唾してハンマーを振りかぶる。掛け声と共にハンマーを勢いよく台に振り下ろした。
次の瞬間、激突音とともに錘が高く設えられたカウントタワーを跳ね上がっていったが、半分に到達したところで失速し始め、頂上まではまだだいぶ残したところで止まってしまった。あ〜あ、というため息が上がる。
「ざーんねん、惜しかったねぇ、75点。熊のぬいぐるみはあげられないわよ。」
制服を着ていた赤毛の生徒が、がっくりとうなだれた客からハンマーを受け取りつつ、得点の景品を渡した。
この日、簡雍憲和は広場の一角に設えたハンマーストライカーの担当をしていた。劉備玄徳とその義妹の張飛翼徳、そして劉備の幼馴染である簡雍憲和の3人で立ち上げた非公認サークル劉備新聞部の運営資金稼ぎの一環であった。

〜ハンマーストライカー〜
― 昔ながらの遊園地なら大体あるレクリエーションのひとつ。ハンマーで台をたたくと10mの高さのカウントタワーに錘が上昇する。上昇した高さに応じて点数が決められており、点数に応じた景品を渡す。返しばねの着いた板を押しのけて上昇していくので頂上に着かなければ最後に通りきったところで止まる。頂上にゴングが設置してあって最高得点に到達した場合には最後のばねとゴングの間で錘が跳ねてベルが連続してなるようになっている。最高景品は 熊のぬいぐるみ というのが定番。
使用するハンマーは大体、子供・女性用のものと男性用の2つが用意されており、男性用のものは2倍近くの重量がある。運動エネルギーを位置エネルギーに変換するゲームなので、ハンマーの重量よりも叩き付けるスピードのほうが効いてくる。―
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