★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
458:岡本2004/04/20(火) 18:41AAS
■  邂逅 ■(7)

客の半数近くが中等部であるが、たまに高等部、時には大学部とも思える客も来た。そういった如何にも記録を出してくれそうな客にはハンディとして男性用のハンマーを使ってもらっていた。
このハンマーストライカーの最高得点は100点であるが、簡雍の目利きも効いていて、女性用ハンマーを使った最高得点は80点、男性用のハンマーを使った最高得点は今の75点というところであった。
景品が取れないと客から文句が出ないように、1時間に一回、張飛がサクラで男性用ハンマーを振り、最高得点を出すというデモンストレーションをしている。とはいってもこういった景品つきの出し物は、普通ならどうやってもトップ賞は取れないように仕組んであるものである。男性用ハンマーを使った場合、張飛が本気で叩かないと最高得点がだせないように錘と返しばねを調整してあった。ちなみに、張飛は中学3年生にも関わらず重量挙げのトータルで200 Kgをマークしている。なお、女子53 Kg級の重量挙げ世界記録はスナッチ(腕の力だけで一気に足元から頭上まで上げる)97.5 Kg、ジャーク(胸から頭上へ上げる)121.5 Kg、トータル217.5 Kgである。
この日の特賞の景品は、恒例の熊のぬいぐるみと大皿に盛られた見事な東坡肉“トンポーロー”だった。

〜東坡肉“トンポーロー”〜
― 北宋の詩人、蘇東坡(1036−1101)が政変で杭州に左遷されたとき、不作だったのを西湖の土木工事で領民を飢えから救った。そのお礼に領民が豚肉と紹興酒を送ったが蘇東坡は受け取らず、醤油と紹興酒で角切りにした豚肉を煮込んで振舞ったのが始まりと言われる。
もっとも、本場は黄州という説もある。実際、蘇東坡は杭州にも黄州にも赴任しているし、以下のように“食猪肉”という題の調理法を記した詩も黄州に残している。

食猪肉      豚肉を食べるなら

黄州好猪肉    黄州の豚肉は上等で
価銭等糞土    値段は非常に安いが
富者不肯喫    金持ちは食べたがらないし
貧者不解煮    貧乏人は調理法をしらない
慢著火      火はゆっくりつけ
少著水      水は少なめにする
火候足時他自美    充分煮込めば自然にうまくなる
毎日起来打一碗    毎日起きたら一皿にだけつくる
飽得自家君莫管    自分の腹が満たせればいい
              他人の知ったことではない

『漢詩紀行』(二)P.111(NHK取材グループ編、NHK出版刊)

日本の豚の角煮のルーツとも言われるが、中国の東坡肉は似て全く非なるものである。皮付きの豚バラ肉を土鍋に入れ、紹興酒と香辛料の入った醤油ダレで長時間煮込む。肉は、やわらかく、とろけるような口当たりに仕上がる。本場中国杭州の東坡肉は筆舌に尽くしがたいほどおいしいらしい。―

この東坡肉は劉備の義妹、張飛が手間隙かけてつくったものであった。張飛は実家が肉屋であることもあり、料理などできそうもないがさつな普段の行動とは裏腹に、肉料理に限っては実は大の得意である。ハンマーストライカーのそばに、これまた劉備新聞部の運営費を稼ぐため、豚肉料理を扱った出店を開いていたが、昼の食事時が終わる前に売り切れる盛況ぶりだった。なお、左脇に劉備担当の同人誌を出していたが、こちらもそこそこの客足であった。劉備と張飛は、今は休憩方々桃園内をあちこちを冷やかして歩き回っているはずである。
さて、この東坡肉であるが、もともとはハンマーストライカーの景品にするつもりはなかった。売り物に出している物とは別に、今日のバイトが終わった後に姉貴分の劉備に花見方々食べてもらおうとよい部分を選んで特別に時間をかけてじっくり煮込んで作った自慢の一皿である。
間違って売らないように取り分けておいたのであるが、特賞の景品がいくらかわいいからといって熊のぬいぐるみだけだと引き寄せられる客層が限られるので、簡雍が食欲旺盛な体育会系も取り込もうと「どうせ、だれも取れないだろうから貸してくれない?」と借り出したものであった。ハンマーストライカーの錘設定には張飛自身が立ち会って、主な客層である幽州校区の人間ではおそらく張飛以外では最高得点が取れないようにしくんでいたこと、劉備新聞部の運営費をもっと稼ぐためという簡雍の誘い文句にのったことで、張飛も借用には同意していた。もちろん、絶対に取られないようにと念押しはしておいたが。
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