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514:海月 亮 2004/12/20(月) 21:59 その翌日のこと。 会議はいまだ紛糾の様相を呈していた。先に停戦和議の為に赴いた程秉も、傅士仁・糜芳が関興によってぶちのめされる様を記録したビデオを上映しながら、劉備のドスが利いた「宣言」を聞かされたショックで寝込んでしまう始末だった。 いわゆる「文官系幹部」の中でも、肝っ玉の据わった程秉がそんな有様なのは、いかにそれが凄惨な有様だったかをよく物語っていた。和議が叶わないと言う事は、劉備の態度を鑑みれば帰順を申し入れても無駄だということと同義といっていい。 「まぁ、これで張昭大先輩お得意の"降伏ー!"は使えないわよね〜」 「聞こえてるわよ歩隲ッ! それどういう意味よ!」 「あ!い、いえ、これはただのジョークでして…」 「言って良い事と悪い事と、状況ってモンがあるでしょうが! だいったいねぇ……」 聞こえないくらいの小声で言った皮肉を聞き取られ、怒る張昭に慌てて弁明する歩隲を尻目に、それこそ誰にも聞こえないくらいか細い声で「言葉通りです」と顧雍が呟く。それを地獄耳で聞きつけた張昭は、今度は顧雍にも怒声を飛ばす。 まくし立てるうちに感情をヒートアップさせ、怒り心頭に達した張昭が歩隲と顧雍に飛び掛ろうとするに至って、流石に傍観していられなくなった諸葛瑾や陸績、虞翻等は張昭をなだめに入った。 その喧騒の外、孫権の後ろに侍立しながらその様子を困ったような苦笑いを浮かべて見ていたた谷利は、ふと、主・孫権に目をやった。 そんな喧騒さえ聞こえないかのように、孫権は俯いたままだった。 いまだ救出の目処が立ってない孫桓のこと、先にリタイアした甘寧のことなどが、彼女の心に重くのしかかって、不安で押しつぶされそうになっているのであろうか…。 孫権の悲痛に歪んだ表情と、何処か中空の一点を見つめて動かない瞳から、谷利はそんなことを考えていた。そこには、孫権第一の側近であると自負して憚らない彼女も知りえない感情があることなど、気付く筈もなく。 そのとき、不意に会議室のドアが開いた。おどろいた少女達の脳裏に、先日甘寧が入ってきたときの光景がオーバーラップする…が、そこに立っていたのは、本日大幅に遅刻してやってきた(カン)沢だった。 「なんでぇ諸君、あたしの顔になんかついてるかい?」 「なんだじゃないわよ! 貴女一体どこほっつき歩いてたのよ!?」 咎める張昭の口調は、先程からのテンションそのままに、その怒りを今度は(カン)沢に向けてきた。いつのまにか怒りの矛先が変わったことに胸をなでおろす歩隲と顧雍を他所に、その剣幕を気にした風もなく、彼女は飄々とした体を崩すことなく後ろ手に扉を閉め、部屋の中心に歩み出る。 「ヒデェなぁ子布先輩、あたしゃ一応、吉報ってヤツをお届けにきたのさ。ちょっとくらい大目に見てくれよなぁ」 「はぁ? 吉報ですって!?」 「あぁ。今もなお病床の身にありながら、部の行く末を案じて止まない公瑾大明神の有難いご神託だ」 公瑾、の名を聞いたとたん、満座の面々がお互いの顔を見合わせ、にわかに座はざわめく。俯いていた孫権がいつのまにか顔を上げ、ふたりの視線が交差する。(カン)沢は小さく頷くと、息を整えておもむろに口を開いた。 「どいつもコイツもあまりにも"人"ってヤツを見ていねぇ。確かに公瑾さんや子明とか、先日リタイアした興覇とか、こういう危難に頼りになる連中はどんどんいなくなっちまった。でも、そうして失ったものの大きさが解るくせに、残ったあたしらの中にとびっきりの大物が隠れていることに気づきもしない」 「馬鹿な事言わないで(カン)沢…それとも自分が、それに当たるとでも言うの!?」 「それこそ"馬鹿なこと"だよ。あたしがそんなんだったら、既に興覇の代わりに出撃(でて)るって」 「じゃあ貴女は…」 食って掛かる張昭を制し、孫権が割ってはいる。 「…言って、徳潤…キミの言う通り、その娘の力を用いるべき時が…来たのかもしれない」 幹部達は、その孫権の台詞に、一瞬怪訝なところを感じた。だが、真剣そのものの孫権の表情に並々ならぬ決意が現れているのを見て、先ほどの(カン)沢の発言に応えた揶揄程度のもの、と考えていた。居並ぶ幹部達の注目も集まる。(カン)沢は一度目を閉じ、一拍置いてから、口を開いた。 「それは他でもない…いま呂蒙の後釜として、臨時に陸口棟の指揮をとってる陸遜だよ」 (第三部に続く) --------------------------------------------------- ここまででようやく第二部。 何気に雪月華さまの作品のネタを引用させてもらっています… この場をお借りして、お詫びいたします。できるなら、以降も容認していただければ…(おい
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