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51:ジーク 2002/03/02(土) 20:58 [greek_h@hotmail.com] ■ 晩夏の黄昏- 陳羣の涙 - ■ 蒸し暑い夏休みの夕暮れ。とある校舎の一室。夕陽の差し込む薄暗い一室に、一人の少女が佇んでいた。電灯をつけるでもなく、ただ書類で埋まる机の前にぼんやりとすわっている。 「……どうして。」 机中央の僅かなスペースには、一通の手紙と、ダンボール箱に入った赤ボールペンとMDプレイヤー及び…恐らく数ヶ月前の物であろう、くしゃくしゃになった競馬新聞があった。 『……派に病と闘い、あの子らしい最期を遂げました……』 …既に幾度も読み返したこの文面。だが、震える手と溢れる涙で思うように読み進める事が出来ない。 『……学校の者には伝えないで、とあの子は言っていましたが、やはり仲の良い方々に……』 少女は震える手つきで、何とかその手紙を綺麗に折り畳むと、机に突っ伏し、押さえ切れなくなった想いを溢れさせた―。 その脳裏によぎるのは、喧嘩ばかりしていたあの取り戻せぬ日々か、或いはいつかの思い出か―。 ……陳羣の座る机にのっているMDプレイヤーその他2点は、病気療養のため学園を中途退学した郭嘉の物だった。この間の十月、新聞部の予算調達の為、部費を賭けて競馬をしていた郭嘉から風紀委員会の権限により取り上げた物である。荀揩フ諭しにより己の間違いに気付いた陳羣は、それを返すつもりでいたのだが…。運命とは因果なもの、その後どういう神の悪戯か陳羣と郭嘉は文字通り擦れ違いを繰り返し、郭嘉が病気療養で学園を中途退学するまで一度たりとも会う事は出来なかったのだ。 そして、郭嘉が中退すると聞いた時も、陳羣はすぐさまその場所に向かって走り出したのだが、MDプレイヤーを持ってくるのを忘れたのに気が付き、取りに戻った。そして、風紀委員としての役目を全く無視し、全速力で校内を駆け巡り、目的地にたどり着いたのだが、その時には既に郭嘉の姿は無かったのである。 「そんな…。」 MDプレイヤーを持って呆然と立ちつくす陳羣に曹操は言った。 「きっと、きっと奉孝は戻ってくるから。戻って…来る。必ず。ね?」 ―手紙が届いたのは今日の放課後。風紀委員会の部屋に閉じこもって、こっそり郭嘉宛の小包を送ろうとしていた時だ。送る中身は勿論件のMDプレイヤーその他2点。長文の名に相応しく、恐ろしいまでの分量の手紙を添えて。手紙の末尾には、郭嘉に言おう言おうと思っていて結局言う事の出来なかったあの一言、 ――次回からは、ちゃんと私に断ってから競馬を聴きにいくこと! との文面。この一言に全ての思いを込め、郵便局に出しに行こうと思っていた矢先の事だった。 送り主の名前を見て、陳羣は全てを悟った。 思わず天を振り仰ぎ、神を呪った。我が身の運命を呪った。最後の最後まで打つ手が手遅れになった己の不甲斐なさを、郭嘉を容赦なく襲った死神を、全てを―。 …ふと、陳羣は目を覚ました。知らぬ間に眠っていたようだ。日も沈んで辺りは既に闇に包まれている。が、部屋の中は明るい。何故か電灯がついているからだ。 つけた覚えは無いのに―と入り口の方を振り返る陳羣。と、そこにいた人影は―。 ―奉孝!? …と一瞬思ったのは目の錯覚か、そこにいたのは悲しげに微笑む荀揩セった。 「先輩…。」 「…郭嘉…残念でしたね……。」 「……あ、あんな……あんなやつ……」 「……そのMDプレイヤー、形見になってしまったわね…。」 「…あ……。」 陳羣はダンボールの中からゆっくりMDプレイヤーを取り出した。知らずラジオのスイッチを入れる。無機質なニュースの音声。ラジオ特有のノイズ。脳裏に走馬灯の如く鮮やかに蘇る郭嘉との思い出。 最早彼女の想いをせき止め得る物など無かった―。 郭嘉奉孝、八月二十一日逝去。病名ALS。享年十六歳―。 - 了 -
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