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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
527:海月 亮 2005/01/26(水) 23:58 >北畠蒼陽様 お初にお目にかかります、半年ほど前から入り浸って、このサイトで狼藉の限りを尽くしている海月という者です。 考えてみれば1/20の時点で、SSスレに最期の投稿やらかしてたのは私だったから、本来は私が一番最初に気づいていなければいけなかったとか何とか… _| ̄|○無礼の段、何卒お許しを。 っと、昜&鍾会ですな。 私めも鍾会なら他人を足蹴にすることくらいなんとも思ってないとは思ってましたが…。 救われないなぁ…昜。 さすれば私めもひとつ。祭のテンションを引きずる形で、長湖部・東興戦役SSを放り込んでおきますね。
528:海月 亮 2005/01/27(木) 00:00 -東興・冬の陣-(1) 「左回廊、弾幕薄いよ! 何やってんの!」 トランシーバーを左手に、蒼天学園公認のモデルガンを右手に、長身の少女が檄を飛ばす。 小さなお下げを作った黒髪を振り乱しながら、窓の外へモデルガンを乱射しつつ指示を飛ばすその少女の名は留略という。長湖水泳部の現部長・留賛の妹である。 長湖部次期部長選抜に伴う内輪もめ…後に「二宮の変」と呼ばれる事件を経て、孫権が引退した直後の混乱を突いた蒼天会の大侵攻作戦が実行に移されたのだ。それを、前線基地である東興棟で留略と、先に引退した全Nの妹・全端がその猛攻を食い止めている状態だ。 その形式は、蒼天会お得意のサバイバルゲーム形式。数だけでなく、その形式では戦闘経験も武器の質も勝る蒼天会にとって有利であったが、それでも留略達は地の利を活かしてぎりぎりで食い止めていた。 「主将! 向こうのほうが火力も上です! もう保ちませんよぅ!」 「泣き言なんて聞きたかないね! なんとかおしッ!」 隣りの少女の泣きそうな叫び声に叱咤を返し、空いた手にモデルガンをもう一丁構えた留略はそれも眼下の敵軍に打ち込んでいく。 留略とて不安でないわけではない。何しろ、ここを取り囲んでいる大軍とて、相手の先手に過ぎない。その背後には、名将で知られる諸葛誕の率いる第二陣が控えている。同時に南郡も王昶を総大将とする軍の大攻勢を受けており、近隣からの応援は期待できそうにない。 援軍として進発した長湖副部長・諸葛恪や水泳部副部長・丁奉らの到着が遅れたら…最悪のシナリオを頭から振り払うかのように、留略は叫んだ。 「皆ッ、元遜さん達が来るまでの辛抱だ! ここが踏ん張り所だよっ!」 不利な戦線を懸命に守り抜こうとする少女達への激励は、何よりもむしろ、挫けそうな自分に対する叱咤のようにも聞こえていたに違いない。 (正明姉さん…承淵…御願いだから早く来てぇ〜!) それが偽らざる、今の留略の本心である。 「奇襲をかけろ、と?」 「ええ」 出陣を目前にして、総大将・諸葛恪に意見する少女が一人。狐色の髪をポニーテールに結った小柄な少女は、長湖部の最高実力者であるクセ毛の少女に、臆面も無く告げた。 「確かにあなたの威名は、蒼天会にもよく知られています。さらに王昶、胡遵らの輩はあなたに及ばず、あなたの親戚の諸葛誕さんも、才覚としてはあなたに一歩譲るところがあり、良く対抗できるものはいないでしょう」 少女の言葉に、諸葛恪は思わず顔を綻ばせた。諸葛恪というこの少女、確かに智謀機略に優れ、長湖部にも右に出るものが無いほどの天才である。しかし、やや性格に難があり、自信過剰で不遜な一面がある。 少女は諸葛恪のそうした性格を良く熟知しているらしく、先ずはその顔を立てて見せ、そしておもむろに思うところを述べた。 「しかしながら、相手は許昌、洛陽に詰めているほぼ全軍とも言える大軍を投入しています。負けることは無くとも、相当の苦戦は免れません。ここは機先を制し、我々の威を示すことが、戦略の妙かと思われます」 「ふふ…その言葉、尤もだわ。ならばあなた達水泳部員に先鋒軍を任せるわ。存分にやって頂戴、承淵」 「畏まりました」 上機嫌の諸葛恪の言葉に、恭しく礼をすると、その少女…丁奉は、本営のテントを退出した。 すると、そこには松葉杖をついたセミロングの少女が待っていた。 「承淵、首尾はどう?」 「バッチリですよ。季文にも教えて下さい、すぐに出ますよ正明部長」 「流石だわ」 にっと笑って見せる丁奉に、セミロングの少女…現水泳部長・留賛も笑顔で返した。 「で、先輩にも御願いがあります。あたしは集めた決死隊の連中引き連れて先に行くので、他の娘達と一緒に後で来て下さい」 「ちょ…どういう事よ?」 留賛はその言葉にちょっと気分を害した様子だった。 留賛はかつて初等部にいた頃、黄巾党の反乱に巻き込まれ、反抗的な態度をとった見せしめとして片足に大怪我を負い、後遺症で今でも杖無しで歩くことはままならない。それゆえ、水泳に青春をかけたことで知られている。 そのことを馬鹿にされたと思ったのだろう。しかし、 「いえ、あたしが先行して敵の目を惹きつけます。その間に、先輩達には蒼天会の連中が作り始めてる浮橋を始末して頂きたいと思いまして。アレを壊せば、勝敗の帰趨は決まると思いますから」 留賛はつまらない邪推をしたことに気付き、それを恥じた。だが、それでもなお、納得のいかない表情で、 「あ…で、でもアンタの子飼いだけじゃ、いくらなんでも兵力差があり過ぎるわ…危険よ」 「相手の先鋒は韓綜だって聞きました。アイツなら、寡兵で行けば相手にもしませんよ。その隙を突けばいくらでも時間は稼げます。任せといて下さいよ!」 自身満々の表情で言う少女に、その少女の経歴を知らないものなら危ぶんで止めに入るところである。 しかし、留賛は知っている。目の前の少女は、高校二年生にして、既に課外活動五年目に入ろうというベテラン中のベテランであるということを。 「ん…解った。妹のこと、宜しくね」 「はい!」 留賛がその肩に手を置いてやると、その小柄な少女は元気のいい笑顔で応えた。
529:海月 亮 2005/01/27(木) 00:01 -東興・冬の陣-(2) そのやり取りから三十分ほど後、丁奉率いる奇襲部隊は、東興棟を対岸に臨む地点へ到達した。遠目に、未だ東興守備を任された少女達の奮戦も見て取れる。 「間に合ったみたいです、主将!」 「お〜、流石は略ちゃんだよ〜。頑張ってるわね〜」 三十に満たない人数の先頭に立ち、丁奉は感心したようにそう言った。 「感心してる場合じゃないですよ主将。それに、この人数で奇襲をかけるってもどうするつもりなんですか? 向こう、少なく見積もってもうち等の十倍は居ますよ?」 彼女達長湖部員が本陣を置く揚州学区では、校舎の棟と棟の間は幾つものクリークに分断されており、普段の移動には船やボートを利用するのが普通である。 まぁ中には、泳いで棟移動するツワモノもいるにはいるのだが…今は二月である。はっきり言って、この時期の渡河は命がけだ。この先遣隊を率いる丁奉も、かつてこの時期の渡河で死にかけた事があった。 だが… 「決まってるじゃん、泳いで渡るんだよ」 「うげ……………やっぱり」 あっけらかんと言い放つ丁奉に、少女達はげんなりした様子でうなだれた。 「ボートなんかで渡ったら狙い撃ちだからね〜、水の中なら治外法権よ?」 「いや、それはそうですけど…主将アンタ、いっぺん死にかけたこと忘れたんですか?」 そう言った少女も、又聞きの話なので大袈裟な表現ではなかったか、とも思っていた。だが、冬だけは熱帯から寒帯に気候が激変する長湖周辺である。 現に今、気温は10℃を割っている。水に入ったときはいいとして、上がった途端に地獄を見るのは容易に想像できた。 「あのときはあのときだよ。それに何のために、下に水着着て来てって言ったと思ってるの? まさか、気合入れるためとかそんなことだと思ってた?」 いや、むしろそうであって欲しかった…それが少女達の正直な感想だった。 うなだれる少女達を見て、丁奉は怒気を露に言い放った。 「こうしている間にも略ちゃん達は追い詰められてるんだよ!? 皆だってあの娘を助ける為に決死隊に参加したんじゃない! …もういいよっ、あたし一人で行くから!」 言うが早いかジャージの上下を脱ぎ捨て、いわゆる"競スク"一枚になった彼女は、傍らの少女から愛用の大木刀を引っ手繰ると、凍るような河へ飛び込み対岸へ向けて泳ぎ始めた。 「あ〜あ、行っちゃったよ…どうする?」 「どうするも何も、主将一人で行かせる訳にもいかないでしょうが」 「仕方ないなぁ…あたし達も行くよ、主将に遅れるな!」 主将の姿を眺め、少女達も意を決したように頷くと、各々ジャージを脱ぎ捨て水着一枚になると、次々と獲物を手に河へと飛び込んでいった。 その頃、対岸では… 「主将、対岸に敵の応援部隊が現れました! 数はおよそ三十!」 「…は?」 その報告に、寄せ手の先鋒を任された韓綜は首を傾げた。 この韓綜、長湖部の立ち上げからその重鎮として名を馳せた烈女・韓当の実の妹であり、元々は彼女も長湖部の幹部候補として優遇されていた少女である。 だが、生真面目で礼儀正しい人格者の姉と異なり、この妹は放蕩に耽り品行も悪く、自分を常にかばってくれた姉の引退後、わが身に危険を感じて蒼天会に寝返りを打ち、以来隣接する長湖部の勢力範囲内で散々悪行を重ねていた。それゆえ、前部長・孫権を筆頭とする長湖部員全員から恨みを買っていた。 「うちらの十分の一にも満たないわね…てゆーか、どうやって渡ってくるつもりかしら?」 「えっと…物見の報告では、何でも河に次々飛び込んでるらしいんですよ」 「マジ? ……あ、ホントだ」 韓綜は双眼鏡を手にとると、その光景を確認して唖然とした。そして、心底呆れたように、 「どうしようもないアホも居るモンねぇ。冬の長湖で寒中水泳なんて、正気の沙汰じゃないわね」 「どうします主将? もし泳ぎ着けば、ここを強襲されそうですが…」 「…放っといていいんじゃない? あんな自殺行為して、もしここまで辿り着いてもマトモに動けないでしょうし…来たところで数も少ないし、せいぜい好きにやらせときなさいな」 「それもそうですね」 そうやって取り巻きと時々その様子を眺めては嘲笑し、その姿が水面から消えると、その侮蔑の笑い声はさらに大きくなった。 韓綜以下、これが命取りになろうとは、誰も想像できなかったに違いない。
530:海月 亮 2005/01/27(木) 00:03 -東興・冬の陣-(3) 対岸からここまでゆうに300メートルある。先に報告が入ってから僅か3分で、丁奉率いる先遣隊は韓綜のいる辺りに上陸を果たした。 対岸まで数十メートルというところで少女達はわざと水中に身を隠し、その恐るべき肺活量でまったく水面へ顔を出すことなく、残りを泳ぎきったのだ。 「ぷはっ…よ〜し、到着〜」 丁奉の能天気な声とともに、冷たい河の流れの中で潜泳を敢行した少女達が、一度に顔を出した。 その水音に驚いた韓綜達を尻目に、一番に河から上がった丁奉は、唖然とした蒼天会軍の少女達の目の前で、まるで子犬のように顔を震わせると、満面の笑顔で小さく手を振りながら、 「は〜い、お元気ぃ?」 と、やってみせた。目の前の少女達は、呆気に取られてぽかんとそれを眺めていた。 「う、ノリ悪いなぁ…挨拶は?」 「駄目ですよ主将〜、韓綜程度のバカにそんなユーモア通じませんって」 「そ、そ。コイツ等、オツムの血の巡り悪いから」 「むぅ…それもそうか」 続々と泳ぎ着いた少女達が、ちょっとむっとした丁奉にそんなことを言った。 「…はッ! て、敵しゅ…」 「遅いッ!」 正気に戻ったが早いか、少女は叫ぼうとした。その刹那の間に、木刀を構えた丁奉が駆け抜けざまに次々と少女達を打ち据え、昏倒させていく。 北辰一刀流の極意、"仏捨刀"である。 夷陵回廊戦で垣間見せた見様見真似の剣技は、その後に水泳の片手間に入門した剣術道場での修行の成果があって、二年経った現在では見違えるほど洗練されていた。 「皆、主将に続けッ! 寒けりゃその分動き回りゃいいんだよっ!」 「応よ!」 丘へ上がってきた少女達も、獲物を手に取り、四方八方の敵を打ち崩していく。蒼天会先鋒軍は、瞬く間に恐慌を来たし、大混乱に陥った。 そして、恐怖にかられ逃げようとする韓綜の前に、丁奉が立ちふさがった。 「あなただけは許さないから…覚悟しろ、この裏切り者ッ!」 「く、くそッ! 承淵の分際でぇ!」 「あなた如きに分際呼ばわりされる義理はないわよッ!」 丁奉は韓綜の繰り出した一撃を無造作に弾き飛ばすと、先ず肩口に強烈な一撃を見舞う。さらに間髪入れず、逆風に放たれた太刀を左脇腹に叩き込むと、韓綜は呻き声を上げることなくその場に崩れ落ちた。 蒼天会の軍勢をあらかた追い散らし、戦況も落ち着いてきたその時。 「…あ、お〜い、正明せんぱ〜いっ!」 ノーテンキな笑顔でぶんぶんと手を振る丁奉の姿を認めた留賛は、一瞬呆気に取られた。と同時に、丁奉が何を仕出かしたかを理解した。 早足をするかのように杖をつき、そちらへ向かっていくと… 「くぉのおバカ! この寒い時期になんつーカッコしとるんじゃあ!」 ごきん! 「あうっ!」 ややフック気味に振り下ろした拳骨を、その狐色髪の天辺に叩き込んだ。 「…う〜…痛いですぅ〜…時間稼ぎはちゃんと成功したじゃないですかぁ…」 「やかましい! 皆にまで迷惑かけやがって…そういう馬鹿にはこうしてやるッ!」 「あうぅぅ! なんでぇ? どうしてぇぇ!?」 留賛は丁奉を小脇に抱え、額にウメボシを食らわせつつ東興棟へ歩を返す。 その光景に苦笑した少女達も、それに続いていった。
531:海月 亮 2005/01/27(木) 00:14 -東興・冬の陣-(4) その後、後続の諸葛恪率いる本軍が到着し、蒼天会本隊の胡遵軍は壊滅状態となった。更に朱異らの手によって、蒼天会軍が作成中だった浮橋が壊されたことで、諸葛誕率いる蒼天会軍第二波の侵攻も食い止められたのである。王昶率いる南郡棟攻略中の別働軍も、南郡棟守備隊の奮戦に攻めあぐね、東興侵攻軍の敗北の報を受けて退却した。 とりあえず、当面の危機は去ったのである。 ついでに言えば、丁奉達の脱ぎ捨てたジャージやらなにやらは、後から来た諸葛恪達が回収して東興棟に届けたくれたのだそうな。 で、その翌日…丁奉の寮部屋では。 「くしゅん!」 「…八度五分…文句つけようも無く、風邪ね。馬鹿も風邪ひくなんて、意外だわ」 体温計の表示を見て、陸凱は呆れたように呟いた。その脇では、先に引退した陸遜の妹・陸抗も心配そうにその様子を眺めていた。 「しょーちゃん、大丈夫…?」 「あぅ〜…頭痛いよぅ〜…寒いよぅ〜」 「ったく、アンタ何時か死にかけたの忘れたの? それとも、馬鹿は死ななきゃ治んないって?」 「ふーちゃん、言い過ぎだよぅ…しょーちゃんだって、頑張ったんだから…」 「甘い、甘いよ幼節! 一度きちんと思い知らせておいた方が、この馬鹿の為だ! 喰らいやがれッ!」 怒り心頭に達したらしい陸凱は丁奉を無理やり起こすと、こめかみの両サイドにウメボシを仕掛けた。 「あうぅぅ〜……勘弁してぇ敬風ぅ〜…」 「駄目だよぅふーちゃん…病人にそんなことしたら…」 おろおろしながらそれを宥める陸抗。 後に、その場は違えど、一致団結して斜日の長湖部を支えていく少女達の、ささやかな平和のひとコマがそこにあった。 余談だが、この時丁奉とともに寒中水泳に望んだ少女達は、やはり皆風邪をひいたという話である。 さらに言えば、一番酷い症状を出した丁奉は、その後一週間ほど寝込んだという。 その悪化の裏に陸凱や留賛のウメボシ攻撃が作用していたかどうか…知る術は無い。 (終劇) ------------------------------------------------------------ というわけで、東興戦役・承淵ちゃん薄着突撃のお話…ってか、寒中水泳やってますな(w 演義とかだと渡河中に鎧を脱ぎだしたとかそんな話だったので、そちらを参考にしたのやらしてないのやら(どっちだよ あと…拙作「風を継ぐ者」でもやった仏捨刀→逆風の太刀コンボとか、丁奉の口癖とか、冒頭の留略の台詞とか…悪ふざけしすぎてます。 平にご容赦の程を…_| ̄|○
532:北畠蒼陽 2005/01/28(金) 18:48 [nworo@hotmail.com] >海月 亮様 こちらこそよろしくお願いします〜。 ちなみに昜は足蹴にしようと思ってそのシーン、書くには書いたんですけど…… あまりにも救いようがなくて……えぇ(ノ_・。 そして東興・冬の陣はお見事! 丁奉かわいいなぁ(ぇー さてんじゃあこっちももいっこ投下ですよ〜。 最近のログ見ると海月様と私のリレーになってますか!? かまうもんか!(ぇー ってわけでまだ誰も語ってない(っぽい?)夏侯惇の隻眼ストーリーです。
533:北畠蒼陽 2005/01/28(金) 18:49 [nworo@hotmail.com] -隻眼の小娘とりんごの悪夢(1/3)- 「叔母様、準備はいいですか?」 「その名前で呼ばないでっていってるでしょ!」 「こちらも準備はできたぞ」 「あらあらあら、もう死ぬ準備ができたんですの? 賈ク様のことですからきっと素晴らしい遺言を聞かせてくださるんでしょうね♪」 「はっ、おもしろい冗談ですな、荀攸殿」 明るいざわめき、というには多少とげとげしいものがある。 そんな声を聞きながら隻眼の少女は苦笑しながら手を叩いて注目を自分に集めた。 「はいはいはい、今日はいい日なんだから2人ともいがみ合うの禁止」 少女……夏侯惇が話をはじめただけでざわめきはぴたっとおさまりその言葉にみなが聞き入る。 「みんな、準備はいい? じゃあ烏丸・袁姉妹連合留守番部隊の打ち上げはじめるよー」 打ち上げとはいっても名目は反省会であり、ここで飲み食いしたお金は経費で落とされる。 冀州校区ではそれなりに名前の知られた中華レストラン『鳳陽』を借り切って反省会、とは名ばかりの宴がはじまろうとしていた。 みながハメをはずさぬように、ドリンクバーで持ってきたメロンソーダを飲みながら夏侯惇は少し離れた場所でぼ〜っと喧騒を眺めていた。 「ふぅ……」 最近、前線に立っていない。 現地で祝勝会に参加している許チョや張遼たちに嫉妬すら感じる。 なぜ孟徳は私を後方に残しておくかなぁ…… 夏侯惇はくしゃりと髪をかきあげた。 まぁ、理由は自分以外に世話係がいない、というだけなのだが。 理由も自分でわかっているだけに夏侯惇の口元からは苦笑しか漏れてこない。 「夏侯惇さん、もっと真ん中にきてくださいよ。そんな隅っこに貴女みたいなひとがいるってのも落ち着きません」 苦笑を浮かべながら韓浩が夏侯惇に近寄ってくる。 「貴女みたいなひと、って私はどんなのだよ」 韓浩の言葉に苦笑を浮かべ、またメロンソーダを一口。 韓浩も夏侯惇にそれ以上真ん中にくることを薦めることもなく口の端に笑いを見せた。 「隣、いいですか?」 「あぁ……」 そのまま2人で人の流れを眺める。 「夏侯惇さ〜ん☆」 しばらくぼ〜っとしていると夏侯惇に黄色い声がかかった。 それを見て韓浩は顔色を変えた。 「いっぱい食べて楽しまなきゃいけませんよぉ☆ これ、おいしいですよぉ☆」 娘の手にはアップルパイがあった。 「離れて!」 夏侯惇に声をかけてきた娘に注意するよりも早く夏侯惇の手が娘の手にあったアップルパイを叩き落す。 そして娘を睨みつけた。 「ひ……」 そのあまりの迫力に娘はへたり込み、泣きそうな顔になっている。 「どうしたんですか、夏侯惇さん……元嗣?」 騒ぎを聞きつけて史渙が近寄ってきた。 「どうもこうもないわ、公劉。この子が夏侯惇にりんごを見せただけ」 韓浩の簡潔な説明に史渙は手で顔を覆って天を見上げた。 「あちゃ〜……」 「ホント、あちゃ〜、ね。公劉、この子のことお願いできる? 私は……」 ちょいちょい、と夏侯惇を指差しながら苦笑する。 「ん、おっけ……はいはい、もう大丈夫だからちょっと外いこうね〜」
534:北畠蒼陽 2005/01/28(金) 18:50 [nworo@hotmail.com] -隻眼の小娘とりんごの悪夢(2/3)- 娘を離れた場所に連れて行く史渙をちら、と見やってから韓浩は夏侯惇に視線を戻した。 「まぁ、『りんご』ってのは夏侯惇さんのNG品目だから仕方ないんですけどね。あの子にだって悪気があったわけじゃないんだし許してやってください」 幾分落ち着いたか、それでも興奮の冷め遣らぬように夏侯惇は椅子に乱暴に腰を下ろした。 「あの子に悪気がないのはわかってる。あとで謝らなきゃね」 そんな怖い顔で謝っても逆効果だよ、という本音をちら、とも見せることなく韓浩は頷いた。 「夏侯惇さんのりんご嫌いは有名ですからみんな知ってると思ったんですけどね」 「有名ってのもあんまり嬉しくないわね」 夏侯惇はメロンソーダに再び口をつけ、ようとしてやめた。 「でも私だって夏侯惇さんがりんご嫌いな理由までは知らないんですから、もしかしたらあの子が知らなかったのも当然かもしれませんよ」 夏侯惇は韓浩の言葉にぎこちない笑みを浮かべる。 「あんまりおもしろくない話よ? それにどれだけいっても孟徳のバカ話だしね」 そして夏侯惇はゆっくり口を開いた。 シャギャア、シャギャア…… モケケケケケケケケ…… よく密林の探検隊とか動物番組とかで聞かれるようなよくわからない動物の声があたりに響いている。 足元に多い茂る草をかきわけ、木の間に道を見出し2人の少女は前へ前へと進んでいた。 正確に言えば小柄な少女に大柄な少女が引っ張られていた。 2人ともエン州校区初等部の制服に身を包み、いかがわしい幼女マニアが見れば一発で役満に振り込むこと間違いなしだ。 「孟徳〜、ほんとにこんなとこなの?」 「間違いないよぉ。元譲だってりんご好きでしょ〜?」 いやまぁ、好きなのは好きなんだけどさぁ…… 元譲と呼ばれた少女、夏侯惇は口ごもる。 夏侯惇と小柄な少女、曹操は交州校区の片隅の密林を歩いていた。 なぜこんなところに2人の少女が歩いているのか…… 話せば長くなる。 だが語れば短い。 要するにテレビを見ていた夏侯惇が『りんごおいしそう』と言ったのを聞きつけた曹操が夏侯惇をりんご狩りに誘ったのだ。 交州に。 ばさばさばさばさ…… 頭上を極彩色の鳥が飛んでいく。 ここは本当に中華市なんだろうか…… 夏侯惇の頭に至極真っ当な疑問が浮かんだ。 しかし夏侯惇はりんごがどんなところに生息する植物なのか知らない。 だから少し怖いがこんなもんかも、と思っていた。 りんご狩りって命がけなんだなぁ〜、と少し的外れなことを思いながら。
535:北畠蒼陽 2005/01/28(金) 18:52 [nworo@hotmail.com] -隻眼の小娘とりんごの悪夢(3/3)- 「う〜ん……」 「ど、どうしたの、孟徳」 「いや、ここに来る前にね、おばあちゃんに聞いたの」 おばあちゃん……曹騰である。 現在の蒼天会長である桓さまこと劉志の3代前の蒼天会長、順さま、劉保の親友にして学園の伝説的カムロ。AAAカップの守護者、と呼ばれ学園史に巨名を轟かせた鬼才である。 そして曹操はおばあちゃん子であった。 「おばあちゃん言ってたもの。『りんごは交州校区のような危険な場所にできるものなんだよ。怖いんだよ。1人でいっちゃいけないよ』って」 夏侯惇はしばらく考えて口を開いた。 「……あんた、それは……あんた1人で勝手にいかないように怖がらせようとしただけじゃないのか……?」 「あ〜、夏侯惇もそう思う? 私もそんな気がしてきたよー」 「ッ!!!!!!??????」 夏侯惇の声鳴き悲鳴が密林にこだました。 モケケケケケケケケケケケケ…… こだまはしたがすぐにかき消された。 「元譲〜、機嫌直してよ〜」 「……」 あからさまに不機嫌な夏侯惇とあまり誠心誠意とはいえない態度で謝る曹操。 2人は今、遭難中であった。 とにかく帰り道がわからないのである。 当たり前な気はするが。 なぜ帰り道の目印の一つもるけておかなかったか。 曹操曰く『あ、そっか。帰んなきゃいけないんだっけ』とのこと。 バカ丸出しである。 「帰ったらりんご食べたいねー」 ヒトゴトのように言う。 誰のせいでこうなったんだ! という言葉を夏侯惇は口に出さない。 曹操がどんなヤツかってことは昔から身にしみている。 「とにかく帰ろう」 憮然と呟いて歩いてきた方向……と思われる方向に向かって歩き出す。 「あぁ! 元譲まってよ〜」 待ってやる自分がいじらしいな、と夏侯惇は足を止め、曹操のほうに振り返る。 そして両目を見開いた。 「も、孟徳! 後ろッ!」 「ふぇ?」 トラが唸り声を上げて2人の方向を見ていた。 「はぁい♪」 手を振ってみた。 トラは飛び掛ってきた。 「バカ孟徳ーッ! 逃げろーッ!」 「ごめんよー! ごめんよー!」 2人は全力で逃げ出した。 「……んで2人で全力で逃げて。ふ、と気付いたら片目がなかった」 中華レストラン『鳳陽』の片隅。 夏侯惇の腕組みしながらの告白に韓浩は口元を引きつらせた。 隻眼に関してはなんらかの武勇伝があると思っていたが想像以上の武勇伝だった。 しかも想像の上斜め50度くらいを横切っていくような予想外っぷりである。 「そ、それは大変でしたね」 それしか言えない。 そしてしばらく2人は見つめあい…… やがて韓浩はなにかに気付いたように口を開いた。 「りんごがトラウマなのはなんとなく理解できましたけど……その話を聞いてると私が当事者だったらりんごよりも曹操さんに対してのトラウマが出来そうな気がするんですが……」 夏侯惇は韓浩を呆然と見やった。 「……そ」 「そ?」 「そんなこと考えたこともなかった……」 「か、考えてくださいッ! 重要重要!」 そんなあらゆる意味で平和な日のことだった。 --------------------------------------------------------------------------------------- カムロ設定は岡本様の『十常侍の乱』より。百万の感謝を。 ちなみに実際に目を失ったシーンは私が書くとどうやってもグロにしかならないのでぼかさせていただきました^^; もう、いろいろぐだぐだなんで許してやってくださいけぷ☆(吐血
536:海月 亮 2005/01/28(金) 19:44 おお、今度は惇姉の隻眼秘話ですな。 確か人物設定のところでも、課外活動とは無関係の所で、恐らくは曹操が原因で片目を失った、とあったと思いましたし。 しかし、トラですか。片目で済んだのが奇跡みたいな話で笑えるなぁA^^) >ログがリレーに… なってますね…まぁ、私もですけど、きっと皆様こないだの祭(←旭記念日スレ)で萌え尽きてるor現在も奮闘中でしょうから…。
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