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546:海月 亮 2005/01/30(日) 20:29 -子瑜姉さんと"ロバの耳"- そのさん 「……ふむ…まさか、こんな長い間効き目があるとは思わなかったが…」 「やっぱり、テメェの仕業だったのか、孔明」 荊州学区・公安棟。かつては江夏棟の名で呼ばれたそこは、帰宅部連合と長湖部の勢力範囲の境目にあたり、その二勢力の中立地帯となっていた。 魯粛は今回の事件の原因が諸葛瑾の妹・諸葛亮にあると考え、渋る彼女を無理やりに引きずってきたのである。 「勘違いしないで頂きたいな。私がやったのは、"ロバの耳"を作り出したことだ」 「はぁ?」 「何ですって!?」 諸葛亮のしれっとした一言に、二人は唖然とした。 「お姉様も知っての通り、お母様の寝癖は相当に酷かっただろう。毎朝、何十分もかけて髪を梳かすその姿を見て、幼いながらも私は心を痛めていた…」 そう言って、視線を遠くへ投げる。 「そこで私は毛根に作用し、決まった髪形を維持する髪質に変える整髪料を開発したのだ。実際の効能がどれほどのものか試すため、私はある日、お姉様と元遜が寝入ったところを見計らい…」 「…………………………ようするに、貴様の仕業か」 妙にドスの利いた声。普段聞きなれないその少女の声に、魯粛は愚か、諸葛亮でさえ思わず息を飲んだ。 言うまでもなく、その声の主は諸葛瑾である。 諸葛瑾がゆらりと立ち上がると、その背後は怒りのオーラで景色が歪んでいる。 「お、お姉様落ち着いて…まさか私も、効果が10年も持続するなんて考えても…ひぃッ!」 その言葉か聞こえていないかのように、壁際に追い詰めた妹の襟首を、諸葛瑾は千切りとらんばかりにねじ上げた。 「し、子瑜…アンタが怒るのも解るけど、そいつ殺したらヤバい事になるから…いろんな意味で」 「………直せ」 魯粛の言葉も無視し、諸葛瑾は普段より数段トーンの低い声で、妹に命令した。 「え? でもこれでお姉様の髪型は元通り…」 「いいから、私の髪型を普段通りに戻せと言っている…ッ!」 何故か目深になった前髪から、殺気立った目が覗く。 その形相に恐れをなしたらしい諸葛亮は、まるで壊れた人形のようにがくがくと首を縦に振った。 かくして一週間後、その特徴的な"ロバの耳"は再び元通りになった。 「いや〜、ホンッと良かったですねぇ、先輩。あの髪型もキマってたのに残念ですね〜」 こくこくっ。 「……黙れ、子山。元歎も同意すんな」 先日の一件で一番大笑いしてた張本人の一言に、直前まで上機嫌だった諸葛瑾はむっとした顔で二人を睨んだ。 「でもやっぱり、その髪型のほうが子瑜らしくていいと思うよ。可愛いし」 「それもそうですねぇ…いっそ、その根元にリボンでも結ってみます? もっと可愛くなるかも知れないですよ」 こくこくっ。 孫権の言葉に冗談とも本気ともつかない提案を投げてくる二人(?)。 「お前等なぁ…それより、今回は孔明のヤツも災難だったかもな」 「いいのよあのくらい。たまにはいい薬だわ」 そうである。 何せその薬そのものが残っていなかったため、諸葛亮はかつて自分が作った試作品のレシピをほじくり返し、急遽作ることになったのだ。 しかも、材料も入手困難なものばかりらしい。 その内訳が明かされることはなかったが、材料をかき集めて帰ってきた諸葛亮の白衣は見るも無残な状態で、しかも供をしたらしい趙雲たちに至ってはそれ以上の有様だったことを鑑みれば…。 「…………なんてーか、いろんな犠牲を払ったんだなぁ…その"ロバの耳"は」 孫権の言葉に再び上機嫌となった諸葛瑾の姿を眺めながら、魯粛はしみじみとそう言った。 そして、成都棟の(元)科学部部室では… 「!………う〜む、まさか、また何年後かに同じ事が起こるんではなかろうな………」 姉の見慣れない形相を思い出し、思わず身震いした諸葛亮であった。 ちなみに、諸葛姉妹の母親にこの薬が使われたか否か、定かではない……。 (終劇)
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