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654:北畠蒼陽 2005/06/14(火) 17:56 [nworo@hotmail.com] 「全員、まだよー」 少女が微笑みすら口元に浮かべながら目の前の敵を睥睨する。 彼女の前には1000人にも届こうかという敵の一団が、そう、彼女に向かって突進してくる。 その迫力たるや無様に泣き叫んで許しを乞うても誰からも批判されることはないだろう。 それが戦場のプレッシャーというものである。 だが彼女は微笑み…… 「はい、よく我慢したね。んじゃ撃とうか」 軽い調子でタクトを振るかのように自分の後方に控えていた少女たちに指揮を飛ばす。 我慢に我慢を重ねた少女たちは手にしたエアガンを一斉に放つ。 策もなにもなく、ただ1人の少女だけを目標に突撃を敢行していた一団はそれだけでパニックに陥り…… 「た、退却だー」 やがてその声に従うように隊列を崩したまま撤退していく。 「追撃しますか?」 「んー、こっちも陣形を整えるのに時間かかるでしょ。今は撤退させてやろっか」 部下の言葉に気楽に言い放ち、そしてふと気づいたようにわざとらしく額の汗をぬぐうふりをした。 「あー、緊張した」 少女……王昶はににっと笑いながら言った。 策を投じる者〜王昶の場合〜 長湖部は揺れていた。 絶対的なカリスマである部長、孫権もその長きに渡る統治により水を淀ませている。 のちに二宮の変と呼ばれる事件により陸遜という稀代の名主将は放逐され、また部長、孫権ももはやすでに引退時期を考えている、という風のうわさすら流れていた。 そんな時期、荊・予校区兵団長の王昶が生徒会に1つの提案をした。 「孫権って最近、能力持ってる人間を次々トばしちゃって、しかも後継者争いなんかさせちゃってる状況みたいなんですよー。今のうちに長湖部を攻めたらいけるとこまではいけると思うんですよね。白帝、夷陵の一帯とか黔、巫、シ帰、房陵のあたりなんて全部、長湖のこっち側ですからね。あと男子校との境目だから混乱も起こしやすいし。今が攻め時、お得ですよ!」 生徒会はその進言を受け入れ、荊州校区総代の王基を夷陵へ。荊・予校区兵団長の王昶を江陵へ進撃させた。 荊州校区に熱風が吹き荒れる。 「しまったなぁ」 王昶は頭をかきながらぼやいていた。 眉間にはしわ、しかも相当深い。 「大失敗だぁ」 誰にともなく呟き、ため息をつきながらがっくりとうなだれた。 彼女の眼前には江陵棟の威容がそびえていた。 王昶は緒戦で長湖部の施績を完膚なきまでに打ち破った。 施績はそれにより江陵棟まで撤退せざるを得なくなった、それはそれで完全勝利といえる。 精神的優位に立った王昶はそのままの勢いで攻め続ける……そのつもりだった。 「まさか校舎に閉じこもったまま出てこないとわ……」 本日何度目かのため息。 王昶は撤退した敵はそのままある程度持ち直したら逆襲してくると考えていた。 そのまま校舎に閉じこもるなど思いもよらなかった。 だがそれはそれで正しいといえる。 一般的に篭城を打ち破ろうと思えば10倍の兵力が必要といわれる。 しかもそれで勝ったとしても多大な犠牲込みである。 兵力に劣り、さらに策謀に劣ったとしてもこうしてひたすら閉じこもり援軍を待たれれば疲弊するのは王昶の側である。 当然、王昶としても疲弊を望んでいるわけではない。 だからこそ…… 「しまったなぁ……多少、強引でも追撃して校舎に立て篭もらせないようにすべきだったか」 ……なのであった。
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