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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
671:海月 亮 2005/06/15(水) 23:43 で、触発されて書いてみました(゚∀゚) 挙げて見たら「号令一下」の前、接続詞「の」が抜けていましたので、各自補完の事w あと施績が朱績になっちょりますが、同一人物なのには変わりませんので気にしないでくださいな。 これはまぁ、書かれ方が違うということで。 おいらの本命、ある人の交州日記話はもう少しで完成です。週末には完成予定…かな?
672:海月 亮 2005/06/15(水) 23:51 >影の剣客 雑号将軍様、初投稿乙です!(>Д<)ゝ いや、正直な話皇甫嵩関連は何か語り尽くされた感があったと思っていましたが…なんのなんの、また新たな切り口を見出せそうですぞ!! いや、お見事でござる。 というか、DG細胞かTウィルスに冒されてそうなあの丁原たんが食中毒ってw 以上、自作うぷ直後に作品があげられていることに気づいたw海月でした。 PS:何も交州って言っても、そこで活躍した人をメインにするとは限りませんよ?
673:北畠蒼陽 2005/06/16(木) 01:19 [nworo@hotmail.com] >海月 亮様 わおー! 陸凱だー! 陸凱だー! 私の中で陸凱の評価って蒼天航路の張遼の関羽まんまの評価なんですよね。 『互角に見えて打ち倒すのは至難』ってやつです。 ま、イメージ的なものですケドね(笑 >天然性悪の王昶 ある意味最大限の好評価、ありがとうございます(笑 >交州 歩さんか虞さんという予想をしておりマス(笑 >王国についてあれこれ まず『梁州』ってなぁなにか、デスよね〜。 梁州は益州を分割した漢中一帯なんですけど、これ、晋になってからはじめて作られるんですよねぇ。 後漢書皇甫嵩伝に以下記述があります。 (※英雄記に書いてあるんだけどね。涼州の賊王国とかが兵を起こしちゃってさ、閻忠に迫って盟主とかやっちゃって三十六郡を統べさせて、車騎将軍とか自称しちゃったんだってさ。閻忠、もうプレッシャーとかいろいろで死んじゃった。なむー) ってとこから梁=涼カナ? と。 そのわりに王国サン、陳倉を包囲してるんでもうゴチャゴチャ! どっちがどっちやねーん! まぁ、後漢書の成立年代がかなり下ってるんで『涼』のほうが間違いかもしれんです。 とりあえず王国とのいろいろについて書くとかなり長くなるのでパス。 『皇甫嵩 董卓 王国』でGoogle検索して一番上にあるページはかなりわかりやすいのではないかと思われマス。 とりあえず皇甫嵩にクーデターを薦めておいて却下されたら身の危険感じて逃げて、逃げた先でなぜか賊の大将に祭り上げられてる閻忠タン萌えー。
674:雑号将軍 2005/06/16(木) 22:25 >海月 亮様 おおぅ!陸凱が遂に主役となるとはっ! 海月 亮様の陸凱を拝見して以来、彼女が動くとどうなるのかなとわくわくしながら考えていましたが、遂にこのときがやって来ました〜! まさに、お見事!見習いたいものです。 海月 亮様、北畠蒼陽様・・・・・・これが、常連の技というものですな! >丁原たんが食中毒 ああっと、それは、丁原が盧植と一緒だった記述がなかったからどうにかしないと→アサハル様の設定をお借りする・・・・・・とまあ付け焼き刃なんです。 >王国についてあれこれ な、なるほど、難しいですな〜。これは設定を練るのに時間がかかりそうです。まずは教えて頂いたサイトを検索してみます。 本当にこんなに細かく教えて頂きありがとうございます。
675:海月 亮 2005/06/17(金) 00:49 -蒼梧の空の下から- 第一章 「追憶」 交州学区、蒼梧寮。 今でこそ長湖部の勢力範囲となっている僻地、交州学区に籍を置く生徒たちの多くが生活の場とする場所である。 かつては士姉妹を初めとして、長湖部の勢力拡大を良しとしないものたちが互いに覇権を競い合ったこの地だが、呂岱、歩隲の活躍によりその問題勢力は一掃された。 後世、交州統治といえば歩隲と呂岱(あるいは、稀にだが陸胤)の名が挙がるのは、それだけ彼女らがこの地の統治に心血を注いだ結果であったと言って良い。 加えてこの地は長らく、長湖部の中央で何らかの不始末を犯した者達の左遷先、というイメージも持たれていた。 しかし、一般的な記録では「左遷されてきた」者達の中にも、別の目的があってあえてこの地へ来ることを望んだ少女が居たことは、ほとんど知られていない。 それもそのはず。 それはあくまで、後世の学園史研究家の間で「もしかしたら…」程度に言われる説のひとつに過ぎない。 その実情を知るのが、その当人を含む、ほんの数人の少女だけしか居なかったのだから。 蒼梧寮の前庭。休みの日で昨日からその住人たちは学園都市の中心街に出払ってしまい、すっかり人気のないその場所に、ただひとりだけ、彼女はいた。 この地に住む人種としては珍しい、柔らかそうなプラチナブロンドの髪。スタイルも背丈も、歳相応と言ったところ。 その出で立ちは学園指定の体操服、夏用の半袖とブルマという姿。真冬の朝に外に出るには心ともない格好だが、彼女は意に介した風を見せていない。 手にはその背丈と同じくらいある木製の棍が握られている。 彼女はふぅ、と一息つくと、その棍をゆっくりと構えた。 様になっている、というどころの話ではない。その構えは堂に入っており、全身から達人特有の気迫が感じられる。 「はっ!」 気合とともに、踏み込みから一閃。 そして立て続けに、連続で払い、打ち下ろし、打ち上げと技を繰り出していく。 ただ闇雲に振り回しているのではない。彼女の動きは、型通りの演舞から、次第に乱調子の動きへ変化するが、その動きにはまるで無駄が感じられなかった。もし彼女の目の前に人体模型でも置いてあれば、そのすべての一撃がその急所すべてを打ち据え、薙ぎ払い、衝きとおしていることだろう。 そして彼女は渾身の横薙ぎを放つと、そのままの勢いのまま最初と同じように構えなおした。彼女はこうした演舞を、何回かに分けて、既に一時間近く行っていた。それゆえか、季節外れの薄着でも、気にならないのも当然である。 彼女は一息ついて、構えを解こうとした…まさにそのときだった。 「!」 僅かに風を切る音が聞こえた瞬間、彼女は反射的に振り回した棍で何かを叩き落し、それを地面に押さえつけてから視認した。その間コンマ何秒という世界である。 その目に飛び込んでいたのは、己の棍と地面のアスファルトの間できれいにつぶされていた空き缶…と思われるものだった。 「お見事ですね」 拍手とその声が聞こえてきた方向には、ひとりの少女の姿があった。 棍を構えていた少女と、背丈は同じくらい。色素の薄い髪の、あどけなさを残した温和そのものといった表情が特徴的な少女…彼女こそ、この交州学区現総代・呂岱、字を定公である。 棍を地面に突き立てたまま、少女は苦笑した。 「…毎度毎度不意打ちを食らわせてくるなんて…あまりいい傾向とは言えないわよ、定公」 「そんな事言わないでくださいよ、ほんの挨拶程度じゃないですか」 「それはまた随分なご挨拶ね。仮にも二年年上の人間に空き缶を投げつけるのが挨拶とは畏れ入るわ」 「それはあんまりじゃないですか〜。だって先に“隙があったら何時でも仕掛けて来い”って仰ったのは仲翔先輩のほうじゃないですか」 「…そうだったかしらね」 少女は缶のなれの果てを、見事な棍捌きでかち上げ、近くにあったくず入れに放り込んだ。 棍の少女の名は虞翻、字を仲翔という。 元は会稽棟にその名を知られた名士・王朗の副官であったが、この地を席巻した小覇王・孫策の眼鏡に適い、長湖部の経理事務を一手に引き受けたほどの人物である。 孫策が思いもがけぬ理由でリタイアすると、そのあとを継ぐことになった孫権に仕え、張昭らと共に長湖部の活動を裏方でバックアップしていたのだが…彼女生来の歯に衣着せぬものの言い方と、正しいと思うことを憚りなく主張するその性格が災いして孫権の怒りを買い、ついには孫権の個人パーティーの席で失態を犯して左遷させられたのだ。 しかし、彼女が交州の地に送られた頃は、丁度帰宅部連合との一大決戦があって、その事後処理で政情不安定だった時期である。いくら虞翻の性格が災いしたとはいえ、人使いに長けた孫権が一時の怒りに任せて彼女ほどの逸材を左遷してしまったことは、後世学園史研究者の疑問の種となった。 その多くは結局、「二宮の変」に代表される孫権の狭量さを表す一事例、として片付けてしまった。 しかし僅かながら、そこに何か別の意味を見出した者達も、確かに存在していた。
676:海月 亮 2005/06/17(金) 00:50 一息ついて、寮玄関の花壇に腰掛ける虞翻。羽織った自前のコートを汚すのを厭わず、呂岱はその近くに腰掛けた。。 「しかし勿体無い事ですね。それほどの腕をお持ちなら、部隊の主将としても申し分ないでしょうに」 「どうも荒事には向いてないみたいでね。本来は護身術兼息抜きとして始めたものだったんだけど」 「知ってますよ。前部長が孤立したとき、先輩が傘一本で血路を切り開いたって話」 「大げさな…まぁ確かに、相手の獲物を奪った最初のときだけ使ったんだけどね」 苦笑しながら彼女はそう言った。 「え、本当なんですか?」 「一発でダメになったわ。流石に相手が木刀だとコンビニ傘じゃ荷が重過ぎるわよ。相手が一人だった事も幸運だったかもね」 「へ〜え」 なんともウソっぽく聞こえる話だが、呂岱は虞翻が、弁が立つくせに冗談を言うのが苦手なことを良く知っていた。ましてやあの見事な演舞を日常的に見ていると、ウソには聞こえないだろう。だからこそ、素直に感心した。 会稽寮から程近い山中。 虞翻は道なき道、草の生い茂った獣道を遮二無二突っ込んでいく。彼女の制服は所々土で汚れ、手には一本の木刀を持っている。普段も寡黙で気難しそうにしている顔を一層険しくし、彼女は何か…いや、誰かを探していた。 「部長っ、何処ですか! 孫策部長!」 「おう、仲翔じゃねぇか」 不意に彼女の左手の草陰から、ひとりの少女が姿を現した。明るい色の髪を散切りにし、真っ赤なバンダナを巻いている、少年のような風体の少女だ。その少女こそ、虞翻が探していた長湖部の部長・孫策である。 「大声出さなくたって聞こえてるって。てか、何をそんな慌ててんのさ?」 あまりに能天気なその応えに、虞翻は一瞬眩暈すら覚えた。 無理もない、このとき彼女らは、活動再開して間もない長湖部の利権を守るため、学園都市で不祥事を起こす隣町の山越高校の不良たちの取締りと摘発の真っ最中なのだ。 「…何を、じゃないですよまったく…部長の腕が立つのは良く存じてますが、こんな時にこんなところでひとりで居るなんて正気の沙汰じゃありませんよっ! おまけに親衛隊まで全部散らしてしまって! あなたの身にもしものことがあったら…っ!」 大声でまくし立てる虞翻。どうやら彼女、何時の間にかはぐれてしまった孫策が心配で追って来た様子。激昂のあまり、そのまま泣きわめきそうな勢いだ。 「解った解った。それ以上言うなって。それにあんたが来てくれただけでも十分だよ」 孫策がそういってなだめると、虞翻は一瞬目をぱちくりさせた。 「そ…そんなことっ……と、とにかく此処も危険です。私が先導しますから、皆と合流しましょう」 そして気恥ずかしくなったのか、そっぽを向いてしまった。声の調子も少し上ずっていて、孫策も思わず苦笑した。 そのとき、ふと孫策は気づいた。 「そういや仲翔、その木刀どうしたんだ?」 「え?…あ、これは…その、此処へくる途中でひとり捕縛したのですが…彼が持っていたモノを拝借して…」 「え、まさか素手でか!?」 「あ、い、いえ。実は私、杖術の道場に通っておりまして…ビニール傘で応対したんです。結局、傘は壊れちゃったんですけど…」 「へぇ…」 先導する虞翻が丈の長い草を掻き分け、その後に続きながら孫策は感心したようにそう呟いた。 「ああ、じゃあその手のタコはそのせいだったんだな」 「え?」 孫策が納得したようにそう言ったのに驚き、虞翻は思わず足をとめてしまった。そして虞翻が振り向いた瞬間、歩みを止めていなかった孫策と見事に額を衝突させ、獣道の中にひっくり返ってしまう。ふたりの背丈が丁度、同じくらいなのが災いした。 「痛ぁっ…急に振り返んなよ…」 「うぐ…ごめんなさい…」 そして、お互い額を真っ赤にし、涙目になってるのが可笑しくて、同時に噴出してしまった。 一息ついて、虞翻は上目遣いに孫策を見る。 「…気づいて、いらしたんですね」 「ああ。初めて会ったとき、会計担当って言うわりに随分身のこなしに隙がなかったしな。それに、可愛らしい顔してるくせに、握手したらえらくごっつい手だと思った」 孫策の一言に、虞翻は顔を真っ赤にして、俯いてしまった。 こんな時にというのもあったが、こんな真顔で“可愛い”なんて言われた事、自分の体に女の子らしからぬ表現をされてしまった事、そのどちらも恥ずかしかったからだ。 流石に悪いこと言ったかと、孫策も気づいたようだ。 「ま、気にすんなよ。別にそんなこと気にすることないって。徳謀さんとか義公さんだって、あの顔で結構ガタイいいし…それに比べりゃあんたはルックスもいいし、スタイルだって十分…」 「も、もういいかげんにしてくださいよっ…行きましょう」 うつむいたまま立ち上がり、虞翻は足早に再度前進し始めた。 「あはは…解ったもう言わないよ。てか置いてくなってよ〜」 「知りませんっ」 そのあとを、さして慌てた様子もなく孫策が続いていった…。 ほんの僅かな間、虞翻は当時のことを思い返していた。ふと我に帰った彼女は、傍らの呂岱に問い掛けた。 「ああ、そういえばあの頃、君はまだ中等部に入ったばかりだったっけ?」 「ええ。運良くというか悪くと言うか…中等部志願枠に入ってすぐですよ。次の日にいきなり、部長がリタイアですからね。お陰でまた一般生徒に逆戻りで…」 「それもすごい話ね」 「部長も、一日しか参加していなかったあたしのこと、すっかり忘れてたみたいだったし」 呂岱はそう言って苦笑する。 「どうかな…仲謀部長のことだから、わざと知らないふりをして、君のことを試したのかもね」 「そうですかね?」 「あの娘はよく気のつくいい娘だよ…あ、今や平部員の私がそんな言い方をしたら、いけないか」 虞翻はそう言って、少し寂しそうに微笑んだ。 でも、呂岱はそれを咎め立てる気にはならなかった。彼女は十分理解していたのだ…目の前の少女が、その風説とは裏腹に、孫権とは深い信頼関係で結ばれていると言うことを。 そして、その身を案じてやまないからこそ、虞翻が今の立場を受け入れていることを。
677:海月 亮 2005/06/17(金) 00:51 -蒼梧の空の下から- 第二章 「少女の檻」 実は呂岱も、元々虞翻と気の合う方ではない。 そもそも虞翻はその難儀な性格ゆえか、本音で語り合えるような友人というものが少ない。先にこの交州に左遷され、間もなく課外活動から引退した陸績、劉備の元で蜀攻略に参加した「鳳雛」ことホウ統…あるいは、いまやほとんど連絡も取らなくなった王朗くらいが、彼女にとって“友人”といえる存在だった。 虞翻は多くの有能な少女たちにアプローチをかけ、その少女が大成するよう世話を焼いたことも少なくはない。しかし、そうした少女たちもまた、彼女を尊敬することはあっても、親しく付き合うまでには至らなかった。あるいは虞翻自身が己の性格と、鼻つまみ者である自分との関わりが足枷にならぬよう、わざとつき離していたせいもあっただろう。 だから呂岱も始めは、あまり彼女に関わらないようにしていた。 「突然で、なんですけどね」 「ん?」 暫くの沈黙の後、呂岱はそういって切り出した。 「あたしも始め、やっぱり仲翔先輩のこと、とっつきにくい人だって…正直、あまり関わりたくないと、思ってました」 「…随分はっきり言うじゃないの」 「すいません…でも、これだけはどうしても言っておきたくて…あたし、最近よく思うんです。もし先輩が裏から色々と手引きしてくれなければ、今此処にこうして居れなかったんじゃないか、って」 その思いつめたような表情に、虞翻は呂岱が何を言わんとしているかに気がついたようだった。 「…考えすぎだよ。交州平定は君や子山の成し遂げた功績…私には何の関わりもないわ」 「その子山先輩名義で来てた手紙だって…よくよく考えればあの先輩がマメに手紙を書くような人じゃない事だって解るでしょう! 仲翔先輩、本当はあなた、部長のために敢えて罪を…」 そこまで喋りかけたところで、その口に指を当てられた。不意を突かれて呂岱は思わず口を噤む。 「それ以上は言わないで、定公。それはあくまで、私の我侭でやったことだから」 言いながら、虞翻は頭を振る。その口調は何時になく穏かな、それでいて何処か寂しげだった。 「…本気、なんだね…仲翔さん」 「ええ。是非ともその大任、私にお任せいただきたい」 人払いの済んだ…常に孫権の元に同席している周泰や谷利の姿すらないその部屋で、虞翻と孫権は二人きりで居た。 「既に子布先輩の許可も頂いています。あとは、部長の指示次第です」 「でも…それじゃあ仲翔さんは…」 「覚悟の上です。それに、変に肩書きがないほうが隠密行動の上では便利ですよ。それに、私と部長の関係が表面上巧くいっていないからこそ取れる戦法ですし…皆も、私が交州に流された所で、誰も異を唱えることはしないでしょう」 「だって…そんなのって…ねぇ、やっぱり考え直してよっ…ボクにはそんな残酷なこと、できないよ…! 伯符お姉ちゃんの時から、仲翔さんたちがずっとずっと裏方を支えてくれたからこそ、今の長湖部があるって…皆だってちゃんと解っているから…だから…そんな事言わないでよっ…」 泣きそうな表情で、虞翻に取りすがる孫権。 帰宅部連合との全面戦争、そしてその隙を突いた蒼天会の急襲。そのふたつの危機を乗り切ったとはいえ、それがために長湖部勢力下の政情は非常に不安定なものだった。 それまで鳴りを潜めていた反乱分子、あるいは山越高校の不良たちの暗躍が再燃し、それに同調する形で交州学区にも不穏な空気が渦巻いていた。それでも、士一族の棟梁格である士燮がいたうちはまだ良かった。彼女が大学生活の合間を縫って、その妹や親戚の少女たちの不満をなだめていたおかげで、爆発寸前の士一族はまだ抑えられていたのだ。 しかし、彼女が協力してくれる期限も残り僅か。この局面で交州勢力が暴発すれば、三度長湖部崩壊の危機だ。 この危機に虞翻は、先だって交州入りし、後に士一族勢力の根絶をも視野に入れた交州平定の人的な橋頭堡を作る策を提言した。 しかもそのために、自ら平部員として赴くことも併せて、である…。 これには孫権もかなりの難色を示した。表面上、孫権は何処か、苦手とする張昭によく似た虞翻を快くは思っていなかった。張昭同様、姉・孫策の信頼していた少女たちであり、実際長湖部に必要な人材だからと割り切って付き合っていた。 だから…孫権は虞翻が己の一身も省みず、自分のために尽くしてくれる覚悟を聞かされたことで、明らかに当惑していた。 「…私は…長湖部の危機を、既に二度も見て見ぬふりをしてしまいました」 虞翻は孫権を抱き寄せると、静かにそう言った。 「え…」 「赤壁島の時と、今年の夷陵回廊と…私は、あなたと長湖部に尽くすという、伯符さんとの約束を二度も破ったのです。私は、公瑾や伯言のような勇気のある人間じゃない…でも、今度も見て見ぬふりをしてしまえば、私には伯符さんに合わせる顔がないから…」 「仲翔、さん」 「だから、征かせてください」 寂しげな笑みだったが、その瞳には悲壮ともいえる決意があった。 「…解ったよ」 孫権は止めても無駄だということを悟り、その意思を尊重した。その瞳から大粒の涙が溢れ、抱き寄せてくれた少女の胸に、その顔を預けた。 翌日。 彼女は孫権や張昭との打ち合わせ通り、パーティが盛り上がりを見せたところで暴言を吐き散らすという暴挙に出て見せた。シャンパンのアルコールが効きすぎた上での失態と周りが取り成したが、それでも孫権は彼女を許さず、即時幹部会の任を解き、交州往きを命じたという。 このとき、彼女と親しかったはずの敢沢すら彼女を庇おうとはしなかった。敢沢はこの事件について多くを語ろうとしなかったが…恐らくは、この事件が彼女たちの仲にヒビを入れたのだろうと噂された。その真実は、明るみに出ることはない…。
678:海月 亮 2005/06/17(金) 00:52 「本当に…これで良かったんですか、仲翔さん…」 「ええ…ごめんね、君や伯言にも不快な気持ちにさせてしまって」 そのパーティから数刻の後、荷をまとめる虞翻の元を敢沢が訪ねてきていた。 「構いませんよ。それにアイツには、折をみてあたしから事情を話すつもりだし」 「そんな必要はないよ。むしろ、私のことなんて忘れてもらったほうが良いかもしれない」 「そんな…」 実のところ、虞翻は予めこのことを敢沢に打ち明けていた。 彼女も思いとどまるよう口を極めて説得したが、結局は折れた。敢沢も一度決めたら梃子でも動かないという虞翻の性格を良く知っていたし、むしろ敢沢自身も夷陵回廊の時何も出来なかった無念があったため、虞翻の気持ちは痛いほど解ってしまったのだ。そうなると、もはや止めるべき言葉も出て来なかった。 「それに皆、僻地だというけど…高望みの受験をする場合、むしろ中心街から離れた静かなところのほうが受験勉強には良いかも知れないしね」 珍しく、冗談めかした台詞が、その口から飛び出した。 敢沢の瞳には、その寂しげな笑みが、柄にもない冗談が…その仕草の総てが、痛々しいものに映った。 さして多くもない身の回りのものを、一通りまとめ終わると、彼女は待たせてある配送屋にその荷物を託し、部屋を後にした。 「…徳潤、部長のこと…よろしく頼むよ」 「ええ…仲翔さんも、お気をつけて」 それきり虞翻は振り返ることなく、住み慣れた会稽の寮を後にしようとした…その時だった。 目の前に、ふたりの少女が駆けて来るのが見えた。 「…部長…それに子瑜まで」 「仲翔さんっ!」 飛びついてきた孫権の勢いに思わずよろけそうになったが、彼女は何とか踏みとどまってその体を抱きとめた。 その腕の中で泣きじゃくる孫権をなだめながら、ようやく追いついてきたクセ毛の少女−諸葛瑾を見やった。 「これは…どういう事、なんだろうね?」 「聞きたいのは私のほうよ…私はどうしてもあなたの交州左遷に納得がいかなかった。子布先輩や徳潤まで何も言わないし、それを部長に問いただそうとしただけよ」 諸葛瑾の表情は何時になく険しい。 「ねぇ、どういうことよ! 一体どうしてこんなことに…!」 「ごめん…これは、私の我侭なんだ。私も、自分の身を切り捨ててでもこの娘の…長湖部の力になりたい」 「…!」 その一言と、後ろにいた敢沢の表情から、諸葛瑾も何かを悟ったようだった。 「やっぱり…狂言だったのね」 「ええ。どうせ私がどうなろうと気にする人なんてそう多くないと思ったけど…念には念を入れて」 「…馬鹿よ、あなたは」 俯いたその瞳から、大粒の涙が地面へと吸い込まれていく。 「あなたは他人だけじゃなくて、自分自身も傷つけなきゃ気が済まないなんて…本当の馬鹿だわ…」 「否定はしないわ…それが、私だから」 口ではそう言ったが…虞翻はその心の中で、ただ純粋に自分のことを心配してくれていた者がいた事を嬉しく思うと共に…己の預かり知らぬところで、そんな存在を傷つけてしまったことに慙愧の念を禁じえなかった。 ただひたすら、心の中で謝り続けることしか出来なかった。 「私…先輩が部長に当てた手紙、見てしまったんです」 「え?」 「部長が長湖部を生徒会執行部組織として独立したとき、仲翔さんが部長に当てた手紙を、です」 その正体に気がついた虞翻は、思わず大声をあげてしまった。 「ちょっとちょっと…あの手紙見られたの? ていうか人様の手紙盗み見るのはあまりいい趣味じゃないわよっ」 「あ、やっぱり恥ずかしいモンなんですか? 確かにちょっと、ラブレターっぽかったですしね」 「あんたねー!」 顔を真っ赤にして、照れたような怒ったような口調で呂岱を責める虞翻。以前の彼女ならそれこそ人の肺腑をえぐるようなキツい一言が飛んで来るところだろうが…彼女の言葉が以前よりずっと丸くなったのも、余計な肩書きがなくなったせいだけでないのかも知れないと、呂岱は思った。 「あはは…すいませんってば。…でも、確かにあの手紙で私も、ずっと仲翔先輩のこと誤解してたんだって思いました。でも、それだけじゃなくて」 全然本気ではないけど、しつこく小突いてくる虞翻を宥め、呂岱は続けた。 「あのあと、私はふと気がついて、今まで子山先輩名義で届いていた手紙を引っ張り出したんです。あの手紙を見なければ、今まで子山先輩からだと思い込んでいた手紙の、本当の送り主も知らずにいたかもしれません」 「そう…私かなり練習したんだけどな、子山の筆跡」 「なんとなくですけど…字の運びとか違和感は感じてました。でも倹約家の子山先輩が、あんなマメに手紙を書く人だとは思ってませんでしたから、だからさして気にしてはいなかったんです」 「そっか…そうだったわね」 虞翻はそれを聞いて、ため息を吐く。 あまり親しくもしていないから、そんなちょっとしたことも忘れてしまっていた。そのことが少し寂しかった。 諸葛瑾のことにしてもそうだ。 彼女なら、どんな点からでも、どんな僅かな長所であろうと、見逃さずに褒めてくれる様な心の優しい少女だということを忘れていたのだから。 「私は…私が思っている以上に、周りに対して無関心に過ごしてきたんだね…」 そう呟いた彼女の表情は、涙こそないものの、泣いているように呂岱には思えた。
679:海月 亮 2005/06/17(金) 00:53 -蒼梧の空の下から- 第三部 「還るべき場所」 「これって…どういう事?」 「さぁ…私はただ、部長にこれを届けてくれって頼まれただけなんですが」 交祉棟の執務室で、呂岱はそれを受け取ると、その意味をはかりかねて首を傾げる。 なんでもない、一通の手紙。 問題は、その宛名が部長・孫権宛だった事、そして、差出人の名前が…。 「あの虞翻先輩ってところが、どうも引っかかるのよねぇ…」 「ですよね」 虞翻が常々孫権の意向に反した言動を取り、ついには年度始め、帰宅部や蒼天会との悶着がひと段落ついたところで、孫権の怒りを買って交州流しにあったことを知らない長湖部員はいない。ただ、御人好しの権化ともいえる諸葛瑾ひとりが、最後の最後まで彼女のことを取り成した以外、誰も彼女を庇ってくれるものがいなかったという話も。 「とりあえずそのまま渡しに行くのも怖かったんで…此方にお持ちしたんですけど」 「好判断だわ。今、長湖部の独立政権樹立に向けての準備に忙しい折…こんな時に部長の機嫌を損ねられても困るしね…解ったわ、コレは私が預かっておくわ。もし行方を聞かれたら、もう出したとか何とか行って誤魔化しておいて」 「解りました」 手紙を持ち込んだ少女は、その手紙を呂岱に宛がうと、一礼して執務室を退出した。その顔が、来た時の困りきった表情から、あからさまな安堵の表情に変わったのを見ると、呂岱も苦笑するしかなかった。 「ったく…こんな僻地に居ても、周りの顔色変えさせ続けるなんてたいした先輩だわ」 その手紙をひらひらと弄ぶ。 今度はその手紙を宛がわれた呂岱が困る番だった。受け取ったはいいが、相手が相手だけに一体どんな内容なのかを考えるだけでも悪寒が走る。 孫権は相変わらず張昭と、年齢と立場の垣根を越えたバトルを展開する毎日。別に虞翻が張昭と仲が良いとかいう話も聞かないが、このふたりの言うこと成すことは何処か似ていから、どうせ碌なことは書いてなさそうだと、呂岱は思った。 (でもそう言えば、私はっきりと虞翻先輩が部長に何か言ってたの、見たことないのよね) そうである。 長湖幹部会のことなんて、それ以外の人間には噂話でしか聞こえてこないのが常だ。虞翻の毒舌ぶりだって、噂でしか聞いたことがない。 確かにとっつきにくそうな人ではあったが、直接何か言われたわけでもない。それどころか、口を利いたことすらなかった。 (…なんかそう思ったら、ちょっと見てみたい気が…) 人様の手紙の内容を覗き見るのはマナー違反のような気もするし、ちょっとは心も痛んだりするが…留まる所を知らない好奇心がそれを押し切った。 (これもこの地の風紀を守る総代としての責任…災いの芽を摘み取るためだからね) そんな建前をつけ、とうとう呂岱はその手紙の封を切ってしまった。 それを読んでしまったことで、深い感銘と、深い慙愧の念を同時に抱く事になるとは知る由もなく。 「そんな…そんなことって」 彼女は普段は整えていた本棚の中身をひっくり返し、その中心で呆然と呟いた。 その目の前には、数え切れぬほどの手紙をばら撒いて。 その宛名から、どれも同一人物によって書かれたものだと推測される。そして、件の手紙とは字の細さは全然違うが、その筆跡は同じことに気づいた。 今まで、その宛名を鵜呑みにしていた彼女は、それがまったく違う人物の手によるものであったことを知り、愕然とした。 それと共に、その手紙の真の差出人に対して、自分が今までとってきた態度を思い返し、自分の不明が情けなく思えてきた。 その人物は、己を殺し、あとからやってきた自分がやりやすいように、実に細やかな心配りをしていてくれたというのに…それを知ることさえしない自分がたまらなく恥ずかしかった。 (こんなに…こんなにも、誰かのために尽せる人だったなんて) 知らず、涙が溢れてきた。 (こんなにも…部長のことを、好きでいてくれているなんて) いてもたってもいられなくなった呂岱は、執務室を…交州学区を飛び出していた。 その手に、件の手紙を握り締めて。
680:海月 亮 2005/06/17(金) 00:53 「そっか…気づかれちゃったんだね」 それから小一時間後、呂岱は建業棟にいた。 目の前には、長湖生徒会の座に就任したばかりの孫権。その手には、虞翻が寄越した一通の手紙がある。 その手紙をいとおしそうに眺める孫権の姿に、呂岱は衝動的に地に手をつけ、その額をリノリュームの床に押し付けた。 「申し訳ありませんっ…」 「…え?」 「私は…私は衆目の邪推を間に受け、先輩の真情も知ろうともせず、あまつさえ総代の地位を盾にそれを踏みにじりました…! そして、今まで先輩が影ながら助けてくださっていたことも知らず、己の功績ばかりを鼻にかけて…私のような人間が総代など、おこがましい話…なにとぞ!」 その表情はわからないが、激昂したその声には嗚咽が混ざっていた。 「私の如き菲才ではなく、是非とも仲翔先輩に…!」 「駄目だよ」 穏かだが、はっきりとした否定の響きを持つその声に、呂岱は思わず顔をあげた。孫権の視線は、その手の中にある手紙からまったく動く気配がない。 「仲翔さんは、きっとそんなの喜ばない…ボクだって何度も仲翔さんをこっちに帰してあげたかった…でもね、自分はもう十分働いたから、どうかこのまま卒業まで居させて欲しい…って。もう自分の出番は終わったから、これからの長湖部を担う子達の席次を、私なんかに与えないでくれって…」 言葉と共に、孫権の碧眼からも涙が伝わり、落ちてゆく。呂岱は、その涙に孫権の真意を見た。 「ボクはそれ以上何もいえなかった。ボクだって、あの人のことずっと誤解してたから…理解しようとしなかったから。だから、最後くらいは、あのひとの望みをかなえてあげたいんだ」 「…はい…」 呂岱はただ、頭を下げることしか出来なかった。 「そっか…あれはちゃんと、部長の下に届いていたんだね」 「…本当に」 座ったまま大きく伸びをする虞翻に、俯いたまま呂岱が問い掛けた。 「先輩は本当にこのままで良かったんですか…? あなたなら、私なんかよりずっと総代として相応しい才覚を持っている…その気になれば、始めから総代としてこの地に赴き、平定する事だって出来たはず…」 「…性に合わないんだ、そういうの」 跳ねるように立ち上がり、もうひとつ伸びをしながら言う。 「私はやっぱり、こういう裏方仕事のほうが好きなんだ。それにさ」 そして棍を一振りし、それを担いで振り返る。 「私には決定的に人望ってモノが欠けているからね」 「そうでもないと思うよ?」 不意に背後から、酷く懐かしい声がする。呂岱も思わず目を丸くした。 恐る恐る振り返った、その視線の先には…。 「部長…それにみんな」 その視線の先には、孫権を筆頭に、彼女が交州へ赴く直前の幹部会メンバーが居た。 ただし、家の事情で既に学園を去った駱統と陸績はおらず、その代わりに潘濬と陸遜がいたのだが。 虞翻はこの突然の事態に、言葉を失った。 「あなたは冗談だけじゃなくて、芝居を打つのも下手だってことなのかしらね…まぁ、アレは私の立案だから言えた義理ないけどさ」 「およ、ご自分のことはちゃんとお解かりでしたか大先輩」 張昭の一言にすかさず茶々を入れる歩隲。その隣では顧雍と薛綜が納得したように頷いた。 「まぁ子布先輩の独りよがりは今に始まったことじゃ…」 「なぁんですってぇ〜!」 厳Sが余計な追加攻撃を叩き込むが早いが、張昭の怒りが爆発し、蜘蛛の子を散らすように散開する少女たちを追っかけていく。 「…ったく、アイツは何時も一言多いんだから」 「まったくですね」 逃げ惑う少女たちのきゃーきゃー言う声と、ヒステリー全開の張昭の声をBGMに、諸葛瑾と敢沢が呆れたように呟く。 視線のその先では、立ち位置のせいで無理やり巻き込まれた感のある潘濬が張昭に捕まっていた。 「…どうして」 虞翻はようやく、それだけの言葉を喉からしぼり出すことが出来た。相当に感情が高ぶっているのを最大限に抑えたような、震えた声だった。 「どうして、こんなところへ来たのよ…こんなところ、せっかくの休みの日にくるようなトコじゃないでしょ…?」 「どうして…って言われても」 「ねぇ」 手前に居た陸遜と孫権が顔を見合わせた。 「会いたくなったら、会いに来ちゃいけないんですか、先輩?」 「そうだよ〜」 その笑顔を見たら、もう歯止めなんか利くはずもなかった。 人目もはばからずに、まるで幼い子供のように大声をあげて泣き出した“仲間”の姿を見て、張昭たちも追いかけっこを止めて微笑を浮かべていた。 「話には聞いてましたけど…現物は凄いですね」 潘濬が感心したように呟くと、 「“泣きの仲翔”は健在、って所かしらね」 「あ、巧いこと言いますね。それいただき」 張昭と歩隲がそう付け加えた。その隣で、珍しくそれと解るほどの微笑を浮かべた顧雍が頷いた。 その日の夜。 彼女は別れ際、孫権から手渡された一通の案内状を、飽きることなく眺めていた。 約一ヶ月後に控えた長湖部体験入部、その案内状だった。しかし彼女はその裏側…本来何もない面を眺めている。其処には、孫権が書いたと思われるもうひとつの“案内状”があった。 曰く『そのあと、みんなで打ち上げをやります。先に引退した人もみんな呼んで楽しくやりたいから、絶対に来てね』と。 「…打ち上げ、か」 そろそろ、学園生活も終わりに近い。 一匹狼で居るのにもいささか飽きていた彼女は、このまま、誰とも打ち解けずに学園を去ることが寂しいと思うようになっていた。 「推薦入試の結果ももう出てるし…楽しみだね」 呟いて、彼女は目を細めた。 もう既に、その心は一ヵ月後に飛んでしまっているようだった。 その飲み会で何が起こるかなんてことは、今の彼女には知る由もなかっただろうが…。 (終わり)
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