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692:北畠蒼陽 2005/06/26(日) 12:27 [nworo@hotmail.com] 「……進め! 全員、自分の横は見ず、ただ前だけを向いて戦いなさい!」 苛烈な命令が少女の口から飛ばされる。 敵と少女の率いる部隊が真正面からぶつかり合った。 しかしその人数差は圧倒的に少女の側が上回っている。 敵はその圧力を耐え切れずに…… そう、もうじき壊走をはじめることだろう。 少女の頭はそれをどう追撃するか、ということにすでに意識が傾けられていた。 「珍しいですね」 部下が少女に声をかける。 「あなたがまさかあんな命令を出すなんて」 少女は部下の言葉の意味を一瞬、考え、頷いた。 「……あの、『進め』ってこと?」 いかにも優等生然としたその風貌からそんな言葉が出てくるとは考えにくいことであるし、事実、珍しいことでもある。 「……そうね。でも……まだ若いんだし、たまには無茶もしないとね」 少女……王基は前髪をかきあげながらうっすらと微笑んだ。 策を投じる者〜王基の場合〜 長湖部は揺れていた。 絶対的なカリスマである部長、孫権もその長きに渡る統治により水を淀ませている。 のちに二宮の変と呼ばれる事件により陸遜という稀代の名主将は放逐され、また部長、孫権ももはやすでに引退時期を考えている、という風のうわさすら流れていた。 そんな時期、荊・予校区兵団長の王昶が生徒会に1つの提案をした。 「孫権って最近、能力持ってる人間を次々トばしちゃって、しかも後継者争いなんかさせちゃってる状況みたいなんですよー。今のうちに長湖部を攻めたらいけるとこまではいけると思うんですよね。白帝、夷陵の一帯とか黔、巫、シ帰、房陵のあたりなんて全部、長湖のこっち側ですからね。あと男子校との境目だから混乱も起こしやすいし。今が攻め時、お得ですよ!」 生徒会はその進言を受け入れ、荊州校区総代の王基を夷陵へ。荊・予校区兵団長の王昶を江陵へ進撃させた。 荊州校区に熱風が吹き荒れる。 夷陵…… かつて劉備が当時、無名であった陸遜に敗れ、リタイアの遠因となった地。 その威容を眺め、王基はうっとりとため息をついた。 「……確かにこれは難攻ね。不落とは思わないけど」 陸遜はこの校舎を囮に劉備を引き付けておいて、大風の日を待ち、発炎筒を大量に炊きつけることにより混乱させるという奇策により劉備を打ち破った。 しかしそれもこの夷陵が大風の日まで持ちこたえる、という前提のもとでの作戦である。 夷陵が大風以前に陥落していたとすれば、それは作戦ではなくただの『世迷言』と分類させるべきものであろう。 「……げにおそるべきはこの校舎の防衛力、か」 もちろんそれは孫桓と朱然という2人の手腕であることは否定できない。 王基は手元の資料に目を落とす。 「……今の主将は……歩協? ……歩ってことは……あぁ、やっぱり元副部長、歩隲の妹なのね」 納得したように頷く。 歩協の実力は未知数だが…… まぁ、この土地を任されている、ということはやはり長湖部内ではそれなりに評価されているということで間違いないだろう。 だが…… 「……なんなの、これ」 王基の顔が不機嫌そうに歪む。
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