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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
694:北畠蒼陽 2005/06/26(日) 12:28 [nworo@hotmail.com] 譚正は事務仕事に追われていた。 後方でのフォローなしにいかなる戦闘も機能しないというのは歴史の教訓といってもいいだろう。 譚正は後方校舎においての事務に精力を費やしていた。 「まったくぅ……私、安北主将よ? なんでこんな地味な仕事ばっかり……!」 毒づきながら書類をまとめる。 校舎の一室で譚正のグチとキーボードのカタカタという音だけが響く。 「歩協主将から食事の催促メールきてます。なんて返事しましょう?」 「あー、もう! カップラーメンでもすすってろ……!」 毒づきながらキーボードに指を走らせる。 1000人からの学生が篭城している中で、カップラーメンだけとはいえ当然備蓄は…… 「あう……足りない」 譚正は呆然と呟いた。 正確に言えば足りることは足りるが今後、心もとない、というところであろう。 「ここでなんかあって、んで私に食糧輸送の怠慢があった、とかいわれるのもたまらないしなぁ……送っとくか」 譚正の呟きと同時に教室の外がにわかに騒がしくなった。 「なに!? 静かにしなさいよ、もう!」 バン、と机を叩いて立ち上がると同時にガラっとドアが開けられる。 開けたのは……見覚えのないような女だった。 肩のラインで髪を切りそろえた少女、その後ろには武装した少女の部下と思しきやつらもいる。 見覚えがない、ということは自分の部下ではない。 ということは歩協の部下か? なんのつもりだ? 大量の疑問符が譚正の頭の中に飛び交う。 「なんなの、あんたたち!」 だから口にした質問は一番汎用性に富んだそれだった。 少女は譚正の言葉に少し考え…… 「……こういうとき文舒なら『毎度おなじみ生徒会です』って言うんだろうけどね。別におなじみになるつもりはないけど生徒会荊州校区総代、王基っていうわ」 て、敵!? ……判断を下すより早く王基の部下が部屋を制圧していく。 竹刀を突き立てられ、誰1人としてまともな抵抗をすることもなく両手を上げる。 「……さ、いい子だからあなたも手を上げてくれるかしら? もちろん私は荒事は嫌いだけど『嫌い』というのは『やらない』というのと同義語じゃない、ってのはわかってくれてるわよね?」 歌うように囁きかける。 ちら、とさっきまで自分が叩いていたキーボードとパソコンを見る。 もちろんそこにSOSが書かれているわけではないし、そもそもメーラーが立ち上げられているわけもない。 メーラーが立ち上げられていたとして、そのメールを運良く送信することが出来たとしても、今の現時点での状況打破にはなりようがない。 譚正は嘆息し、両手を頭の上に上げた。 「降参だ」 「王基さん、これで撤退でいいんですか?」 「……うん、十分」 敵の後方支援を管理していた部隊をつぶしたのであればさらに粘れば夷陵も陥落させることが出来たのではないか、その思いを言外に滲ませながら尋ねる部下に王基は笑いながら答えた。 「……そろそろ敵も応援が到着するころだしね。応援に対しての備えは完成していない以上、しかも敵の地元だから地の利だって敵にある以上、長居してもいいことはないわ」 部下は王基の言葉に口ごもる。 確かに敵からしてみれば夷陵を簡単に手放すことが出来ない以上、応援とするのは『どんな状態にも対応できる手腕の持ち主』であろう。 そうなれば勝敗の行方はどうなったか知れたものではない。 「……それより早く帰っておいしいものでも食べようよ」 王基は笑いながらそう言った。
695:北畠蒼陽 2005/06/26(日) 12:30 [nworo@hotmail.com] 王基です。 州泰は書きようがないですね、あれは。 次はなに書こうかなぁ……
696:雑号将軍 2005/06/26(日) 22:27 >北畠蒼陽様 王基編お疲れ様です。自分も新しい作品を書きたいのですが、テスト、テストがあー!! すみません。取り乱してしまいました。 王基も伊達に荊州を任されてるわけじゃないみたいですね。 歩協・・・たしか、羅憲にやられた人でしたよね。この人ってあんまいいとこがないような・・・・・・。 王基、王昶・・・・・・蜀でいうと誰辺りがそれなんでしょう?呉懿とか張嶷、馬忠がその辺りだと考えているのですが。
697:北畠蒼陽 2005/07/03(日) 00:14 [nworo@hotmail.com] 「つわものどもが夢のあと〜、ってねぇ」 長髪の少女が歌うように呟き、そして寒さにコートの前を合わせる。 「夏草や、っていうにはちょいと寒すぎだねぇ」 苦笑しながら少女が振り向いた視線の先にはもう1人の少女が割れた窓ガラスを物憂げな表情で見つめていた。 「どうしたー?」 物憂げな表情の少女に前を歩く少女が声をかける。 「ん、いや……夢のあと、ね。仲恭はどんな夢を見てたのかな、って思ってね」 「しらーん」 アンニュイに染まろうとする空気を少女は一声で吹き飛ばす。 しかし外を見つめていた少女はその言葉にきっと眉を吊り上げた。 「仲恭は本当に曹家のことを考えてたんじゃないかって! もしかしたら私たちが仲恭を討ったのは間違……」 しかしその言葉は前を歩いていた少女の視線によって途中で止められた。 「それ以上言ったら私も聞いてない振りができなくなるわ」 2人の少女……王昶と諸葛誕は黙って対峙した。 乱世を見る方法 この月、北辺に割拠する公孫淵を攻め、さらに進んで高句麗高校にも遠征し生徒会内で実力、実績ともに抜きん出た存在であった毋丘倹が自身の勢力基盤であった揚州校区を中心として長湖部すらも巻き込んだ大叛乱を起こし、そして討伐された。 叛乱の理由はただ一点。 当時より蒼天会長、曹家を凌ぐほどの影響力を持っていた司馬師を除くため、であった。 すでに司馬姉妹は生徒会内でもはや誰も……蒼天会長すらも……太刀打ちできないほどの力を持っており、それに対し憤りを感じるものも少数ではなかった。 毋丘倹以前にも生徒会執行本部本部長の王凌がやはり揚州校区を中心に叛乱を起こし敗れ、そして今回の毋丘倹の失敗により…… ……もはや司馬姉妹への流れ、という大勢は決していた。 「別に聞いてる振りをして、ってお願いしてるわけじゃないわ」 諸葛誕は腕を組み目を伏せる。 「ただ……仲恭の気持ちがよくわかる、ってだけ」 仲恭……毋丘倹は2人にとっても同期の友人であった。 2人は数瞬、毋丘倹に思いを馳せる。 「私には……仲きょ、毋丘倹の気持ちは欠片もわからない」 王昶は諸葛誕を睨みつけながら言い放った。 諸葛誕が驚きに目を見張る。 「私はね、公休。曹だろうが司馬だろうがどっちだってかまわない。ただ学園の平和のためなら戦える。どんな汚い真似だってできる……でも平和を乱す毋丘倹の行為は絶対に許せない」 王昶と諸葛誕が睨み合う。 「文舒、それは間違ってる。だったら今、司馬姉妹が蒼天会長を名乗らないのはなぜ? やつらは『部下として』『会長に』汚名を着せようとしてるだけ。許せるわけないじゃない」
698:北畠蒼陽 2005/07/03(日) 00:14 [nworo@hotmail.com] 王昶は思う。この目……まっすぐだな…… とてもうらやましいと思った。 そして自分がこれほどまでに汚れていることを悲しく思った。 諸葛誕は思う。自分の戦歴は負けで覆い尽くされている。 だから毋丘倹や王昶の才能に嫉妬を感じたことは一度や二度ではない。 それでも……と思った。 「はい、これまで」 首筋を撫でながら……先に視線を外したのは王昶だった。 「私は公休を手伝うつもりはない。でも邪魔はしない……がんばれ」 諸葛誕にとって王昶のその言葉は完全に満足のいくものではなかった。 だがそれでも王昶の考えからすれば最大限の譲歩なのであろう。 「ありがとう……」 そして諸葛誕は踵を返し、もう王昶のほうを振り返らなかった。 王昶はひらひらと手を振る。 振り返りもしない相手に手を振り続けることは自己嫌悪の裏返しか…… 「……そんなに悲しいなら公休を止めればよかったんじゃない」 王昶の横から声が投げかけられる。 王基……醒めた瞳の少女が階段の上から面白くなさそうに王昶を眺めていた。 「いつから聞いてた?」 「……多分最初から」 王基がいることなどわかっていたのだろうあまり驚いた様子もない王昶のもとに階段を二段飛ばしで王基は歩み寄った。 「……公休、叛乱起こすだろうね」 「だね」 王基の言葉に王昶は無理に笑みを形作り頷く。 「……『乱』を嫌う文舒がそれを止めようとしないのはなぜか。『お姉様』とまで慕っていた王凌先輩のときも毋丘倹のときも」 「私たちの代じゃ学園都市の統一が難しいから……だから妹の世代、玄沖たちに実戦の経験をさせなければならない……ゲームでいえば公休はただの経験値」 呟き……王昶は顔を覆った。 「私は最低なやつだ! 学園の平和のためとか言いながら友達を売ろうとしている! 公休は私のことを信じたのに! なのに……!」 いきなり泣き崩れる王昶を王基は後ろから抱きしめる。 「……大丈夫。あなただけの罪じゃない。私も半分罪をかぶってあげる……半分こだもの、それほどの重みでもないでしょ?」 王昶の頭を撫でながら王基は他の誰にも見せないようなやさしい顔をする。 「……それでも重かったら荷物を地面に置けばいい。疲れが癒えたらまた歩き出せばいい」 「……」 ひとしきり泣いた王昶が一瞬、沈黙したかと思うと……ひらひらと手だけ上げてみせた。 王基は苦笑し、上がった手に自分のポケットから取り出したハンカチを持たせる。 王昶がそれを受け取り、そしてもぞもぞと動き……涙を拭いているのだろう……そして次に顔を上げたとき、もういつもの王昶だった。 「うん……んじゃ視察はここらで切り上げて帰ろうか。おいしいラーメン屋見つけたんだ」 ににっと笑い、そして王基に背を向けて歩く。 王基はその背中に笑みを見せ…… 「……またつらくなったら泣き用の胸は用意しとくよ」 「ありがと」 前を行く王昶からそっと漏れ聞こえた言葉に王基は再び笑みを見せた。
699:北畠蒼陽 2005/07/03(日) 00:32 [nworo@hotmail.com] ぐっこ様帰還記念! もうなんつ〜か前にどこかで誰かが『各時代に名物チームがあった』みたいなことおっしゃってたような気がしますが、この時代の魏のキーマンはやっぱ王基&王昶だと思うのです。 なわけでこの2人好きなのデス。なんか他の時代の名物チームに比べて地味で(笑 あれです。 誰も応援してあげないから私くらいが好きでいてあげないとかわいそうじゃない!? ってやつ?(笑 まぁ、王昶とかもカンペキ超人じゃなくて普通の女の子なんでー、って話です。 ちなみに私の人物評価。 政治力 王昶>諸葛誕>王基>毋丘倹 諸葛誕が『自分が三公になるのは王昶のあとじゃろ? ギャワワー』といってるため王基よりは上と考えられる。毋丘倹はあの戦歴をもってしても都督止まりだったためなんらかの政治バランス的な欠陥があったのではないか、と。 統率力 毋丘倹>王基>王昶>諸葛誕 王基は王昶に比べて曹爽のために一時失脚というハンデをおいながらも、その能力ですぐに返り咲いていることから上かと。でもそれでも毋丘倹の実績にはかなわないなぁ、というのが本音。高句麗討伐ってのはあんた何様のつもり! ……諸葛誕は呉との戦いだと出ると負けてるので。 ま、こんな感じで。
700:雑号将軍 2005/07/03(日) 13:57 北畠蒼陽様、お疲れ様です!ホントにすごいですね。一週間に一作品つくられてるんですから。 僕は…季節はずれですが、やっと書きたいのが決まったのでそれを書こうかと。要は卒業式&ピアノネタを…。ここまで言うと誰かわかってしまうかもしれませんが。 皇甫嵩と張嶷の方は設定にもう少し時間がかかりそうなので、設定ができてるもので・・・・・・。逃げです…。ごめんなさい。 >政治力 なるほど・・・・・・。諸葛誕が二番目とは。なんか政治バカのイメージがあったんで。理由はないんですけど。 >高句麗討伐 前から疑問だったんですけど、毋丘倹が高句麗という立派な大国を討伐できたんですかっ!?実は毋丘倹の統率力ってかなり高いんですか?張遼、関羽くらいに。
701:海月 亮 2005/07/03(日) 16:12 で、王基から王昶&王基を連続で読んだ私。 何というかこのコンビ、北畠様の筆に馴染んだと言うか、昔からそう言うキャラだったのか、って感じになってきましたねぇ(´ー`) う〜ん、いい仕事してますねぇ(←中島誠之助風 >政治力とか 統率力はそうかもしれませんね、諸葛誕は。 人望にしても、私兵団からは絶大な信望を寄せられていましたけどね…それ以外は…。 海月的には文欽はともかく、毋丘倹の義理が低いのが納得いかない、といったらどうですかね? あれは単に「司馬師が気に食わなかったから」での反抗だったわけだし…あ、それでもダメか。 でもって海月も>>690の宣言から二週間足らずでもうヘンなSS書きましたので投下。 麻雀を知らない人は読み飛ばすか、麻雀の本を読みながら御覧になるのが吉。
702:海月 亮 2005/07/03(日) 16:13 「真冬の夜の夢」 「…と言うわけだ、皆の衆」 と、数人の少女たちを眼前に置き、その緑髪の少女はそう言った。 その少女と少女たちの間には、意味ありげに置かれた二つのケース。 「何が“というわけ”なのよ。突然呼びつけておいてなにやらかそうっての?」 「そうだよ〜、早く寝ないと、舎監の先生に怒られるよ?」 少女たちは一部除いてみな不満げだ。その一部だって、眠たいのかしきりに目をこすっているから、おそらく話の趣旨なんてまったく理解していないだろう。 「ふむふむ…諸君の言い分はもっとも。しかし、われわれ来年度新入生をお迎えになった先輩方が打ち上げと称して今も酒盛りの真っ最中。それなのにわれわれは何もなくただ不貞寝するしかないと来た。理不尽とは思わないか?」 「…そりゃあ…そうだけどさ」 「承淵みたく部員待遇でもなく、ましてやまだ高等部に入学したわけでもないあたしらを入れてくれるとは思えないわよ」 「その承淵だって、結局ここにいるわけだし…」 「………ふぇ?」 少女の一人が、隅っこでとろんとした表情をしている狐色髪の少女を小突く。その衝撃で、承淵と呼ばれたその少女も夢心地だったところから現実に引き戻されたようだった。 緑髪の少女はにっ、と笑った。 「そりゃそうだ。何せこれからやることに必要だったからあたしが引きとめたんだよ」 「どういうこと?」 柔らかなプラチナブロンドをショートカットにした少女が、怪訝な表情をして聞き返す。 「実は今日、確かな筋からの情報で舎監不在は確認済み。で、来年度の長湖部幹部候補生たる我々しかこの寮に残っていないことも確認済み。で、この場にはあたしら八人しかいない」 「え? え?」 「ちょっと敬風、もったいぶらずに本題言いなさいよ。あたしの予想が正しければそれ」 「…大歓迎だろ、世議」 「もっちろん! 他のみんなは?」 世議と呼ばれた、亜麻色のロングヘアの少女が嬉々とした顔で満座を見回した。 「あたしもいいけど…」 「でも敬風ちゃん、まさかただ延々と朝までそうしてるってのも」 「心配無用だ皆の衆。景品は用意済み、うちの堅物伯姉が珍しく手ぇ廻してくれたから…総合1位は豫州学区本校地下のバイキングタダ券一か月分!」 敬風と呼ばれた、そのリーダー格と思しき少女が懐から取り出した回数券の束を見て、少女たちから思わず感嘆の声が飛び出す。蒼天学園生徒の憧れの的とも言える、学園最高級との呼び声高い学生食堂のタダ券を目の前にしたのなら、それは当然の反応だ。 「そして当然、ノーマルな賭けも同時進行だ。世議や世洪は物足りないかもしれないけど、小遣い事情を考えて点五(千点=50円レート)で。その代わり回転数を上げるためのデンジャラスなルールも取り入れますんで」 「お、話わかるじゃん」 「というわけで、これからヨチカのタダ券を賭けた、旭日祭後夜祭麻雀大会の開催に異議あるものは!?」 「異議な〜し!」 その元気のいい満場一致を見て、敬風こと陸凱は満足そうに頷いた。 その参加者は陸凱以下、実に濃いメンツだった。 プラチナブロンドのショートカットを、ぱっちりとした大きな、かつ勝気そうな瞳が特徴的な顔に乗せているのは虞レ、字を世洪。 亜麻色のロングヘアをストレートに流している、ツリ目で長身の少女は呂拠、字を世議。 黒のクセっ毛を、ツインテールに束ねた童顔の少女は朱績、字を公緒。 セミロングの黒髪をうなじのあたりで二つ括りにした、どこか柔らかな雰囲気のある少女は丁固、字を子賤。 緑髪の少女があと二人いるが、そのうちのセミロングで陸凱によく似た顔立ちをしているのは、陸凱の双子の妹・陸胤、字を敬宗、もう一人の、ロングヘアにして三つ編みを作っているのは現長湖部の実働部隊総帥である陸遜の実妹・陸抗、字を幼節。 そして結局最後の瞬間まで夢うつつだった狐色髪の少女は、中等部生でありながらその陸遜軍団の突撃隊長として名を馳せる丁奉、字を承淵。 後に長湖部の柱石となり、あるいは外地でさまざまな功績をあげる事となる名臣たち…そんな少女たちが高等部入学を目前に控えたこの時期に、このような馬鹿をやらかしていたという話が学園史に残っていることもなかった。 八人が二卓を作り、最初は特に何もせず打って、その中で上位陣四人と下位者四名を分け、以降は一局終わる毎に上位者二名と下位者二名を入れ替える。 回転数を上げるために割れ目適用、二家和(ダブロン)あり、さらに上位陣では陸凱が定めたルール…というか、彼女が普段虞レや呂拠と卓を囲んでいるときのルールが適用される。 即ち、5・10のウマ、飛ばし賞あり、役満賞あり。サシウマと飛ばしで点五でも一局で万近い儲けまたは損が出る恐るべきシロモノだ。しかも上位者に名を連ねる陸凱たちはイカサマも平気でやるからそのハンデを埋めるため、いくつか厳しいルールも付け加えている。麻雀にあまり慣れてない陸胤は罰符の適用外であることもそのひとつだ。 そんなこんなで、慮江の中等部寮で長湖幹部候補生たちによる、学食のタダ券を賭けた血で血を洗う戦いの幕は切って落とされた。
703:海月 亮 2005/07/03(日) 16:14 「よし来た! リーチ一発ツモタンピン三色…裏乗ってドラ2、親倍満八千オール!」 「え、嘘っ!?」 「うっわ…いきなり飛ばしてきやがったなこの女…」 陸凱が倒した手は、まるで麻雀のガイドブックにお手本で載っているかのような、整った手役である。そのあまりの鮮やかさに、上家の虞レも呆れ顔だ。別卓の陸抗や朱績も思わず手を止めて覗き込んできた。 「そりゃあなんたってあんた、ヨチカのタダ券懸ってますから」 「あざといねぇ…子幹や敬宗もいるんだからちったぁ遠慮しなよ…あ」 清算を終えてがらがらと牌をかき混ぜ始めた陸凱を嗜める呂拠だったが… 「悪ぃ、あたしもツモだ。メンホン一通でハネ満、六千の三千」 「…世議も言えた義理な〜い」 「ホントだよぅ」 こちらも呆れ顔の朱績と陸抗のブーイングを食らうのであった。 (さぁて…世洪は多分万子の真ん中辺、敬風は張ってる気配ないな。問題は承淵だが…) 二局目。上位陣の構成メンツは周りの予想通り虞レ、陸凱、呂拠の三名、それに前局で後半に追い込みを見せた寝ぼけ眼の丁奉を加えた四名という顔ぶれ。呂拠は聴牌となった己の手牌と、場の捨て牌を眺めて思案顔。 (一色系なんだろうけど鳴いてないのが不気味なんだよな…てかコイツ、半分寝ってるせいか表情読めね〜…) ちら、と呂拠は下家の丁奉を見る。まだ眠いのかぼんやりしていて表情が読みにくいことが戸惑いに拍車をかけた。普段なら、読みたくなくたって考えが読めるほど解りやすい相手のはずなのだから。 (まぁいい…ヤツは放っといて一気に決めるか) 呂拠は思案の末捨てようとした索子の四を、瞬時に目の前の山の一牌とすり替える。 そこには先ほどすり替えた北の牌。 「リーチ」 まさに一瞬の動作で難なくそのイカサマを実行し、完全な安牌であると思われたその牌を横倒しにして置く。 ついでに言えば山に戻したのはちょうど自分のツモ牌、かつ高目のあがり牌だ。流石に百戦錬磨の玄人呂拠、そつがない。 そして、リーチ棒を置こうとすると…。 「あ、出さなくていいよ〜。それだからぁ」 「はぁ!?」 半分眠ったような顔で、ゆらゆらと揺れる丁奉の“意外な”反応に、捨てた呂拠どころか虞レと陸凱も思わず間抜けな声をあげて見事にハモってしまった。そして、パタパタと音を立てて倒れる牌を見て呂拠の表情が一瞬で凍った。 「えっとぉ、国士無双〜…割れ目で倍だから六万四千〜」 「えー!」 信じられない単語が飛び出して満座の注目を一気に集める。わらわらと集まってくる少女たち。 「…あ…有り得ねぇ…」 「なんか知らんけどナチュラルのコイツは得体の知れないトコ、あるからなぁ…」 呆然と呟く虞レと陸凱。 残った卓ではただ一人、朱績が自分の手役と牌の山から好き勝手に牌を弄くっていることに誰も気づかなかったという…。 試合開始からわずか三時間の間に、消化した局は六局にもなっていた。 一時休憩の間、談話室のホワイトボードに貼り付けられた点数表を目の前に、どっかりと陣取りながらにらめっこしている緑の跳ね髪少女が一人。言うまでもなく、今回の発起人である陸凱その人だ。 「…こりゃあ意外な展開になってきたな〜」 書かれた点数を計算してみると、1位はぶっちぎりで丁奉という有様。そのあとには朱績、虞レ、陸凱と続く。哀れなのは二局目で丁奉の割れ目役満に振り込んで以来ビリをひた走る呂拠だ。 「うわ、コレは思った以上にめちゃくちゃな順位ねぇ」 「まったくだよ…てか、今の承淵は一体何なんだろうな?」 頼まれていた緑茶の缶を渡し、横に腰掛けた虞レに陸凱が問いかける。 「そんなの私が聞きたいよ。それに公緒、アイツも結構やり口があざといわね」 「ああ…でも多分ヤツは次に討ち取れるよ」 「おや、これは自信満々な」 「まさかとは思ったけど…あの子のお姉さん、義封先輩とやり口が一緒だからね。承淵が国士あがったとき、アイツだけ顔見せてなかったから、そのときも何かやってたみたいだし」 陸凱の慧眼に思わず口を鳴らす虞レ。お茶を飲み干した陸凱が大きく伸びをした。 「さぁて、世議がへこんでいる今のうちに、せめて点数だけは荒稼ぎしておかないと」 「承淵は?」 「ほっとこう。あいつが勝てば、もしかしたら振舞ってくれるかもしれないし」 「……言えてる。あなたなら絶対そんなことしないでしょうけど」 「一言余計だ」 その会話が終わるころ、思い思いに休憩を取っていた少女たちが戻ってきた。 話題に上った丁奉が“目を覚ました”のはそれから五分後のことだった。
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