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703:海月 亮 2005/07/03(日) 16:14 「よし来た! リーチ一発ツモタンピン三色…裏乗ってドラ2、親倍満八千オール!」 「え、嘘っ!?」 「うっわ…いきなり飛ばしてきやがったなこの女…」 陸凱が倒した手は、まるで麻雀のガイドブックにお手本で載っているかのような、整った手役である。そのあまりの鮮やかさに、上家の虞レも呆れ顔だ。別卓の陸抗や朱績も思わず手を止めて覗き込んできた。 「そりゃあなんたってあんた、ヨチカのタダ券懸ってますから」 「あざといねぇ…子幹や敬宗もいるんだからちったぁ遠慮しなよ…あ」 清算を終えてがらがらと牌をかき混ぜ始めた陸凱を嗜める呂拠だったが… 「悪ぃ、あたしもツモだ。メンホン一通でハネ満、六千の三千」 「…世議も言えた義理な〜い」 「ホントだよぅ」 こちらも呆れ顔の朱績と陸抗のブーイングを食らうのであった。 (さぁて…世洪は多分万子の真ん中辺、敬風は張ってる気配ないな。問題は承淵だが…) 二局目。上位陣の構成メンツは周りの予想通り虞レ、陸凱、呂拠の三名、それに前局で後半に追い込みを見せた寝ぼけ眼の丁奉を加えた四名という顔ぶれ。呂拠は聴牌となった己の手牌と、場の捨て牌を眺めて思案顔。 (一色系なんだろうけど鳴いてないのが不気味なんだよな…てかコイツ、半分寝ってるせいか表情読めね〜…) ちら、と呂拠は下家の丁奉を見る。まだ眠いのかぼんやりしていて表情が読みにくいことが戸惑いに拍車をかけた。普段なら、読みたくなくたって考えが読めるほど解りやすい相手のはずなのだから。 (まぁいい…ヤツは放っといて一気に決めるか) 呂拠は思案の末捨てようとした索子の四を、瞬時に目の前の山の一牌とすり替える。 そこには先ほどすり替えた北の牌。 「リーチ」 まさに一瞬の動作で難なくそのイカサマを実行し、完全な安牌であると思われたその牌を横倒しにして置く。 ついでに言えば山に戻したのはちょうど自分のツモ牌、かつ高目のあがり牌だ。流石に百戦錬磨の玄人呂拠、そつがない。 そして、リーチ棒を置こうとすると…。 「あ、出さなくていいよ〜。それだからぁ」 「はぁ!?」 半分眠ったような顔で、ゆらゆらと揺れる丁奉の“意外な”反応に、捨てた呂拠どころか虞レと陸凱も思わず間抜けな声をあげて見事にハモってしまった。そして、パタパタと音を立てて倒れる牌を見て呂拠の表情が一瞬で凍った。 「えっとぉ、国士無双〜…割れ目で倍だから六万四千〜」 「えー!」 信じられない単語が飛び出して満座の注目を一気に集める。わらわらと集まってくる少女たち。 「…あ…有り得ねぇ…」 「なんか知らんけどナチュラルのコイツは得体の知れないトコ、あるからなぁ…」 呆然と呟く虞レと陸凱。 残った卓ではただ一人、朱績が自分の手役と牌の山から好き勝手に牌を弄くっていることに誰も気づかなかったという…。 試合開始からわずか三時間の間に、消化した局は六局にもなっていた。 一時休憩の間、談話室のホワイトボードに貼り付けられた点数表を目の前に、どっかりと陣取りながらにらめっこしている緑の跳ね髪少女が一人。言うまでもなく、今回の発起人である陸凱その人だ。 「…こりゃあ意外な展開になってきたな〜」 書かれた点数を計算してみると、1位はぶっちぎりで丁奉という有様。そのあとには朱績、虞レ、陸凱と続く。哀れなのは二局目で丁奉の割れ目役満に振り込んで以来ビリをひた走る呂拠だ。 「うわ、コレは思った以上にめちゃくちゃな順位ねぇ」 「まったくだよ…てか、今の承淵は一体何なんだろうな?」 頼まれていた緑茶の缶を渡し、横に腰掛けた虞レに陸凱が問いかける。 「そんなの私が聞きたいよ。それに公緒、アイツも結構やり口があざといわね」 「ああ…でも多分ヤツは次に討ち取れるよ」 「おや、これは自信満々な」 「まさかとは思ったけど…あの子のお姉さん、義封先輩とやり口が一緒だからね。承淵が国士あがったとき、アイツだけ顔見せてなかったから、そのときも何かやってたみたいだし」 陸凱の慧眼に思わず口を鳴らす虞レ。お茶を飲み干した陸凱が大きく伸びをした。 「さぁて、世議がへこんでいる今のうちに、せめて点数だけは荒稼ぎしておかないと」 「承淵は?」 「ほっとこう。あいつが勝てば、もしかしたら振舞ってくれるかもしれないし」 「……言えてる。あなたなら絶対そんなことしないでしょうけど」 「一言余計だ」 その会話が終わるころ、思い思いに休憩を取っていた少女たちが戻ってきた。 話題に上った丁奉が“目を覚ました”のはそれから五分後のことだった。
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