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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
785:北畠蒼陽 2005/08/06(土) 18:26 [nworo@hotmail.com] 「……これ、は?」 司馬昭からのメールに目を通した王基は思わず眉をひそめた。 「……多分……いえ、でも……」 ……多分間違いないとは思うが……こういうときは親友の意見も必要か…… 王基は頭の中の考えをまとめるようにそっとノートパソコンを閉じた。 冬空の鼓動 襄陽棟長であり車騎主将、胡遵の妹である胡烈からひとつの連絡が生徒会の中央執行部にもたらされた。 長湖部、摎Rが蒼天会に帰順するという…… それと同時に胡烈は期日を約束し、摎Rと合流し長湖部を混乱に陥れる案を提出した。 これを受け、連合生徒会会長、司馬昭は征南主将、王基に胡烈のフォローを命じる。 ……だが…… 王基はメールの文面を思い出す。 摎Rとの合流場所として指定された地点は…… ……あまりにも長湖部領域の中に入り込みすぎる。 王基は摎Rという人間を知らなかったが、考えれば考えるほどこの帰順は策略としか思えなかった。 ……確かに本当に摎Rの帰順があるのであればこれはチャンスであるといえる。 ……だけど。 リスクがあまりにも大きすぎる。 ……それに、ねぇ。 初期長湖部から夷陵回廊の決戦にいたるまで常に最前線に立ち続けた最古参主将、韓当の……その妹、韓綜が蒼天会に帰順してなお長湖部を瓦解させるには至らなかったのだ。 もはや長湖部は1人の寝返りで崩れるほどぬるい組織ではない。 ……リスクのわりにリターンが少なすぎ、ね。 ハイリスクローリターンなんて笑えやしない。 ……さて…… ……この件、文舒ならどう結論付けるかな。 少しだけ口の端から漏れる笑いをかみ殺し…… 王基は学園都市運営会議議長の執務室の前に立つ。 王昶は三委員長の一角にまで上り詰めながら荊・予校区兵団長を同時に勤め、最前線である荊州校区から中央執行部としての任を果たしていた。 「……?」 ノックをしようとして違和感。 王基は眉をひそめる。 部屋の中の人間……まぁ、王昶なのだろうが……せわしなく動いている雰囲気を感じ取ったのでる。 ……忙しいのならあとにしようか。 そうは思うものの本当に忙しいのかどうかもわからない。 ……とりあえず様子だけ見てみよう、かな。 王基は一人頷き、ノックをする。 「あいよー。あいてるよー」 あまりにも無防備なその物言いに王基は苦笑を浮かべつつドアを開け…… 面食らった。
786:北畠蒼陽 2005/08/06(土) 18:26 [nworo@hotmail.com] 「おぉ、伯輿か。ちょうどよかった。話したいことがあってね」 「……ん。それはいいんだけど……これ、は?」 あっけらかんとした王昶の態度に王基は今、見ているものが信じられない、というように瞬きを繰り返した。 王昶は珍しく制服を着ている。 いや、ただの制服ではない。 肩章、ネクタイ、スカート…… 式典のときのみに着用される幹部用制服である。 王昶であればこの制服どころか講義時にさえ通常の制服ですらまともに着ることは少ないというのに…… しかもそれだけでなく部屋は……そう…… ……その部屋はまるで引越し準備だった。 「……ん、んー」 ようやく頭が推測を導き出す。 さすがに地方にあって中央執行部の仕事をするのは無理がありすぎたか…… 恐らくは司馬昭に召還されたのだろう。 であればこの引越しのような荷物も納得できる。 ……そうなるとこの荊州校区における後任は誰になるんだ? 考えてみればみるほどありがちな推測に聞こえた。 だからやっと王基は余裕を取り戻す。 王昶はそんな王基に背を向け『あれー? どこにしまったかなぁ?』などと言っている。 ……なるほどそれで『話したいことがあってね』か。 ……ついでになにかを渡したいのだな…… 「あー、これこれ」 王昶が王基に封筒を放り投げる。 ……封筒、ね。 ……後任が誰かは知らないけど私にお守りをしろ、ってことか。 ……恐らく封筒の中身はなにか秘密の弱みメモとかそんな感じだろう。まったく王昶らしい。 そうか、制服を着ているのも引継ぎのためか。 苦笑を浮かべながら封筒を受け取り…… 違和感。 硬質の小さなものが封筒の中に入っている感触。 ……手紙、ではない? 再び王基の頭の中をとらえどころのない靄のようなものが湧き出す。 ……なに? ……なにを話そうとしているの、文舒? 封筒の中から王基の手のひらに蒼天章が転がりこんだ。 「……」 「あー、びっくりした? いや、まぁ、びっくりさせようとおもったんだけどさ」 王昶がけらけらと笑いながら3段に積み上がったダンボール箱の最上段にジャンプし、腰掛ける。 「いや、いろいろ考えたんよ」 しみじみと王昶が呟く。 「ほら、この前、伯輿と同じ大学いくんだー、っていったじゃん?」 ……確かに言っていた。 王基は黙って頷く。 「あれねー。私、推薦入試のとき、受験会場にいけなかったんだわ」 たはは、と苦笑を浮かべる。 「いや、三委員長になんかなるもんじゃないね。受験の日の昼ごろまで公務終わらなくてさ」 結局、受験いくの諦めて寝ちゃったよ、と王昶はいつもの顔で笑う。
787:北畠蒼陽 2005/08/06(土) 18:27 [nworo@hotmail.com] 「もう私らも卒業近いしね。ま、聞いた話だけどあの仲恭ですらどっかの大学受かったみたいなんで焦ってるわけよ、こう見えても」 あのバ毋丘倹がねぇ〜、などと呟く顔からは焦りはまったく伝わってこない。 でも、確かに……忙しすぎる、というのは事実なのだろう…… 「ま、伯輿とおんなじトコいこうと思ったらちょっと一般入試に向けて勉強に励もうかな、と思いましてね」 ……文舒だったら…… ……文舒だったら合格通知を簡単に奪い取ることだろう。 ……だが、それは……時間があれば、ということだ。 「だから引退、さ」 ……なぜ。 ……私と同じ場所に来るために引退する、と言ってくれるんだ。 ……なぜ止められる。 「やぁ、よかったよ。伯輿に一番最初に報告できてさ」 ……一番、だったのか。 そんなことはどうでもいい。 ただ心情を聞けた、それだけでいいような気がした。 「で、伯輿は? 用事なしでここにきたわけじゃないっしょ? これから中央執行部に引退の届出しなきゃいけないからそれほど時間は取れないけど、ね」 『ん? 言ってみ?』という顔で王昶が言葉を促す。 ……言えるわけがないだろう。 これから引退しようという人間に……しかもその理由が自分と同じ場所に来てくれるため、という人間になぜこれ以上の心労を煩わせなければならないのか。 きっと相談すれば王昶であれば適切な答えを出すことだろう。 そして…… そしてきっと……すべてに決着がつくまで引退を先延ばしにすることだろう。 ……それは。 ……本意ではない。 「……いや、なんかごそごそうるさかったからね。なるほど……引越し、っていうか引退準備だったのね」 肩をすくめる。 ……内心の想いがばれていませんように。 「ってわけで、あとを全部任せちゃって悪いけどさ。頼むわ」 ……そんな満面の笑顔で頼まれたら断れないだろう。 王基は廊下を歩く。 ……結局……この件は私が始末をつけなきゃいけない、ということか。 廊下に冷たい風が吹き込み、王基は身を縮こまらせた。 どこかの窓が開いているのだろう。 ……これからは1人でこんな冷たい風を浴びていかなきゃ。 王基は窓の外の風に揺れる木に指を差し伸べ…… そしてもう振り返らず歩き去った。
788:北畠蒼陽 2005/08/06(土) 18:27 [nworo@hotmail.com] 三公にまで上り詰め位人臣を極め、シアワセに引退した王昶に全部押し付けられた不幸風味な王基話です。 ちなみに王基もこのあとすぐに引退してますけどね! あ、ちなみに史実での王昶死亡のタイミングは摎R帰順事件の2年前なんでこういう話が史実であったか、っつったらありえないことですがね。 まぁ、王基が仕事押し付けられたのは間違いないと思われます。
789:雑号将軍 2005/08/07(日) 14:30 やばいやばい。前夜祭用のSS書いていたら気づきませんでした・・・・・・。え、本祭用?あはははははあ…。 おお!ついに王昶が引退!?ってことはもう北畠蒼陽様のSSには王昶は出てこられないんですか? 残念だなあ。まあでもまだ王基とか王渾とかがいますもんね。う〜ん、早く王渾が王濬に先こされるところみたいです。所詮、僕の希望なんで、あっさりスルーされて構いませんので。これこそ、ハイリスクローリターンですから。 王基もすぐ引退しちゃったってことはさらに仕事押しつけられちゃった可哀想な方がいらっしゃるんですね。
790:北畠蒼陽 2005/08/07(日) 19:12 [nworo@hotmail.com] >引退王昶さん あー、いや、なんつ〜か、私の作品時系列を順番に書いてるわけじゃないので、ごめんなさい。王昶、まだ出てきます(苦笑 今、学園史デビューの話書いてるし(苦笑 ちなみに王昶王基のあとくらいにくるのが羊コ、にらいになるのかな? かな? >王渾王濬 ん〜、正直、あんまり書こうという気はおきてなかったんですが、今まで…… 雑号将軍様の文章を読んでなんかインスピレーションというか…… セリフが1つ浮かびました。 「待ちなさいよ、王戎。私があの蜀の山猿に遅れを取るというの!?」 セリフだけセリフだけ。 でもなんか熱そう。書いてみたくなりましたね。 問題は私、晋書読んだことがないから資料とかまったくないということですがっ!
791:雑号将軍 2005/08/07(日) 21:21 >王昶さん引退疑惑 おお!まだ出るんですね!いやあ、もう北畠蒼陽様王昶がみれなくなるではないかと危惧しておりましたので安心安心。なにせ北畠蒼陽様の作品を読んで以来、王昶が三國志\でフル稼働していますので。 >王渾王濬 いえいえ、まったく僕の言葉なんて気にしないで下さい。ふと読んでみたくなっただけなので。 資料ないと辛いですよね…。それがしも正史がないのでつらいのなんのって、今は三國志]武将ファイルで頑張ってます…。
792:北畠蒼陽 2005/08/13(土) 19:09 [nworo@hotmail.com] 「湿っぽいとこだねぇ! 早く中央に戻りたいよ!」 「……」 電車を降りて大声で第一声を放つ少女とそれに影のように従う少女。 『湿っぽいところ』よばわりされた荊州校区の皆さんは、剣呑な視線を少女たちに向けながらも特になにも言う様子はない。 少女たちにはまさにエリートのみが放つ風格、とでもいうものが備わっていた。 それに気おされた、というのはあまりにも言いすぎだろうが係わり合いになることを避けた、というのはあながち間違った見方ではない。 王昶と王基…… 学園1年生。 このとき2人は自信に満ち溢れていた。 愚者の嵐 このとき荊州校区は2人の大物とも呼べる人物の権力争いの最中であった。 かたや『曹操とともに戦った世代』であり対長湖部戦線の重鎮、満寵。 かたや董卓トばしの名委員長であるあの王允の従妹であり、自身も類まれな政治センスに恵まれた治世家、王凌。 この2人はもともと仲が悪く、『張遼、李典に続いて満寵、王凌というのはきっと中央執行部は対長湖部戦線メンバーは仲が悪くないと勤まらないと考えているか、そういう伝統を作ることが好ましいと考えているに違いない』と陰口を叩かれるほどであった。 王凌はここにきて目の上のたんこぶともいえる満寵を排除するために2人の子飼いの1年生を招いた。 王昶と王基である。 「さて、キミたちは私の指揮下にはいることになるわけだが、なにか質問は?」 満寵は目の前の2人に辟易しながら、それでも事務的な口調を崩さずに言った。 この2人が王凌の腹心ということは知っていたし、王凌になにか……まぁ、自分を排除することだろうが……言い含められていることも簡単に予想できることであった。 1人は静かに視線をこの部屋中にさまよわせて……いや、さまよわせているのではない。この部屋の防衛力を測っている。あまりにも冷静だ。 1人は制服すら身に着けてはいない。黒い着物、その背には白く『楽園』という文字……あまりセンスがいいとは言えないな。それと緋色の袴に身を固め後ろ髪を真っ赤なリボンでまとめている。挑発するような笑みを口の端に浮かべ、満寵を睨みつけていた。その自信は悪くない。 生意気そうな笑みを浮かべる王昶が口を開く。 「はーい、質問でーす」 バカにしたようにひらひらと手を挙げる。 「センパイってホントに私らを使いこなせるくらいスゴ腕なんスかー?」 けけけ、と笑う。
793:北畠蒼陽 2005/08/13(土) 19:09 [nworo@hotmail.com] 「貴様ッ……!」 激昂した妹……満偉が殴りかかろうとするのを右の手をわずかに上げただけで静止し、満寵はゆっくり口を開く。 「そうね。私が凄腕かどうかはじっくりと見定めればいいわ」 満寵の言葉に王昶は露骨に顔を歪め、舌打ちする。 「わかんねーヒトっスねー。アンタじゃ役不足だってことを遠回しに言っただけなんスけど!」 王昶の後ろでは王基が冷静に満寵の一挙手一投足を見定めている。 その王昶も傍若無人な言葉使いに見えるが目の奥には冷静の影が見え隠れしている。 なるほど……なかなかいいコンビだ。 確かに王凌が懐刀として信頼するだけのことはある。 だが…… 「ふぅ」 満寵はため息をつき椅子から立ち上がる。 「表へ出な」 ……まだ不足だ。 対峙する1人と2人。 南方戦線最高峰の女傑と2人の1年生。 校庭へ出た3人を校舎の中から興味深く皆が眺めていた。 もちろんこの南方の重鎮が負ける、などと考えている人間などいはしない。 生意気な1年生が何秒持つか、だけをただ興味深く眺めていた。 「あの目、気に入らなーい」 校舎のほうを睨みつけ王昶が呟く。 今、自分がこの校舎の英雄をどれほど挑発したか、は自覚していたし、それによってここの校舎の学生たちがどれほどの敵意を抱いたのかはなんとなくわかっているつもりだ。 だが敵意だけを自分にぶつけてあとは満寵に任せようとする、その根性が気に入らない。 「……」 だがその王昶に王基はちら、とも視線を向けることなく注意を喚起することもない。 『油断するな』とか『集中しろ』とかいう言葉は必要ない。悪態ついてるあの状況が王昶の集中、ってことか。 「センパイ、早く終わらせましょう。気分が悪い」 吐き捨てるようにいう王昶。 それをことさらに無視するように満寵は王昶の傍らに立つ王基に声をかける。 「そっちの……王基だっけ? あんたはしゃべんなくていいの?」 「……正直、あなたにかかっていくのは時期尚早だと思う」 ほう、と思う。 「……今、あなたをぶちのめしてもあなたに政治的に最大限のダメージを与えられるわけじゃない。本当はもう少し工作したかった」 ただの腰巾着かと思ったら……言ってくれるじゃないか。
794:北畠蒼陽 2005/08/13(土) 19:10 [nworo@hotmail.com] ふ、と笑みを浮かべる自分に満寵は気づいた。 「いいね。いいよ、お前ら……若いうちは多少の無謀は許される」 久しぶりの…… 「それを躾けるのは……年長者の『権利』だ」 ……本気だ! 中天に月が昇っていた。 「……文舒……生き返った?」 「んあー」 校庭に2人の影が大の字で転がっていた。 ケガをしていない場所のほうが少なく、立つ気力すら残っていない。 2人はずっと…… ……悪夢のような2分を経て、気絶していた。 「……あれが……曹操先輩と一緒に戦った世代、なのね」 「リビングレジェンド、ってやつね……いや、あれは無理だわ」 夜闇の中に苦笑の雰囲気。 「どうする?」 「……どうする、って?」 聞き返す王基に王昶は聞かなくてもわかるくせに、と唇を尖らせる。 「私は……あの満寵『先輩』からその経験も知識も実力も……すべて吸い取ってやる。それまで中央には帰らない」 「……そうね。私も悔しいもの」 満身創痍。だが心はなぜか晴れ晴れとしていた。 「んじゃがんばろっかね」 「……そうね」 月が2人を照らす。 …… …… …… 「って、のはまぁ、昔の話だがねぇ」 「うっわ。お姉ちゃん、無謀さんだったんだ」 王家の食卓。なぜか王基もいる。 まぁ、なぜか、というか王昶の執務室での昼食なのだが。 ちなみに今日は弁当である。 手作りではない。コンビニ弁当。 女子高生3人がコンビニ弁当、というのはビジュアル的にいかがなものか。 「……あれが……まぁ、ターニングポイントだったことは確かね。今でも満寵先輩は怖いわ、私」 「あの人にゃあ逆らえない」 しみじみと呟く2人に王渾の口元が引きつる。 王渾にとってはこの2人こそがリビングレジェンドである。それが怖いという満寵先輩というのはどんなのだ、と。 ……ひょい。 「って……伯輿ーッ! 私のだしまきタマゴ、略奪してんじゃねーッ!」 「……ほほう、タマゴに名前が書いてあったのかな?」 平然とタマゴを食べる王基。 「てめぇ、表ぇ出ろーッ!」 王家の食卓は今日もにぎやかだった。 「騒がしいね、まったく……オシオキ、かな」 ある卒業生が大学の休暇を利用して懐かしい校舎に足を踏み入れていた。 「まぁ、それも『権利』だね」 にやにやと笑いながら彼女は懐かしい執務室のドアに手をかけ……
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