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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
832:海月 亮2005/11/16(水) 20:57
以来、あたしは彼女と一緒に、朝に自主トレを始めるようになる。
王昶先輩が突如引退を表明したことを知ったのはそれから間もなくの事で…敬風なんかは「押しかけて闇討ちでもいいからちょっと叩きのめして来い」なんて言ってたけど、実際のところ再戦を申し込むという考えは、あたしにはなかった。
「随分剣も鋭くなってくるわね。あたしがこういうのもなんだけど、やっぱりあんたスジが良いわ。"一の太刀"の極意を掴むにもそう時間は要らなさそうね」
「…それほどでもないよ」
朝、毎日30分ほどのトレーニングを続けることふた月が経とうとしている頃。
あたしはようやくこの生活に慣れてきて、最初は目で追う事すら出来なかった世洪の"乱調子"も、かなり見えるようになってきていた。
今日は休日で、他の子達もほとんどは夢の中。あたしたちは普段より長めにトレーニングの時間を取っていた。
どちらともなく休憩を取ろうと、中庭にベンチに腰掛けた。
「…でも公緒、本当にいいの? 王昶先輩の事」
世洪が不意にそんなことを訊いてきた。
確かに再戦する機会があれば、あたしはもう一度戦っては見たかった。
けど、その勝負での勝ち負けが、すべてじゃない…あたしは、そう思っているから、
「あたしにはあたしのやり方で、"勝つ"ことは出来ると思うから」
頭を振りながら、あたしはそう応えた。
「それも、そうだよねぇ」
彼女もそれを酌んでくれたのか、にっと微笑(わら)い返した。
「…そろそろ、一度手合わせしてみようか?」
「そうだね」
そしてあたしたちは、今日もそれぞれの"目標"に向けて歩み続ける…。
そんな二人の様子を眺める、二つの影がある。
ひとりは紫がかったロングヘアの少女。筆書きで「海老」と白抜きに大書された紺のトレーナーに、デニムジャンパーとヴィンテージ物らしいジーンズに黒のブーツを身につけて、どこか緊張感のない表情で朱績たちを眺めている。
もうひとりはそれとは対照的に、ウェーブのかかった黒のセミロング。ベージュのハーフコートから、厚手のチェックスカートが覗いており、お揃いのブーツを身につけている。
「やれやれ…もうこりゃあ、ちょっと突っついてどうにかできるシロモノじゃなくなっちまったなぁ」
「完全なミスね、文舒。引退は良いけど、とんでもない厄介事残して…玄沖が可哀相だわ」
ウェーブ髪の少女の淡々とした物言いに、文舒と呼ばれたその少女は、朱績たちを指差しながら言う。
「まぁ、いいんでねぇの? そのくらいの"壁"があったほうが、かえって玄沖のためになるし?」
「相変わらずね」
やれやれ、といった風に、少女は頭を振る。
「…それにあなたも、再戦は果たさなくて良いの?」
「愚問だな」
踵を返し、その少女が振り向きつつ言う。
「そんなものは、何時だって出来るし、何時だって受ける事も出来る。そうだろ、伯輿?」
「そうね」
「今はただ、あいつらが何処までやってくれるのか…そして玄沖たちがそれをどうするのか…それを見届けてみるのも一興だな」
立ち去るふたり…蒼天生徒会随一の名将であった王昶と王基の言葉を聴くものは、その場には彼女たちしかいなかった。
(終)
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